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嫉妬ボーイ

席替えがあった。いつも優姫の後ろに自分の席があった日々は終わってしまった。でも、窓際の一番後ろの席。優姫は最前列の席で視界に入ってしまう。

数学の時間の優姫の慌てぶりに微かに苦笑い。自分の性格の悪さを知ってしまう。いつもなら俺に聞けたことが今は席が離れて無理である。親友の沙頼とも席が離れて勉強がいつもより大変なのだろう。そんな様子を眺めたり、居眠りするのが最近の日課になった自分。

だが、1週間後に見たのは隣の席の男子と仲良くしている光景。しかも仲良く笑いあっている。

チクリ

胸の中を締め付けられるように何故か苦しい。その様子を見たくないのに気になって見てしまう。

(何で、あんなにアイツが他の奴と楽しそうにしてるのにイライラするんだ)

****

「優姫。明日は数学のテストらしいけど、錐生くんに教えて貰わなくて大丈夫なのかい?」

理事長はいつもより落ち着いてる優姫に聞いてみた。零は黙々と夕飯を食べながら、気にしてない素振りをして食べていた。


「隣の席の上條くんに教えてもらって山もはって貰ったから大丈夫です!零にはいつも迷惑ばかりだし今回は自分で解決するんです」

優姫の言葉にチクリとまた胸が傷んだ。モヤモヤしてイライラして堪らない。食事が喉を通らなくなる。


「錐生くん、もう食べないの?」

理事長は不思議そうに席を立つ零に聞いた。優姫もびっくりした様子である。

「食欲ないんで」

そのまま素っ気ない零に理事長はフーンと唸り声を上げた。

「優姫。錐生くんにサンドイッチ作るから持っていってあげて。」

「は…はい…」

優姫は零の食欲のなさと顔色の悪さが心配で堪らなかった。

***

トントン
「ぜろ。入るよ?」

零の部屋をノックした優姫は零の部屋にサンドイッチを持って入る。項垂れた零の隣には物理学と数学の難しそうな本。パラパラめくると訳のわからない文字や記号。


「何でいるんだよ」

零はムスッとして優姫を見つめた。目を擦った様子からして寝ていたらしい。

「零、熱あるの?」
「ねぇよ。ってか勝手に入んな」

「サンドイッチ持ってきたの。理事長がちゃんとご飯食べろって。ここに置くよ?」
机にサンドイッチを置くと優姫は零の前に座る。

「…なんだよ」

「どうしたの。嫌な事とかあったの?」
「何にもねぇし。あったって優姫に言う必要なんかねぇだろ」

その言葉に優姫はかなりショックを受けたようで寂しそうに笑う。

「そう、だよね…。あたし、今回は零から自立しようって数学頑張ったの。明日のテスト、絶対赤点取らない自信あるから!」
「ふーん。お前が赤点取んないとか春なのに雪が降るな」

嫌みを言う零にカチンときた優姫。

「なっ!あたしだってやれば出来るんだから!上條くんに教えて貰ったし。大丈夫だから!」


上條。上條って。お前はアイツが好きなのか。イライラがピークに達して胸が痛くて苦しくなって。思ってもいない言葉がでた。


「お前、アイツが好きなんだろ。まぁ、お似合いだしな。付き合えば良いんじゃね?これでお前のお守りもしなくて済むしな」

その言った後、優姫を見たら涙をぽろぽろ流していて、俺は動揺した。

「ぜろって…本当に鈍感だよね!ばかっ!」


優姫の泣き顔が頭から離れなくて。わからないモヤモヤにイライラして俺は近くの本を勢いよく投げた。


fin?

涙の行方

季節は巡る。桜の花びらがひらひらと風に乗っていた。もう何年経つのだろうか。
寂しくて、愛しくて。何回涙を流しただろうか。切なくて、苦しくて。

その度に脳裏に彼の悲しげな顔と変わらない現実があたしの動きをせき止めて。
嗚呼。会いたい。
季節は巡り、もう春。

あの冷たい風が吹く中で惜別をしたあたしたち。昔と今であたしたちは何か変わっただろうか。

****

「なぜ、ここにきた…?」

零はアパートの古びた階段の踊り場にいた優姫に問いかけた。

「…零は寂しくないの?」
「…寂しい…?馬鹿は相変わらずだな」

零は冷たい視線で優姫を見つめ、自室に向けて歩き出した。優姫は零のコートを掴む。

「あたしは…零に会えなくて寂しくて…寂しくてたまらなかったよ…!」

繋ぎ止めたのは昔と変わらないこの温もりだった。零は無言で立ち尽くす。優姫は相変わらず零を抱き締めた。

けれど。

時の流れは残酷で、お互いの立場が段々とわかるものだ。純血の姫。ヴァンパイアハンター。これは叶わない慕情だってこと。わかっていても納得がいかなくて。だからもがいて、苦しんでここに来た。


