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―side death―






死せる神の部屋。
死神の、場所。

「今日の参加者消滅数は6名だったわ」

プラチナブロンドのショートヘアの女が、白衣の男に話し掛ける。

「今までの参加者消滅数‥予想より1日早く過半数に達したみたい」

「中々順調みたいだね、ロゼさんは」

女の報告の内容に、男はニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。

「当然じゃない。…まぁ今日の報告はこのくらいよ、指揮者クン」

「うわ、つくづく嫌味だね〜セレアさん」

「明日は定例会議の予定だから。時間の変更はないわ」

女―セレアはじろりと男を睨みながら、吐き捨てるようにそう言った。
今目の前にいる男が憎くて堪らないと、その目は物語っている。

「…そっか、ご苦労さま。明日からゲームがどう動くか、楽しみだよ」

「ロゼが失敗する、とでも言いたいのかしら」

「そうじゃないけど…失言だったみたいだね、ごめん」

段々鋭さを増していくセレアの目を見て、男は苦笑いを浮かべた。
だから“あの人”は君を指揮者に選ばなかったんだよ、と心の中でバカにしながら。










「ハロルド、9分42秒の遅刻よ」

翌日。
同じ場所で行われた会議に遅れて入って来た男に対して、セレアが言い放った。

「…ったくセレアは相変わらず厳しいよな。それにセド。このくだらない会合をやめた方が、よっぽど意義があるって思うぜ?」

「一応これでも上司なんだから、馴れ馴れしい呼び捨てなんてやめなさい」

セレアが悪びれる様子のないハロルドを咎めると、セドと呼ばれた白衣の男はうっすらと笑った。

「大丈夫だよセレアさん。それより、全員揃ったんだから会議を始めようか」

「なぁ、なんか懐かしい顔がいるけど、挨拶はナシか?」

ハロルドはそう言うとセドの奥にいる少女を顎で示した。

「あ…えーと、久しぶりだね。今はセドくんの代行でゲームマスターやってるの」

「ロゼさんは俺の期待以上によく動いてくれてるんだよ」

「ふーん。相変わらずへにゃへにゃしてそうだけどな」

ハロルドのその一言にセレアが食い付いた。
どん、とテーブルを強く手で叩いて立ち上がる。

「見くびらないで。…ロゼはアンタなんかより優秀なんだから」

「なら良いけど。消えるなよ?」

ハロルドは三人に背を向けて歩き出す。

「ハ、ハロルドく…」

「自主制作の時間だからな。そろそろ帰る」

そう言い残してハロルドは部屋から出ていった。
だがセドは全く気にしない様子で話を続ける。

「そういえば…ゲームは順調みたいだね、ロゼさん。昨日の報告でもセレアさんが褒めてたよ」

「一応参加者は半分以下まで消したから、最終段階には入ったけど…」

「手際も良さそうだし、全滅までは時間の問題だろうね。…期待、してるからね?」

「…っ分かってる、よ」

セドの眼光が一瞬鋭くなり、ロゼは怯えたように身をすくませた。
そして、そそくさと部屋を後にした。


「はぁ…」


部屋から出たロゼは、人混みに紛れながらミッションの内容を考えていた。


そうだ。
昨日までずっと気を張るようなミッションばかりだったし、少し気が緩むようなミッションにしよう。
そして、油断した参加者たちを…。

「ごめんなさい、」

そう小さく呟くと、ロゼはカチカチとミッションメールを入力し始めた。

「…はぁ。ルヴェとアリスにも電話しなきゃ」

メールを送信したロゼは、何度目か分からない溜め息を吐くとどこかに電話をかけた。

「もしもしルヴェ。…あ、アリスもいる?あのね、二人に頼みたいことがあるの」

それは、ロゼと彼らが出会う前日の話。



more...!

