危険な好奇心・後(※・雰囲気ユリフレ寄り)

続きです。裏です注意!
フレユリですが、ユーリの襲い受という感じでユーリがかなりノリノリです。ちょっとユリフレっぽい雰囲気もあるかもなので、全くダメだと言う方はここでUターンのほうがいいかも...です。








手首を縛られ固定されて、フレンは必死に耐えていた。

少しでも気を抜けば声が出てしまう。それは絶対に避けなければならない。もし声に気付かれてしまったら…終わりだ。

こんなところをユーリの家族に見られるのは、さすがに嫌だった。困るのは自分だけではない筈だが、ユーリは堂々としたものだ。

「んッ、う…あ!!」

「ふ……すごいな、ビクビクしてんぞ」

フレンの腰に跨がったユーリが、自分自身をフレンの誇張に突き出すようにしてぴったりと合わせると、二つの塊をまとめて左手で軽く包む。
自分のものではない熱さにフレンの腰が揺れ、それ以上の刺激を求めるかのように突き上げる様子に、フレンだけでなくユーリからも悩ましげな吐息が漏れた。

「…やらしいな」

「う、るさ……あァ!!」

「何だ、まだ余裕あるじゃねえか」

ユーリは上半身を右後方に大きく捻り、指先でフレンの後孔を絶えず刺激し続けていた。フレンからはユーリの右手の行方が見えず、自分に跨がって腰をくねらせ、性器を握って擦り上げている姿は相当に刺激的なものだった。
これが普通の騎乗位だったら、どれだけよかったか。
せっかくユーリが艶やかな肢体を曝しているのに、フレンはユーリの指による刺激のせいで意識が拡散してしまい、もどかしくて仕方ない。ユーリに触れられるのが嫌、という訳ではなかったが、やはり自分が受け入れる側になる事はどうしても想像できなかった。


ユーリも自分も互いが初めての性体験の相手で、ユーリは常に受け入れるほうだった。つまり、まだ童貞ということになる。既に童貞とは言えないのではないかと思わないでもなかったが、ユーリはそれが不満のようだった。
初めて身体を重ねた日、ユーリもフレンを抱こうとした。だがそれを阻止して以来、そのような素振りを見せた事がなかったのですっかり忘れていたのだったが。

恐る恐る、フレンはユーリに尋ねてみた。

「…ッ、ユーリ…っ?ちょっと、聞いて……!」

手を止めたユーリが身体を戻し、フレンを見る。互いに合わせた欲望はしっかりと握ったまま、薄く笑みを浮かべていた。フレンに対して優位に立っているのが余程楽しいのか、今回ユーリはずっとこうして笑っている。

「…何だよ」

「その…やっぱり僕は、こういうのは…」

「こういうのってどんなだよ。縛られて後ろイジられて感じてるくせに」

身体を倒したユーリがフレンの耳に舌を這わせる。重なる胸が熱くて、思い切り抱き締めたいのに自由にならない腕が軋んで辛かった。

「ユーリ、ごめん……謝るから、手首を解いてくれないか」

「……もうギブアップ?」

「う…」

「そんなに嫌なのかよ、突っ込まれんの」

「というか、ユーリにしたくて仕方ないんだ」

「……………」

呆れたように息を吐いてユーリが再び身体を起こし、フレンを見る。
見上げた顔はやはり笑みを浮かべていて、フレンは微妙に居心地の悪さを感じた。

「…だったらさ、どうして欲しいか『お願い』してみろよ」

「………は?」

「は?じゃねえよ。何をどうして欲しいのか言ってみろ、っての」

「…じゃあ、手首解い…」

「ダメ」

「うっ……あア!!」

ユーリが親指の先でフレンの先端を抉るようにして、予想外の刺激に思わず大きな声を上げてしまった。押さえようにも手は使えず、自分の肩に顔を押し付けるようにして耐えるしかない。
腰を浮かし、フレンのものだけを握ってゆるゆると擦りながらユーリがフレンに覆い被さって来て、唇を重ねた。

頬に手を添えて軽く上向け、何度か啄むようにした後に全てを包むように合わせ、舌を差し入れ、歯列の裏側から口内全体を舐め回し、フレンの舌を絡め取って引き出し、唇で舌先を吸い上げる。
濃厚なキスに呼吸が荒くなるのはフレンだけでなくユーリも同様で、フレンの目に映るのは、うっとりと瞳を閉じてキスに感じ入るユーリの姿だった。

しかも、このキスには覚えがある。それはいつも、ユーリから『もっと』と強請られた時にフレンがしてやるやり方だった。

唇を離したユーリがフレンを見上げた。
その視線も密着した身体も、刺激を受け続けている自身の誇張も何もかもが熱い。
上げたままの両腕は本当に辛いし、下肢には力が入らない。
とにかく『解放』されたかった。


「は…ぁ、フレン……?ほら、どうすんの…?」

「あ、も……!ユーリ、君のなか、に……!!」

腰を突き上げるとユーリが今まで握りっぱなしだったフレン自身から手を離し、代わりにその指をフレンの口に差し入れた。先走りの絡まった指の味に一瞬フレンの眉が顰められるが、すぐに舌を絡めて吸い付く様子にユーリの口から小さく吐息が零れ、腰を擦り付けてくねらせて自ら喘ぎ声を上げた。

「あァ、……っん、熱ぅ…!」

「んっ…ふ、ユーリ、入れたい、入れて……ッ!!」

「は、…可愛いな、おまえ」

「ユーリ……!!」

「んン……っ、ちょっと待て、よ…」

フレンの唾液に塗れた指が後ろに回され、ユーリが苦しげに顔を歪めた。フレンではなく自分の後ろを慣らしているのだと気付いたが、フレンは目の前のユーリの表情に釘付けだった。

両手をそれぞれ後ろに回し、フレンの胸元でのけ反るように顔を上げ、時折切なげに息をつく。
言ってしまえば自慰に近い行為を自らの身体の上でユーリがしているなんて、信じられない。
押し潰されそうなぐらい強く重ねられた誇張同士が擦れる度、互いから溢れた先走りに濡れてぐちぐちと湿った音がはっきりと聴こえて耳を犯す。


視覚的にも感覚的にも限界で、耐えられなかった。


「……ン…っ、おまえの、膨らんだぞ?もしかして、イきそう…?」

「………ッ!!」

イけよ、と言うと同時に根元をごり、と転がされて、フレンは声にならない叫びを上げていた。


「っは、ベタベタだな」

ユーリが身体を密着させたままだった為、フレンの放った熱が互いの腹で弾けて粘着質な音を立てる。

肩で息をし、激しく胸を上下させるフレンを満足そうに見上げたユーリは身体を起こし、自らをも汚した白濁を掻き集めるとわざと見せ付けるようにゆっくりと、丁寧とも言える手つきでもって硬さを失いかけたフレン自身にべっとりと塗り付け、そのまま自分の指に纏わり付くモノを一本ずつ舐め取ってゆく。

あまりにも卑猥で淫靡な光景に、どうにかなりそうだった。
もう焦らされるのが辛いのに、ユーリはフレンの腰を跨いで膝立ちになり、先走りと精液に塗れたフレン自身に手を添えたまま動かない。いつの間にか完全に復活していたその先端を指先で軽く弾かれると太股が引き攣った。

