「あーあ、めんどくさい」

とあるビルの屋上。
ルヴェは空を見上げながら、ごろりと仰向けに寝転がった。
その目には、憂鬱な色がありありと浮かんでいる。

「ロゼが消えたって、誰が消えたって、仕事は終わらないんだよねー…」

「でも、少なくとも今日は休みですわ」

ルヴェの横に座っていたアリスが呟いた。
長時間泣いていたのか瞼は腫れ上がり、目が充血している。

「ハロルド…じゃなくて、ゲームマスターは変なところで気なんか使うんですもの」

「‥そう、かもね」





死せる神の部屋。
そこにいるのはセドとセレアの二人だけだった。
本来なら、今日はここにロゼも一緒にいた筈だったのだが。

「気丈だね、セレアさんは」

俯いたままずっと押し黙っているセレアに、セドが話し掛ける。
ロゼの死‥いや、消滅。
それは死神の仕事としての上下関係以前にロゼと友人だったセレア、ルヴェ、アリスに大きなショックを与えた。

「よく泣かないでいられたよね。アリスちゃんもルヴェちゃんも泣き崩れたってのに」

「…………」

「優しい娘、だったね。俺達といるときには、俺達に気を使って参加者を消すのを平気な顔してるし。でも、そのクセ一人になるとかなり落ち込んでたみたいだし」

「…………」


「あの違った意味の二面性、嫌いじゃなかったんだけどな」


あくまで黙ったままのセレアに、セドは独り言を呟くような感じで話し掛ける。
セレアの心を意図的にじわりじわりと傷付けながら。

「あの人のお気に入りのお姫サマとそのパートナー…誰だっけ、アミちゃんとケイタくん?あの二人、頑張ったよね」

ロゼを消した二人の名前に、セレアの肩がビクリと揺れた。
セレアの反応に歪んだ笑みを浮かべると、セドは奥の部屋へと向かう。
“裁かれしものの道”と呼ばれる長い一本道を抜け、最奥にある“審判の部屋”と呼ばれるコンポーザーの部屋へ。

そして審判の部屋の中央にある玉座に座る…いや座らせた少女に、セドは笑いかける。



「幽閉されるお姫サマってのはどんな気分だい?‥アミちゃん」



「…死ぬほど嫌な気分」

少女―アミはセドを思いきり睨み付けた。
だがセドは笑顔を崩すことなくアミへ言葉を返す。


「面白い冗談だね。…「死ぬほど」どころか、君はまだ生き返っていないのに」










「ダメだ。ここも開かない」

その翌日。
ケイタの2回目のゲームの、2日目の朝。
ルヴェとアリスに西口バスターミナルに呼び出された赤いパーカーの死神は、首を振った。

「そっか、協力してくれてありがとね。帰って良いよ」

ルヴェが赤いパーカーの死神を帰す横で、アリスは頭を抱えていた。
朝一番の突然の報告。
昨晩ゲームマスター直々に仕事をし、複数のエリアに壁が作られた…と。
しかし壁で閉鎖されたエリアの報告がなく、下っぱに近い二人が閉鎖エリアの調査に駆り出されたのだ。

「はぁ…ルート1も封鎖なんて、壁を作りすぎですわ」

「後はルート2も5も6も封鎖済みだったっけ。よくやるねー今回のゲームマスター様」

肩を落として愚痴を言い合う二人の背後に、黒い影が忍び寄る。
それにひと足早く気付いたのはアリスだった。


「っルヴェ、後ろ…」


アリスの声と同時に、黒い影が二人に襲い掛かってきた。





「ぁ…はぁ‥っルヴェ、生きてます?」

「トーゼン、じゃん」



黒い影の正体、それは黒いノイズだった。
死神である二人でさえ、そのノイズのことは知らなかった。
ノイズが自分から、しかも死神を襲うなんて話自体聞いたことがない。

「とりあえず、セレアに報告かな」

「そうですわね」


「…もしもし、セレア?」