「アンジェラお姉様…?」
血塗れのアンジェラは、ついに力尽きた。歩道にひざまづき、そのままグッタリと倒れ込む。
ジープから降りたミカエラが駆け寄った。
「アンジェラお姉様…何があったの!?」
アンジェラを抱き抱えるミカエラ。
「ミ…ミカエラか…?やられたよ…ビアンカに…」
「ビアンカ?」
ミカエラは気付いた。
アンジェラ自身の真っ赤な血の他に青黒い血が混ざって軍服を汚していることに……
「ミカエラ…い、医者を……」
もはや息も絶え絶えのアンジェラが、妹ミカエラに命乞いでもするかの様な視線を投げる。
だが…
「……アンジェラお姉様……ビアンカに、ビアンカに一体何をしたの……??」
「!?」
そのただならぬ様子に気付いたロッソは、ジープを降りようとする。
「おいっ…どうしたミカエラ…?そいつは誰なんだ?」
ガルシア将軍の娘アンジェラを、ロッソが知らぬはずはない。
しかし、あまりにも変わり果てた姿に気付かない様子だ。
そこへ、通信が入る。
「エディか?そっちの様子はどうだ?……なんだと?」
「何かあったのですか?」
隣に並走していたジープに乗る女ゲリラ兵士クララが聞いてきた。
「南ラボミア刑務所で、暴動が発生している様だ…」
「なんですって!?まさかモニカが……?」
「ああ、恐らくアイツが扇動したんだろうが…マズイな…」
「何故ですか?暴動が起きた方が我々も仕事がやりやすいのでは…?」
そこに砲撃。
辺りに爆音が響き渡る。
「おいでなすった…」
数十台の戦車部隊が、突如現れた。
空にはヘリコプター部隊も居るようだ。
「ラボミアの治安部隊が現れたぞ…」
「エディ…治安部隊の数は分かるか?指揮を執るのは……なんだって?アルメイダ?」
「まさか、アルメイダ将軍自ら鎮圧に…?」
そこに銃声が響いた。
ラボミア軍ではない。
歩道にいるミカエラとアンジェラの方からだ。
「ミカエラ……?」
見れば、ミカエラがアンジェラの腰の拳銃を奪い発砲している。
「ミカ…エラ…何をするの?…止めて…」
はいずり回り逃げ出すアンジェラ。
「よくも、わたしのビアンカを!!お姉様だって許さない!!」
「お…おい!ミカエラ、何をやってる!?そいつは…ア、アンジェラか?」
ようやくその血塗れの女の正体に気付いたロッソ。
「ミカエラ!そいつはお前の姉さんだろ?何故こんな事をする?」
「あなたは黙って!!」
涙目になりながらアンジェラに向け発砲するミカエラ。
「ミカ…エラ…やめて……うぐっ」
弾丸がかすめる。
アンジェラの頬から血が流れる。
「アンジェラ様!!」
ラボミアの治安部隊がこちらに接近する。
「おいっ…マズイぞ…ひとまず避難だ…!おいっ…行くぞ!!」
ジープを走らせ、ミカエラを拾うロッソ。
治安部隊の兵士が、瀕死のアンジェラに近付く。 両腕を失ったアンジェラの身体を見て唖然とする。
「大丈夫ですか?アンジェラ様…これは酷い…」
一方、刑務所ではまだ暴動は拡大していた。
モニカら、反乱軍とは無関係の囚人達も加わり暴れまわっていた。
警備隊が必死に鎮圧しようとするが、火に油を注ぐ様なものだった。
「モニカ!!」
「なんだい、アイリーン?」
「このまま外に脱出しようよ…あたい、出口の近道を知ってるんだ!!」
「いいね。行こうか…案内しておくれよアイリーン…」
「任しとき!!」
モニカ、アイリーン、マキ、ヴィッキー。
そして、彼女らに協力していた看守ヴェルマは銃撃をかい潜りながら外へ向かい走り出す。
もちろんビアンカも一緒だ。
「ビアンカ…大丈夫かい?」
「ああ…」
ビアンカは、さっきまでの自分の姿を思い出していた。
アンジェラに残酷な仕打ちを受け、それが命の危険が及んだ時、自らに眠る“魔族”のパワーが解放された。
あの時は、自らのパワーに酔ったが…
あれが、本当のわたしなの…?
あれが、悪魔の本性なの…?
やっぱり、わたしは人間ではないのか…
ビアンカは、自らの恐ろしい正体に戦慄した。
「ビアンカーー!!」
ミカエラの声が聞こえた気がした。
幻聴にしては生々しい。
これは一体……?
そびえ立つ巨大な塀の向こうで、何やら爆音が聞こえる。
空には戦闘ヘリ。
何があった?
暴動鎮圧に、軍が動いたのか?
目の前にあった鉄格子が突如砕け散った。
外が見えた。
懐かしい外の世界の空気が入り込む。
“赤いコヨーテ”達のジープが突入して来る。
モニカが叫ぶ。
「ロッソ!!」
「待たせたなっモニカ!」
「焦らし過ぎだよロッソ!」
モニカはジープに飛び乗り、ロッソに抱き着いた。
「おっと…お楽しみは後だ。モニカ…まずは奴らを片付けようぜ…」
「ああ、一気にケリをつけようロッソ…」
ラボミア軍とゲリラ部隊は、そのまま戦闘に突入した。
辺りは、阿鼻叫喚の戦場と化した。
「ビアンカ…♪」
振り向くと、そこに迷彩服を着込んだミカエラが立っていた。
「ミカエラ…」
「ビアンカ…」
二人は見つめ合い微動だにしない。
涙が溢れる。
「やっと会えたね…ビアンカ……」
ミカエラが駆け寄って行く。
二人は強く抱き合った。
「ビアンカ…ビアンカ…わたしのビアンカ…もう何処にも行かないで…」
涙でクシャクシャになりながら、ビアンカを見詰めるミカエラ。
「行かないよ…ミカエラ…もう離さない…わたしにはあんたが必要なんだ……」
愛しいミカエラ…
もう何があっても離さないよ。
たとえ、世界中を敵に回しても。
人間でなくなっても構わない。
あんたと一緒に居られるのなら…
―女囚ビアンカ編・完―
《続く》
初掲載2009-10-09
♪luca turilli-new century's tarantella
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