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―side death―






「昨日の参加者消滅人数は14名よ」

下っぱの死神達の報告書を纏めながら、セレアが言った。
中でも内容が正確で一番セレアが頼りにしているのは、ルヴェとアリスのものだが。

「さすがハロだね。これから7日かからないでゲームが終わるかな?」

クックッと笑うセドを見て、セレアはあからさまに顔をしかめた。
コイツ、ロゼの時も同じようなことを言ってたじゃない…と。

「…そのことだけどね、昨日から今日にかけてミッションが出されてないの」

「ミッションが?」

「そうよ。でも参加者は確実に、大量に減少してる」

「ハロはどうしてるの?」

セドは顎に手をあて、何か考え込むような仕草を見せた。

「昨日から消息を絶ってるわ。何なら電話してみたら?」

「別に良いよ。…ハロにも何か考えはあるだろうし、様子を見よう」

人のことを言えるワケではないけど、コイツも個人的に友人関係の部下には甘いのね。
セレアは上司に呆れつつあった。

「あ、そうそう。あと1つ問題があるの。ルート5で多数の死神が禁断ノイズに襲撃を受けたそうよ」

「禁断ノイズ、か」

「報告書には『新種の黒いノイズの襲撃』って書かれてたけどね」

「あぁ、上層部しか禁断ノイズの存在は知らないから」

禁断ノイズ。
それは先日ルヴェやアリスを襲ったノイズのことでもある。
どうやら、二人以外にも襲われた死神がいるようだ。

「犯人の解明と捜索はもう開始しているわ」

「分かった。それは全部セレアさんに任せるよ」

「参加者の減少理由の十中八九は禁断ノイズでしょうね」


「だろうね。…じゃあ後は優秀なセレアさんに任せて、俺も仕事しようかな。指揮者の仕事をね」


ニヤニヤと笑いながら席を立ち、セドが向かうのは裁きの部屋。
そこに閉じ込めた阿実の様子を見るためだ。



「ねぇアミちゃん、もう素直になりなよ」

「…やだ」

裁きの部屋の中央。
セドは諭すような優しい声でアミに話し掛けた。
アミからすれば気分の悪い猫なで声にしか聞こえないが。

「素直になったら、サラちゃんくらいには会わせてあげるよ?」

サラと会える。
一瞬心が揺らいだが、アミはすぐにそれを抑え込む。

「…っそれでも、私はアオシを裏切らない」


「死神になったサラちゃんが、参加者になったケイタくんを消そうとしても?」


アミの目は大きく見開かれた。
本人は隠そうとしているが、隠し切れない動揺の色がその顔に強く表れている。

「もし会って話せば、やめてって説得できるかもしれない」

セドはじわりじわりとアミの心を揺さぶっていく。

「ねぇアミちゃん、どうする?」





「あーあ。やっと行きましたわね、あの子供達」

それから数時間後。
ルヴェとアリスの二人は宇田川町へと来ていた。
禁断ノイズを精製している犯人を解明・捜索するという任務を与えられたが、情報が何一つないために渋谷中を歩き回っていたのだ。

「まさかねぇ‥ゲームマスター様の奇行を見るとは思わなかったけど」

ケイタとアオシも目撃したあのハロルドの奇行を、二人も少し離れたところから見ていた。
しかし二人が模様から離れるのを待っていたため、調査を始められなかったのだ。

「…これ、何か変な感じがしますわ。あんまり良い魔方陣ではありませんわね」

「一応写メ撮ってセレアに送ろうか」




「…っこれ!!」

ルヴェから送られてきたメールを見て、セレアは顔色を変えた。
そして急いで二人に電話をする。

「もしもしルヴェ?そこにアリスもいる?…さっさとそこを離れた方が良いわよ」

「セレア?どうしたの?」

「それは禁断ノイズ‥この前あなた達を襲ったノイズの精製陣よ。いつハロルドにが戻ってくるか分からないし、見つかったらノイズをけしかけられるかもしれない」

セレアは確信していた。
禁断ノイズの発生原因は確実にハロルドだと。
あの不真面目な指揮者のことだから、犯人がハロルドならこの件はうやむやにしてしまうかもしれない。

何故なら、お気に入りであるハロルドには甘いから。



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The 4th day

バッジ




「…よし、俺の勝ちだっ!」

「ズルいですよケイタさん!いつの間にマブスラ強くなったんですか?」

スクランブル交差点の一角。
ミッションを待ちながら、ケイタとアオシはマブスラをしていた。

「プッ…約束通り、あと一時間はミッションを待つからな」

「えー‥ちょっとくらいサービスして下さいよ」

「嫌だ」

ケイタが即答すると、アオシブツブツ呟きながらケータイを弄り始めた。
マブスラでケイタが勝ったら一時間ミッションを待ち、アオシが勝ったらケータイに反応するものの調査を始める…という約束だったのだ。

「暇そうだなーアオシ」

しかしこれはケイタにとって一種の賭けでもあった。
元々はケイタだって一時間もミッションを待つ気はなかったのだ。

「あのーケイタさん、お願いがあるんですけど」

「ミッションの待ち時間は短くしないからな」

「…じゃあ、交換条件ならどうです?」

掛かった!
思わずにやけそうになるのを、ケイタは必死に堪えた。
ケイタの目的は、ミッションの待ち時間を短縮する変わりにアオシが何を探しているのかを聞き出すこと。
アオシが待ち時間短縮を持ち掛けてくるかがケイタの賭けだった。

「俺の質問に答えてくれたら調査しても良いぞ」

「…仕方ないですね。何が聞きたいんですか?」

「お前さぁ、何探してんだ?」

「このケータイに反応するもの、って言ったら怒りますよね。まぁ何ていうか…渋谷ジャックですよ」

ケイタの反応を試すように、アオシは薄く笑いながらそう答える。
だが、ケイタの反応はある意味でアオシの予想を上回った。

「…切り裂きジャックとかそっち系?」

「違います!‥そのために渋谷川を探してるんですよ」

渋谷ジャックに渋谷川。
聞き慣れない単語にケイタは首を傾げた。

「さて、今日も調査に行きましょうか。…えーと、探知機によると宇田川町に反応があるみたいですね」

「へー。なら行くか」

「どうせ調査のついでに壁グラでも見に行きたいって魂胆でしょう?」

「うっせーな」

二人は並んで宇田川町へと歩き出す。
しかし、千鳥足会館前で予想外の足止めを喰らうこととなってしまった。

ある意味で死神の職権濫用だが、渋急ヘッズへ向かう道に壁を作られ、強制的に777の問題を解決するはめになったのだ。

「何だよ、その問題って」

「実はな…俺たちのバンドのマイクがなくなったんだ!」

事件が起きたのは昨日の午後2時頃。
777のバンド―デスマーチはモルコでイベントがあり、問題のマイクで観客に歌を披露していた。
その後イベントが終わり解散し、少し目を離した隙にマイクがなくなっていたらしい。