―3rd day―

信頼できるヒト




「暗いな‥ここ、建物の中か何かか?」

辺りを見回しても、真っ暗で何も見えない。
周囲の様子も、人の姿も。

「そうだ!アイツは…いない、のか」

―私も気にしないし、ケイタも気にしないで?―

「とりあえず明かり‥っと」

アミの言葉を思い出し、どこか虚しい気持ちになりながらケイタはポケットの中を漁った。
そしてノイズと戦うときのようにパイロキネシスを取り出すが、何も起こらない。

―大丈夫だよ、コレはバトルでしか使えないから―

そーいえば、アイツはそう言ってたな…。
ケイタはどこか胸が苦しくなるような感覚を覚えた。
アイツはどこへ行ったのだろうか。

「…仕方ねーな、手探りで行くか」

見えない周囲を手探りで歩き出すと、ケイタはどこからか聞こえてくる足音に気がついた。
しかも足音は、段々ケイタの方へ向かってくる。
足音の主は、一体誰なのだろうか。

「…ったくケイタのヤツ、どこにいるワケ?」

暗闇の中から聞こえた声。
それは‥。

「おい」

「ひゃっ!!…ってケイタ?」

目が慣れているのだろうか。
一瞬悲鳴が聞こえたと思ったら、直ぐに安堵の声が聞こえてきた。

「はぁ…良かった。見つかって」

ケイタもまた、暗闇の中で近づいてくる足音の正体がアミだと分かってホッとしていた。

「こんなところでおどかさないでよね」

クスリとアミが笑ったのが、見えなくても伝わってきた。
昨日のことは本当に気にしていないらしい。

「…お前こそ、こんなところでどこ行ってたんだよ」

「ここの出口を探してたの。暗くて色々ぶつけっちゃったけどね」

「そーだったのか」

そこで、アミの声のトーンが少し上がった。

「それでね、あっちに出口見つけたの!なのに今度はケイタがに見つからないんだもん」

「………」

「ま、目も慣れたしそんなに大変じゃなかったけど」

「随分無茶したな」

ケイタが溜め息を吐いたのも、アミには見えたようだ。
小さく吹き出す声が聞こえ、アミの口調は人をからかうようなものになった。

「あっれ〜?何かかなり無謀なことして怒られたのって誰だっけ?」

「それは…っ」

ケイタは唇を尖らせ、ムスッとした表情を浮かべる。

「ま、昨日はリオさんのおかげで色々助かったよね。ケイタとまたこーいう風に話せるようになったしさぁ」

「まぁな」

―ningen wo yamete nanini naru? Batabatabata butterfly〜♪

「メール…ああっ!」

その時、ウエストポーチから取り出そうしたとケータイがアミの手から落ちた。
ケータイはディスプレイが上で落ち、待受の写真がケイタの目にも映った。

「…見ちゃった?」

「ああ」

アミとサラ。
それに、アミ達と同い年くらいの男が二人。
そんな四人が写真の中で笑っていた。

「私とサラは分かるでしょ?こっちはケイタで、もう一人がアオシ。これでも、四人とも親友なんだから」

「お前、ケータイ弄りながらこれ見てたのか?」

「…っほら、ミッション忘れちゃダメじゃん!」

アミは照れたのか、異様に慌てた様子でメールボックスを開いた。
そして、ミッションの内容をケイタは目で追う。

『A-EASTの主を倒して下さい。
 制限時間は360分。
 失敗したら消滅です。
 死神より』


ミッションを読み終わるのと同時に、手のひらに痛みがはしる。
そして、ミッションの制限時間のカウントダウンが始まった。

「今日はAーEASTでミッションみたいだね」

「AーEAST?」

「ライヴハウスだよ。好きなバンドのライブで、何回か行ったことあるんだよねー」

その時のことを思い出したのか、アミの声はどこか嬉しそうだった。
だが、それは長く続かなかった。


「…AーEAST、」


出口を出てから気付いた。
二人は最初から目的地にいたということに。
