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恋慕事B

繋いだ手の温もりだけが増す。いつもなら何でも話しだす優姫が口を閉じて黙ったまま。もともと口下手な零は会話のネタなんてもってるはずはないから沈黙が続く。


「ぜ…零…」

不安と期待と緊張と入り交じった優姫が話しだす。

「な…んだ?」

「あの…さ…今日ってどこに行くの…?」
「…めちゃくちゃ考えたんだ」

零は歩みを止めた。優姫は長身の零を見上げた。

「…デートって初めてだろ。だから、その…楽しんで欲しくて…。だけど全く浮かばないから遊園地に行こうって思ったんだけど…」


「零はいいの?」

優姫は聞き返す。

「何が?」

「遊園地とか零の大嫌いな人混みだよ?」
「…べつに//俺はお前が楽しん……」

「ありがとう、零」

にっこり日だまりみたいに笑うから。胸がキュッと痛くなる。

「ほら、行くぞ」

****

絶叫マシンに観覧車、お化け屋敷にメリーゴーランド。いつも乗っているのに来る相手が違うだけで違う感じに見える。

「零、はやくはやく!」

はしゃぐ優姫に少しホッとした零。絶叫マシンから二人で乗りまくる。


次に幼児に紛れてメリーゴーランドや、コーヒーカップに乗ってみたり。さすがに幼児ばかりで二人して爆笑して。

お化け屋敷では、優姫は零の服の裾を掴みながらギャーギャーと絶叫していた。

時間なんてあっという間でもう夕暮れだから、最後に観覧車に乗ってみた。夕日が綺麗でもう名残惜しくて。目の前にいるお互いの顔を見合う。


「今日はありがとう、零。すごく楽しかったよ!」

その言葉と温かい笑顔が欲しくて。柄になく焦っていた昨日までの自分。初めての気持ちや、初めての事で戸惑っていた。でも恥ずかしいのに心地いい甘酸っぱさで。


「優姫…」

静かに進む観覧車から変わらない夕日が見えた。静かで自分の鼓動がはっきりしていて。

優姫にはにかむと零は手を広げた。

「零?」

「…最後に我が儘だけど、キスしたい」

「ぬぉお///Σ」

変な奇声を上げた優姫。照れて下を向く零。ふてくさった零がチラリと優姫をみた。
恥ずかしいけど。

いつもより優しい違う零が見れた事が今日の一番の収穫かな。頂上から少し進んだ観覧車の中で二人は唇を重ねた。


これは初めての始まりのデートでの話。

fin

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恋慕事A

土曜日が近づくにつれて胸の高鳴りが増していく。鏡の前で入念に着ていく服のチェックをした。

これはダメとかこれは子供ぽいとか。零とデートって響きに口元が少し緩んで、トクントクンと鳴る心臓の音。

明日。
零とデート。

優姫はベッドに横たわると目を瞑った。零はどんな気持ちでいるのだろうかと思うと近くに零がいるみたいに感じた。

****

零は頭を悩ませていた。初めてデートに誘っても何をしていいかなんてわかる訳がない。委員長と男子寮長にとりあえず、あてにならないがデートって何を具体的にするかを聞いてみた。

『それはですね!ちょっと高いレストランとかで夜景を見たりだと思います!いつか瑠佳しゃんと…///』

とか委員長は言っていた。具体的な内容だが、高いレストランって言うのがよくわからない。

『カラオケとか適当に行ったらまぁ、押し倒せば』

男子寮長はそんなことを言っていた。零はブンブンと頭を振る。
確かに優姫をめちゃくちゃにしたいなんて事をたまに思ったり、一歩間違えば押し倒しそうになったりする事はあった。でも、『大事』って気持ちがあるから我慢はしてきて。気持ち悪いとか避けられたりとかしたくない。

