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コルチカム


「零、笑って」

彼女ははにかみ、頬に手を添えた。そんな幸せな日々は

どうして、過ぎ去るのだろう。

「もう寂しくないか?」


あの日に放った言葉は胸を抉る。これは彼女に向けた言葉なのに、自分に当てられたようだ、と不意に思う。

零は下を向き苦笑いした。昔、中等部に入るときに優姫と撮った写真。

もう色褪せたキオク。ぼろぼろになっている写真。

今の俺は、昔と違うか。それともこの色褪せた写真と同じか。

彼女の存在価値はすごくすごく、すごく大き過ぎた。

だが、変わらない。

「優姫を殺すのは俺にしかできない……」

いつの日にか、彼女を追い詰める1人のハンターとなろう。

逃げ惑う獲物のヴァンパイアに優姫はなるだろう。

これは宿命なのか。

「変えられないことの方が多いんだよ?錐生くん…」

あの男はそう言って昔、自分より一段上にいた。――玖蘭。

その名は我が獲物のヴァンパイア。

銃を取り、協会に言われたヴァンパイアを狩りに行く零。

あの色褪せた写真を胸ポケットに閉まいながら…――今日も過ぎ去ろうとしていた。

fin
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儚きユメ

ああ、俺は――

この優しい手と、笑顔がほしいんだ――

決して求めてはいけないとわかってる。だから――これまでだって耐えてきた。

でも、ずっと君をこの手の中に抱いて生きていきたいと想っていた。

想っていた。強く

君がいたから、優姫がいたから生きてこれた。どれだけ、君を夢で抱いたかわからない。

求めてはいけない

理性が飛び、唇を触れそうになった。きっと彼女は動揺してる。

「…ごめん、なんでもない…」

蒼ざめたこの唇が君に触れたら、決して優姫を離す事はない。

けれど、それは叶わぬ。

運命、悲運、そんな簡単な言葉できっとかき消されるのだろう。

自分が生きた証は優姫の血を貪ることで、成り立つ。彼女が与える罰ならば、なんでも受け入れる。

それがどんなに残酷でも――いい。

優姫が自分だけを見てくれれば、どれだけ『自分』がここにいていいと思うだろうか。
想ってくれなくてもいい。影から見守るだけでもいい。俺に…いてもいい――と言うならば、ずっと側にいよう。

儚く脆い夢であっても、過ごした長いトキを埋めるものだと信じよう。ヴァンパイアである自分を受け入れてくれるならば、ヴァンパイアである自分に感謝しよう。

果てなきトキがこの血濡れた過去を浄化するならば…

もしヴァンパイアでなかったら

夢で見たように、小さな家でいい。
あなたと暮らしたい。
平凡に
喧嘩して、でも心から笑える場所

ヴァンパイアでなかったら

この想いを告げても良いよな。君が他の誰かを想ってようと
この想い伝えます
もし一緒になれたなら

これは叶わぬ夢とわかっても考えてしまう俺はバカかも知れない。


fin
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変わったもの、変わらないもの


「…優姫にとって俺は何なんだ…?」
「…え…?」

「もう俺のために無茶なことをするのはやめてくれ。そんなに頼りないか…?」

考えたことがあったかな。零ってあたしのなにかな。

零は――。

零には影がある。誰にも見せない何かを隠して生きている。それが何か、どこか自分と似ていた。

だから、救いたいって思ってた。でもそれは、何でかな。

『そんなに頼りないか…?』

耳に残る、低く掠れた零の声。なんでこんなにモヤモヤするの。

「あたしにとっての零…」

大切な存在。
レベルEに落としたくない。人間として生きて欲しい。あたしと共にいて欲しい。

あたしと共に…?

他の誰かとでなく、あたしと共に…?

***

「頼ちゃん」
「なに、優姫」

優姫はモヤモヤの疑問を問いかけた。

「誰かとずっといたいって思うことってある?」
「理事長と?」

頼は真面目な顔で聞いた。理事長って言葉に強く否定する。

「違う〜!なんか他人でさ!理事長はもう腐れ縁だから違うよ〜!」

頼は優姫を見つめた。零くんと?、と言おうか迷いその言葉は呑み込んだ。


「家族以外でずっといたいかー。あたしは優姫とずっと一緒にいたいなぁ、って思うよ」

優姫はそれを聞き半泣きして頼の名前を呼びハグした。頼はそんな優姫を見つめた。

「異性でそう例えば思うなら、多分それは好きなんじゃない…?」

****

好き?零を?

『そんなに頼りないか?』

零を好きなの…?確かに一緒にいてすごくほっとして。誰かといることがあったらモヤモヤする。

「好きなのかな…?零を……じゃあ、零は…?」

走って頭をふる。わからない。

でも――

「零!」
「なんだよ、うるせーな」

しかめ面な彼を面と向かって見つめた。そして、手を握る。いきなりの優姫の行動に零はびっくりしていた。

「頼りないなんて思ってない」

優姫は真っ直ぐな黒い瞳でいう。

「零はあたしにとって、すごく大事な存在だからっ。ずっと一緒にいたいって思ってるからっ!だから――」

内心、期待する自分がいた。優姫――。
優姫が俺を想ってくれてれば、と。

「まだわからないけど、零はあたしの大事な人ってこと!」
「…おー」

零は少し眉間にしわをよせ笑った。トクンと胸をうつ鼓動。


これが、あたしの中で変わった何か。変わらないものは零が大切な存在ってこと――。


fin
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お前なにしてるんだ?

「お前なにしてるんだ…?」

零は優姫のメイド姿に仰天し、食べ掛けの塩ラーメンの麺を落とす。

そんな零の反応を知ってか知らずか優姫は席に付きラーメンを箸でとる。

「…///ご主人さま、あ〜ん」

優姫の恥じらった顔、それ以上に動揺を隠しきれない自分!!

「…自分で食えるし」

そう言って、動揺してると悟られまいようにまた食べ始めようとする。

「ご主人、あたしが嫌いですか…?」
「…!!!」

優姫はうるうると瞳を揺らす。零は焦る。嬉しいが、ちょっといや、凄く恥ずかしいんだ。

「ちげーよ!バカも休み休み言え!」

「じゃあ、ご主人、あ〜ん?///」
「…///」

そんな目で見るな…よ。俺だって、男だからさ。赤面を抑えられない零と優姫。
…ラーメンなんてもう伸びてるだろう。

「…ご主人とかやめろ…普通に呼べよ…」「あ、うん!零!」

にっこり笑う優姫。メイド姿に密かに『萌え』たのは、秘密。

可愛い。

素直に言えない自分がいるけれど、想ってないわけでないから。

「…見せるなよ?」
「…?」

優姫は勝手に塩ラーメンを食べていた。そんな彼女に照れながら零は言う。

「何を?」
優姫は麺を箸で持ち上げ聞く。そんな愛しい彼女を見つめ、優姫が箸で持っていた麺を食べる零。

「…//零っ!!」

零は優姫の鼻をつまむ。

「えがお!!わかったかっ!!」

小さい嫉妬でさえ嬉しく、優姫は満面の笑顔を見せて頷いた。

「うんっ!零にしか見せないからねっ!!」

二人は知らない。そんな二人を理事長はドアから眺めていた。

fin
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