二人のいた暗い場所、そこがAーEASTだったのだ。

「おーい、そこの二人!」

意気消沈で肩を落としたアミをケイタが宥めていると、いきなり知らない男が話し掛けてきた。


「ちょ〜っと頼んでも良いか?」

「まぁ、私たちができることなら…」

「オイ」

アミが男の頼みを引き受けそうだと思い、ケイタは口を挟んだ。

「ちょ、聞くだけだから!困ってる時は誰がに聞いてもらうだけで落ち着くし…それに、手伝えそうじゃなかったら断るもん」

男は777(スリーセブン)と名乗り、デスマーチというバンドのボーカルだと言った。
何やら彼はこの後AーEASTでライブをするのだが、スタッフが帰ってこないらしい。
だがスタッフがいない為にリハーサルも準備も出来ず、彼自身はAーEASTを離れるワケには行かない。
だから、そのスタッフを二人に探してほしい。
話しをまとめると、そんなことらしい。


「黒いTシャツに首からストラップを下げてる人、だっけ」

「どこにいるんだろうな」

スタッフ捜しを引き受けた二人は、宛てもなく道玄坂へ向かおうとしていた。

「これ、壁か?」

「…この道を通りたければ、今から出すノイズを倒せ」

ケイタが見えない壁をペタペタ触っていると、死神が話しかけてきた。

「そーだっ!ねぇケイタ、このバッジ使ってみない?」

「ああ、昨日リオさんがくれたヤツか」

「準備は良い?」

バッジを手渡され、ああ…と返事をしようとした時には、既にノイズの次元にいた。

「仕方ねーな。やってやる」

ケイタの言葉に反応するようにバッジが一瞬光り、無数の光の弾が雨のようにノイズに向かって降り注いだ。
それが止む頃にはノイズは全滅していて、ケイタはいつもの視界が歪む感覚を感じた。


「条件達成を確認した。壁を解放する」


「…なんかあっさり過ぎねぇか?」

「良いんじゃない?楽だったんだから」

死神の姿が消え、二人は道玄坂へと向かった。
だが、黒いTシャツにストラップを提げている人物は見当たらない。


「…いないな」

「どこかの店にいるとか?」


片っ端から近くの店を何軒も覗いていくと、らあめんどんという店でようやくそれらしい人物を見つけた。

「あーめんどくさ‥ライブなんて中止だ中止!」

「ねぇケイタ、あの人…」

「多分そうだろうな。こんなところでサボってたのかよ」

スタッフの愚痴を聞いていた店主らしい人の話も聞かず、スタッフは店から出ていった。

「はぁ‥なんかもう何もしたくない…」

店の外に座り込むスタッフからは、負のオーラが立ち込めていた。
恐らくこのままではAーEASTに戻りそうにはない。

「あの人どうしたの…ちょ、キモっ」

スタッフをスキャンしようとしたアミは顔をしかめた。

「な、なんだ?」

「あの人の周り、ノイズだらけなんだけど」


「はぁ‥ダルいな‥」


「仕方ないなぁ…ケイタ、ノイズ倒すよ」

周囲のノイズを倒すと、スタッフの様子は豹変した。

「もうこんな時間だ!ヤバい、AーEASTに急がないと…」

どこかすっきりとした表情でAーEASTへと戻っていくスタッフの後を、二人は追っていった。



more...!

―2.5 day―






「何をしているんです?死神のお嬢さん」

それは辛うじて、アミの意識が途切れる寸前だった。
一人の男が三人の方へと近づいてきた。

「なんですの?あなたは」

「パートナー消滅のミッションはルール違反。知らないとは言わせませんよ」

「な、何だよそれ!」

ケイタが驚いた声をあげると同時に、アミの体は地面に落とされた。
首を圧迫していたサイコキネシスが消え、急激に肺に届く酸素にアミは咳き込む。

「ハッ…こんなのお遊びですわ。それにわたくしはゲームマスターじゃありませんし」
「ミッションは1日に1つ、ゲームマスターしか出せない。…これは分かってるようですね」