「…大丈夫ですかね?彼ら。何かかなりギクシャクしてましたけど」

「さぁな。とにかく早く問題解決して宇田川町行こーぜ」

まずは現場関係者への聞き込みと、現場の確認。
777も含めデスマーチのメンバーそれぞれに話を聞くのも兼ねて、二人はモルコへと来ていた。

「キーワードはBJさんのケータイへの公衆電話からの着信と、スペイン坂に落ちていたテンホーさんのケータイですね」

「あー‥何かそんな話もしてたよな」

「駄目ですよケイタさん、推理はどんな些細なことにも気を配ることが必要なんですから」

そう言いながら、何故かアオシはモルコの電話ボックスの写真を撮っている。
若干引いているような目で、ケイタはアオシに訊ねる。

「…なぁアオシ、何やってんだ?」

「ケータイのバージョンアップの結果ですよ。探知機の他に増えた新しい機能、過去の写真を撮れるカメラです」

「ま、マジでか…」

ほら‥とアオシに撮った写真を見せられると、この事件の決定的証拠が映っていた。

「まぁ1日3枚しか撮れないのが難点ですけどね。…証拠も出たことだし、後は聞き込みで裏付けしましょうか」




その後、二人は証拠を提示しならがら推理を披露して問題を解決した。
結論から言うと、犯人はハロルドのようだ。
マイクはハロルドの作るガラクタの山―本人曰くオブジェの中にあるようで、デスマーチのメンバーが探しに行くということで事件は終わった。


そして無事に壁が開放された渋急ヘッズへと二人は向かった。
だが、またしてもそこで足止めを喰らってしまう。
次の足止めの原因は、サラが二人に襲い掛かってきたことだった。

「見つけたぞ」

「サラ‥」

「今日こそぶっ潰してやるからな!」


はしる雷撃から、火花が散った。
だが、それを目視する暇もなく視界が歪んでいく。

「く…っやめろよサラ!」

昨日と同じく防戦一方のままで、体力の限界の近づいたケイタが叫ぶ。


「本気だせよ!温すぎなんだよお前らは!!」


再び視界が歪むと同時に、サラの姿が掻き消える。
渋急ヘッズに戻ると、ケイタのすぐ横でアオシは息を切らしてゼイゼイと苦しそうに呼吸をしていた。

「危な、かった‥です、ね」

「…目がマジだったもんな」

「サラさんに、嫌われるようなことしましたっけ…?」

そのとき、へなへなと地面にしゃがみ込んだアオシが小さく息を飲んだ。
そしてケイタになにかを差し出した。

「これ、サラのケータイのストラップじゃん」

「サラさんが捨てたのか、落としたのかは微妙ですね」


【Over the Edge 〜境界を越えろ〜】

【Get the Badge】


「…CATデザインの『レッドスカルバッジ』、ですか」

二人がぼんやりとしていると、近くにあったスクリーンからCMが流れ始める。
それは、昨日も見た赤いバッジ―レッドスカルバッジのCMだった。

「参加者バッジに似てますよね」

「確かにな。でも、参加者バッジって死神が作ってんだろ?ゲームの運営してんだから」

「違いますよ。あれはコンポーザーが作って管理しているんです」

「へぇ…。確か渋谷を管理してるヤツだっけ、コンポーザーって」

ケイタは参加者バッジとレッドスカルバッジを見比べる。
色違いだが全く同じデザインの二つのバッジ。
絵柄に1ミリのズレもないなんて、そんな偶然はあるだろうか?

もしかしたら、この二つは同一人物が作ったのではないか。

「そう。だからこのゲームはコンポーザーのゲームなんです。あくまで運営は死神ですけどね」

「悪趣味でサイテー野郎だな。てかむしろ頭イカれてるだろ、コンポーザーって」

今にも潰しそうな勢いで、ケイタは参加者バッジを握り締める。
ケイタの険しい表情を見て、アオシは苦笑いを浮かべた。

「CATコンポーザーじゃないと良いですね」

「な、何で…」


「普通そこで疑いません?参加者バッジと同じデザインのバッジを作った人物…CATがコンポーザーじゃないかって」


ケイタは目を見開いた。
アオシの言葉は間違っていない。
だが、悪趣味で最低で頭のイカれてる野郎…と自分でそう言った人物と尊敬するCATが同じだなんて信じたくない。


「さて、そろそろ宇田川町にいきましょうか。ずっとここにいても仕方ないですからね」


アオシは立ち上がると、さっさと宇田川町へと歩き出す。
心臓がヤケに激しく脈打つのを感じながら、ケイタもその後に続いた。



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The 3rd day

ストリートを漂流




3日目の朝。
今日もケイタはスクランブルで目を覚ました。
少し離れたところを見ると、今日もアオシは誰かと電話をしている。

「…はい、今日こそ行きますよ。だから準備をお願いしますね」

はぁ…今日も電話してる。
相手は昨日と同じヤツなのか?
疑問は尽きないがそれは一旦置き、ケイタはミッションに意識を向ける。

「ミッション、まだなのか?」

ケイタはケータイを見つめながら呟いた。
起きてからしばらく経つが、一向にミッションが届かないのだ。

「ねぇケイタさん」

おかしいとケイタが思い始めた頃、アオシがヤケに笑顔で話し掛けてきた。
そして、何か企んでるのか?…と疑ってしまう自分に腹を立てた。

「今日は私の用事に付き合ってくれますよね?昨日は結局自由時間をくれなかったんですから」

「…………」

「丁度まだミッションも出てないですし、構わないでしょう?」

「昨日も言ったろ?自由時間はミッションの後だ。てかそろそろミッションが…」

―狂おしいくらいに慣れた唇が溶け合うほどに ボクはキミのVanilla♪

「きたみたいですね」

コイツの着メロって…と呆れるケイタに構わず、アオシはミッションの内容を読み上げる。
だが、本人が曲を気に入っているのでケイタは何も言えない。

「『キャットストリートに向かえ。制限時間は15分』…ですって」

「15分!?そんなんであんな遠くまで行けるかよ!」

「はぁ…急いだ方が良いみたいですね」

慌てて走り出すケイタは気づいていなかった。
自分のケータイにはミッションが届いていないこと。
珍しくアオシが意欲的なこと。
そして、走りながらアオシがほくそ笑んでいたことに。


「ぁ…はぁ‥っ着いた!」


結局、ケイタはキャットストリートに着くまでそれらに気付かなかった。
キャットストリートに着いてもタイマーの消える痛みがないことで、ようやく気がついたのだ。

「…っ騙したのか?」

「まぁ、こんなに上手くいくとは思いませんでしたけど」

「ふざけんな!!」

「良いじゃないですか。ミッションはまだ出てないんですから」

あ、この店ですよ。
そう言うとアオシは呑気にとある店へと入っていった。
一応ケイタもその後をついて行く。

「リオさーん、いますかー?」

「待ってましたよアオシ」

二人が入った店は小さな喫茶店だった。
アオシの声にカウンターから答えたのは、何とリオだった。

「リオさん!?」

「イヤホン君、またゲームに参加してるんですか?」

「…はい。そのせいで、アミがエントリー料に取られたんです」

「あのお嬢さんですか…。何て言うか気の毒ですね、イヤホン君」

どーいう意味ですか、とケイタはリオに食い付こうとした。
だかその前に、二人の話を聞いていたアオシが会話に加わってくる。

「ケイタさんもリオさんと知り合いなんですか?」

「ああ。前のゲームで色々と助けてもらったんだ」

「へぇ…リオさんが人助けなんて意外ですねぇ」

アオシが冷やかすように笑うと、リオは顔をしかめた。
どうやらアオシはケイタよりリオと親しいらしい。
だから、UGと死神のゲームについて詳しかったのか…。
ケイタは今まで抱いていたアオシへの疑いが晴れていくような気がした。

