「美貌の國+アリエッティの歌」
※文仙ちゅうい
※仙様乙女ちゅうい
※言い訳は追記より













薄暗の中、点在するのはそれに増す黒い影。
今宵は満月。
ひんやりとした空気の波が、長屋の縁側に腰かける二人に柔らかくまとわる。
言うところの二人とは、ここの住人である、潮江文次郎と立花仙蔵のこと。
歳は十五。忍術学園で学ぶ優秀な生徒である。

すっかり寝巻き姿になった二人はお互いが「今、隣にいること」について思いを巡らす。
時より、そうせずにはいられなくなったのだ。
今までの6年間、お互い、幼い頃の大切な時期を共にしてきた。そんな時間があと1年もしないうちに終わりを告げてしまう。
文次郎は信じられなかった。
仙蔵は信じたくなかった。

いつもは、強気で有名な二人である。手合いでは手加減などしなかった。座学でも、張り合わない理由などなかった。
しかし、そんな二人も、お互いを特別な存在と認識して、慕ってきたし、それなりに尽くしてきた。

「夢はなんだ、目標はなんだ。」と、問われれば、
「一流のプロ忍になることです。」
と、力強く答える。

しかし、同時に、お互いいつも矛盾した気持があることにも気がついていた。

「この学園が悪いのだ。」
と。
わざと足枷を作っているのではないかとさえ感じていた。
十三、十四、になるこの多感な時期。
なぜこの学園は、生き死にを共にする特別な存在を作らせるのか。
意図はないにしても、どうしたって人間なら、特別な感情を頂いてしまわないわけがない。例え同性でも、最早関係ない。俗世間から隔離されたこの土地で、そんな理由など鼻から通用しない。



だから、仙蔵はときより
柄にもなく泣いた。
文次郎の前で大きな声を出して泣いた。
「離れたくない」
と、相手の首にしがみついた。
文次郎も、それを相当だと受けとめる他になかった。





青い月明かりが、仙蔵の頬を伝う涙に反射する。
「なんだ、また泣いてるのか。」言いながら、文次郎は小刻みに震える仙蔵の肩を抱きよせる。
仙蔵はぶるぶる震えるだけで、嗚咽の一つも溢さなかった。月に視線を落としたまま、ただ静かに涙を流し続けていた。
文次郎は胸が詰まる想いがした。お互い、考えていることなどとうに解りきってる。言わなくたって、解る。もう、そういう関係なのだ。
「かぐや姫の真似事か。」
文次郎がそうやって苦しまぎれにからかえば、仙蔵は、瞬き一つせずに呟いた。
「私の帰りたい所は、月なんぞとは違う。」

そして今度はいつものように大きな声で泣きながら、
「離れたくない…!」
と言って、隣の暖かな胸に身体を埋めた。













文仙。仙様がとっても乙女。
言い訳は追記より。