「当然ですわ」

死神は不服そうに眉を潜めたが、男は気にせずに続ける。

「それならもう帰りなさい。仕事はもう終わっているんですから」

「…待てよ!騙したのか?」

小さく舌打ちをして歩き出す死神の背中に、ケイタは声を投げ掛けた。
だが、死神は何も言わずに姿を消した。

「大丈夫ですか?」

男が地面で蹲るアミに声を掛けると、アミは小さく頷いた。

「けほっ…ありがとう、ございます。おかげで助かりました。あなたは…」「咲月理緒と言います。さっきのような死神の邪魔をするのが俺の仕事なので、お気になさらず」

「…俺たち、まんまと騙されたな」

「貴方達?貴方だけの間違いでしょう」

アミを起き上がらせながら、リオは小さく呟かれたケイタの言葉を訂正した。

「この娘の言葉を無視して、貴方はこの娘を殺しかけたんですよ。…ほら、謝りなさい」

「は!?」

「少しでも蟠りを残すと、今後のミッションに支障が出ますからね」

リオはアミの両肩を掴み、アミの体をケイタの方へ向けた。


「…えっと‥その、ごめん」


「まぁ‥サラがいなかったのはラッキーだね。サラがいたら絶対殴られてたもん」

アミがクスクスと笑うと、ケイタは呆然とした顔をした。

「私は気にしてないし、ケイタも気にしないで?」

ケイタは若干驚きながらもコクリと頷いた。

「…さて、問題も解決したところで良いことを教えましょう。この渋谷で生きていく術はただ1つ。

それは、パートナーを信頼すること。

…特に、そっちのイヤホン君なんかはそうですね」

「イヤホン君!?」

「だって貴方、イヤホンしてるじゃないですか。人と話すときにそれは失礼です…って脱線しましたね。このゲームに勝ち残るためにパートナーの存在は不可欠です。自分の為、相手の為にパートナーと心を合わせなさい」