「…じゃあリオさん、早速ですけどアレをお願いします」

「気が早いですね。ほらケータイ貸しなさい。あ、イヤホン君もですよ?」

「何すんですか?」

「ケータイのバージョンアップです。少し待ってて下さいね」

リオがそう言って店の奥へ向かうと、アオシは暇そうに店の長椅子に寝転がった。
相当この店に慣れているのだろうか。

「ふわぁ…前もって連絡はしておきましたから、すぐ終わると思いますよ」

「じゃ、じゃあお前が電話してた相手って…」

「リオさんですよ」

その言葉を聞き、ホッとしたケイタは溜め息を吐く。
そして、アオシと向かい合うように椅子に腰を降ろした。





「お待たせしました」

「ありがとうございます。これでやっと探しに行けますよ」

数分後。
店の奥から戻ってきたリオは二人にケータイを返した。

「探すって何を?」

「見つかってからのお楽しみ、ですよ。ケイタさん」

二人はリオに礼を言うと、表に出てケータイの新機能を起動してみた。
アオシ曰く、これは何かの探知機らしい。

「うーん…ここは反応が薄いみたいですね。違う場所に行ってみましょうか」

アオシはブツブツと呟きながら一人で先に進んで行く。
こうなるとアオシは止まらないので、ケイタはとりあえずアオシの後をついて行った。

そして二人は探知機の反応を見ながら、キャットストリートからトワレコまで戻ってきた。
その時、二人の頭上から声が降ってきた。


「やっと見つけたぞケイタ…ってアオシもいるのかよ!」


上を見上げると、背中に生えた翼で空を飛んでいるサラの姿が見えた。

「はぁ…悪ぃけど、お前らをぶっ潰さなきゃならねぇんだ。覚悟してくれ」

「え、ちょ、サラさん…死神になったんですか?」

「ああ。ついでに、お前らを消すのが任務だ」

そしてサラは有無を言わさずに二人をノイズの次元へと引きずり込む。
ノイズを使って二人を消そうとしているわけではないが、サイキックが使えるために戦いやすいのだ。

「や、やめろよサラ…っ!」

返事の変わりに、鋭い雷撃がケイタへと飛んでくる。
だが自分達を襲ってくる死神とはいえ、親友であるサラに攻撃は出来ない。
ケイタは一方的に防戦を強いられる形となる。

「ぅあぁああっ!!」

腕にはしる痺れるような痛みに、ケイタは声を上げた。
防御しきれなかった攻撃が、腕をかすったのだ。
だがその時、まるでケイタの声が合図だったかのように視界が歪む。

「ケイタさん!サラさん!」

ケイタはあっという間にノイズの次元からトワレコへと戻ってきていた。

「…んだよ、攻撃してこいよお前ら!つまんねーから今日はここまでにしておいてやるけど、次会ったら消してやるからな!」

二人に向かってそう怒鳴ると、サラは姿を消した。
本当に死神…敵になってしまったのだろうか。

「死神に‥しかもサラさんに攻撃されるなんて思ってませんでしたよ」

「アイツ、どーして…」

「少しは躊躇ってましたけど、サラさんは本気でしたよね」

二人はお互い暗い表情で顔を見合わせた。

「ここに突っ立ってても仕方ないですし、行きましょうか」

そして、二人は重い足取りで歩き出した。



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The 2nd day

死神




ケイタにとっては2回目のゲームの2日目の朝も、スクランブルから始まった。
だが何故か、パートナーであるアオシが見当たらない。

「あれ…?」

ケイタがキョロキョロと周囲を見回すと、少し離れたところにアオシの姿を見つけた。
アオシはケータイを片手に口を動かしていて、誰かと電話をしているようだ。

「それで、あの件はどうなったんです?…あ、もう来たんですか」

「アオシ、誰と電話してんだ‥?」

「スクランブル……エリア封鎖…じゃあ、制限時間は‥」

アオシが誰かと話している断片的な言葉は、全く意味が分からない。
スキャンでもしてみるか?…とついケイタは悪い誘惑に駆られた。
もしかしたら昨日アオシをスキャンできたことについても分かるかも知れない、と自分に都合の良い理屈を考えながら。