「ほら…フレン。コレ、どうして欲しいんだっけ…?」

「ユーリっ、僕、そこまで焦らしたりしな……!!」

「言わなきゃやめるぜ」

ユーリが腰を引く気配に、それが本気ではないと分かっていても言わずにはいられなかった。

「待って、そのまま…!ユーリの中に入れたい、…君の内側で君を感じさせてくれ」

「…ほんと、恥ずかしい奴だな…!!」

さっと赤くなった顔を隠すように下を向くと、位置を確かめるようにしてからユーリはフレンの熱い塊を一気に自分の中に埋め込んだ。

「く…うッあ、ああァ!!」
「はあッ、は、ユーリ…!」

同時に上がった二つの嬌声が、甘く尾を引いて部屋の中に響いていた。



ユーリが腰を捻り、くねらせ、絞り込むように激しく上下させると、その度僅かに覗く根元には先程自分の吐き出した白いものが蟠り、ユーリの内側から押し出されていやらしい音を弾けさせている。

拘束は解いてもらえず、フレンは首だけを僅かに起こしてその場所を凝視しながら、自分がユーリを抱いているのか、それともユーリに犯されているのか曖昧な感覚に陥っていた。

フレンは既に一度ユーリの中に放っていたが、ユーリはフレンを解放しようとしなかった。
自由にならない身体の上でユーリに好きなように動かれるのが癪で思い切り突き上げると、ユーリが喉を反らせて短く悲鳴のような声を上げ、びくん、と身体を震わせながらもフレンに顔を向けて睨みつけてきたので、フレンは思わず口元に笑みを浮かべていた。

強烈な快感をやり過ごすかのように、動きを止めたままのユーリに声を掛ける。

「…もしかして、イイところに当たった?」

「っせ……!」

「ユーリ、まだイってないよね。…手、解いてくれたらすぐにイかせてあげるけど?」

「ふん…。おまえこそ、三回も出しといてまだ足りねえのか?…ん…ッ、ガチガチ、だけど……!!」

「うあ!?っちょ、強……っっ!!はっ、あ、ア!!」

再び根元を強く締め付けられて堪らずに声を上げてしまった。ユーリがニヤリと楽しげに笑う。

「あーあ…。今のは…っ、聞かれた、かも、な……ぁんン!!」

「う……っく、ユーリ、もう、無理だ……!」

「んん…?何が、無理?声か?それとも……」

こっちか、といって一気に引き抜き、再び腰を落として根元まで飲み込む動きにまたしても声を堪えられい。

「…なあ、…どっち…ッ?」

「あ、ふぅッ、…っく、り、両ほ……だっっ!!」


二度目の問答に悔しさを滲ませながらフレンが答え、ユーリもいっそう動きを加速させながら、苦しげな呼吸と共にフレンに向けて言った。


「オレも、両方」


フレンが突き上げ、ユーリが絞り上げ、もう声がどうなどと考えている余裕は全くなかった。

フレンが限界を感じてユーリを見ると、下腹を突き出すようにして腰を動かし、悩ましげに眉を寄せて固く瞳を閉じ、自分で自分を扱く姿が飛び込んできた。

それがとどめとなって、フレンはユーリの奥深くに吐精した。それを受けたユーリもすぐに達し、フレンは自分の身体に落ちる熱い飛沫に暫くの間恍惚として動くことも出来なかった。







漸く拘束を解いてもらい、赤くなった手首を摩りながらフレンは隣で俯せるユーリを見た。
フレンも起き上がることが出来ずに仰向けに寝転がったままだが、ユーリも相当疲労したようだ。枕に顔を埋めて、今だに少し呼吸は荒い。

視線に気が付いたのか、ユーリが顔だけをフレンへと向けた。


「…何だ」

「ん…?ユーリ、大丈夫?」

「は?…何が」

「いや……その、身体とか…声、とか」


始めのほうこそ何とか耐えたが、途中からは声を抑えられなかった。ユーリはまだ手で口元を押さえたりしていたが、フレンは縛られていたのでそれも出来ず、ずっと奥歯を噛み締めていた為、顎も怠い。

ユーリが自分の上であれだけ激しく動いたのも初めてだった。

ユーリはわざとフレンに声を上げさせる為にあのような行動を取ったように思えたが、誰かに聞かれたり見られたりするのを普段あんなに嫌がるのにどうして、と聞くと、ユーリは枕の上で頬杖を突き、にやにやしながらフレンを見た。

「ユーリ、気持ち悪いよ…。今日、ずっと笑いっぱなしだな」

「そりゃあ、面白くて仕方なかったからな」

「…何が」

「必死で声を我慢するおまえとか、おねだりするおまえとか見れたから」

「………おねだりはともかく、声は…君だって。聞かれてなきゃいいけど…」

「ぶ……っは、あはははは!!」

「ゆ…ユーリ!?何、笑っ……」

「はは、あはは、ざまあみろ!!」

訳の解らないフレンを置いてひとしきり笑ったユーリは、涙を拭いながらフレンに説明したのだった。

フレンを家に呼べと言ったのは、ユーリと二人暮らしの叔母だった。だがその叔母は、夕食の後で友人に誘われて遊びに出たのだと言う。

「…おばさん、そんな事、一言も言ってなかったけど」

「メシの後でオレと片付けしてる最中に携帯にかかって来てさ。おまえが風呂入ってる時にもう出てったよ」

「…………」

「どうだ?誰かに聞かれるかも、なんて我慢しながらヤんの、疲れるだろ」

これに懲りたら少し自重しろよな、と言われて、フレンは大きな溜め息を吐き出して両腕で顔を被ったのだった。




「二度とするな、とは言わないんだね」

「言って欲しいか」

「……まさか。でも今度は僕にも縛らせ」

「二度とするな」

「………………」



ーーーーー
終わり
▼追記

危険な好奇心・前(※・雰囲気ユリフレ寄り)

続きですが、内容はリクエスト頂いたものになります。詳細は追記にて。

微裏ぐらいで根底はフレユリですが、雰囲気はユリフレっぽいです(ユーリが押せ押せなので)。
苦手な方は閲覧にご注意下さい!










ユーリの家に来るのは、本当に久しぶりだった。

入学式で再会して以来何度か遊びに行ったが、今の関係になってからは初めてかもしれない。
それは勿論、一人暮らしのフレンの部屋のほうが色々と都合が良いからだったが、何よりユーリがあまりフレンを家に呼ぼうとしなくなった。

ユーリはとにかく、『誰かに見られる、聞かれる』というのを嫌がる。それはフレンも分かっている。
では何故、それでもそういった場所での行為を抑えられないのかと聞かれればそれはもう、初めてユーリを抱いた時の印象が強烈すぎたからだとしか言えなかった。

確か、鍵は掛けていなかった。
いつ誰が来るとも知れない教室、しかも生徒会室といったある意味ストイックな場所で行為に及ぶ事に、そもそも興奮していた。
その上必死に声を殺して耐えるユーリの姿があまりにも淫猥で、でも結局堪え切れずに上げる嬌声はとても甘くて、可愛くて愛しくて仕方なかった。

ところが、フレンの部屋でのユーリはそれ程声を抑える事に気を向けるわけではなかった。自分自身の喘ぎ声を聞くのは恥ずかしいのか、あまり大きな声を出してしまうと慌てて口を押さえるのは変わらないが、声そのものを必死に我慢しているといった感じではない。

行為にも積極的になり、どこか余裕を持って楽しんでいるようにも思える。
そのギャップを不思議に思って聞いてみれば、返って来た答えはフレンとしては少し切なくなるようなものだった。