「………」

「まずはこの娘とちゃんと話をして、貴方が考えている全てを言ってみなさい。話さなきゃ何も伝わりませんからね」

自分の考えている、全て。
ケイタは俯きながら考えてみる。

「私、どんなことだって聞くよ?できることなら、何でもするから‥」

アミの言葉で、ケイタはようやく口を開いた。
ボソボソと小さな声で、ケイタは少しずつ話し始める。

「…お前も気付いてるみたいだけど、何も分かんねーんだ。名前以外、全部」

「何か…そうみたい、だね」

「知り合いらしいお前のことも分かんねーし、ここがどこかも分かんねー。何でゲームに参加してるのか…ってかまずゲーム自体が何か分かんねー」

「…イヤホン君、意外に苦労してるんですね」

二人のやり取りを黙って見ていたリオが、そう口を挟んだ。
そして、突然アミに何かを手渡した。

「何ですか?この…白いバッジ」

「二人の仲直り記念と、イヤホン君が自分の考えを暴露できた記念のプレゼントです。…あと、俺が言える範囲の情報も教えてあげましょうかね」

「うわぁ…ありがとうございます!」

「あのー、」

アミが目を輝かせる横で、ケイタが溜め息を吐く。

「俺、イヤホンじゃなくてケイタです」

「あぁそうですか。…覚えますよ、多分」

多分という語尾に不安を覚えながら、ケイタは言葉を続ける。

「で、本題なんですけど…ゲームって何ですか?」

「正式に言うと、これは死神のゲームと言います。ゲームの内容は1日1ミッションを七日間クリアするものです」

「もしクリアできなかったら、メールの通り消滅なんですか?」

「いえ。ゲームの参加者は複数いますからね…どこか一組がクリアすれば、全員クリアしたと見なされますよ」

「なら…」

「ただ、「自分たちがクリアしなくても平気」と全員がそう考えてしまえば、一巻の終わりですけどね」

「怖ッ!」

「それにミッション毎に死神が参加者を採点してますから。その点数については言えませんが、とにかく点数を稼ぐこと…まぁミッションをクリアすることですね」

リオの口調は事務的な部分と感情的な部分が混じっていたが、最後の一言は鋭く真面目なものだった。

「なら、その死神ってのは?」

「ゲームの運営と参加者の試験官…それが彼らの仕事です。さっきの死神や、赤いパーカーの死神を見れば分かると思いますよ」

「でもさっきのヤツと赤いパーカーのヤツは違う気がするんですけど…」

「死神は大きく分けて戦闘部隊と補助部隊に別れてますから。赤いパーカーの死神は補助部隊。さっきの死神は恐らく戦闘部隊でしょうね」

「へー…」

質問が一区切りついたところで、今度はアミが口を開いた。

「あと、ケイタにこの渋谷について説明してもらって良いですか?…私じゃ上手く説明できないから。リオさんなら説明してくれそうだし」

「ええ。構いませんよ」

「この渋谷…?」

「この渋谷は普通の渋谷じゃありません。UGという、もう1つの渋谷なんですよ」

「under ground、だからUG。云わば死神のゲームの為の渋谷、ゲームの舞台です。…ちなみに、普通の渋谷はrial groundでRGと言います」

「じゃあ、そのUGとRGってのは異世界なんですか?」

「違います。UGとRGは同一の空間に存在していますから。今俺達がこうして見ている渋谷は、RGに存在しているものなんですよ…って言っても分からないでしょうね」

首を傾げるケイタを見て、リオは苦笑いを浮かべた。

「そして、そのUGを統括している存在…死神の頂点ですね。その存在はコンポーザーといいます。UGの管理者、もしくは支配者だと思って下さい」

「は、はぁ…」

「まぁ、コンポーザーについてはこれ以上話せないんですけどね。…こんな感じで良いですか?」

「はいっ!ありがとうございました」

アミの反応を見て、リオは満足そうに笑みを浮かべた。


「あと…最後に1つだけ良いですか?」



more...!

―2nd day―

私を殺さないで




「…ったく起きなさいケイタ!」

寝起きの悪いケイタを起こすのに、アミは苦戦していた。
耳元で大声を出しても、体を揺らしても、全く起きる気配がないのだ。

「こうなったら…」

ゆらりとアミは立ち上がるとあるものを取り出し、青い球状の光でケイタを囲んだ。

「うわっ…何だよこれ!!」

ふわふわとした浮遊感で、ケイタは目を覚ました。
だが浮遊感どころか、実際にケイタの体は宙に浮かんでいたのだが。

「おはよーケイタ。今日はミッションの後にゲームについて教えるから、頑張ってね」

アミがニヤリと笑うと、ケイタの体は地面に落ちた。

「いたた…ってオイ、今の‥」

「はい、コレあげる。ちなみに今のがサイコキネシスってサイキックね」

「何だよコレ」

半ば押し付けるように渡されたのは、5個のバッジだった。
パイロキネシス、サイコキネシス、今渡した5個のバッジも、それぞれ使えるサイキックは違うのだとアミは説明した。

―awai kitai wa morokumo kuzureru suichokurakka no rakkasan〜♪

いきなり着メロが鳴り、ケイタは一瞬肩を揺らした。
な、何だよこの曲…。

「あ、メールだ」

『像を呪いから解き放って下さい。
 制限時間は60分。
 できなかったら消滅です。
 死神より』


「像ってハチ公?…ま、行けば分かるよね。ここ駅のガード下だろうし良かった〜」

そこで、ケイタは1つ気になることがあった。

「何でここがどこか分かるんだ?」

「ケイタはイヤホンしてるし気づかないだろーけど、ガタンガタンってかなりうるさいから。…それに来たことあるし」

「ふーん」

そして二人が歩き出すと、出入口付近に赤いパーカーの男がいた。
アミはそれに気づくと、男に近づいていく。

「え、ちょ、オイ!」

「ここの解除条件は?」

「スキャンを使ってここの全てのノイズを倒せ」

アミはケイタの方に向き直り、小さく笑った。



「ついでにスキャンの練習しちゃう?」


スキャンとは参加者バッジという黒いバッジを使い周囲の思考を読んだり、ノイズを見たりするものだった。
ただ、何故かケイタは参加者バッジを2つ持っていて、アミはそれに首を傾げた。

