ストリートを漂流
3日目の朝。
今日もケイタはスクランブルで目を覚ました。
少し離れたところを見ると、今日もアオシは誰かと電話をしている。
「…はい、今日こそ行きますよ。だから準備をお願いしますね」
はぁ…今日も電話してる。
相手は昨日と同じヤツなのか?
疑問は尽きないがそれは一旦置き、ケイタはミッションに意識を向ける。
「ミッション、まだなのか?」
ケイタはケータイを見つめながら呟いた。
起きてからしばらく経つが、一向にミッションが届かないのだ。
「ねぇケイタさん」
おかしいとケイタが思い始めた頃、アオシがヤケに笑顔で話し掛けてきた。
そして、何か企んでるのか?…と疑ってしまう自分に腹を立てた。
「今日は私の用事に付き合ってくれますよね?昨日は結局自由時間をくれなかったんですから」
「…………」
「丁度まだミッションも出てないですし、構わないでしょう?」
「昨日も言ったろ?自由時間はミッションの後だ。てかそろそろミッションが…」
―狂おしいくらいに慣れた唇が溶け合うほどに ボクはキミのVanilla♪
「きたみたいですね」
コイツの着メロって…と呆れるケイタに構わず、アオシはミッションの内容を読み上げる。
だが、本人が曲を気に入っているのでケイタは何も言えない。
「『キャットストリートに向かえ。制限時間は15分』…ですって」
「15分!?そんなんであんな遠くまで行けるかよ!」
「はぁ…急いだ方が良いみたいですね」
慌てて走り出すケイタは気づいていなかった。
自分のケータイにはミッションが届いていないこと。
珍しくアオシが意欲的なこと。
そして、走りながらアオシがほくそ笑んでいたことに。
「ぁ…はぁ‥っ着いた!」
結局、ケイタはキャットストリートに着くまでそれらに気付かなかった。
キャットストリートに着いてもタイマーの消える痛みがないことで、ようやく気がついたのだ。
「…っ騙したのか?」
「まぁ、こんなに上手くいくとは思いませんでしたけど」
「ふざけんな!!」
「良いじゃないですか。ミッションはまだ出てないんですから」
あ、この店ですよ。
そう言うとアオシは呑気にとある店へと入っていった。
一応ケイタもその後をついて行く。
「リオさーん、いますかー?」
「待ってましたよアオシ」
二人が入った店は小さな喫茶店だった。
アオシの声にカウンターから答えたのは、何とリオだった。
「リオさん!?」
「イヤホン君、またゲームに参加してるんですか?」
「…はい。そのせいで、アミがエントリー料に取られたんです」
「あのお嬢さんですか…。何て言うか気の毒ですね、イヤホン君」
どーいう意味ですか、とケイタはリオに食い付こうとした。
だかその前に、二人の話を聞いていたアオシが会話に加わってくる。
「ケイタさんもリオさんと知り合いなんですか?」
「ああ。前のゲームで色々と助けてもらったんだ」
「へぇ…リオさんが人助けなんて意外ですねぇ」
アオシが冷やかすように笑うと、リオは顔をしかめた。
どうやらアオシはケイタよりリオと親しいらしい。
だから、UGと死神のゲームについて詳しかったのか…。
ケイタは今まで抱いていたアオシへの疑いが晴れていくような気がした。
「…じゃあリオさん、早速ですけどアレをお願いします」
「気が早いですね。ほらケータイ貸しなさい。あ、イヤホン君もですよ?」
「何すんですか?」
「ケータイのバージョンアップです。少し待ってて下さいね」
リオがそう言って店の奥へ向かうと、アオシは暇そうに店の長椅子に寝転がった。
相当この店に慣れているのだろうか。
「ふわぁ…前もって連絡はしておきましたから、すぐ終わると思いますよ」
「じゃ、じゃあお前が電話してた相手って…」
「リオさんですよ」
その言葉を聞き、ホッとしたケイタは溜め息を吐く。
そして、アオシと向かい合うように椅子に腰を降ろした。
「お待たせしました」
「ありがとうございます。これでやっと探しに行けますよ」
数分後。
店の奥から戻ってきたリオは二人にケータイを返した。
「探すって何を?」
「見つかってからのお楽しみ、ですよ。ケイタさん」
二人はリオに礼を言うと、表に出てケータイの新機能を起動してみた。
アオシ曰く、これは何かの探知機らしい。
「うーん…ここは反応が薄いみたいですね。違う場所に行ってみましょうか」
アオシはブツブツと呟きながら一人で先に進んで行く。
こうなるとアオシは止まらないので、ケイタはとりあえずアオシの後をついて行った。
そして二人は探知機の反応を見ながら、キャットストリートからトワレコまで戻ってきた。
その時、二人の頭上から声が降ってきた。
「やっと見つけたぞケイタ…ってアオシもいるのかよ!」
上を見上げると、背中に生えた翼で空を飛んでいるサラの姿が見えた。
「はぁ…悪ぃけど、お前らをぶっ潰さなきゃならねぇんだ。覚悟してくれ」