『聞かれたり見られたりして困るの、オレじゃねえし』


半分冗談にしても、何となく納得できないものがあった。
部屋での大胆なユーリも好きだが、それ以外の場所での恥じらう姿も見たい。だからつい、強引にでもそういった場所で抱いてしまうのだった。
大体、部屋でするより圧倒的に機会は少ない。ユーリが言うほど頻繁に外でしているわけではなかった。


だから正直、今日は期待していたのだ。

『外』ではないが、階下にはユーリの家族がいる。

赤の他人に聞かれるのをあれだけ嫌がるのだから、身内ともなれば相当だろう。
我ながら意地が悪いな、とは思うものの、緊張と羞恥に乱れるユーリをもっと見たいと思っていた。仕掛けたのは自分だったが、電車の中で中途半端に煽られた熱はまだ燻っていて、早くその熱をユーリの中で解放したくてしょうがない。
まさかユーリの家族は、食事をしながら自分がこんな事を考えていたなんて思わないだろう。

ユーリはあれからろくに喋らなかった。
食事中も不機嫌そうにそっぽを向いていて、目も合わせようとしない。
さすがに怒らせたらしく、フレンもやりすぎたと反省していた。本気で機嫌が直らないようなら最悪帰るしかないかな、と思っていたのだったが、食事を終えた後、暫くしてやっとユーリが話し掛けて来て、言われた言葉に正直耳を疑った。

『先にシャワー浴びて、部屋で待ってろ。…片付けたらオレもシャワー浴びて戻るから』

思わず『いいのか!?』と聞き返してしまったフレンだったが、続くユーリの言葉はもっと信じられないものだった。

『…さっきので我慢のコツが掴めたからな』

ニヤリと笑うユーリに、まだシャワーも浴びていないのに身体が熱くなってしまい、手渡されたバスタオルで前を隠すようにしてバスルームに向かったフレンの背中を、ユーリがにやにやしながら見ていた。


そうしてシャワーを浴びてユーリの部屋に入り、久しぶりに見る光景に懐かしいものを感じていた時、ユーリも部屋へ戻って来た。

相変わらず適当に拭っただけの髪の先からはぽたぽたと雫が落ちて床を濡らす。
だがそれよりも、フレンはユーリの姿に仰天した。


「ゆ、ユーリ…何だ、その格好は」

「あ?自分ちでどんな格好しようがオレの勝手だろ」

「そ、そうだけど。でもそれは、ちょっと…」


ユーリは下着姿だった。


ボクサータイプのブリーフを穿いてスポーツタオルを肩から引っ掛けているだけで、他に衣服は身につけていない。
濡れて張り付く長い髪やタオルの裾からちらちらと覗く薄桃色の突起、すらりと伸びた色白の長い手足。
思わず喉を鳴らしたのが分かったのか、ユーリが楽しげに笑った。

「何だよ、ジロジロ見て」

「そりゃ…見るよ。久しぶりだし」

「久しぶり?まだ何もしていいとは言ってないぜ?」

「…さっき、いいって言ったじゃないか」

「オレが?そんなの一言も言った覚えはねえな」

「ユーリ…!」

思わずフレンが一歩踏み出すと、ユーリも同じように前へ踏み出した。
互いの距離が一気に縮まって、一瞬フレンが躊躇した瞬間ユーリの両腕がフレンの首に回され、まるでぶら下がるかのように軽く膝を曲げて上目遣いでフレンを見上げる。
ユーリが曲げた膝を脚の間に割り込ませて少し上げると、フレンが小さく呻いた。

「…なんだよ、もう硬くしてんのか?堪え性のない奴だな」

「な…!それはユーリのほうだろ?ユーリはいつも……っ、んぅ!」

ユーリがキスをして抗議を遮ると、フレンの表情が僅かに歪む。だがすぐに瞳を閉じてユーリのキスに応えた。ユーリはフレンとキスをするのが好きで、フレンはキスをするのは勿論だがその際のユーリの表情や、鼻から抜ける甘えたような声に弱かった。ずっとキスをしていたら、その声だけで達してしまいそうになる。
今もユーリの膝が当たっている場所が苦しくて、早くそこを曝け出してユーリと繋がりたくて――

そんな事を考えながらフレンがユーリの腰に手を回すと、ユーリはフレンの首から腕を離してその指先でゆっくりと自分の腰を抱くフレンの腕をなぞり、手首を優しく握る。

「…ユーリ?」

唇を離して覗き込むと、ユーリが小さく舌を出して自らの唇をペろりと舐めた。

もう、無理だ。


ユーリの腰に添えた掌に力を入れてその身体をベッドに投げ出そうとした、その瞬間。


「っ、うわッッ!?」


ユーリがフレンの手首を力一杯握って腰から引き剥がし、そのまま大きく頭上へ持って行くと同時に足払いを掛けた。

不意を突かれて大きく体勢を崩し、まずい、と思ったフレンだったが、立て直す事も出来ずそのままベッドに仰向けに倒れ込んでしまった。
慌てて起き上がろうとするも両腕はユーリが掴んで頭上に高く掲げられたままで、そのユーリが腹の上に勢い良く馬乗りになって来た為に力が入らず、代わりに情けない呻きが漏れただけだった。
腹部への衝撃がかなり強かった為、涙目になりながらフレンが自らに覆い被さるユーリを見上げた。

「う…、ユーリ、苦しい…!」

「んー?ちょっと勢い強かったか?それとも」

ユーリが腰を強く押し付ける。

「ん…!」

「…こっちが苦しいのか?」

ぐり、と捻るように動かれて思わず腰を引くと、間近に迫ったユーリの口から小さく笑い声が漏れ、その息がフレンの鼻先を擽った。
尚も笑みを浮かべてユーリが尋ねる。

「なあ…どっち?何が苦しいんだ?」

「く……ユーリ、やっぱりまだ」

「どっちだ、って聞いてんだけど」

「うあ……!!」

どすん、と叩きつけるように勢いをつけて腰を落とされて悲鳴に近い声を上げてしまったが、ユーリはにやにやとフレンを見下ろすばかりだ。

「……っ、両方、だ!!」

悔しいのと苦しいのとでユーリを睨みつけながら言うと、ユーリはますます妖しく笑って言った。

「マジで堪え性ねえのな」

「いい加減に………っぷ!?」

ユーリが一層身体を乗り出して、フレンの顔をその白い胸板で押さえ付けた。

フレンがベッドに頭を沈み込ませ、ユーリが手首を握る力が消えた、と思ったら何やら代わりに柔らかいものが巻き付けられる感触に、一気に身体が冷えるような気がしてフレンが脚をばたつかせた。

先程までユーリが肩に掛けていたタオルで手首を縛られているのだ。


「おとなしくしてろ、って!」

「むぐ、んん!?」

きし、と頭上で布の擦れる音がすると同時にユーリが身体を起こすが、相変わらずフレンの腰に跨がったまま満足そうにフレンを見下ろしている。
自分がどういう格好なのかあまり考えたくなくて、フレンはうんざりしたようにユーリから顔を背けて溜め息を吐いていた。