「悪ぃな」

アオシをスキャンすると、昨日と同じく「…………」と無言の思考が見えた。
それと同時にまた映像がケイタに流れ込む。



あそこは宇田川町。
四人でよく行った場所だ。
あの奥にはCATの壁グラがあって、そこで………。

ポトリ、と小さな音がする。

仰向けに横たわるケイタの腹の上に、参加者バッジが落とされた。
そこで映像が途切れ、ケイタの意識は暗転する。



「何で俺、宇田川町で倒れてんだ?…てかあれ、アオシの思考なのか?」

さっぱり分かんねー、とケイタは痛む頭を擦る。
宇田川町で倒れた記憶なんてない。
覚えていない。

「おい、まさか…」

ケイタの頭に、あることが閃いた。
だが、ケイタの思考を遮るように着メロが鳴り響く。
電話が終わったらしいアオシが振り向いた。

「ミッションですか?」

「…あぁ、そーみたいだな」

「ねぇケイタさん、提案があるんです」

メールボックスを開こうとしたケイタの指が止まった。
ミッション、無視しちゃいましょうよ。
アオシはニヤニヤと笑いながらそう言った。

「何言ってんだよ!ミッション解かなきゃ消滅だぞ!?」

「どうしても行きたい所があるんです。ミッションは他の参加者に任せておきましょう」

「んなことできるか!俺は絶対ゲームに勝たなきゃならねーんだよ!!」

「…随分必死なんですね」

あからさまに焦るケイタを見て、アオシはきょとんとした表情をした。
アオシの表情の変化に気を留めずにケイタは続ける。

「このゲーム、アミの命がかかってるんだ」

その言葉を聞き、アオシの眉がピクリとつり上がった。





2日前。
ケイタの一回目のゲームが終了した直後。

「ここ、どこだ?」

「…っここ、」

眩しい光に包まれ、二人は一瞬で首都高からどこかへ移動した。
だが、それがどこなのかケイタには分からない。

「アミとケイタか?」

「サラ!!」

一人で何勝手に動いたワケ?
ねぇ、どこに行ってたの?
アミが口を開くよりも早く、誰かが口を開いた。
三人ではない誰かが。

「話は一旦そこまでにしてくれるかな。生き返ってから続きを話しても構わないから」

そこに現れたのは死神のゲームの指揮者、セドだった。
セドはニヤリと嫌な笑みで三人に笑いかける。

「とりあえずおめでとう、君たちはゲームの勝者だ。楽しかったかい?」

「テメーは…」

「勝者である君たちの今後はコンポーザーの採択で決まるんだ。まず、今回生き返ることのできる人数は…一人」

その言葉で、三人の表情は暗いものとなった。
誰だ?
嘘だろ?
どうして?
まるで疑心暗鬼に陥ったように、疑問は一気に心に広がる。

「これはコンポーザーが決定した事項。どんな事情でも覆ることはないよ」

「…別に構わねぇ」

サラは小声で言うと、セドへ向かって一歩踏み出す。

「俺は生き返らない。お前、見た感じ死神だろ?…俺を死神にしてくれ」

「…良いよ、面白いじゃないか。是非とも歓迎するよ」

「ちょ、サラ‥っ」

セドの言葉と共に、サラの背中に死神の証とも言える翼が生える。
そして、すぐにサラの姿は掻き消えた。

「涙のお別れはまだ続くよ。今回の審査で生き返るのは立花阿実ちゃん、君だ」

「ぁ‥私、」

「…じゃあ、余った俺は?」

「生き返りたいなら、またゲームに参加すれば良い。もう疲れたなら消滅しても良い。‥勿論、さっきの子みたいに死神になっても良いよ」

セドの言葉を聞いて、ケイタは小さく溜め息を吐いた。
それから、どこかすっきりしたような表情でアミに笑顔を向ける。

「丁度いーんじゃね?依存心で悩んでたんだし、良いチャンスだろ。依存しねーためのリハビリだよ、リハビリ」

「でもケイタ…」

「お前がRGで待ってるなら、少しは張り合いあるだろ」


「…ありがとケイタ。私が待ちくたびれる前に、ちゃんと帰ってきてよ?」


アミの体は白い光に包まれ、上空に浮かび上がるように消えた。
その様子を見届けると、ケイタはセドに向き直る。

「君はどうする?もう一度ゲームに参加するかい?」

「ああ」

「なら次のゲームを始める前に、徴収したエントリー料である“記憶”を返却しないと」

セドがケイタに向かって手をかざすと、ケイタの頭に激痛が走った。
頭に流れ込んでくる記憶にフラフラしながら、ケイタはある違和感に気付いた。

「おいテメー…俺の記憶、全部返せよ!」

「ん?」



「死に際の記憶がねーんだよ!」


宇田川町。
四人でよく遊びに行った場所。
あの日は現地集合だったから、少し早めに行って壁グラを眺めてた。

アイツら遅ぇな…。

壁グラ前で待ちぼうけしているところで、ケイタの記憶は途切れていた。
その後の記憶は、ゲームの1日目の記憶へと続いている。

「…面白い話だね。でも、俺はあくまでエントリー料として預かった分は全部返したよ」

「でも、」

「つまり、君の中には元から死に際の記憶がなかった‥ってことだよ」

ケイタは言葉に詰まった。
セドの言葉はそのままの意味で、訊いても明確な答えは返ってこないだろうから。

「さて、じゃあ次のゲームの話をしようか。君の新しいエントリー料は…」

「また記憶か?」

「もう徴収してあるよ」

セドは意味深にニヤリと唇を歪ませた。
ケイタの表情に疑問や焦りが浮かび出すまで間を置いてから、ようやく言葉を続ける。


「立花阿実ちゃん。彼女が君のエントリー料だ」





ケイタの話を聞いていたアオシは渋い表情をしていた。
まるで何かを考え込んでいるように。

「俺がアミを巻き込んだんだ。だから、アミのためにも絶対勝たなきゃならねー」

「…そうですか」

「は?「そうですか」ってなんだよ!アミがかかってんだぞ!?」

「ケイタさん、アミさんのことが好きだったんですね」

ケイタが耳まで真っ赤に染まるのを見て、アオシは笑う。
そして、仕方ないですね…と呟いた。

「とりあえずミッションを片付けたら、その後は私の自由時間にする。これならどうです?…一つ貸しですけど」

「‥‥仕方ねーな」

交渉成立ですね、とアオシは少し嬉しそうにメールボックスを開いた。



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―side death―






「あーあ、めんどくさい」

とあるビルの屋上。
ルヴェは空を見上げながら、ごろりと仰向けに寝転がった。
その目には、憂鬱な色がありありと浮かんでいる。

「ロゼが消えたって、誰が消えたって、仕事は終わらないんだよねー…」

「でも、少なくとも今日は休みですわ」

ルヴェの横に座っていたアリスが呟いた。
長時間泣いていたのか瞼は腫れ上がり、目が充血している。

「ハロルド…じゃなくて、ゲームマスターは変なところで気なんか使うんですもの」

「‥そう、かもね」





死せる神の部屋。
そこにいるのはセドとセレアの二人だけだった。
本来なら、今日はここにロゼも一緒にいた筈だったのだが。

「気丈だね、セレアさんは」

俯いたままずっと押し黙っているセレアに、セドが話し掛ける。
ロゼの死‥いや、消滅。
それは死神の仕事としての上下関係以前にロゼと友人だったセレア、ルヴェ、アリスに大きなショックを与えた。

「よく泣かないでいられたよね。アリスちゃんもルヴェちゃんも泣き崩れたってのに」

「…………」

「優しい娘、だったね。俺達といるときには、俺達に気を使って参加者を消すのを平気な顔してるし。でも、そのクセ一人になるとかなり落ち込んでたみたいだし」

「…………」


「あの違った意味の二面性、嫌いじゃなかったんだけどな」


あくまで黙ったままのセレアに、セドは独り言を呟くような感じで話し掛ける。
セレアの心を意図的にじわりじわりと傷付けながら。

「あの人のお気に入りのお姫サマとそのパートナー…誰だっけ、アミちゃんとケイタくん?あの二人、頑張ったよね」

ロゼを消した二人の名前に、セレアの肩がビクリと揺れた。
セレアの反応に歪んだ笑みを浮かべると、セドは奥の部屋へと向かう。
“裁かれしものの道”と呼ばれる長い一本道を抜け、最奥にある“審判の部屋”と呼ばれるコンポーザーの部屋へ。

そして審判の部屋の中央にある玉座に座る…いや座らせた少女に、セドは笑いかける。



「幽閉されるお姫サマってのはどんな気分だい?‥アミちゃん」



「…死ぬほど嫌な気分」

少女―アミはセドを思いきり睨み付けた。
だがセドは笑顔を崩すことなくアミへ言葉を返す。


「面白い冗談だね。…「死ぬほど」どころか、君はまだ生き返っていないのに」










「ダメだ。ここも開かない」

その翌日。
ケイタの2回目のゲームの、2日目の朝。
ルヴェとアリスに西口バスターミナルに呼び出された赤いパーカーの死神は、首を振った。

「そっか、協力してくれてありがとね。帰って良いよ」

ルヴェが赤いパーカーの死神を帰す横で、アリスは頭を抱えていた。
朝一番の突然の報告。
昨晩ゲームマスター直々に仕事をし、複数のエリアに壁が作られた…と。
しかし壁で閉鎖されたエリアの報告がなく、下っぱに近い二人が閉鎖エリアの調査に駆り出されたのだ。