「もう、帰れ」


零は優姫の手を取ると冷笑した。

「あたし…帰りたくなんて…」

「帰れ。お前は俺の敵だ…!」

とどめうちのような言葉に涙が零れた。ここまで来るのも命懸けで。零に会いたくて来たのに。彼に突き放される。


「はやく…帰ってくれ…。俺を振り回さないでくれ…」

あたしは零を振り回してきたのか。この立場が、零を苦しめてきたのか。
でも好きなの。あなたの血が、あなたが欲しくて。たまらない。

「零の側にいたいよぉ…。昔みたいにあたしの側にいて欲しいのに…もう駄目なの…?どうして…っ」

嗚咽まじりに崩れ落ちしゃがみこむ優姫。零は歯を食い縛りながらそれを見つめた。求めてはイケナイとわかっていたのに。

かき乱されるようにズキンズキンと痛む心。好きなのに。手を伸ばせば届くのに。…昔のように。側にいたいのに。

叶わない夢。叶わない恋慕。

「優姫…。」

零はしゃがみこみ、優姫の頭を優しく撫でる。


「…頭撫でるだけじゃ足りないよ…っ」


困ったように目を細めた零の瞳は少し潤んでいた。でも、我が儘を言うあたし。

足りない。もっと頂戴。あなたを。


渇いた唇を重ねる優姫。零は目を見開いたまま。これは決して許されない行為。でも、ごめんなさい。罰なら受けるから。
今日だけ許して。


fin

恋慕事B

繋いだ手の温もりだけが増す。いつもなら何でも話しだす優姫が口を閉じて黙ったまま。もともと口下手な零は会話のネタなんてもってるはずはないから沈黙が続く。


「ぜ…零…」

不安と期待と緊張と入り交じった優姫が話しだす。

「な…んだ?」

「あの…さ…今日ってどこに行くの…?」
「…めちゃくちゃ考えたんだ」

零は歩みを止めた。優姫は長身の零を見上げた。

「…デートって初めてだろ。だから、その…楽しんで欲しくて…。だけど全く浮かばないから遊園地に行こうって思ったんだけど…」


「零はいいの?」

優姫は聞き返す。

「何が?」

「遊園地とか零の大嫌いな人混みだよ?」
「…べつに//俺はお前が楽しん……」

「ありがとう、零」

にっこり日だまりみたいに笑うから。胸がキュッと痛くなる。

「ほら、行くぞ」

****

絶叫マシンに観覧車、お化け屋敷にメリーゴーランド。いつも乗っているのに来る相手が違うだけで違う感じに見える。

「零、はやくはやく!」

はしゃぐ優姫に少しホッとした零。絶叫マシンから二人で乗りまくる。


次に幼児に紛れてメリーゴーランドや、コーヒーカップに乗ってみたり。さすがに幼児ばかりで二人して爆笑して。

お化け屋敷では、優姫は零の服の裾を掴みながらギャーギャーと絶叫していた。

時間なんてあっという間でもう夕暮れだから、最後に観覧車に乗ってみた。夕日が綺麗でもう名残惜しくて。目の前にいるお互いの顔を見合う。


「今日はありがとう、零。すごく楽しかったよ!」

その言葉と温かい笑顔が欲しくて。柄になく焦っていた昨日までの自分。初めての気持ちや、初めての事で戸惑っていた。でも恥ずかしいのに心地いい甘酸っぱさで。


「優姫…」

静かに進む観覧車から変わらない夕日が見えた。静かで自分の鼓動がはっきりしていて。

優姫にはにかむと零は手を広げた。

「零?」

「…最後に我が儘だけど、キスしたい」

「ぬぉお///Σ」

変な奇声を上げた優姫。照れて下を向く零。ふてくさった零がチラリと優姫をみた。
恥ずかしいけど。

いつもより優しい違う零が見れた事が今日の一番の収穫かな。頂上から少し進んだ観覧車の中で二人は唇を重ねた。


これは初めての始まりのデートでの話。

fin

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恋慕事A

土曜日が近づくにつれて胸の高鳴りが増していく。鏡の前で入念に着ていく服のチェックをした。

これはダメとかこれは子供ぽいとか。零とデートって響きに口元が少し緩んで、トクントクンと鳴る心臓の音。

明日。
零とデート。