「…今日は随分と積極的だね」

「まあ、たまにはな。……ふうん……」

「…なに?」

「やっぱりこうやって見るのは気分いいな」

「………」

馬乗りになって腕を組むユーリは、先程からにやにやしっぱなしだ。不穏な空気しか感じられず、フレンが身じろぎする。

「…あのさ、ユーリ」

「何だよ」

「いや…なに、するつもり…?」

「セックスに決まってんだろ。おまえ、最初からやる気満々だったじゃねえか」

言いながらフレンの着ているTシャツを捲り上げ、僅かに腰を浮かせてジャージの下と下着をまとめて一気に脱がす。ほんの少しだけ反応していたフレン自身を根元から殊更ゆっくりと撫でると、その手つきに反応して震える腰とフレンの吐息にユーリは目を細めた。

「…感じてんの?」

「う…まあ…」

「縛られて感じるのか?やっぱおまえ変態だな」

「な…何て言い方するんだ!?僕は別に、縛られてるのがいいなんて言ってな……!!」

優しく撫でていた手つきが一転、ぎゅうっと全体を握り込まれてフレンが身体を跳ね上げる。

「つあ……ッ!!」

「ん…ちょっとデカくなった」

「あ、ちょっ…!ユーリ、やめ……!!」

「何で?感じてんだろ」

「んんっ…!」

「どうなんだよ?言ってくれなきゃわかんねえな」

ユーリの手はフレン自身を擦り続けているが、動きは単調だ。掌でただ握り込んでいるだけで、指の動きも何もない。
暫く会っていなかったし、ユーリに手淫をされるのも久しぶりだ。熱い掌に包まれているだけでも気持ちは良いし、感じているのは確かだった。

だが、足りない。

いつもならもっと巧みに快感を高めるように動かしてくれるのに、と思うが、原因に心当たりがありすぎてフレンは何も言えずにいた。

すると左手の動きはそのままに、ユーリが右手を伸ばしてフレンの胸に掌を当て、捏ねるようにして押し潰した。

「いっっ……ツ…!」

「何か足りなさそうだと思ったんだけど、違ったか?」

「ゆ…ユーリ!!ちょっと待っ…!!」

「うるさい」

「は……」

「あんまデカい声出すと聞かれるぜ」

「な…!困るのは君も同じだろ!?」

身体を捻るようにして少しだけ上体を起こしたフレンが抗議の声を上げると、ユーリが今日一番と思えるような美しい笑顔をフレンに見せた。


「オレは我慢できるぜ?……おかげさまで、な」


それに、と言って左手の動きを少し早めると、フレンの顔が切なげに歪む。

「んぅ…っ」

「覚えてろ、って言ったよな、オレ」

「…え…」

あの時背中に感じた冷たい何かを再び浴びて、フレンが引き攣った笑いを浮かべた。

「あの…ユーリ…っ、ひっっ!!?」

後ろのほうに、僅かに覚えのある感覚が走る。
一度だけ、ユーリに触れられた事があった。


「まま、待った!!ユーリ、僕は…!!」

「覚悟しとけよ?聞かれたくなきゃ『我慢』するんだな。…無理かもしれねえけど」

「は!?」

「だってオレ、多分すげえ上手だと思うぜ。おまえにあれこれ教えられた通りにしてやるから」

「…………!!」

額に冷や汗を浮かべて見上げてくるフレンに、やけに明るくユーリが言った。


「今日はオレが、鳴かせてやる」




ユーリに無体を強いた事を、フレンは初めて本気で後悔した。



ーーーーー
続く
▼追記

30分耐久!!(※)

裏です、閲覧注意!




身動き一つ出来ない満員電車の中、ユーリは必死に耐えていた。

少しでも気を抜けば声が出てしまう。それは絶対に避けなければならない。もし声を出してしまったら…終わりだ。
身体も動かす訳にはいかない。今は自分の身体の正面に扉しかないから、『その場所』がどんな状態になっているかなんて事は誰も知らない筈だ。
気付かれないようにと固い扉に身体を押し付けるようにすると、腰に回された腕に少しだけ力が入って扉から引き離される。扉と身体の間の隙間が僅かに広くなり、自由度を増した手の動きが大胆なものになる。

「っ……ァ!」

扉の取っ手部分の浅い窪みに引っ掛けた指に力が入るが、体重を支えるには頼りなさすぎた。
カーブに差し掛かった電車が大きく揺れ、つられて身体が車内中央に向かって引き寄せられるかのようにのけ反り、ユーリは慌てた。
普段ならこれぐらいで身体を持って行かれる事などない。だが今は、敏感な部分を執拗に擦られ続けたせいで上手く下半身に力が入らない。
瞬間、倒れる、と思った。
しかし身体が電車の床に投げ出されるような事にはならなかった。

背後からしっかりと肩を受け止め、腕を掴んでユーリの身体を立たせると、揺り返しの反動を利用してわざとユーリを扉に押し付ける。小さな呻き声が聴こえ、フレンはユーリの耳元に顔を寄せて様子を窺った。

「…ユーリ、大丈夫?」

「てめえ…後で覚えてろよ…!」

肩越しにフレンを睨みつけるユーリの顔は、羞恥と悔しさで赤く染まっている。そんな顔をされても余計止まらなくなるだけなのに、と思いながら、フレンはユーリの股間を握る右手に力を入れた。

「ひ……ぅ」

ユーリの身体がびくりと震える。さらにゆっくりと上下に動かせば、すぐにそこは先程と同じ熱さと硬さを取り戻していく。ユーリの反応の良さに、フレンの顔に笑みが浮かぶ。ほんの微かな吐息が耳に掛かるのにさえ敏感に反応してユーリが身を捩った。

「ユーリ、あまり動いたら…」

「っ…せ…!だったら離れろ、よ!」

「無理だよ。僕も身動き取れない」

「じゃあ手…!も、いい加減に…ッ!!」

「…掴まるところがなくなったら、僕もツラいなあ」

―そこは『掴まる』とこじゃねえよ!

耳元でぼそぼそと囁かれるのも擽ったくて仕方ないというのに、まるでエロ親父のような台詞を吐きながら尚も右手を休める事のないフレンに、ユーリは心の中で悪態をつくしかない。

(くそ、言うんじゃなかった…!)

せめて家に着いてから言えば、少なくとも『ここ』で暴走される事はなかったかもしれない。
必死に声を抑えながら、これから先の事が思いやられて仕方なかった。



―――数時間前。

「なあ、おまえ今日ヒマ?」

鞄を手にして立ち上がると、いつの間にか隣にいたユーリに声を掛けられた。
今日は登校日だ。サボる気満々だったユーリにわざわざ連絡して、必ず来るように言ったのはフレンだし、勿論それには理由があった。

夏休みに入ってからというもの、ユーリはアルバイトで忙しいらしく全く会えていない。フレンもそれなりに忙しい身ではあったが、主に学校関連の用事が殆どで土日は比較的空いている。だがユーリのほうが週末はバイトが外せないとかで、とにかく都合が合わない。相変わらず携帯電話を持たないユーリとの連絡手段は彼の家に電話する以外ないのだが、そう頻繁にかけるわけにもいかず、かと言ってユーリからフレンの携帯にかかって来ることはまずない。

だが、今日ならユーリの家に電話をかける正当な理由になる。わざとユーリのいない時間に電話をし、家人に『絶対休ませないで下さい』と伝えたおかげで、ユーリは渋々ながら登校して来た。会うなり文句を言われるのは覚悟していたが、それ以上に素っ気ない、ある意味いつも通りの態度に落胆し、少しだけ腹を立てた。

絶対にそのまま帰すつもりはなかった。

だからミーティングが終わったらすぐにユーリの席に向かおうとしていたのだが、まさか先にユーリからお声が掛かるとは思っていなかったのでフレンは少々面食らってしまい、中腰のままユーリを見上げていた。

