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全てが憎いはずだった

アイシテルなんていえないのに
アイシテルって言いたいのに
なんて矛盾してるんだろう


全てが憎いはずだった



ヴァンパイア達の定例の夜会にはハンターの同席が必要だ。純血種や貴族階級の身分であるヴァンパイア達の夜会。迷える子羊がいたら大変だ。


『玖蘭優姫様』
『最もみずみずしい純血種の姫よ。』

口々に白々しいほどの叫びが飛び、シャンデリアの輝きは一層増す。
優雅な音楽も
並べられた素晴らしい料理も
美しいヴァンパイア達も
目に入らない。
1人のハンターには敵わない。

****


『…ぜろ…?』
「遅かったな」

夜会会場の屋根裏なんてネズミ以外は誰も来たりしない。薄暗くて蜘蛛の巣だらけな小さな部屋だけどほこりを被ったベッドも完備されている。ベッドに腰かけた零は静かに扉の前の姫に聞いた。


『ちょっと色々あってね』
「いろいろ?」
『うん。純血種を狙う貴族は多いの』


優姫は部屋に慣れた手つきで入り零の隣に座った。


『顔みせてよ。零』
「……」

触れただけで心が高鳴って。血が、騒ぐ。細い手首に頬を寄せた零は普段は見ることができない。
*****


「髪、いつ切るんだ?」
『髪…?』

いつからか生まれた時の姿になってた。求めるままに貪りあって。乱雑に乱れた服は放り出されたまま。


『髪が長い女の子は嫌?』
「…鬱陶しい」
『質問の答えになってない』
「……」
『また、肝心なとこで黙るし…』


優姫は零の首筋を舐める。滑らかで美味しそうな匂い。ヴァンパイアとしての衝動と、先程、愛し合った余韻が交錯してしまう。


「…っ」

洩れた声と共に流れた深紅の液体。

『ぜろぉ…』
「なんだよ」
『ぜろぉ…』
「しつこいな」

じゃれあって。それはまるで何も知らない子供のようで。

『あたし以外にこんな事したら絶対許さないから…ね。血もあげちゃだめ。あたし以外に笑っても、あたし以外にアイシテルって言っても駄目』


「ああ。言わない。血も全部お前だけの…モノだ…」

満足そうに微笑むヴァンパイアの姫。
愛憎にまみれたハンター。


「お前を嫌いになんてなれないさ…ずっとな」

「嫌いにならないで…」

寄り添って。なのに残酷な鐘の音が二人の耳に届いた。

『ああ…もう…行かないと』
急いで仕度を済ませるヴァンパイアの姫は昔の名残を残していて零は笑った。

『零、また今度、夜会でね。』

頬へのキスでは足りないのに。夢から醒めた夢で。届かないもとに、また消えた近くて遠い存在に。全てが憎いはずだったのに君だから愛してしまったんだ。

…なんてふと感じた。

fin
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君に飢える夜

あなたはどうする?
空腹に似てるのにどこか違う渇きに耐えて眠る夜。あなたは
どうやって渇きを潤すの…?



君に飢える夜




「ちょっと、ちょっと!!錐生くん!!」

これはハンター協会の日常とかしている。理事長と零のゴタゴタ。

「別に今すぐ退治しなきゃならないヴァンパイアじゃないって言ったでしょ!」

「…野放しにしたらどうなるか。一番わかるのは俺、だ」


鋭い刃に似た瞳で見つめる先には誰がいるのだろう。わかりきった解答がぐるぐる頭を回る理事長は頑なな零にため息を洩らした。


「わかったから。だけど、単独行動はもうやめてほしい。これは協会長からの命令だ。いいね、錐生くん」


小さな舌打ちは昔からのこと。なんやかんやで彼はちゃんと人の気持ちを考えられる。そして、自分のこともわかっている。

だからこそ。

可哀想だと感じてしまう自分がいた。今日の闇夜を君はどんな想いで越えてるのかと。親心とは、血が繋がってる繋がってないは関係ない。彼の中の淡く切ない想いが血液錠剤を飲むごとに募るのもわかっていた。
錐生くんは優しい子。本当に、だから。ハンターなんて頼みたくない。

****

「うっ…っっ…!」

闇は残酷に彼の獣を呼び覚ます。耐えても耐えても。
深紅の瞳には涙が滲む。今日も、渇きは癒されない。もしかしたら永遠に。

呪われた双子のハンターへの罰なのか。決して愛してはいけない人を好きになった宿命(さだめ)なのか。

ベッドは苦痛の度に軋み、悲鳴に似た寂しい唸りは響く。猛獣のごとく孤独で。

一筋の希望すらない。

ただ、欲しい血は届かぬ先にある。決して報われず、決して癒されない渇きの先。

「…っ…はは…っ」

零は小さく笑った。発作が起きるほど忘れたい相手は容赦なく浮かぶ。身体に残った彼女の血が駆け巡るのを感じに、眉を潜めた。

君に飢えた夜はまたすぐにくるだろう。

しかし、ヴァンパイアを刈ることで自分を傷つけて、君を感じないくらい自分を傷つけて。痛みを感じないようになろう。


固い誓いは死ぬまで永遠(とわ)に――。


fin

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殺してくれよこの俺を


宵闇が迫る。
ヴァンパイアたちは
紅く鋭い瞳で獲物を探す。
貪欲に愛するものを貪る。

口元には飲みきれなかった紅き液体が一筋二筋流れ、見るもの全ての意識を奪う。

なんて美しいのだろう。
そしてなんておぞましいのだろう。


ヴァンパイアに狙われた獲物は決して逃げることはできない。次は

もしかしたらアナタが獲物になるかも知れない…?




殺してくれよこの俺を




『拒まないの?』
「……」

白くか細い首筋とは対照的ながっちりした骨格をもった獲物に優姫は静かに聞いた。

「お前の好きにすればいい…。お前に何をされても構わないと前言っただろ」

『何を…されてもね…』

溜め息と脱力混じりに瞳を細めた彼は真っ直ぐなアメジストのような輝きを放つ瞳を持っていた。アメジストという宝石より薄い色合いなのに。

あたしを捕らえてやまない。


『じゃあ…あたしが零の首を絞めて殺してもいいんだ…っ?』

茶目っ気混じりな語尾だが、何故か本音に聞こえる優しい声に零は小さな微笑をした。


「殺してくれよ、この僕を……?」


優姫の細い手首を掴む。いつしかアメジストの光に変わる、ルビーのような情熱的な紅い瞳があたしを捕らえた。


『じゃあ…零もあたしを殺してよ?』

優姫は手に力を込めて零を絞めた。苦しそうに歪めた顔が、何故かとても美しくて力をまた入れる。微かに笑う零の顔があたしを獣に変えた。


(アナタをアタシのモノだけにさせて…?)
****


『ごめんなさい…!だ…大丈夫、零??』

「なにが大丈夫か、だ。あんだけ絞めておいてよく言うな」

首筋に絞めた痕跡が残り。余韻は醒めない。闇は少しずつ光を宿しはじめた。


『ごめんね…だって零、殺してって言ったじゃない!?』


「そういうお前も殺してって言ったよな…?」


『あ…』

いつの間にか覆い被さる零。アタシを捕らえて離さない男(ヒト)。ひやりと冷たい笑いとともに唇を優姫の耳に寄せた。


「お望み通り殺してやるよ。俺の中で啼けばいい」


fin

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