優姫はベッドに横たわると目を瞑った。零はどんな気持ちでいるのだろうかと思うと近くに零がいるみたいに感じた。

****

零は頭を悩ませていた。初めてデートに誘っても何をしていいかなんてわかる訳がない。委員長と男子寮長にとりあえず、あてにならないがデートって何を具体的にするかを聞いてみた。

『それはですね!ちょっと高いレストランとかで夜景を見たりだと思います!いつか瑠佳しゃんと…///』

とか委員長は言っていた。具体的な内容だが、高いレストランって言うのがよくわからない。

『カラオケとか適当に行ったらまぁ、押し倒せば』

男子寮長はそんなことを言っていた。零はブンブンと頭を振る。
確かに優姫をめちゃくちゃにしたいなんて事をたまに思ったり、一歩間違えば押し倒しそうになったりする事はあった。でも、『大事』って気持ちがあるから我慢はしてきて。気持ち悪いとか避けられたりとかしたくない。

デートでそんな事なんてできる訳がない。初めてでわからないんだ。

零は男子寮で没収した男子たちの読み物に目をやる。全く見る気すら湧かなかったが、何かヒントがあるかも知れないと思い手に取る。

雑誌にはオススメデートスポットなどの見出しで色々な事が書いてあった。

『熱々カップル必見!これで彼女も君にメロメロ!』

記事をみると確かに委員長や寮長が言ったことも含まれていて。全く無知だった自分に落胆して。零はわからないなりにデートプランを徹夜で考えた。


****

優姫は朝早く起きてお風呂に入って、髪を整えて、悩みに悩んだ服を着て鏡の前で最終チェック。

「大丈夫だよね…。よし!」

優姫は玄関に出ると零が立って待っていた。いつもよりもかっこよくて、雰囲気も違って。


「ごめんね!…あ…のさ今日はよろしくね//」

優姫は火照った顔で笑う。零は平然を装うが耳まで朱に染まっていた。
「……い…行くぞ///」

(デートって初めてだからわからないんだ。もしかしたら、全然楽しくないかも知れないけどごめん)なんて大好きな彼女に言えないから。

繋いだ手は既に緊張で汗ばんでいた。
まだデートは始まったばかりです。


続く

恋慕事


風紀委員の仕事を済ませて一緒に帰るのはいつものこと。だけど、零とあたしの間が少し変化した。今は、…

『恋人』

いつも普通だったことでさえ、恋人になった途端に意識して、何気ないことにドキドキして。汗ばむ手。

普通に手を繋ぐことでさえ緊張して。心臓は常になりっぱなし。


「どうした?」

いつになったら慣れるのか。手を繋いで帰る時に零に話かけられた。普段はあたしの方が零に話しをするけれど、付き合い始めたら、上手く話せない。

(この胸の鼓動をどうにかしてよ。)


「ね…つでもあるのか?」

そう言った零は優姫の背までかがみ額をこつんとくっ付けた。零の顔が近い。それだけで体温上昇。顔の赤みも増して、ゆでダコみたいなあたし。


「……だだ…大丈夫だよ〜。ほら、元気だよ〜…」

鼻が擦れるくらい近くて胸がギュッってして痛い。これ以上、スキを増やさないで。

「ならいい…ケド…」

パッと零は優姫の額から自分の額を離す。頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でられて。乱暴なのに優しくて。

「…ぜ…ぜろっ…ありがと」

その言葉に微笑した零。夕日が最後の光を放って眩しい。零が笑うとあたしは苦しい。

刹那。

それは不意討ちのように優しいキスで。ただ一瞬触れるキスなのにそこからじわりと熱くなる。

「ぜ…/////」

「行くぞ…//」

強くて大きくて乱暴なのに優しくて。繋がれた手はまた汗ばんでいた。

「優姫」

零は歩みを止めると照れて横を向きながら言った。

「土曜日に一緒にどっか行くか?」

あたしの返事はわかっての通り。それは、零からの初のデートのお誘いだった。


つづく


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