今までのまとめ







結局、あの後も何だかんだで僕らは求め合ってしまった。机にソファにと立て続けに致した後、僕の身体を洗うと言う名目で連れ込まれたお風呂でも──以下略の痴態を晒した。
どこもかしこも散々に銀さんから貪られた僕は、もう息も絶え絶えに近い。お風呂上がりのいつもの格好で、居間のいつものソファの上に戻ってきたのはいいけれど、もう到底きちんと座ってなんていられなかった。

情けなくもソファの上にうつ伏せになり、両腕を枕にして突っ伏すという有様で。




「……お腹すいた……」

そして、力なく呟く。
万事屋に戻ってきたのは確かお昼過ぎだった筈なのに、今は既に夕方近い時刻だ。つまり空っぽな胃袋の訴えも何もかも無視して、机だのお風呂だのでさんざっぱら盛っていた僕と銀さん。

……わ、分かっていたけど、十二分に分かってはいたけど、僕ら二人って本当にどうしようもない。ほんとのほんとに。


「確かに。凄え腹減ったわ」

向かいのソファから、銀さんが僕の声に相槌をうつ。
銀さんもお風呂上がりの作務衣姿になっているけれども、既に半死半生の僕とはまるきり違う。僕をひっくり返したり持ち上げたりしてあんなに動いたのに、疲れた様子なんて微塵もない。今も平然とした様子で真向かいのソファにどっかり座って、脚を組み、いつものようにジャンプなんて捲っている。そしてチラとジャンプから目を上げるなり、ソファに弛緩している僕に視線を寄越してきた。

「新八ィ、お前何か作ってこいよ。んなとこでこれ見よがしにくたばってんじゃねーよ」
「……は!?『何か作ってこい』って何!?どの口が言いますか!だいたい僕がここまでダウンしてんのは誰のせいだと思ってるんですか!」
「あ。やば、ヤブヘビ」

当然ながら、銀さんのこの発言にはカチンときた。僕は突っ伏していた顔を起こし、キャンキャンと吼えたてる。すると銀さんは慌ててジャンプで顔を隠して、素知らぬふりに舞い戻るだけだ。ムカつくったらない。僕をここまでコテンパンにしたのは銀さんでしかないのに、その銀さんなんて心なしか肌ツヤも良く、イキイキとさえしているのは何故か。


「ううう……銀さんのばか。今日はもう絶対仰向けに寝れない……お尻いたい……」

だから僕は力なく呻き、また突っ伏しの姿勢に戻った。さっきまで散々に突っ込まれていたところがまだじんじんと熱くて、迂闊に仰向けになんて絶対なれない。

そんな風にしんどい様子の僕を見て、あー、と銀さんが間の抜けたような声を放つ。いかにもバツが悪そうに頭を掻きながら。

「だからホラ、それは俺も反省してるって。ごめんって、久々なのにちょっとガツガツやり過ぎたよな。マジ悪かったって」
「ちょっとどころじゃねーよ!?とんでもなくガツガツやられましたよ!僕のお尻壊れちゃったらどうしてくれんですか!」
「あん?そうなったらいい肛門科に連れてってやるよ。大丈夫だ、腕は確かなとこだよ?長谷川さんからの紹介っつーことで」
「おいィィィィィィ!!??他人事だと思って!そ、そんなとこお医者さんに見せなきゃいけなくなったら、僕は死にます!舌噛んで死にます!てか何で長谷川さんだよ、中年男性からの紹介が無駄にリアルだよ!」
「んなくだらねー事で死ぬバカがいるか!だからてめえはバカだっつーの!俺が責任取って付き添って行くからいいだろ!俺のせいでこうなりました、って医者には懇々と説明してやっから!俺が悪いんですって平身低頭謝っとくから!」
「いやそっちの方が無理だろうがァァァ!!何が悲しくて男二人でそんなとこ行かなきゃダメなの!?僕に付き添ってる銀さんの存在で全てを悟られるわ!誰の何を突っ込まれて僕のお尻が痛んだのか、黙ってても全部が全部悟られるっつーの!何でそんなハードモード通り越してナイトメアモードの人生突き進まなきゃダメなんですか!」


しばらく続くは、ローテーブルを挟んでのギャーギャーと小汚い罵り合い。でも僕は羞恥で頬を赤く染めているのに、銀さんはやっぱり平然としているのが割りに合わない。何でこの人、こんなにも悪びれないのだろう。
銀さんだからか。銀さんだからなのか。


さんざっぱら言い合った後、よっこらしょとばかりに銀さんが立ち上がるのが見えた。テーブルを回り込んで僕の側に近づき、今の僕の寄り辺であるソファにどかっと腰を下ろす。そして突っ伏している僕の黒髪に手を入れ、さらさらと梳るようにして何気なく撫でた。
長い指で軽く髪を梳かれるのが心地良い。情事に慣れた甘い仕草。

そんな銀さんの手にはやっぱり簡単にほだされて、僕はおずおずと横を向いた。


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