デートでそんな事なんてできる訳がない。初めてでわからないんだ。

零は男子寮で没収した男子たちの読み物に目をやる。全く見る気すら湧かなかったが、何かヒントがあるかも知れないと思い手に取る。

雑誌にはオススメデートスポットなどの見出しで色々な事が書いてあった。

『熱々カップル必見!これで彼女も君にメロメロ!』

記事をみると確かに委員長や寮長が言ったことも含まれていて。全く無知だった自分に落胆して。零はわからないなりにデートプランを徹夜で考えた。


****

優姫は朝早く起きてお風呂に入って、髪を整えて、悩みに悩んだ服を着て鏡の前で最終チェック。

「大丈夫だよね…。よし!」

優姫は玄関に出ると零が立って待っていた。いつもよりもかっこよくて、雰囲気も違って。


「ごめんね!…あ…のさ今日はよろしくね//」

優姫は火照った顔で笑う。零は平然を装うが耳まで朱に染まっていた。
「……い…行くぞ///」

(デートって初めてだからわからないんだ。もしかしたら、全然楽しくないかも知れないけどごめん)なんて大好きな彼女に言えないから。

繋いだ手は既に緊張で汗ばんでいた。
まだデートは始まったばかりです。


続く

恋慕事


風紀委員の仕事を済ませて一緒に帰るのはいつものこと。だけど、零とあたしの間が少し変化した。今は、…

『恋人』

いつも普通だったことでさえ、恋人になった途端に意識して、何気ないことにドキドキして。汗ばむ手。

普通に手を繋ぐことでさえ緊張して。心臓は常になりっぱなし。


「どうした?」

いつになったら慣れるのか。手を繋いで帰る時に零に話かけられた。普段はあたしの方が零に話しをするけれど、付き合い始めたら、上手く話せない。

(この胸の鼓動をどうにかしてよ。)


「ね…つでもあるのか?」

そう言った零は優姫の背までかがみ額をこつんとくっ付けた。零の顔が近い。それだけで体温上昇。顔の赤みも増して、ゆでダコみたいなあたし。


「……だだ…大丈夫だよ〜。ほら、元気だよ〜…」

鼻が擦れるくらい近くて胸がギュッってして痛い。これ以上、スキを増やさないで。

「ならいい…ケド…」

パッと零は優姫の額から自分の額を離す。頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でられて。乱暴なのに優しくて。

「…ぜ…ぜろっ…ありがと」

その言葉に微笑した零。夕日が最後の光を放って眩しい。零が笑うとあたしは苦しい。

刹那。

それは不意討ちのように優しいキスで。ただ一瞬触れるキスなのにそこからじわりと熱くなる。

「ぜ…/////」

「行くぞ…//」

強くて大きくて乱暴なのに優しくて。繋がれた手はまた汗ばんでいた。

「優姫」

零は歩みを止めると照れて横を向きながら言った。

「土曜日に一緒にどっか行くか?」

あたしの返事はわかっての通り。それは、零からの初のデートのお誘いだった。


つづく


血縁のなき家族

それはある日のことだった。

「理事長、休んでいて下さい!」

優姫は見るに見かね肩をかす。理事長は39℃の高熱があるにも関わらず、仕事をしようとしていた。

「ありがとう、優姫。大丈夫だよ」

いつもの笑顔を見せた理事長はマスク姿で理事長室に向かおうとしていた。


「お義父さん!」

優姫の"オトウサン"と言う言葉は彼の耳には届かなかった。


****

ふと目覚めた理事長の頭には冷えぴたが貼られていた。氷枕で頭がヒヤヒヤする鈍い感覚に目覚めた。


「起きたぞ、優姫」

零が理事長の視界に入ってきた。

「き…錐…生くん?」

眼鏡を外された理事長には少し視界がボヤけていたようだ。

「理事長がぶっ倒れて優姫が心配してますよ」

理事長は立ち上がろうとするが、零が血薔薇銃を向けた。

「起き上がったらぶちのめす…」

観念したようにハハっと笑う理事長に銃を翳す零。


「恐いな、相変わらずー…それに僕には効かないよそれぇ」

零は観念した理事長を見て銃をしまう。バタバタと廊下を走る足音が聞こえた。
「理事長!」

「…優姫…。心配かけてごめんね」勢いよく入ってきた優姫に、今できる満面の笑顔を向けた。でもまだ不安そうな顔に理事長はいつものテンションで話そうとする。


「錐生くんも、優姫も大丈夫だからさ。授業に出なさい。風紀の仕事もあるよね?」
優姫は氷水を理事長を持ったまま。まだ不安気に揺れる瞳。本当に。本当に。僕の娘と息子は優しいんだから。


「今日は理事長の面倒を見るって夜刈先生に言ったんで大丈夫ですよ」


優姫は水を理事長に差し出す。それを受け取り、潤んだ理事長の瞳。

二人は知らない。

理事長が絶対に涙は見せないと『あの日』に誓ったことを。

「ありがとう。錐生くんもありがとう」

零は立ち上がり横目で理事長を見る。

「お粥くらいなら作ってやってもいいケド…」

そう言って零はキッチンに向かった。理事長と優姫はクスッと零が居なくなるやいなや笑った。

「錐生くん、本当に素直じゃないね」

理事長は笑う。その笑顔に安心したように優姫も笑みを溢した。


「零は優しいのに不器用だから…。ちなみに理事長を運んでくれたのも零なんですよ?」その言葉を聞いてまた微笑を溢した理事長は優姫に『少し寝るよ』と言った。優姫は邪魔してはならないと部屋を静かに出ていった。