「フレン?ヒマか、って聞いてんだけど。…何やってんだ」

「いや、まさか君から声を掛けられると思わなくて」

「…用事があるんならオレはこれで」

「ちょっ…待ってくれ!」

慌ててユーリの腕を取ると振り返ったユーリにうんざりしたような眼差しを向けられて、フレンはすぐに腕を離した。ユーリは自分達の関係については人目をとても気にするのだ。
これぐらい何でもないじゃないかと思いつつ、フレンはユーリに答えた。

「ヒマというか、別に用事はないけど」

「そっか。だったらちょっと、オレん家来ないか?」

「……え?」

「おまえ昨日、またわざわざうちに電話しただろ。大変だったんだからな、『フレンに面倒掛けさせるな』とか言われて」

「そうでもしなきゃ、絶対に今日もサボってただろ?」

「当たり前だ」

「………」

フレンにジト目で睨まれ、バツが悪そうにユーリが視線を外す。が、すぐにフレンに向き直ると肩を竦めて言った。

「まあそれで、たまにはおまえを家に連れて来いってさ。晩メシ食わしてやるけど、どうする?」

どうするも何も、行かないなどという選択肢が存在する筈もない。笑顔満面、二つ返事で首を縦に振るフレンに苦笑しつつ、ユーリとフレンは連れ立って学校を後にした。


駅までの道すがら、フレンがユーリに話し掛ける。

「ユーリの家に行くのは久しぶりだね」

「そうだなー。いつもオレがおまえんとこに行くばっかだからな」

「ほんとは今日もそのつもりだったんだけど」

だって最近全然じゃないか、と言われてユーリが赤くなる。フレンの部屋に行くのと身体を重ねるのがほぼイコールの為の反応だ。
そんなユーリの様子に、フレンは思わず頬が緩むのを抑えられない。

「ねえユーリ、泊めてもらえるんだろう?」

「…図々しいやつだな」

「だって終電に間に合わないよ。夕飯を食べたらすぐ帰れって?おばさんだってそんな事言わないだろう」

「まあそれはいいんだけどな……ただし、何もするなよ」

「…えっと?それはどういう意味で?」

「どうもこうもねえよ。聞かれたらどうするつもりだ」

「そこはユーリに我慢してもらうしか」

「否定しろ!!たまには『そんなつもりない』ぐらい言えねえのかおまえは!!」

「…だって元々、そのつもりだったし」

「だったらオレの晩メシは諦めるんだな。自分ちでそんな事出来るか!」

「でもユーリ、そういう条件だと余計に興奮し……」

「……マジで今すぐ帰るか?一人で」

一人、を強調され、仕方なくフレンは口をつぐんだ。
まさか「ユーリとセックス出来ないから行きません」と言う訳にもいかないが、心中はなかなか複雑だった。

(意識したら…もう無理だよ)

フレンの視線にユーリは気付かなかった。



そうして乗り込んだ電車は乗車率が200%以上あるのではないかと思う程の混雑ぶりで、冗談抜きで身動きが出来ない状態だった。
駅のホームから既に人が多かったのでそれでも何本かやり過ごしたものの、キリがないので仕方なく乗ったのだが、またタイミングが悪かった。

夏休み中、週末、夕方。
しかも特急。数少ない停車駅の一つが自分達の乗り込んだ駅で、入れ替わる人波に流されてあっという間に反対側の扉に押しやられてしまった。次の停車駅は自分達の降りる駅で、扉もこちら側が開くのだからまだいいが、有り得ないほどの密着度に落ち着かないのはユーリもフレンも同じだった。


ユーリは初め、フレンが自分を庇っているのかと思っていた。だからフレンに『大丈夫だから少し離れろ』と言ったのだが、返って来た答えに目眩のする思いだった。

『嫌だ。他の誰かにユーリを触れさせたくない』

そう言って更に身体を密着させて来るフレンに本気で焦った。うなじにかかる吐息が熱を持っている事に気付いた時には既にフレンの左腕は鞄を持ったまましっかりと腰に回され、右手がユーリの下半身に触れていた。

おまえは痴漢か、と小声で責めるも『じゃあ、他の誰かに触られたい?』等と見当違いの答えと共にズボンの前を開けられて手が中に侵入し、下着の上からやわやわと揉まれて思わず腰を引くと、後ろに当たった硬い『何か』に気付いて血の気が引く。

いくら何でも、まさか。

固まったユーリの考えを読んだかのようにフレンが小さく囁いた。

『久しぶりにこんな近くで君を感じたから……ねえユーリ、練習しようよ』

何の、と言いたくても口を開く事が出来なかった。

『ここで声が我慢できたら、家でも聞かれる心配ないよね。ユーリが我慢してくれたら、僕も『我慢』するよ』

強く腰を押し付けられてフレンの言う『我慢』の意味を理解するが、そうでなくても声を出すつもりはない。電車を降りるまでの30分間、とにかく耐えるしかなかった。


「う…っ、く…ぅ」

歯を食い縛って耐え続けるユーリの首筋に、つう、と汗が流れる。舐め取りたい衝動を抑えながらうなじに少し鼻先を寄せると、汗だけではない何かが甘く薫る。
これがフェロモンだと言うならそうかもしれない。
そう思うと余計興奮して、ユーリ自身を握る右手に力が入った。
とっくに下着の中で直接触れ続けているそれは、先端から溢れる先走りに塗れてフレンの指を汚す。緩急を付けて竿を擦り、時折袋を揉み込めばぱんぱんに張り詰め、とろとろと流れ落ちて来る雫が下生えに絡まって湿り気を増していく。
指の動きに合わせるかのようにユーリの腰が小刻みに揺れる度、フレンの下半身を刺激した。

「んっ…ユーリ、動かないで」

「だから…ッ、ァ、もう…っ!離し…んっ!」

フレンの爪が先走りの湧き出す元に軽く食い込み、瞬間ユーリの身体が引き攣るのを強く抱いて押さえる。ユーリが僅かに顔を動かして恨みがましい視線を送って来た。

「今、離したら…立ってられないだろう?」

「く……ぅあ、も、ヤバいって……!」

「ヤバい…?もう、出そう?」

「違っ…!そっちの意味じゃ、な……ッ、んァ…!」

右手の動きが加速して、堪らずに声が漏れたのを何とかごまかそうと俯いて口元を手で押さえる様子に、フレンのほうの我慢が効かなくなりそうだった。
浅い呼吸が鼻から抜け、赤い顔で額に汗を浮かべて目を閉じている様子は、傍から見れば一見気分が悪いのを堪えているかのように思えるかも知れない。そんなユーリを支えてさも心配そうに声を掛けるのがたまらなく愉しくて、より一層手の動きを早くした。

「ひ……!ァ、やっ…!!」

片方は口元に、もう片方は扉に押し付けた手を固く握り締めて耐える。声を出すのもそうだが、今ここで『出す』なんて出来ない。そんな事はフレンにも分かる筈なのに、まるで絶頂へ導くかのように動きを加速させられてユーリは泣きたくなった。

「ユーリ…あと、少しだね」

「………っ、ぅ、く……!」

「出していいよ?…こっちは」

「や、やめ…っ、あ、ァ―――ッッ!!」

ぎゅう、と強く握り込まれ、絞り上げるように擦られ、鈴口に指先を割り込まれ、フレンの手の中でユーリの塊がどくん、と大きく脈打つのを感じ、フレンは素早く掌で先端を覆ってそこへ叩き付けられる熱い飛沫を受け止めていた。