「はぁ…ルート1も封鎖なんて、壁を作りすぎですわ」

「後はルート2も5も6も封鎖済みだったっけ。よくやるねー今回のゲームマスター様」

肩を落として愚痴を言い合う二人の背後に、黒い影が忍び寄る。
それにひと足早く気付いたのはアリスだった。


「っルヴェ、後ろ…」


アリスの声と同時に、黒い影が二人に襲い掛かってきた。





「ぁ…はぁ‥っルヴェ、生きてます?」

「トーゼン、じゃん」



黒い影の正体、それは黒いノイズだった。
死神である二人でさえ、そのノイズのことは知らなかった。
ノイズが自分から、しかも死神を襲うなんて話自体聞いたことがない。

「とりあえず、セレアに報告かな」

「そうですわね」


「…もしもし、セレア?」



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The 1st day

ルール











「ん…」


ケイタはスクランブル交差点で目を覚ました。
そしてノロノロと立ち上がると唇を噛み、拳を握り締める。

「どーして‥何でこうなったんだ、」

全部またやり直し。
俺、何のために7日間生き延びたんだ?
ケイタの中にやりきれないモヤモヤとした感情が溜まっていく。

―ただ一人で 叫び続けよう…目を見開き 叫び続けよう… それが始まりの合図さ…♪

ケータイから着メロが聴こえてメール…いや、ミッションが届いたことを知らせる。


「…っふざけんな!!」


そう叫ぶと共に、ケイタは無性にケータイをどこかへ投げ飛ばしたくなる衝動に駆られた。
もう全部投げ出せたなら、どれだけ楽になるだろうか。

『ゲーム?
 30+74=
 制限時間は60分。
 未達成なら破壊』


アミとケイタ‥二人の勝利で終わらせた筈の死神のゲームは、まだ終わってなどいなかった。
少なくとも、ケイタにとっては。

「アミ…サラ…」

親友達の姿を思い浮かべ、ケイタは盛大な溜め息を吐いた。

「とにかく、今回も絶対負けらんねー…っ!?」

タイマーの痛みで、ケイタは我に返った。
ここでぼーっとしている場合じゃない、早くミッションをクリアしないと。

「‥ってその前にパートナー探しだよな。ハチ公でも行ってみるか」

ケイタはハチ公前へと走り出した。





そしてハチ公前に着いたケイタは、ゲームの参加者がいないか辺りを見回す。

「畜生、サラのヤツ…!」

参加者はいなさそうだ‥とケイタが移動しようとすると、カニ型のノイズが襲ってきた。
だが、まだパートナーのいないケイタは戦うことができない。

「…………?」

だが、いずれ来るだろう痛みを目を瞑って待っていても、一向に痛みは来なかった。
恐る恐る目を開けると、淡い青色の光がケイタを包んでいた。

「け、契約‥したのか?」

アミと契約したときの光に似ている…とケイタは思った。
だが周囲にそれらしい人物は見当たらない。

「…っ」

ケイタがパートナーを見つけるよりも先に、ケイタと恐らくパートナーはノイズの次元へと同調した。

「ちっ…パートナーの前にこっちをどーにかするのかよ」

ケイタはパイロキネシスでノイズを一掃すると、ハチ公前へと戻るのを待った。


「お久し振りです」


ハチ公前に戻ると、ケイタの前に同い年くらいの少年がいた。
彼がケイタの今回のパートナーなのだろうか。

「え、ちょ、お前…っ!」

「あれ、久々過ぎて親友の顔も忘れました?」

「アオシ!まさか、お前がパートナーなのか!?」

「はい。そうですけど何か問題でも?」

ケイタはがっくりと肩を落とした。
彼は社蒼紫。
ケイタとアミとサラの幼なじみであり親友だ。
だがパートナーが親友ということに、ケイタは心から安心できない。

「や、問題ありすぎだろ‥。お前疲れるの嫌いじゃん」

何故ならアオシは、体育や運動など疲れることが大嫌いだからだ。

「そうですけど‥生き残るためには仕方ないですからね」

「…なら良いけど」

「アミさんとケイタさんのことはずっと見ていましたし、勝手は分かってますから大丈夫ですよ」

「は!?」

俺とアミのことを、ずっと見ていた?
いつ?
てか、アオシが?

「あ、お気になさらず。…それより、スキャンの仕方教えて下さいよ。ずっと気になってたんです」

「は?まぁ良いけど」

ケイタはスキャンを実演して見せると、あることに気が付いた。
何故か、アオシの思考が読めたのだ。
「…………」と無言だったが、確かにその思考はアオシから見えている。


「…っ!?」


急に起きた鈍い頭痛と共に、無言の中から断片的に映像が見えてきた。





あそこはよく四人で行った‥確か、宇田川町ってところだ。

あの奥には、   が…。





「ケイタさん?具合でも悪いんですか?」

突然頭を抱えてしゃがみ込んだケイタの背中を擦りながら、アオシが訊ねる。

「ぅ…大丈夫、だ」

「じゃあ、マルシーへ行きましょうか」

さっさと歩き出すアオシの背中を、ケイタはぼんやりと眺める。
確か、参加者同士はスキャンできないとアミは言っていた。
ならアオシから見えた思考は、さっきの映像は、一体何なんだ…?

「…………」

信じるべきパートナーを、親友を、心のどこかで疑い始めた自分にケイタは気付いた。

「ケイタさん、行かないんですか?」

「いや、行くに決まってるだろ」

「まさか、ミッションが解けないワケじゃないですよね?」

ケイタの心の内を知らないアオシは、クスリと笑った。

「…まぁそれでも構いませんけど。行き先は『30+74』=104‥つまりマルシーですよ」

「あぁ、あそこか」

「アミさんの荷物持ちとして、散々行きましたよね」

アオシは笑いながら、ケイタの前を歩き出した。



more...!

―7th day―

醒めない夢




死神のゲームは今日で7日目となった。
つまり今日が、長く辛かったゲームの最終日となる。


「今日で最後だね」

「だな。絶対生き残ろーぜ」


スクランブル交差点で、二人はどこか緊張した表情でミッションが来るのを待っている。

―awai kitai wa morokumo kuzureru suichokurakka no rakkasan〜♪

アミは着メロが鳴るのと同時に、すぐにメールボックスを開いた。
最後のミッションの内容を知るために。

『首都高にいるゲームマスターを
 倒して下さい。
 制限時間は600分。
 失敗したら消滅です。
 死神より』


手のひらにタイマーが現れるときの痛みも、今日で最後になると思うと気にならなかった。

「ゲームマスターってあの女だよな」

「うん、ヨクくんを消したあの人。…サラのためにも、私たちのためにも勝たなきゃ」

アミの言葉にケイタが頷いた、その時だった。

―空が落ちそうさ Chaotic 歪み曲がり曲がる世界に コスモスの花が咲き乱れて…♪

ケイタのケータイに非通知で電話が掛かってきた。
聞き覚えのない着メロに首を傾げながら、ケイタは一応その電話に出てみる。

「もしもし…?」

「もしもし、イヤホン君ですよね」

スピーカー越しに聞こえた懐かしい声、懐かしい呼び名に、ケイタは目を見開いた。

「リ、リオさん!?」

「落ち着いて聞いて下さい。…サラがいなくなりました」

「サラが!?」

ケイタの口から聞こえた名前に、アミは不安そうな表情をした。
まだ待ってろ、とアミに目で訴えるとケイタはリオの話に耳を傾ける。

「今のサラは危険です。パートナーがいないから、死神に見つかったらすぐ消されてしまいます」

「…………っ!」

「それに今日、7日目はゲームマスターが直接参加者に手を出せるんです。どの死神も本気で参加者を消しにかかってきますよ」

「クソッ…そんなの有りなんですか!?」

「とにかく早くゲームを終わらせなさい!そうすればサラが消される可能性も減りますから」

そう言うと電話は切れた。

「ねぇケイタ…サラが、どうしたの?」

「サラがいなくなったらしい。早くゲームを終わらせないと、サラが消されるかもしれない」


「急ごっ!…ほら、首都高はこっち!!」


ケイタの言葉を最後まで聞かずに、アミは走り出していた。
ケイタも急いでアミについて行く。

だがその時‥西口バスターミナルまで来ると、二人の前に黒いパーカーの男が立ち塞がった。

「死神!?」

「よく7日目まで生き残ったな」

「急いでるんだから、邪魔しないでっ!」

「そうはいかない。…お前たちにはここで消えてもらう!」

アミが横を走り抜けようとすると、死神は大きなワイバーン型のノイズを呼び出した。
そして、二人はあっという間にノイズの次元に同調した。

「はぁ…一気にいくか!」

そう言うと、ケイタは必殺技バッジ―リオから貰ったバッジにアミがそう名付けた―を構えた。
バッジから放たれた光の雨が、少しずつノイズにダメージを与えていく。

だがノイズを消すまではいかなかったらしく、パイロキネシスでケイタが止めを刺すとやっとノイズは姿を消した。

「行くよケイタ!」

西口バスターミナルに戻ると、死神の姿は既になかった。
だがアミはそんなことには目もくれずに、ケイタの腕を掴むと走り出す。



そして、二人は首都高へと到着した。

「あれ‥思ったよりも早かったね」

参加者を待っていたらしいロゼは、きょとんとした表情で二人を見た。

「何よ、早く来ちゃ悪い?」


「…ううん。この日を楽しみにしてたから、構わないわ」


ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、線の細い女から不気味な羊型のノイズへとロゼの姿が変化した。
そして、いつもの視界の歪む感覚と共に三人はノイズの次元へと同調する。


