最近のデイクラスは雰囲気が変わった。零がホストになった文化祭以降、何故か零を見つめる視線が痛い。
それもそのはず。
コスプレなんて絶対しない零がホスト姿で舞台に上がったのだから。みんな興奮したっておかしくない。ないけど…。優姫はため息をついた。
「35回」
沙頼は優姫を見つめ首をかしげる。
「どうしたの?ため息ばっかりだけど。」
「あぁー、視線が痛いの」
優姫はうなだれると沙頼はくるりと振り返った。零くんの事か、と沙頼は思う。
今日も黒いオーラが立ち込めていたが、前よりも近寄り難くなくなった気がする。
「優姫。零くんと何かあったの?」
「ないよ…。あったのは周りの変化かなー。なんかわかるの、零の事をチラチラ見る女の子の視線…」
はぁあ、とため息をついた優姫に沙頼は36回目と呟く。
沙頼は周りを見渡すと、確かに鈍感な優姫でもわかるくらい零に対する女の子の視線が痛い。
優姫と零が付き合ってる事実は理事長でさえ知らない。けれど、やはり彼女としてはこの視線はそわそわするなぁと思う。
「零くんって優姫より鈍感だったりする?」
沙頼の言葉にコクリと頷いた優姫。ちょうど同じ時に、零は立ち上がるとクラスを出ていった。
「零くんどっか行ったわよ、優姫」
「うえぇ!?何で!?」
「サボりじゃないの?次は夜刈先生の倫理。それでなくとも守護係のあなたたちには眠いわよね」
その沙頼の発言にガバッと立ち上がる優姫。
「頼ちゃん、行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
走っていく優姫を心配そうに見つめたが、彼女にはきっとわかって貰えないだろう。なんせ、彼女は零くんの事になると一直線な子だから。
***
昼下がりの絶好お昼寝日和な空の下、優姫は銀色の影を求めて走る。
最近の零は、夜間部の人と同じくらい人気になってしまった。遠くに感じてしまう時すらある。
「どこにいるの…」
走り疲れて歩きながら、額にかいた汗を拭った。ハッとしたように、優姫はまた走りだす。
**
「リリィ、髪噛むな」
リリィの馬小屋に零は居座っていた。少しブラッシングしたら上機嫌なリリィ。零が大好きだからというのもあり、髪を噛む。
「はげる」
リリィは零の髪をカミカミしながらも、視線を横に向けた。瞬間的な行動に零も夜を見つめるとちびがいた。
「優姫かよ。なんでここにいるんだ」
「授業サボるからだよ!」
はぁと零はため息ついて眉間に皺をよせた。そして、一言。
「お前もサボッた事になるだろ、ばーか」
そう言うと零は干し草の上に座りこむ。リリィは優姫に威嚇していた。かなり怒っているのが、ひしひしと伝わる。
「零って馬にまでモテるんだ…」
新種の敵に優姫はたじろく。リリィの側で座る零の側に行きたいけれど、これじゃ行けそうにもない。
「零。夜刈先生の授業に戻ろうよ」
「お前が戻れば言いだろ」
「ちょっと!これでも零の彼女なんだよ!!心配してる彼女の言葉に従ってよ!」
「…授業中なんか俺より居眠りしてる奴に言われたくないな」
フッと笑う零にイラリときた。
「ひどい!意地悪!!零のばか!!ばかーっ!」
「…うるせぇな」
零は立ち上がり、優姫の手を引っ張った。
「うわぁ!!」
勢いよく体勢を崩し、干し草の上に倒れる。優姫の上に零は覆い被さった。
「俺が上にいれば、リリィに殺られないな」
「…///なっ…//」
鼻が擦れそうな距離に戸惑う優姫に意地悪起動中の零。
「本当は俺といたくて来たんだろ。今さら恥ずかしがるなよ…?」
近くで感じる零の甘い声に気が狂いそうになる。自分の顔が真っ赤なのがわかる。
近い。近い。近い。
「〜〜〜///」
「本当に面白い奴。遠ざかれば近づいて。近づいたら離れてく」
「違うよ!離れないよ!」
「ふ〜ん?」
意味深に相づちをうつ零に赤い顔で頷いた。
「じゃあ、証拠」
零は自分の唇に指差す。耳まで真っ赤になる優姫にまた苦笑いしながら。
「〜//////」
チュっと軽くキス。
「よくできましたー」
そう言って、心臓抉りの満面の笑みな零に、また、心を奪われたんだ。
また、『好き』が増えたんだ。
fin