ふるふると震えて肩を上下させながらも耐える姿が愛しくて堪らない。自分の手を汚した白濁をユーリの下腹や力をなくしたユーリ自身にねっとりと撫で付けて下着から手を抜き、ズボンの前を閉じたところで丁度電車が駅に到着した。


崩れ落ちるようにしてホームに倒れ込んだユーリを後ろから支えて立たせると、駅員が駆け寄って来た。救護室への案内を丁重に断って向かった先はトイレだ。
ぐったりしているユーリを個室に座らせて額の汗を拭おうとしたら勢い良くその手を叩き落とされてしまった。


「……とりあえず、下着買って来るから大人しくしててくれ」

「…マジで覚えてろ。タダじゃ済まさねえからな…」


(…少し、やり過ぎたかな…)


背中に冷たいものを感じつつ、フレンはその場を離れたのだった。


ーーー
続く
▼追記

願い事、ひとつ・後(※)

続きです。裏ですので閲覧にはご注意下さい。








想像以上の破壊力に、いきなりやられてしまった。
ユーリの姿を見付けたフレンは、思わず足を止める。

フレンが神社に着いた時、意外にもユーリのほうが先に来て待っていた。テスト期間中という事もあっていつもより早く帰宅はできるのだが、家が学校から近いフレンと違い、ユーリは電車で往復一時間ほどかかる場所に住んでいる。
諸々の準備を済ませてから神社で待ち合わせ、ということにしていたのだが、約束の時間より早くユーリが来ていることは珍しい。

しかし今はそんな事より、神社の入り口の石段脇にある木に寄り掛かって自分を待っているのであろう、ユーリの姿から目が離せなかった。

濃紺のシンプルな浴衣姿で佇む彼は、髪をいつも学校でしているような感じでアップにしている。ゆったりとした肩口からは滑らかな首筋のラインがよく見え、その下でくっきりと浮かび上がる鎖骨が何とも言えず、艶っぽい。
少し緩めの前合わせから覗く胸元は、濃紺の生地との対比でいつも以上に白さを際立たせており、きっちりと結ばれた帯がまた、ユーリの腰の細さを否が応でも強調していた。

そんなユーリの姿は、背の高さも相俟って遠目にもよく目立つ。片腕を浴衣の合わせに差し入れ、気怠げに木に寄り掛かる彼は何とも言い難い色香を漂わせており、間違いなく通りがかる人々の視線を浴びていた。


ああ、今前を通った女の子達、振り返ってユーリを見てる。団扇で口元が隠れてるけど、絶対にユーリのことを話してるに違いない。

石段を登る奴ら、足が止まってる。上からユーリの肩のあたり、覗いてるんだ。ふざけるな、ユーリをそんな目で見るなんて許さない。どうせナンパ目的なんだから、さっさと他の女の子にでも声を掛けに行けばいいじゃないか。
まさかユーリに声を掛けるつもりでもあるまいし……!


そんな事を考えていたら居てもたってもいられなくなり、フレンが一歩足を踏み出したその時、信じられないことが起こった。

石段を登りかけていた三人組の男が、くるりと向きを変えて石段を降りてユーリに近付き、何事か話し掛けているのだ。
二人は石段を背にしてユーリの前に立ち、一人はユーリが寄り掛かる木に手をついて横から顔を覗き込むような格好だ。目線は若干、ユーリより低い。
因縁をつけている、という類でない事はフレンにはすぐ分かった。何故なら、あの男達がユーリを見る目に、自分と同じものを感じ取ってしまったから。


ユーリが言うほど、フレンは自分達の関係を意識していないわけではない。少数派だという事も自覚している。
それでも、確かにユーリは男女問わず、人を惹き付ける。だがさすがに、こうも堂々とナンパしてくる男はそうはいない。それだけに危険なものを感じて、フレンはユーリの元に駆け出した。



「ユーリ、ごめん。待たせたみたいだね」

「あ、フレン、やっと…」

迷惑そうに男達の相手をしていたユーリは、フレンに笑顔を見せたのも束の間、すぐに表情を曇らせた。
男達も何か感じたのか、そそくさと離れる。

「ほらユーリ、行こう」

「あ、ああ。…悪ぃな、連れが来たから。んじゃ」

男達にわざわざ詫びるユーリの態度に、胸の奥深くが苦しくなる。気が付けばフレンはユーリの腕を取り、無理矢理引いて石段の裏手にある竹薮へと分け入っていた。






「おいフレン!痛いって…!ちょっと、離せよ!!」

フレンに掴まれた腕と、背丈以上の高さがある笹の葉があちこちに触れて痛い。ユーリが声を上げるとフレンは漸く立ち止まり、すぐさま掴んだ腕を引いてユーリを胸元に抱き寄せた。
そのまま強く抱き締めると、ユーリがくぐもった呻き声を上げる。
目の前の白い肩に唇を付けると、一瞬その肩がびくん、と上下した。


「あ、やっ…!やめろって!おまえまた、こんなとこで……!!」

「こんなとこで…何?」

顔を離して見つめると、ユーリの瞳が困惑したように揺れ動く。

「な、何って。その」

「変なこと、期待したんだ?」

「な……!!」

顔を赤くして口をぱくぱくとさせるユーリを見ていると、どうしようもなく加虐心を煽られる。堪らなくなって、その唇に吸い付いた。
いつもそうだ。ユーリは外でするのを嫌がるが、この反応のせいでフレンのほうは余計に身体が熱くなって、結局止められない。変態と言われてもどうしようもない。
そうさせるのはユーリなのだ。

「んんっ……ふぅ、ン…!」

「っ…ふ、ユーリ…」

「こ…のッ、何すんだよいきなり…!!」

唇を解放されたユーリがフレンを睨み付ける。強く抱き締められたままで身動き出来ず、目だけで抗議するその表情に、フレンはさらに身体が熱くなるのを感じた。その熱は確実にある一点に集中し、じりじりともどかしくフレンを苛んでいった。

「フレン!何とか言…」

「…男にまでナンパされるんだね、ユーリは」

「は!?いやあれは…」

「ナンパされてたんだろう?」

「う…まあ…そうなのかもな。あんま考えたくねえけど」

「どうして?僕もユーリのこんな姿見たら、我慢できない。…ほら」

「…………!!」

強く腰を押し当てると、ユーリは一瞬軽く息を呑んだ。

「や…ちょっと、待てって…!!」

「あいつら、ずっとユーリを見てた。…きっと、僕と同じなんだ。ユーリのこと、そういう目で見てた」

傍らの木にユーリの身体を押し付け、再び唇と唇を合わせる。舌を入れて口内を暴きながら胸元に手を這わせ、その肌を確かめるようにゆっくりと撫でると、固く閉じられていた瞳が見開かれ、柳眉が切な気に歪んだ。