「…別にどーでもよくね?それよりさぁ」

「何?」

「ノイズと戦うとき、何でお前はいねぇんだよ」

そう訊くケイタの声は不満そうだった。
だが、アミはあっさりと答える。

「え、あぁそれ?ノイズと戦う時は別の空間にいるからね。…ほら、ノイズと戦う前と後はぐにゃって世界が歪むでしょ?あの時ノイズの次元っていうのに同調…まぁ移動してるワケ。で、そのノイズの次元は2つに別れてるから相手の姿が見えなくなるの」

「ふーん‥」

アミの言うことはよく分からなかったけど、とりあえずそういうものなんだ‥とケイタは思うことにした。

「はぁ…じゃあ、そろそろ行かなきゃね」

アミはケータイを弄りながら、外へと歩き出した。
何だよアレ、感じ悪ッ…そう思いながら、ケイタもアミに続いて歩き出した。



「アミ!今までどこ行ってたんだよ!!」



渋谷駅ガード下の外、西口バスターミナルに出て聞こえた第一声はこれだった。

「サラ!ヨクくん!」

ケータイをウエストポーチにしまい、声の主らしい人物の元へアミは走り出した。

「な‥っケイタ!?」

アミに続いてガード下から出てきたケイタの姿を見て、声の主―サラと呼ばれた人物は目を見開いた。
サラの横にいる茶髪の男も、ケイタを見て驚いたような顔をしている。

「誰だ?」

「誰だってお前…ふざけてんじゃねーよ」

サラが軽く睨むと、ケイタは眉を潜めた。
それを見たアミは、慌てて二人の間に入りフォローをする。

「や、落ち着いてさーちゃん!もしかしたら、ケイタのエントリー料って記憶かもしれないでしょ!?」

「………木立紗良だ。お前とアミの幼馴染み」

少しの間の後、サラがボソッと言った。
あ。俺が何も分かんないこと、コイツなりに気にしたのか…とケイタは直感的に思った。

「で、こっちが俺のパートナーのヨク」

サラは、ヨクについてはそれ以上何も言わなかった。
そのまま話は途切れ、四人の間に沈黙が流れる。

「あ!そーだvoi(お前ら)、oggi(今日)のミッションどう思う?」

沈黙を破るように、ヨクが明るく言った。

「像ってやっぱりハチ公のことじゃない?」

「呪いから解き放てってのは何なんだろうな…」

アミの答えにサラが続き、三人で考え始めるのをケイタは眺めていた。
そして、小さく口を開く。

「…とにかく、そのハチ公ってのに行けば早いんじゃねぇのか?」

「いやーそれがさぁ、muraglia(壁)があって通れねぇんだよ」

「死神は?」

「死神?」

アミの言葉にサラとヨクは首を傾げた。

「あのrosso parka(赤いパーカー)男のことか?」

「A appunto(正解)!…ってケイタ、どこ行くの?」

三人の話を聞いていたケイタが急に動き出し、その後をアミが追い掛ける。

「お前らといてもラチ空かねーし、一人で行く」

「何で?私たち、パートナーでしょ?」

「…なら勝手にしろ。ただし足は引っ張るなよ」

スタスタと歩いていくケイタの後を追いながら、アミはハチ公前へ向かう方向に死神がいることに気付いた。

「待ってケイタ。そこに死神が…」

「壁の解除条件は?」

アミの言葉を最後まで聞かず、ケイタは死神に話し掛けた。

「解除条件は、像の呪い解除だ」

「ねぇ、それ今日のミッションと同じなんだけど。どーいうこと?」

「像の呪いを解除しろ」

アミがケイタの方を見ると、その肩越しに見えるあるものに気付いた。

「ねぇケイタ、像ってもしかしてモヤイ像のことかな?」

「モアイ?」

「モ・ヤ・イ!…ほら、あそこにあるヤツ」

「あれが呪われてるのか?」

アミが指差した先にあるモヤイ像を見て、ケイタは首を傾げた。

「うわ、ノイズかなりいるじゃねーか」

「え?…あ、本当だ!!」

モヤイ像をスキャンしてみると、モヤイ像の周囲にはノイズがたくさん集まっていた。

「とりあえず倒すぞ」

「うん!」


一瞬視界が歪み、二人はノイズの次元へと同調した。
そこで二人を待ち受けていたのは、オオカミ型のノイズだった。

そして一閃。

ノイズに向かって一筋の炎が放たれた。



more...!