「それっ」

アミはバレットショットやバーストショットとなど、得意な弾を打ち出す系統のサイキックをどんどん繰り出す。

一方ケイタも自分が得意なパイロキネシスを始めに、炎を使ったサイキックを繰り出していく。

「く…っまだよ!!」

そう叫びながら、ロゼは何本もの雷を落とした。

「痛ッ!」

「くらえっ」

ケイタも負けじとパイロキネシス以外にも使えるサイキックで反撃する。

炎と雷とサイキックの弾が、激しく入り乱れた。





「キミ達を…絶対、消すんだからっ!」



ロゼも二人も両者共に、体力をかなり消耗していた。
二人に至っては、限界が近づいている。


「消えてたまるか!」

「絶対消えないんだから!」


必殺技バッジがキラリと光り、溢れた光の洪水がロゼへと向かっていった。


「う…うぁああぁあぁぁあっ!!」


悶え苦しむロゼの声は甲高い断末魔へと変わっていく。

光の洪水が止むと、ロゼはノイズから女の姿に戻っていた。
今にも消えそうな半透明に透けた体で、ロゼは二人を忌々しげに睨んでいる。

「消して、や…る‥」

二人が後ずさると、ロゼは二人へと向かって一歩踏み出す。
肩で息をしている二人に手を伸ばしながら、ロゼはソウルとなって消えた。

タイマーが消える際の、いつもの痛みはもうなかった。



「やった‥」

呆然とロゼが立っていた場所を見つめ、ケイタが小さく呟いた。

「終わった、の?」

「ああ!俺たちの勝ちだっ!!」

ゲームに勝った喜びに浸っていると、突然二人の周囲を光が包み込む。


「あ、アミ!!」


「…え?」

だがそれは一瞬のことで、すぐに光は消えてしまった。
思わず二人はきょとんと顔を見合わせる。

「光が、祝福してくれたのかな?」

「プッ‥かもな」

「ちょ、笑わないでよ!…まぁ、ケイタが名前呼んでくれたから良いや」

アミは僅かに頬を紅潮させ、嬉しそうに笑う。
ケイタはアミに指摘されてやっと気づき、照れたように頬を掻いた。


「ねぇケイタ、ありがとう」


more...!

―6th day―

プライドと劣等感




「ここって確か…スクランブル交差点、だよな」

目が覚めるとケイタはスクランブル交差点にいた。
何やら薄く丸い形のものを握りながら。

「俺、何でこんなバッジ持ってるんだ?」

ケイタが握っていたのは、参加者バッジと色違いの赤いバッジだった。
しかし、ただ似ているだけでスキャンはできないようだ。

「はぁ…」

まだ眠っているアミの顔を見ると、ケイタはため息を吐いた。
ロゼという死神の言葉や、アミの言葉が頭の中を回る。

―UGにいる私たちがどうなっても、周りには見えないし聞こえない―

―参加者はみんな共通の理由でRGからUGに来てるから、ね―

この意味深な言葉の答えは、ロゼの言葉に繋がっているのだろうか。
それに、死神のゲームとは何なのか‥という答えに。


―死神のゲームは、生き返りの座を狙った死者…まぁ参加者を選別する審査なんだよ―


その時、今日のミッションが届いた。

『15時にスクランブル交差点の
 視界を支配して下さい。
 制限時間は180分。
 失敗したら消滅です。
 死神より』


「‥おい、そろそろ起きろ」

「…………」

ケイタが声を掛けると、アミはすぐに起き上がった。
「おはよう」と挨拶もなく、ただ無表情でアミはケイタを見上げる。

「今日のミッション、時間と場所が指定されてるんだ」

「視界を支配?…あの死神の言うこと、意味分かんない」

ミッションの内容を確認すると、アミは投げやりにそう呟いた。
…ったくやりづらいな、とケイタは頭を掻く。

「手掛かりは15時とスクランブル交差点、それとこのバッジ。15時にここで何か起きるのか、何か起こすのか。…まずはミッションの真意を突き止めねーとな」

今日は珍しく、ケイタの方が多く話をしていた。
逆にアミはぼんやりとして、小さく頷きながらケイタの話しを聞いているだけだ。

「はぁ…絶対ムリだよ‥」

あと3時間。
やっぱり俺はクビか。

そんなことをブツブツと呟く男が二人の横を通り過ぎた。
その時、男が呟いた言葉にケイタが反応する。

「そーいえば今12時だし、あと3時間で15時。…アイツ、何か関係あるのかな?」

ケイタに話しを振られても、アミは何も答えなかった。

「とりあえずスキャンしてみよーぜ」


(はぁ‥社長は一体何を考えてるんだ。大金かけてQフロアにCM流すなんて…。一瞬しか映らないのに、誰の目にも入らないよ…)


「15時にCM、それと目に入るって…今日のミッションってこれか!?」

「………へぇ、そーなの?」

「まず15時って時間が同じ。目も、視界って意味でとってもいいだろ?…Qフロアってのが分かんねーけど」

アミはやっと自分から動き、大きなスクリーンを指差した。

「あれ。あそこにあるスクリーンがQフロアだよ」

Qフロアには、D+BというブランドのCMが流れていた。

「CMが流れてる…ってことは、」

「スクランブルにいる人たちに、15時のCMを見てもらうってこと?…ムリに決まってるじゃん」

「それを何とかするのがミッションだろ。とにかくCMを見てもらえるようにするしかねーよ」

「だいたい何のCM?さっきの赤いバッジ?」

そう言われて、ケイタは言葉に詰まった。
そこまでの情報もなかったし、考えていなかったのだ。
だが、先程の男をスキャンしようとしても、男の周囲にノイズが集まっている。


