「そうやって俺ばっかり悪いように言うけどよ、てめえの方が俺に絡み付いて離れなかったんだろ?お前凄かったからね、『もっと』だの『出して』だの。お前のリクエスト全部応えてやったんだからな」
「!!……ち、違うもん」

でも、意地悪な笑みと共に上から見下ろされれば、僕は両腕でぎゅうっと自分の身体を抱きしめることしかできない。だって銀さんの言ってることは本当だ。さっきは銀さんもめちゃくちゃに僕を責めてきたけど、当の僕だって銀さんを欲しがって乱れに乱れた。欲しいとせがんで、甘えた声でねだった。銀さんに絡み付いてキスして、蜜のように甘くとろとろに蕩けた。

そんな自分のはしたない姿を思い出して恥ずかしくなり、僕は羞恥に身体を火照らせる。そんな僕を声を出さずに笑い、銀さんは僕の上に大きく屈み込んできた。

「つかお前、もう男なしでは居られねえ身体になってんじゃねーか。オッパイ揉んでやろーかコラ」

ふざけた声で言うなり、僕の身体の下に手を入れ、真っ平らな胸をいきなりぐにっと揉む。僕の薄い胸なんて揉んでも楽しいものではないだろうに、本当に女の人にするみたいなやらしい手つき。
こうやって僕を苛めるのは本当にやめて欲しい。おっぱい揉ませろだの吸わせろだの、本当に、その、この人は僕のことをなんだと。

「だから違いますって!オッパイもないってば!」

僕は真っ赤になってたじろぎ、慌ててその不埒な手を振り払った。けどその途端に銀さんの手が背中を這い、ビクッと肩を震わせてしまう。

「いやいやいや、違わねえから。きっついアソコにブチ込んでもらわねェと、新八はもう前でもイけねーだろ?中弄られてぐりぐりされなきゃ物足んねーよな」
「ひっ」

怯んだ瞬間に今度はお尻を掴まれ、僕は瞠目した。あんまりな言い草に銀さんをきっと睨むけど、銀さんはどこ吹く風だ。しまいにはどこかうっとりした様子で、うたうように囁く。

「こっちの締まり最高だし、肌もすべすべでしっとりしてて抱き心地いいもんな。俺のメス猫ちゃん」

いやらしげにお尻を揉まれて、いよいよ僕の赤面は最高潮だ。本当にこの人は、僕のことを何だと思ってるんだろう。メス猫だの何だのって失礼過ぎやしないか。

でもそのセリフには不思議とデジャビュを感じてしまって、僕は銀さんの手を払いながらも口にする。

「や、止めてください!変な事言わないで!何で銀さんまで高杉さんみたいなことを……」
「え?……何でここで高杉?」

銀さんは僕の言葉に一瞬だけぽかんとして、それから一気に不機嫌そうな顔になった。高杉さんと同列に並べられるのがきっと嫌なのに違いない。件の高杉さんもそうだったのだから。

「だって高杉さんも、僕のことをメス猫だのオンナだの何だのと……ほんとに失礼な人ですよ。信じらんない。てかあんたらはマジで幼馴染みですね。僕は今日ほどそれを痛感したことはないです、何その思考のリンク具合」
「……いや、つか待って、おかしくね?高杉のその思考、おかしくね?え?アイツって女好きだよな、昔っから普通に女好きだったよな。間違ってもホモじゃねーよな」

呆れたようにため息を吐く僕とは対照的に、今度の銀さんはブツブツと言い淀む。顎に指をかけて考え込む仕草なんて名探偵さながらだ。でも僕は今度こそ取り付く島も見せない。

「そんなこと僕に聞かないでください。知りませんよ」
「そりゃてめえなら違和感なく手ェ出せるけど!てか俺もホモじゃねーしな、でもよ、つーことは……」

ツンとして言い放った僕なんてもう構うこともなく、銀さんはまだまだ考え中らしい。そして考えて考えて、熟考し果てた後、ポツリと一言だけ口にした。

「……お前、新八のくせにとんでもなく面倒くせェオス猫釣ってんじゃねーよ。向こうが交尾したがってたらどうすんの?」

あからさまな揶揄を含んだ言い草に、ぼっと頬が燃える。交尾なんて、高杉さんのことも僕のこともまるっきり等しく獣扱い。

いや銀さんがいちばんのケダモノでしょうが!間違いなく!