「え、ちょ、サラさん…死神になったんですか?」
「ああ。ついでに、お前らを消すのが任務だ」
そしてサラは有無を言わさずに二人をノイズの次元へと引きずり込む。
ノイズを使って二人を消そうとしているわけではないが、サイキックが使えるために戦いやすいのだ。
「や、やめろよサラ…っ!」
返事の変わりに、鋭い雷撃がケイタへと飛んでくる。
だが自分達を襲ってくる死神とはいえ、親友であるサラに攻撃は出来ない。
ケイタは一方的に防戦を強いられる形となる。
「ぅあぁああっ!!」
腕にはしる痺れるような痛みに、ケイタは声を上げた。
防御しきれなかった攻撃が、腕をかすったのだ。
だがその時、まるでケイタの声が合図だったかのように視界が歪む。
「ケイタさん!サラさん!」
ケイタはあっという間にノイズの次元からトワレコへと戻ってきていた。
「…んだよ、攻撃してこいよお前ら!つまんねーから今日はここまでにしておいてやるけど、次会ったら消してやるからな!」
二人に向かってそう怒鳴ると、サラは姿を消した。
本当に死神…敵になってしまったのだろうか。
「死神に‥しかもサラさんに攻撃されるなんて思ってませんでしたよ」
「アイツ、どーして…」
「少しは躊躇ってましたけど、サラさんは本気でしたよね」
二人はお互い暗い表情で顔を見合わせた。
「ここに突っ立ってても仕方ないですし、行きましょうか」
そして、二人は重い足取りで歩き出した。
「あ‥」
探知機が反応する場所を探しながら歩いていたアオシは、道玄坂で急に立ち止まった。
「反応か?」
「はい、あれですね」
そしてどこかの店にできている長い行列を指差し、行列の元となっている店へ入っていく。
「ここ、ラーメン屋か」
「最近できたんですよ。ケータイはここに反応してるんですけど…」
「目的地ってことか?」
「困りますよお客さん。外の列にお並び下さい」
店の片隅で話していると店員らしい男に外へ出され、そこで話しは一旦中断された。
「俺たち外だと見えねーから、並べねーじゃん」
「それに行列も全然途切れませんしね」
道の真ん中で行列を眺めていると、二人はノイズの気配が一ヶ所に集まっていることに気付いた。
ノイズが集まっているのは、以前のゲームで一度行った“らあめんどん”という店。
「あの人の周り、ノイズが集まってますね」
「とりあえず倒してみるか」
店先で肩を落とす店主に群がっているノイズを倒すと、店主は少し吹っ切れたような表情で店に戻っていく。
「いらっしゃい」
店主に事情を聞こうと店に入り、二人は酷く驚いた。
昼食の時間帯なのに、先程の店とは真逆で客がいないのだ。
「何にするかい?今なら超オススメ、期間限定の大漁ラーメンあるよ」
「面白そうですね。じゃあそれ‥二つお願いします」
強制なのか!?…と頭を抱えるケイタに追い討ちをかけるように、そのラーメンはすぐに出てきた。
「おじさん、これ美味しいですね」
「おっ!そうか?さっすが育ちが良さそうなだけあるな」
「ケイタさんも食べないんですか?」
「…ああ」
アオシの「美味しい」という言葉に惹かれ、ケイタもラーメンに口をつけた。
「………不味くないな。てかちょっと美味い」
「これが分かるとは若いのにツウだな〜。渋谷にもまだ味が分かるヤツがいたのか」
店主はそう言うと少し嬉しそうに笑った。
そのとき、誰かが店に入ってきた。
「おや〜?今日もお休みですか〜?」
「やってるよ。お客さんだっているだろ。仕事の邪魔だ、帰ってくれ」
「あぁ〜すいません、お客が少なすぎて気づきませんでした。ところで…例の件考えてくれましたか?」
店に入ってきたのは、先程の店で二人を外に出した男だった。
男は見るからに嫌な笑みを浮かべている。
「あんたとは話したくない。帰ってくれ」
「困るんですよね〜。そろそろ決めませんか?素直に我々の傘下へ入りましょう?モウケ倍増ですよ」
「……………」
渋谷の人がラーメンに求めるのは味ではなく非日常。
渋谷でラーメンを食べるという行為は客にとっては祭で、行列に並ぶところから既に祭は始まっている。
重要なのは『売り方』であり、味なんて分かるわけがない。
店主に有無を言わせない強い口調で、男はそう言い切った。
その言葉で店主の顔色が僅かに曇る。
傘下の件はあと1ヶ月の期限で考えてくれ…と、言いたいことを言って男はさっさと出ていった。
店主は二人に困ったような苦笑いで笑いかける。
「…みっともないとこ見せちまったな」
「トラブルですか?」
「はは‥子供にまで心配されるとはな。聞いてくれるってのかい?」
聞いたところで何もしてやれないよな、とケイタは小さく肩を竦めた。
だが、そのときアミの言葉がよぎる。
―困ってる時は誰がに聞いてもらうだけで落ち着くし…それに、手伝えそうじゃなかったら断るもん―
「俺たちは、聞くだけしかできないけど…」