「とりあえず、アイツの周りのノイズを倒すぞ」


昨日の少女達もそうだったが、この男も周囲のノイズを倒すと態度が一変した。

「‥いやいや!落ち込んでてもしょうがない。こんなバッジブームになる気配は全然ない!…でも、それをブームに仕立てあげるのが俺の仕事!!」

そう言った男が持っていたのは、ケイタが持っているのと同じバッジだった。

「そんなバッジのCM、誰も見ないよ」

「まぁ確かにな…でも、アイツにとっては仕事だろ?作戦くらいは用意してるんじゃねーのか」


「よし!まずは渋谷の人にバッジを配って広告塔になってもらおう。声のかけ方は前に本で読んだ通りにフレンドリーな感じで…」


「…なぁ、アイツに期待した俺がバカだったのか?」

「あれじゃ変な勧誘に間違われて終わっちゃうね」

ケイタは頭を抱え、アミは冷めた目で男を見ていた。
その時、ケイタはあることを思い出した。


―何でか分かんないけどトレンドは私たちのバッジと服によって変わるみたい―


「そうだ!…アイツはバッジの宣伝で、俺たちはトレンド自体を変えれば良いんじゃねーか?」

「どーいうこと?」


「俺たちのバッジと服でトレンドが変わる、って言ってたのはお前だろ。俺たちがこのバッジを着けてれば、バッジも流行るんじゃないか?」


そして二人はそれぞれバッジを持ち、男の行く先々でバトルをしながらトレンドを変えようとした。


「ふぅ…これだけやれば充分か?」

「かもね」

男の後を追ってスクランブルへと戻る途中、ケイタがアミに聞く。

「なぁ‥今日のお前、何か変だぞ?」

「うん。そーだね」

「どーしたんだ?昨日の死神のせいか?」

「もしかしたら、そーかもね」

アミはあくまでも淡々とした様子で答えを返す。

「ねぇケイタ。どーしたら良い?私ね‥あの死神の言う通り、生き返ってもきっと今と変われないもん」

「って言われても、」

「皆のことが大好きだけど、綺麗な感情じゃないみたい。つい皆に甘えちゃうから。…私は、依存心の塊なんだって」

依存心。
ロゼも同じことを言っていた。
ケイタにはそれが何を指しているのか分からなかったが。


「ケイタは気にならない?昨日の死神が言ってた、私が友達を殺したって話。

…私はね、ある意味ケイタとサラを殺したんだよ」


ケイタは目を見開いた。
昨日まで俺を引っ張ってきたコイツが、俺を殺したなんて。
俺とサラのことを、親友だって言ってたのに。

「サラとケイタをエントリー料として取られたの。だから、二人は死神のゲームに巻き込まれてるんだよ」

「…………」

「軽蔑した?‥まぁそれがフツーだよね。私はケイタたちが大好きで、大切で、いつの間にか依存してた。だから二人がエントリー料になったの」

「それは…」

「なのに今も皆に依存してる。変わりたいけど上手く変われないの!」

アミはケイタを置いて、スクランブルへと走り出した。
そしてスクランブルに着き、ケイタが追い付いくとアミは泣いていた。


「   は大丈夫って言ってくれたけど、こんなの全然大丈夫じゃないもん!!」


その時、突然二人の周囲がざわめいた。
時計を見るともう15時になっていて、恐らくCMが始まったのだろう‥とケイタは思った。

恐る恐る手のひらを見ると、タイマーは既に消えている。


「私なんか、消えちゃえば良かった…っ!」


アミはケイタから逃げるように、再び走り出した。



more...!

―5th day―

空虚な都市伝説




「ん‥どこだ?」

「…………」

ケイタが目を覚ますと、アミは少し離れたところから気まずそうにケイタを見ていた。

「ここは、千鳥足会館」

アミはらしくない声の調子でボソボソと話す。

「ミッション‥まだ来てないから、安心して良いよ」

「そっか」

アミにつられたように、ケイタも何となくぎこちない態度になってしまった。

「あの…昨日はごめんね。酷いこと言っちゃったし」

「別に、あんな状況じゃキレたって仕方ねーからな。…それより、ミッションのこと考えよーぜ」

それはぎこちなく伝わりにくいが、ケイタなりにアミを慰める言葉だった。
一瞬面食らったような表情をしたが、アミはすぐに真面目な顔になる。

「…そーだね。サラの分まで頑張って、ヨクくんの分も生き残らなきゃ!」

―shook my head shook my head shook your head〜♪

その時、ケイタも少しずつ馴染み始めたアミの着メロが鳴った。
そして二人はすぐにミッションの内容を確認する。

『スペイン坂を、
 ノイズから解放して下さい。
 制限時間は200分。
 失敗したら消滅です。
 死神より』


内容を確認し終わると同時にタイマーが動き出し、ミッションが開始した。

「ノイズから解放…って、ノイズを倒せば良いのかな」

「多分そうだろーな」


「じゃあさっそく行く?スペイン坂はすぐ先だから」



そしてスペイン坂に着いた二人は、バトルの準備を始める。

「…よし、いくぞ」

「りょーかいっ」

しかし、いくらやる気に溢れていても二人の体力はそう長く持たなかった。
何回戦っても、何匹倒しても、ノイズの数が一向に減らないのだ。

「クソッ…何で数が減らねーんだよ!」

イライラとしたように、ケイタは声をあげた。
だが、イライラしているのはケイタだけではない。

「〜もうっ!何かノイズを集めるものでもあるワケ!?」

アミもヘナヘナと地面に座り込み、ブツブツと愚痴を言い立てる。

その時。

メキシカンホットドッグという店から出てきた二人の少女の姿が、彼らの目に止まった。

「ちょ、ねぇケイタ!あれ…っ」

少女達の周囲には、沢山のノイズが集まっていた。
まるで少女達に引き寄せているかように。


「アイ…もしかして怒ってるの?」

「怒ってないって」

「ほ‥本当に?」

「なんでもないってば!」


「…とりあえず、あの娘たちの周りのノイズも倒してみる?」

少女達の険悪な雰囲気とノイズの量を見かねたアミが、ケイタに聞く。

「‥まぁ、ミッションに関わりそうだしな」

だが、二人がノイズを倒しても、少女達の周囲にはすぐに他のノイズが集まって来てしまった。


「アイ…来週のこの日って空いてる?」

「…………多分、空いてるけど‥どうして?」


少女達の負のオーラや険悪さに、二人は顔を見合わせた。
ノイズが少女達に集まるのも、スペイン坂のノイズが減らないのも、原因は少女達自身にあるのではないか…と。

「いかにもノイズが反応しそうな負の感情だね」

「どーにかしないとな」




「…“死神さん”が、必要ですね」




うーん‥と首を捻ったその時、ケイタの耳元でボソリと囁き声が聞こえた。
クスッと笑うような、愉快そうな声が。
ケイタは急いで背後を振り返ったが、特に不審な人物は見当たらなかった。

「死神、さん…?」

ポツリとケイタが呟くと、死神さんというキーワードがケータイに登録された。

「死神さんがどーかしたの?」

ケイタ自身さえよく分かっていないケイタの行動に、アミは首を傾げた。

「今日のキーワードの、死神さんって何なんだ?」

「死神さんは…まぁ簡単な占いみたいなものかな。“鳥居”と“白”と“黒”って書いた紙の上に10円玉を置いて、それがどこに動くかで占うの。簡易版のコックリさん、って言えば分かりやすい?」

ケイタにそう説明しながらふと何かを思いついたようで、アミはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「…ねぇケイタ、サイコキネシスを上手く使いこなしてるって自信ある?」


アミが思いついたこと。
それはあの少女達に“死神さん”をインプリントし、少女達が“死神さん”で使っている10円玉を動かして負のオーラを緩和させる…というものだった。

「お前だってサイコキネシスは使えるんだから、お前がやれば良いだろ?」

「あ…いや、ね。私、サイコキネシス苦手なの」

「は?」

突然のアミの発言に、ケイタは自分の耳を疑った。
人のことを散々宙に浮かせて起こしてたくせに、苦手?

「バレットショットとか〇〇ショットってつくサイキックは得意なんだけどね。サイコキネシスは何かを浮かすのと降ろすの…まぁ簡単なことしかできないの」

アミは少し恥ずかしそうにそういうと、お願いケイタ!…と最後に付け加えた。


「‥仕方ねーな」


ケイタは頬を少し掻くと、以前アミがやった時の見よう見まねでインプリントをしてみた。
するとインプリントが成功したらしく、少女達は死神さんを始めた。


「死神さん、死神さん、いらっしゃいましたら…白にお進みください!」

ケイタは加減したサイコキネシスで、白と書かれている方へそっと10円玉を進ませた。
少女達は、10円玉が動いたことできゃあきゃあと騒いでいる。

「…てかさ。コイツらが仲悪い原因も分かんねーのに、どーやって答えるんだ?」

ケイタがそう訊くと、アミはプッと吹き出した。

「ケイタ、あの娘をスキャンしてなかったの?」

「まぁ…その‥」

「ま、良いや。私が白か黒か言うから、その方に動かしてくれる?」

ケイタは少しむくれた表情で、再びサイキックに集中し始めた。

「黒」

「あ、これは…白だね」

問答を二回くらい繰り返すと、アイと呼ばれた少女がもう一人の少女にキレているように見えた。
余計に負のオーラが大きくなったらどうすれば良い?