―1st day―

死神のゲーム




二人が契約した直後。
淡い光が二人を包むと、それと同時に少女の姿は消えてしまった。

「は?ちょ、アイツどこ行った!?」

一人取り残され戸惑っているケイタに、カエルの化物は着実に近づいてくる。
その時、化物から逃げるように後ずさったケイタのポケットから、何かが落ちた。

「…何だコレ、バッジ?」

ケイタがバッジを拾った瞬間、バッジから化物へ向かって炎が発生した。
キイキイと鳴き声らしきものを上げて、化物は悶えている。

そして、断末魔のように一際高い声が聞こえると、それと同時に化物の姿が消えた。

すると、ぐにゃりとケイタの視界が歪む。

「…タ、ねぇ聞いてる?」

歪みが治まると、すぐ目の前に先程の少女がいた。
ケイタを見る少女の頬は何故か紅潮している。

「お、お前‥」

「サイキックの才能あったなら早く言ってよね!…ほら、早くマルシー行こう?」

口調は怒っているが、少女は笑顔でそう言うと、ケイタの手を握った。

「サイキック?マルシー?」

「あ、そっか…私のことも分かんないんだっけ。ならサイキックも何も分かんないよね」

握られた手と少女の顔を交互に見てケイタが訊くと、少女は納得したように言った。
そして、同意するように頷いたケイタを見ると少女は話し出した。

「えーと‥とりあえず、私は立花阿実。呼び方はアミで良いよ。アンタは忘れてるみたいだけど、一応アンタとは幼馴染みで親友ね」

「は、はぁ…」

「あ、サラとアオシのことは分かる?…ワケないか。私のこと分かんないのに、二人のこと分かるとかムカつくし。

…で、サイキックって言うのはノイズを消したアレ‥って言えば分かる?」

「てかさぁ、まずノイズって何だ?さっきの化物か?」

「そーだよ。ま、カエル以外にも色々と種類はいるけど。ここまでは大丈夫?」

「‥多分」

ケイタが頷くと、アミは話しを続けた。

「さっきケイタが使ったパイロキネシス…炎みたいに、ノイズを倒す力って思ってくれれば良いかな」

「ちょ、オイそれ‥!」

アミの手には、いつの間にか先程のバッジが握られていた。
だが、何も起こらない。

「ぷっ…大丈夫だよ、コレはバトルでしか使えないから」

「そうなのか?」

「サイコキネシスはフツーに使えたりするけどね。…で、あとはマルシー‥‥あ!!」

「?」

「ミッション行かなきゃ!ほ、ほらケイタ行くよっ!行けば分かるからっ!!」

急に慌てて走り出すアミに、ケイタはまた首を傾げたが、一応アミの後を追いかける。

「なあ‥」

「ん?どーかした?」


「ミッションってなんだ?」


走っていた足を止め、ケイタの方を見たアミの顔は真っ青だった。
信じられない!‥と言いたげにケイタを見ながら、驚いたように口をパクパクとしている。

「自分のケータイ見なさいバカぁあぁぁあぁああぁっ!」

ようやく絞り出されたアミの言葉は叫び声に近かった。
若干自棄を起こしそうになりながらも、アミはまた走り出した。

アミを追いかけながらケータイを弄ると、メールが一件来ていた。
ケイタは迷わずにそれを開いてみる。

『104にたどり着いて下さい。
 制限時間は60分。
 できなかったら消滅です。
 死神より』


「これがそのミッションってヤツなのか?」



「ちょっと死神!パートナー契約したんだから早く壁開けて!!」

自分なりに考えようとするケイタの思考を妨げたのは、アミの声だった。
アミは死神と呼んだ赤いパーカーの男の胸ぐらを掴んでいる。