「そんな顔…僕以外に見せたら許さない」

「おまっ…!何なんだよ……!?」

「君を見ていいのは、僕だけだよね…?」

抱き締めていた腕を解いて両手で優しく頬を撫でるフレンがひどく辛そうで、ユーリはまだ少し混乱しながらもその手に自分の掌を重ねた。

「全く…嫉妬の仕方が激しすぎんだよ、おまえは」

「だって、あんな奴らにまで謝ってやる必要、ないじゃないか」

「面倒事にしないためだろ?…おかげで別の面倒引き起こしちまったみてえだけど」

「悪いけど…我慢、出来ない」

今までだって我慢なんかした事ねえだろ、と思いつつ、仕方ねえな、と言ってユーリはフレンの背中に腕を回した。

「浴衣、汚すなよ。借りもんなんだからな」

「…努力はするよ」

屋台巡りしたかったのになあ、と思いながら、ユーリはフレンの唇を受け入れてゆっくり目を閉じた。











「あッ、ああッ!!…っン、く…ぅ、んン……ッッ!!」

「ユーリ…あんまり、声っ…、出したら、見付かっちゃう…よ……?」

言いながらわざと奥の深い部分を突くと、目の前の白い背中を大きく反らしつつもユーリが自分の肩越しにフレンに恨めしそうな視線を送る。
その表情が堪らなくて、更に抽挿が激しさを増した。

「やぁ…ッ!ン、そんっ…な、奥っ……!?っは、無理だっ…て……あァッ!!」

木の幹に両肘をついて身体を支え、腰をしっかりとフレンに抱えられて後ろから激しく責め立てられ、その度にユーリは喉を反らして声を上げた。
肉のぶつかる渇いた音と、それとは対称的な結合部分からの水音、自分自身の喘ぎ声。
誰に見られるかという緊張感は余計に神経を鋭敏にさせ、聞きたくもない卑猥な音や甘ったるい声をしっかりと捉えてしまい、またそれによって更に昂ぶる自分自身が信じられなかった。

既にもう、身体を支えているのも辛い。触れてもいないのに限界まで張り詰めている下半身の蟠りを、早く解放して欲しい。
腰を押し付けて誘うように揺らすと一瞬だけフレンの動きが止まり、すぐに速さを増した突き上げに危うく意識が飛びそうになった。

「アぁッッ!やあッン!あッ!あッッ!!」

「ぅ…く、ユーリ、なんかすごい…締まる…ッ!」

「や…っ!言うな…ッッあ!!」

フレンの右手がユーリの性器を握り込み、待ち侘びた直接的な快感に背筋にぞくぞくとした震えが走った。

「また、締まった…ユーリ、気持ちいい…?」

「あぁァ!ッくうッッ!!やぁッ、も、出…るぅ…ッ!!」

「んっ…ふ…!僕、も……!!」

「やッッ!?ナカ…はッ、ダメ……だって、っああぁッッ!!」

「あっ…くう!もッ…イく……ぅ!!」

「アあぁッッ!?あァッ!!アんぅ…ーーーッッ!!」

内側に注がれる熱い感覚と、フレンの手による刺激で達したユーリ自身から放たれた白濁が木の幹を汚した瞬間、既に限界ギリギリだったユーリの腕は完全に力を失くして垂れ下がった。
支えを失ったユーリを後ろから抱き止めたフレンが心配そうに何か耳元で言っていたがよく聞きとれず、ユーリはそこで意識を手放してしまった。










目が覚めた時、ユーリはフレンの胸に抱かれて地面に座り込んでいる状態だった。
乱れた浴衣は綺麗に直されており、腰は重いが後ろに違和感はない。気絶している間に処理をされたのかと思うと堪らなく恥ずかしかったが、とりあえず怠くてそのままフレンの胸に身体を預けていた。


「…ユーリ、大丈夫?」

「ん…まあ何とか…」

「今日のユーリ、すごくいやらしかった。…外でして、興奮した?」

「ばっ…!違っ!!興奮じゃなくて、緊張してたから……っ!」

「ふふ…可愛い」

「くっ………!!」

背後から抱き締めて首筋にキスをするフレンから身を捩るが、抵抗はそこで止めた。
いつもより感じてしまったのは事実なのだ。

(…やべーオレ、なんかどんどんこいつに開発されてる気がする…)

外でするのは嫌なのに、途中から声を抑える事も忘れていた。知り合いに見られてはいないかと考えたら、今更ながらに背筋に冷たい汗が流れた気がする。

思考がだいぶはっきりしてきて、ユーリは本来の目的を思い出した。


「…フレン。おまえ、短冊ちゃんと持って来たのか?」

「持って来たけど…まだもう少し休んでからでいいよ、人も多いし」

「とりあえずオレのやつよこせよ」

「ああ…、はい」

フレンが浴衣の袂から取り出して渡した短冊を見て、ユーリは苦笑した。昨日フレンの部屋で書いた、携帯ほしい、というやつだ。

「…何笑ってるんだ。自分で書いたんだろう」

「まあそうなんだけどな」

受け取った短冊を自分の袂に突っ込んだユーリだったが、フレンが自分の顔をじっと覗き込んでいるのに気付いて身体をずらし、フレンのほうに顔を向けた。

「何だ?」

「…ねえユーリ、短冊、取り替えっこしないか?」

「…は?」

「お互いが、相手の短冊を結ぶっていうのはどう?自分じゃなくて、相手の願い事が叶いますように、って」

「は…い、嫌だよ!何だその、恥ずかしい発想……!!」

顔を真っ赤にして慌てるユーリだが、フレンは至って余裕の様子だ。

「恥ずかしい?どうして?だってもう、お互いの願い事の中身なんて知ってるじゃないか」

「う…、それはそう、だけど」

「なら別にいいだろう?…じゃあはい、僕の短冊」

フレンから手渡された短冊を見て、ユーリの瞳が思い切り見開かれる。相当驚いているようだ。それを見たフレンは嬉しそうに微笑んでいる。

「おまえ、これ…」

「それが僕の願い事。ユーリの短冊、くれないか?」

「………仕方ねーな…」

「…あれ?」

先程の短冊をしまったのとは反対の袂に手を突っ込んで、ユーリがもう一枚短冊を取り出し、フレンの胸に乱暴に押し付けた。
そのままそっぽを向いてしまったユーリを不審に思いつつ、短冊を読んだフレンは盛大に顔を綻ばすと思い切りユーリを抱き締めていた。


「ちょっ……!苦し…!!」

「なんだ…。もう、叶っちゃったな、願い事」

「うるせ………!!」


それぞれの短冊に書かれていたのは、昨日とは違う、本当の気持ちだった。




好きな人と、ずっと一緒にいられますように


ずっと、あいつのそばにいたい





「…年に一度じゃなくて、ずっと一緒にいようね」

「……おう」


飾る必要のなくなった短冊を、二人はずっと握り締めていた。



ーーーーー
終わり
▼追記

願い事、ひとつ・前(七夕企画)







来賓用玄関に飾られた、大きな笹が風に揺れている。

大小様々な飾りに、色取りどりの短冊が吊されたそれを、ユーリはぼんやりと眺めていた。

隣にはもう一本、同様の笹飾りが揺れている。その尖った葉が時々頬を掠めるのが擽ったくて、寄り掛かっていた棚から背を離し、さらに数歩下がって正面からそれを見上げた。

生徒会と美術部が共同で企画した、と言っていたか。
ユーリは短冊を一枚ずつ手に取って、書かれた願い事を読んでみた。

あと5キロやせられますように

先輩と両想いになれますように

第一志望に受かりますように――――


実に現実的な、だからこそ切実と言えなくもない願い事ばかりだ。
目当ての人物のものと思われる短冊はない。ユーリはもう一本の、校舎内に近いほうの笹に歩み寄る。同じようにして短冊をめくるが、やはり、ない。

