「昨日の参加者消滅人数は14名よ」

下っぱの死神達の報告書を纏めながら、セレアが言った。
中でも内容が正確で一番セレアが頼りにしているのは、ルヴェとアリスのものだが。

「さすがハロだね。これから7日かからないでゲームが終わるかな?」

クックッと笑うセドを見て、セレアはあからさまに顔をしかめた。
コイツ、ロゼの時も同じようなことを言ってたじゃない…と。

「…そのことだけどね、昨日から今日にかけてミッションが出されてないの」

「ミッションが?」

「そうよ。でも参加者は確実に、大量に減少してる」

「ハロはどうしてるの?」

セドは顎に手をあて、何か考え込むような仕草を見せた。

「昨日から消息を絶ってるわ。何なら電話してみたら?」

「別に良いよ。…ハロにも何か考えはあるだろうし、様子を見よう」

人のことを言えるワケではないけど、コイツも個人的に友人関係の部下には甘いのね。
セレアは上司に呆れつつあった。

「あ、そうそう。あと1つ問題があるの。ルート5で多数の死神が禁断ノイズに襲撃を受けたそうよ」

「禁断ノイズ、か」

「報告書には『新種の黒いノイズの襲撃』って書かれてたけどね」

「あぁ、上層部しか禁断ノイズの存在は知らないから」

禁断ノイズ。
それは先日ルヴェやアリスを襲ったノイズのことでもある。
どうやら、二人以外にも襲われた死神がいるようだ。

「犯人の解明と捜索はもう開始しているわ」

「分かった。それは全部セレアさんに任せるよ」

「参加者の減少理由の十中八九は禁断ノイズでしょうね」


「だろうね。…じゃあ後は優秀なセレアさんに任せて、俺も仕事しようかな。指揮者の仕事をね」


ニヤニヤと笑いながら席を立ち、セドが向かうのは裁きの部屋。
そこに閉じ込めた阿実の様子を見るためだ。



「ねぇアミちゃん、もう素直になりなよ」

「…やだ」

裁きの部屋の中央。
セドは諭すような優しい声でアミに話し掛けた。
アミからすれば気分の悪い猫なで声にしか聞こえないが。

「素直になったら、サラちゃんくらいには会わせてあげるよ?」

サラと会える。
一瞬心が揺らいだが、アミはすぐにそれを抑え込む。

「…っそれでも、私はアオシを裏切らない」


「死神になったサラちゃんが、参加者になったケイタくんを消そうとしても?」


アミの目は大きく見開かれた。
本人は隠そうとしているが、隠し切れない動揺の色がその顔に強く表れている。

「もし会って話せば、やめてって説得できるかもしれない」

セドはじわりじわりとアミの心を揺さぶっていく。

「ねぇアミちゃん、どうする?」





「あーあ。やっと行きましたわね、あの子供達」

それから数時間後。
ルヴェとアリスの二人は宇田川町へと来ていた。
禁断ノイズを精製している犯人を解明・捜索するという任務を与えられたが、情報が何一つないために渋谷中を歩き回っていたのだ。

「まさかねぇ‥ゲームマスター様の奇行を見るとは思わなかったけど」

ケイタとアオシも目撃したあのハロルドの奇行を、二人も少し離れたところから見ていた。
しかし二人が模様から離れるのを待っていたため、調査を始められなかったのだ。

「…これ、何か変な感じがしますわ。あんまり良い魔方陣ではありませんわね」

「一応写メ撮ってセレアに送ろうか」




「…っこれ!!」

ルヴェから送られてきたメールを見て、セレアは顔色を変えた。
そして急いで二人に電話をする。

「もしもしルヴェ?そこにアリスもいる?…さっさとそこを離れた方が良いわよ」

「セレア?どうしたの?」

「それは禁断ノイズ‥この前あなた達を襲ったノイズの精製陣よ。いつハロルドにが戻ってくるか分からないし、見つかったらノイズをけしかけられるかもしれない」

セレアは確信していた。
禁断ノイズの発生原因は確実にハロルドだと。
あの不真面目な指揮者のことだから、犯人がハロルドならこの件はうやむやにしてしまうかもしれない。

何故なら、お気に入りであるハロルドには甘いから。