「も、もう解除した!だから離せ!」

「…ったく、仕事は早くしてよね。ほら行くよケイタ」

考えることは後回しで、ただケイタは頷くしかなかった。
とりあえず、あの男と同じ目には遭いたくない。


「ミッション終了っ!」


それからしばらくすると、アミの嬉しそうな声が聞こえた。

「っ!?」

それと同時に、チクリと左の手のひらに痛みがはしった。
more...!

It's a wonderful world

すばらしきこのせかい




気がつくと、知らないところに立っていた。

(…うるせーな)

ざわざわ。
耳が痛くなるような喧騒の中。
いや、むしろ雑音とでも言うべきか。

(何で俺、こんなところにいるんだ?)

全然来た覚えもねぇのに‥と、辺りを見回しながら彼は考える。

(というか、どこだよここ)



「―――!」

どこからか聞こえた小さい声。
それは雑音まみれの中で、何故かはっきりと彼の耳に届いた。

「ねぇケイタっ!!」

声はどうやら背後から聞こえているようだった。
振り向くと、数メートル先に息を切らしながら彼をじっと見つめる少女がいた。


「…お前、誰だ?」


少女の顔に浮かんでいた表情は、あっという間に消え去った。
無表情の少女の顔はどこか彼を責めているようで、どこか泣きそうに見えた。

「じょ、冗談やめてよケイタ‥」

冗談じゃねーよ。
何で見ず知らずのお前に責められなきゃならねーんだ?
そう思いながらも、口から言葉が出てこない。

「確かに俺はケイタだけど、お前なんか知らねーよ」

彼―ケイタは、苦し紛れにそう言い返した。
だが、そう言いながらケイタは自分の言葉に違和感を感じた。
理由は皆目見当もつかないのだが。


「まさか、記憶がエントリー料‥?」


少女がポツリと呟いた言葉に、ケイタは首を傾げた。
誰の記憶がどうしたって?
エントリー料とかいうのは何なんだ?

「なぁ、」

「ちょっと待って」

疑問を口にしかけたケイタを少女が制した。
そして小さく溜め息を吐くと、少女は目で周囲を見るようにケイタに促す。

「な、何だよこれ!」

周囲にいたのは、脚がタトゥーのようになっているカエルの化物だった。

「ねぇケイタ、契約して」

「は?何だよ契約って」

ジリジリと、カエルの化物が二人に詰め寄って来る。

「話しは後回しっ!とにかく私と契約して。消えたくないでしょ?」

少女と契約して生きるか、契約しないで死ぬか。
その契約とやらで生死が決まるなんて、そう易々とは信じられない。
だが、突然迫られたこの選択で選べる答えは決まっている。


「…まぁな。よく分かんねーけど、契約してやるよ」


一瞬、淡い青色の光が二人を包み込んだ。
それと同時に、ケイタの目の前から少女の姿が掻き消えた。



そして、音もなく静かに世界は動き出した。



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プロフィール
立花さんのプロフィール
性 別 女性
年 齢 29
誕生日 10月30日
地 域 栃木県
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雑記
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病み・黒歴史は私の誕生日4桁
王国心夢は異端の印を4回連続

夢主の名前は基本的にアミで固定です
ごめんなさい