理事長は優姫が出ていったのを背中越しに感じながら声なき涙を流した。涙は幾度となく溢れた。荒々しく手で拭っても溢れる。誓いは二人の優しさで脆く崩れてしまったようだ。


二人は理事長の涙を知らない。

これはある日のこと。


fin
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イタズラなキスをあなたに。

「と、言う訳で、錐生くん、優姫、お留守番よろしく!」

理事長が1泊2日のお出かけに行くようで、あたしと零はお留守番を任されることに。理事長が出てった後、妙な沈黙。

一瞬、目がお互いに合うとお互いに反らす。優姫の頬は自然と赤らんだ。

沈黙を破ったのは珍しく零。

「夕飯でも一緒に作るか?」
「え?」
「お前の腹なってるから」
「うっ//うん…」

可笑しいな。いつもはこんなに意識しないのに、嫌みに嫌み返しだってするのに、なんか今日は可笑しいな。零を見るとトクトク鼓動が鳴る。

**

「お夕飯って塩ラーメンなんだ?」
「当たり前だろ?」

零は慣れた手つきで、ネギを切り刻み、お湯を沸かしていた。

「あたしって手伝う事ある?」
「皿洗い」
「あ…やっぱりー…」

零が使い終わった皿を洗いながら、料理をする零の姿をチラチラと見つめる。

(あたしたちって付き合ってからなんか変わったかな?)

ふと、そんな事が頭をよぎる。確かに、たまに手を繋いだり、もっともっとたまにアレですよ。カレカノって感じにキス///したり。しかもいつも不意討ちだし。


そんな事を考えてたら皿洗いなんて忘れて、ポーッとした。


「おい、優姫!水出しすぎだ!」
「うぁ!ゴメン!」
「何ボケッとしてんだよ」

「ボケッとなんてしてないよ!考えごと!」

「どうせ、夕飯の考えごとだろ…?お前、大食いだしな?」

フッっと笑いながら零は麺の湯ぎりをする。

「違うよ〜だ!あたしは零とあたしって何かカレカノって感じじゃないなぁ!って思ってたの!」

そう言ってフンと口を尖らす優姫。零は少し目を細め、優姫を見つめた。

「お前の言うカレカノってどんなんなんだ?」

零は麺の湯ぎりを終えて、優姫に迫って来る。流石に怒ったかなと優姫も近づいてくる零に後退りした。

いつの間にか、壁に追い詰められてる自分。顔を反らすとダンっと零の手が逃がすまいとばかりに置かれていて。

最早、逃げ場なし。

「お前の言うカレカノってなんだ?」
「う゛…うー…っと…手を握ったり…」

零は優姫の言うように手を握る。優姫は目を見開く。真顔でずっと真っ直ぐ見つめるアメジストの瞳から目を反らせない。

「…それから?」
「…え。…うーと…うーっと…」


優姫は口を閉じたが零は早く言えとどんどん顔を近づけた。

「…は…ハグとか…?」

優姫の腰に手を回し、零は優姫の華奢な身体を抱き締める。

「…それから?」
「…え…///もう…ないよ……」
「嘘つけ…。」

優姫の顔はもうゆでダコ寸前。零の身体にピッタリくっついてなんか不思議で。回された零の手を意識してしまう。

「ひゃ…//」

優姫の耳に唇を落とした零は耳元で囁く。
「それから…?」
「…う゛…ないよ。満足、満足!」

離れようとするがなかなか離してくれない。零が可笑しい!!

「零、ガスつけたままじゃないの//?早く止めないと!」

「もう止めてある。バーカー」
「…な…なな…ぜ…んっ」

真っ赤な優姫にまた静かに笑う零は、唇を優姫のと重ねる。優姫は目を大きく見開く。すごい綺麗な零の顔がものすごく接近していて。

唇はとろけるくらい甘い。目の前の人は零なのかと疑うくらいに、彼の目は本気で、反らせない。

「っ…ん…ぜ…」

優姫の顔は更に赤くなる。いつものキスじゃない。何これ。優姫の口内に零の舌が入る。優姫の頭は大大大パニック!!

(まさか!あたし!え!零とディープなキスしてたりするの…?友達が言ってた、甘くとろけるキスって…こ…これ…?嘘っ!)

優姫の舌に零の舌が絡まる。酸欠しますから、これ!くらくらするけれど零の顔がはっきり見える。

(ディープなキスっていつまで続くものなのかな?人それぞれ?あれ、あたし…息が…)

「優姫!!」

あたしは酸欠になり倒れました。

**

「ただいま〜☆」

理事長が帰ったら不思議そうに二人を見つめたそうです。前の二人と何か変わったような(?)親のカンを感じたらしい…。


fin
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