「だっ、だから知りませんってば!!銀さんのばか!!エロ!」

血が沸騰するままに叫んで、僕はまた慌てて突っ伏しの体勢に戻った。本当に信じられない。て言うか、高杉さんの動向をここまで銀さんが気にしてるのがまず信じられない。絶対に考え過ぎだと思うのに。


僕の懊悩なんて知った事じゃないのか、今度の銀さんはのんびりと言葉を紡いだ。やっぱりと言うべきか、僕のお尻を軽く揉みながら。

「でもさあ。ほんとにどうすんの、こっちの方が気持ちよくなったらもう後戻りできねえって言うよ?」

からかう銀さんの声は甘くて、ちょっと意地悪。
言い様にぽんっと柔肉を叩かれ、僕はきゅっと唇を噛んだ。おずおずと横合いの銀さんを見上げる。

「それは……えっと、銀さんが責任とってくださいよ。僕の身体をこうした責任は銀さんにあります」

潤んだ瞳で言うと、少し驚いた顔をした銀さんと目が合った。僕の言葉が心外だったらしい。

「アレ?それだけでいいの?てめえのことだから、何だかんだとぐちゃぐちゃ面倒くせえこと言い出すんじゃねーかと思ってたけど」
「それだけって言うか……僕には“それだけ”じゃないです。銀さんが……僕のためにって言うのが大事です」

そう、僕の身体が抱かれる為のものに変じていこうが、銀さんがそんな僕を好いてくれるならもう別に構わない。そういう自分の考えに責任を持てるくらいには、僕だってちゃんと男前だ。
僕の発言を聞いた銀さんは少し黙った後、ぐしゃぐしゃっと乱雑に僕の髪をかき混ぜた。いつものようにニッと不敵に笑う。

「じゃあ銀さんの隣りに永住権やるよ。新八くん」

言うなりまた屈んで、僕の額にチュッとキスをした。
不意打ちのキス。

「だからお前も一生かけて責任とってね?俺の初恋、奪った責任」

プロポーズのようでいて脅迫のようでもある、恐ろしいくらいに甘い言葉を屈託なく吐き出しながら。





「ぎっ……銀さんこそ!銀さんこそ、僕の初恋奪ったくせに!」

ドカンと爆発する勢いで叫ぶ僕だけど、銀さんはやっぱり素知らぬ顔だ。僕の頬を愛しげに撫でてから、すっぱりと立ち上がる。

「よしよし。じゃあ何か俺が飯作ってきてやっから。何がいい?っつっても台所にある食料から見繕うだけだから、限定されんだけど」

そして肩をコキコキ回して、おもむろに僕を振り返った。その口調には嫌味なところなんて全くない。疲れ果てている僕にご飯を作らせる気なんて、最初からなかったんだと分かる。やっぱり銀さんは意地悪。僕をからかうし、茶化すし、混ぜっ返すし。

なのに……やっぱり銀さんは、や、優しい?かな?(疑問系になる僕だ)


「限定されてくるなら、何でもいいですよ。僕、好き嫌いないです。銀さんお料理上手だし」

だから僕はふんわり笑って、甘い気持ちで銀さんを見上げた。『一生かけて』とか何とか、さっきはひどく重い鎖で絡め取られた気もするけど、そんな口説き文句は破顔一笑。

よくよく考えれば悪魔の契約である銀さんの甘い言葉を、考えもなしにこくこく頷いて受け入れる僕は……やっぱり銀さんや高杉さんにバカだのアホだの言われる素質が、限りなくあると思う。


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