「ありがとな。それで十分だよ」
見た通り、この“らあめんどん”には客がいない。
だが今月中にモウケの見込みが立たないと、店を畳まなければならないらしい。
先程の男の店に買収されれば店は続けられるらしいのだが、あの店は味に対して愛がなく、ラーメンを金儲けの道具にしか考えていない。
しかもラーメン以外の小細工で客を引くことが店主は許せず、話しを断っているらしい。
…店主はそう二人に話した。
「キャアァアァァア!」
外から聞こえる黄色い声が店内にまで届いてくる。
小細工が始まった、と店主は渋い表情をした。
二人が様子を見に行くと、外に王子英二がいた。
黄色い声はその周りのファンのものだろう。
王子はファンに囲まれたまま、先程のラーメン屋へと入っていった。
二人はその後をついて行く。
店内ではステーキののったラーメンが出され、店員が踊りながらラーメンを作り、開店記念としてバッジを配ったりしていた。
配られているのは、前回のゲームで流行させた参加者バッジと色違いのものだ。
「あのバッジに強く反応してるみたいですね。…決めました、今日はこれについて調べましょうか」
そう言うとアオシはすぐに行動を始めた。
店内の客に店の長所を聞き、姿が見えないのを良いことに王子とあの男の話を堂々と盗み聞いたりと、それはかなり大胆なものだった。
だがその途中に思わぬ収穫もあり、ケイタは何も言わなかった。
「このバッジ、CATのデザインだったのか」
店で配られていたのと同じもの。
以前のミッションの際に入手した赤いバッジを弄りながらケイタは呟いた。
「あぁ、ケイタさんはCATのファンですもんね」
CATとは絵・服・家具・写真・音楽・映像…とデザインするマルチクリエーターのことだ。
渋谷にはCATデザインのものが至るところにあり、宇田川町の壁グラもその一つである。
「CATはもう存在自体がアートだからな。『全力で今を楽しめ』ってスタイルもマジで尊敬してる」
「『好きなことを好きなだけ好きなようにやる。格好いいだろ?』…もう何度も聞きましたよ」
「CATのバッジを客寄せに使うとか、アイツマジでふざけてんだろ」
そんなことを話しながら、二人は“らあめんどん”まで戻ってきた。
集めた情報を、店主の参考になるように話すつもりなのだ。
「おぉいらっしゃい。…お前たち、これを食べてくれ」
しかし、それは必要なかったようだ。
二人が店に入ると店主はすぐに試食用にラーメンを出した。
それは至って普通の、シンプルなラーメンだった。
「おっさん、これ…フツーのラーメンか?」
「いただきま‥」
「ちょっと待って!」
二人がラーメンを食べようとすると、突然そこに王子が入ってきた。
「そのラーメン、僕に食べさせてください」
「…仕方ないですね」
「では、いただきます」
アオシが席を立つと、王子はラーメンを食べ始めた。
「美味しい!なんて美味いラーメンなんだ。…今ここで死ねたら、この上ない幸せだ!」
「バカ言うな。美味いラーメンは生きてるから食べられるんだぞ」
「確かにそうですね」
店主の言葉に王子は深く頷いた。
その後ろでケイタとアオシは密かに笑いを堪えているが。
「俺がこの店を始めたときから出してるラーメンだよ。何も変えてない、自分が美味しいと思って出してるラーメンだ」
「それにこのラーメン、一口ごとにマスターの愛情を感じる。マスターのラーメンへの愛情が…いや、ラーメンを食べる人への愛情が伝わってくる!」
「生きていれば辛い時も必ずある。けど、未来を作るのはあんた自身だ。辛いことがあったらまた食べに来い!…どうせあと1ヶ月、やるだけやってみるよ」
「おっさんの店、流行ると良いな」
「そうですね。ま、王子が動けば余裕なんじゃないですか?」
らあめんどんを後にした二人は、ケータイの反応する場所を探しながら歩いていた。
道玄坂にあった…いや、赤いバッジへの反応は何故か弱くなっていた。
バッジが沢山あったから、さっきは強く反応していたんでしょう。
アオシはそう判断した。
「この分じゃ、調査はまだまだ時間がかかりそうですね」
ケイタは内心アオシの言葉に強い不安を覚えた。
次はどんなことに巻き込まれるハメになるんだ?…と。
分かっただろう?
突き進むしかないのだと。
2010-8-4 21:08
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プロフィール
性 別 |
女性 |
年 齢 |
29 |
誕生日 |
10月30日 |
地 域 |
栃木県 |
雑記
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【パスワード】
病み・黒歴史は私の誕生日4桁
王国心夢は異端の印を4回連続
夢主の名前は基本的にアミで固定です
ごめんなさい