「…っかしーな。書いてないのか、あいつ」

何を書いたか知りたかったのだが。暫く笹を眺めていたら、ふいにその葉の隙間から明るい金色が揺らめいた。

「ユーリ、お待たせ」

「おう。用事、済んだのか?」

「ああ、待たせてごめん。ちょっと先生に捕まってしまって。…それと、これ」

フレンの手には、一本の小さめな笹の枝が握られていた。

「なんだそれ、…これの余りか?」

ユーリがすぐ横の笹を顎で指すと、フレンは軽く微笑んだ。

「うん。生徒会室に余ってたから、貰って来たんだ。僕の部屋で、一緒に短冊書こう」

「いいけど…七夕、明日だろ」

一週間ほど前から、あちこちで七夕飾りを見るようになっていた。現に今、この場所にも笹がある。短冊が吊されて重そうに先端をしならせる笹が。

フレンが二人で七夕をやりたいと言うのは何となく予想していたが、今日はまだ、その日ではない。
そう思ってユーリはフレンに聞き返したのだが、フレンは少しばかりむっとしたように頬を膨らませた。常日頃、フレンはユーリの事を『可愛い』と言うが、こういう表情は余程フレンのほうが可愛くて幼い、とユーリは思っていた。


「明日は、神社の七夕祭りに行こう、って言っただろ」

「…そういやそうだったか」

やっぱり忘れてたね、と言われて、ユーリはそんな話もしたな、と思い出していた。
学校の裏手にある神社では、毎年七夕に奉納祭を行う。願い事を記した短冊を持ちより、神社の笹やぶに結んで願を掛ける。結んだ短冊はその後、神社で清められて奉納、つまり燃やされる。
普通に短冊を飾るよりも願い事が叶いそうだということで、最近では若い女性や恋人達に人気のイベントとなりつつあった。

フレンはもちろんこの祭りには行きたいが、その前に自分達だけで七夕をやりたい、とユーリに言っていた。当日は、帰宅してすぐ着替えて出ないと祭りに間に合わないからだ。
翌日は平日だし、何と言っても今はテスト期間中だ。祭りの後にフレンの部屋に戻って二人で過ごすのにも時間が足りない。
だから前日に、という話だった。

ユーリはと言えば、あまり祭りには興味がなかった。というより、男二人でそのような祭りに行く事に抵抗があった。
何より神社は学校に近い。誰に会うか分からないし、見られたら気まずい事になるのは間違いない。そう思っていた。

「ユーリは気にしすぎだよ。屋台なんかも出るんだし、普通に来る同級生もいると思うよ」

「そういう奴らは大体ナンパ目的だろ。それにおまえは目立つからな」

「…ユーリも人の事は言えないと思うけど」

「んな事ねえよ。おまえは目立つ上にナンパ目的にゃ見られねえだろうし、そしたら何でオレとつるんでるのかとかツっ込まれるだろうが」

「別に気にしないけど」

「何度も言うけどな、少しは気にしろよ…」

大事なところで開放的と言うか無頓着なフレンに、ユーリは項垂れて溜め息を吐いた。

「…とりあえず、さっさとおまえん家、行くか」


楽しげに笹を揺らすフレンの横顔を眺めながら、ユーリはやれやれ、と再び溜め息をこぼすのだった。











「……で、おまえは何を見てんだよ」


フレンの部屋に着いて上着と荷物を置き、途中の自販機で買ったペットボトルのジュースを飲んでいたら短冊を渡されたユーリだったが、さて何と書こうかと思ってペンを取ったまま、暫くフレンと睨み合っている。

正確に言えば睨んでいるのはユーリだけで、フレンはにこにこしながらユーリを『見つめて』いるのだが。

「ユーリが何て書くのかなあ、と思って」

「…普通、そんな見るもんじゃないだろ」

「そう?ユーリの願い事、知りたいな」

いい加減にしろ、こんな状況で書けるか。
そう思ったユーリだったが、ふと学校の七夕飾りの事を思い出した。
そういえば、あの中にフレンのものらしき短冊は無かった。こいつは何を書くつもりなのか。人のを知りたがるんだから、自分の願い事を教えるのに抵抗はないだろう。
つか教えなかったら殴る。

そんな事を考えながら、ユーリは逆にフレンに聞いてみた。

「そういうおまえはどうなんだよ。人のばっか見ようとして、自分のは教えねえ、とか言うんじゃねえだろうな」

「教えてもいいけど…ユーリ、怒りそうだからな」

「ほお。オレが見たら怒りそうな願い事を、わざわざ人目につくとこに飾るつもりだったと?」

「名前書かなくてもいいんだし、わからないよ」

「飾ってるとこを誰かに見られたらどうすんだよ!…いいから書け。そしてオレに見せろ!!」

仕方ないなあ、と言いながらフレンが短冊にペンを走らせ、ユーリに差し出す。
その『願い事』に、ユーリはたっぷり30秒は固まった。


“ユーリが一生、僕のモノでありますように“



「………………」

「ユーリ?」

「……てめっ……ふざけんな!!」


ユーリは立ち上がると短冊を握り潰してフレンの顔面目掛けて投げ付け、肩をぶるぶると震わせながらフレンを怒鳴りつけた。

「ああっ!何するんだ!?」

「何考えてんだてめえは!何だよこの変態くさい書き方!!ってか思い切り人の名前書いてんじゃねえよ!!」

「別に誰の願い事かわからないんだからいいじゃないか」

「だから……!…いや、もういい」

再び座ると乱れた呼吸を落ち着かせるように深呼吸し、ユーリは短冊を手に取って言った。

「……オレが、おまえの願い事を代わりに書いてやる」

「は!?何だよそれ!」

ローテーブルに身を乗り出して抗議するフレンを無視し、ユーリは何か書くとそれをフレンに突き付けた。

「ほれ」


“変態がバレませんように”


「…………………」

「バレたら色々困るからな、お互いに」

「……変態、っていうのは……」

「おまえに決まってんだろうが」


神妙な面持ちで短冊を手にしてじっと見つめているフレンを横目に、ユーリはもう一枚短冊を書くと、再びそれをフレンの目の前に突き付けた。

「これがオレの願い事な」


“携帯ほしい”


シンプルな一言が、なんだかフレンには物哀しく感じられた。

「…えーと…」

「こないだ、誰かさんに携帯買え買えうるさく言われたからな。願い事が叶ったら、持ってやってもいいぜ」

「その気持ちの変化は嬉しいんだけど…。でもいくらなんでもこれはちょっと…」

「うるせえな、おまえに言われたくねえよ。ほら、ちゃんと飾っとけ」

「ええ……!?」

本当に飾るのか、と目で訴えるフレンを無視してユーリが帰り支度を始めたので、フレンが慌ててその腕を取る。

「ち、ちょっと!もう帰るのか?」

「たかが短冊一枚書くのにつまんねぇ時間使っちまったからな。そろそろ腹も減ったし」

「え、だってまだ何もしてな」

「だからてめえは変態だってんだよ!!」

手にした鞄をフレンの頭に叩き付け、掴まれた腕を振り解くとユーリはさっさと玄関に向かう。
毎回毎回、いやらしい事をしたい気分になるわけではない。

頭を押さえてしゃがみ込むフレンを一瞬だけ見遣って、ユーリは部屋を出ると玄関の扉を乱暴に閉めた。



「全く……」


「「ちゃんとした短冊、用意しないとな」」


部屋の中と外で、同時に同じ言葉を呟いた事は誰も知らない。




ーーーーー
続く
▼追記
カレンダー
<< 2024年04月 >>
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30