「…っ!?」

ケイタは焦りそうになったが、少女達はすぐに笑いだした。
そしてあっという間に負のオーラが消え、引き寄せられていたノイズの一部は離れていく。

「ねぇケイタ、大丈夫?何か汗かいてるみたいだけど…」

「き、気にすんなよ。それより残ったノイズ倒す方が先だろ!」

ケイタは慌ててアミを引っ張り、ノイズの次元へ同調するのを待った。

そして視界が歪み、また戻り、歪む。

残ったノイズを倒してスペイン坂に戻ると、すぐに手からタイマーは消えていった。



more...!

―4th day―

消滅




ケイタが目を覚ましたのは、ふわふわとした浮遊感だった。
その正体はアミのサイコキネシスだ。

「あ、起きた?」

「ここ…マルシー、だっけ」

アミに地面へ降ろされると、寝惚け眼を擦りながらケイタはぼんやりと見回した。

「人、たくさんいるな」

「渋谷は、色んな人がたくさん集まる街だからね」

「ma(でも)怖いぞ?このbattaglione(大人数)がみんな別のこと考えてるんだから」

「みんな同じこと考えてる方が怖ぇだろ。それに、誰も俺たちに気づかねぇことも」

サラが言った一言に、アミは頷いた。


「だから   は、」


「ん?」

「な、何でもない!…ほら、ミッションきたよ!!」

何かを呟きかけたアミは、着メロが鳴ったのに託つけて話を逸らした。

『トワレコにたどり着いて下さい。
 制限時間はありません。
 失敗したら消滅です。
 死神より』


「…制限時間がないのに、失敗なんてあり得るのか?」

真っ先に口を開いたのは、ケイタだった。

「しかもここから歩いて10分くらいしかねーしな。…どっちのペアが早く着くか勝負しねーか?」

ケイタに続いて、ヨクがそんなことを言った。

「なっ!おいヨク…」

「じゃあpartenza(スタート)!」

そのまま誰の返事も聞かず、ヨクはサラの腕を掴んで走り出した。

「パワフルだねーヨクくん」

「だな。別に勝負受けるとか言ってねーし、のんびり行くか?」

ケイタのその言葉に、アミは酷く驚いたようだった。
そして、ケイタに聞き返す。

「のんびりで良いの!?」

「お前さっきからマルシーばっかり見てたし、行きたいんじゃねーの?」

「うんっ!行きたい!!」

そう言うのが早いか動くのが早いか、アミはケイタの手を握ってマルシーへと入っていった。
アミに引っ張られながら、ヨクとアミって似てるな…と密かにケイタは思っていた。



「うわっなんだよこの人だかり…」

マルシービル内に入ったケイタの第一声はそれだった。
何だこれ、イベントでもやってるのか?…と。

「プッ‥ケイタ前とおんなじこと言ってる」

「ん?」

「ケイタも前に私の荷物持ちで来たことあるんだけど、マルシーはこれがフツーなの。…あ、あの服かわい〜っ」


「きゃあぁああぁあぁっ」


その時、はしゃいだアミの声を掻き消すような黄色い声が聞こえた。

「あ、王子!!」

「…誰だ?」

「王子英二(オウジ エイジ)。アンニュイな魅力で最近ブレイクしてるタレントだよ。投げやりテイストのブログは1日10万ヒットしてるんだって」


「おや‥そこの少年。キミ、マルシーにいるわりにはキミのそのファッション…実にチュウトハンパだね〜。渋谷のトレンド意識してないでしょ?」


黄色い声を背にしながら、突然王子がケイタに話しかけてきた。
胡散臭さを感じたが、アミが肘でつついてくるので仕方なく返事を返す。

「はぁ…トレンド、ですか」

「ブランドの人気ランキングのことっ」

アミがボソリとケイタに耳打ちした。

「キミは中々詳しそうだね。ちゃんとトレンドも押さえているしね」

「ふふっ…ありがとうございます」

王子に誉められて満更でもないのだろうか、アミはどこか嬉しそうだった。

「トレンドを意識したコーディネートをしていると、ブタ小屋も美しい花園に変わっていくんだ。…まぁキミみたいなカッコウだと、せっかくのバラもスパイシーツナロールになるってことさ」

ケイタに向かってそう言うと、王子は去っていった。

「なんだよアイツ、偉そうに…。それに何で俺が見えるんだ?」

「あれ、話してなかったっけ?」

ケイタの言葉にアミが首を傾げた。
そして、店内の隅に貼ってあるステッカーを指差した。

「ほらアレ。あのステッカーが貼ってあるところは何か私たちの姿が見えるようになるみたい」

「へー。買い物できるのは便利かもな」

「だよね!…ついでにケイタもトレンドにのってみる?」

「いや、俺は良い。そもそもトレンドが何か分からねーし」

ケイタのその言葉で、アミの表情は更に明るくなった。
どうやら、ケイタがこの話題に食い付いたと思っているようだ。

「トレンドっていうのは流行の動向のことだよ。トレンドの変化は、自分にも街の人にも色々な変化を起こせるの。…だからトレンドを押さえておくと、自分にとって良い変化があるってワケ」

「へー」

「ちなみに、何でか分かんないけどトレンドは私たちのバッジと服によって変わるみたい。姿が見えない私たちがRGに影響を与えてるってのも変な話だけどね」

「へー」

やはり機嫌が良いのだろうか。
今日のアミはいつもより饒舌な気がする…とケイタは思った。

「…ってことで、そろそろトワレコ行く?サラとヨクくんが待ってるだろうし」

「そーだな」


こうして二人はやっとトワレコへと向かった。
歩きながらポツリポツリと雑談ができる程に、パートナー契約をしたばかりの頃と比べて二人はだいぶ打ち解けている。


「あ、いたいた!サラ!ヨクくん!」


トワレコの前。
カドイに差し掛かったところでアミはサラとヨクの姿を発見した。

「essere tardi(遅い)!遅ぇぞお前ら!勝負する気あんのか?」

「お前だって、勝負する気ならここにいる必要ないだろ」

「コイツさぁ‥自分で勝手に突っ走ったクセに、お前らが遅いって心配してたんだよ」

サラはそう言ってクックッと笑った。

「優しいねーヨクくん」

「まぁbeninteso(当然)だな。俺、意外とgentiluomo(紳士)だし」

「調子乗るなって」

ケイタがそう言うと、ヨクは少しムスッとした表情をした。

「でも、俺らの方が先に来たんだからな。俺らの勝ちだ」

「好きにしろよ」

ヨクはニヤリと笑うと、先頭に立ってトワレコへと歩き出した。
そして、四人は1分も掛からずにトワレコに着いた。

「…わっ」

その時、何かに躓いたらしいアミが転んだ。
赤くなった膝を擦るアミの元へ、背後からノイズが忍び寄る。


「アミ!」


アミを庇うように、ヨクは一目散に飛び出した。
ヨクに突き飛ばされたアミの体は、サラとケイタの近くへと投げ出される。

ぐるりと回転したアミの視界に映ったのは、赤い液体ではなくノイズの体の青色だった。

「ヨクく…っ」

呆然とするアミの目の前で、


「ヨクくんっ!!!」


ヨクの体は一瞬でノイズに呑み込まれてしまった。



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病み・黒歴史は私の誕生日4桁
王国心夢は異端の印を4回連続

夢主の名前は基本的にアミで固定です
ごめんなさい