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第10話「血塗れLOVERS」

《女囚ビアンカ・編》







「なんか照れちゃう」


「なんで?」


見詰め合う二人。

彼女らは一つのジュースを分け合って飲んでいた。


ビアンカとミカエラの二人は、ヴァージニアから逃れ、ようやくアークランドの都付近までやって来た。


途中、喉が渇いた二人は危険をかえりみず小さな喫茶店に寄っていた。


「……しょーがないだろミカエラ…二人分のジュース代が無いんだから…」


「ううん!わたしは構わないけど(笑)」


「哀しいね。お金が無いって…」


そこへ、怪しい気配。


数台の、警察と思しき車が店の周りに止まった。

「ん…」


ビアンカは不穏な気配に気付くが、ミカエラはただひたすらビアンカの顔を覗き込む。


「な、なんだよ……」


「ビアンカたん、やっぱりキュートね…」


吹きそうになるビアンカ。


「……あんただけだよ、そんな事言うの。こんな蒼い顔のどこがキュートなんだ……」


「紅い瞳もウサたんみたいでカワイイわよ」


「ウサたん……?(笑)」


ビアンカは照れ隠しに一気にジュースを飲み干してしまう。


「あっ……あっ……ちょっ……ビアたん…(涙)」


「ミカエラ…ちょっとトイレ行って来る…」


立ち上がると、猛ダッシュ。
ジープのある場所まで走るビアンカ。


独りになったミカエラのもとへ数十人の警官隊が集まる。


「あら…?貴方達、何の用…?」


「ミカエラお嬢様ですな。我々はアークランド特別警察の者です。貴女を救出に参りました…」


「救出?」


そこへ、ショットガンを構えたビアンカが戻って来た。


「…ミカエラ行くよ」


警官隊の合間を掻き分けミカエラの腕を掴むビアンカ。


「ビアンカ…」


名前を呼んで口を押さえるミカエラ。
連中に名前を教えてしまった。
一斉に振り向く警官隊達。


「貴様がビアンカ・メタネーロだな。貴様には我が国の同盟国ラボミア国元首ガルシア総統殺害容疑、及びミカエラお嬢さんを誘拐した容疑がかけられている!我々と共に来てもらおう…」


ビアンカは、冷静に近くにいた警官の一人にショットガンの銃口を突き付ける。


「嫌だと言ったら…?」


「ふふふ…貴様は自分の立場が分かってない様だな…」


ショットガンを突き付けられた警官は、逆に拳銃をビアンカの頭に突き付けた。


冷や汗が流れる。


だが、ミカエラの腕を思い切り引いて立たせると、そのままショットガンを放った。


爆音と血飛沫と悲鳴。
警官は横倒しに吹っ飛んだ。


「貴様!!」


だが、ビアンカは意外な行動を取った。

ミカエラにショットガンを突き付けたのだ。


「……それ以上、わたしに近付いたらこの子の頭が無くなるよ…」


「ビ、ビアンカたん…??」


驚きと恐怖の入り混じった表情でビアンカを見返すミカエラ。


「隊長!あれでは手が出せません…」


「ぬう……」


じりじりと下がるビアンカとミカエラ。


「ビアンカ…なんで…」


「ゴメン…ミカエラ。今はこれしか手がないんだ…」


言うと、耳元に軽く口づけした。


「…わかったビアたん。我慢する……」


そのまま、ジープの近くまで寄る二人。


「逃げられます!!」


「くっ…か、構わん!!ミカエラお嬢さんに当たっても構わん……撃て撃て!!」


「!?」


一斉射撃。警官隊達は二人に向かい拳銃を発砲した。


「ば…馬鹿なっ…」


「きゃああぁっ…」


「ミカエラ!!」


ビアンカは、ミカエラを庇い背中に被さる様に背を警官隊に向けた。そして…



青黒い血だまりの中、ビアンカは崩れ落ちる。


そこへ、一斉に走り寄る警官隊。


「さっ…お嬢さん、行きましょう…」


ミカエラの腕を引き、無理矢理立たせるが、倒れたビアンカにしがみつき離れない。


「いやあっ!ビアンカ!起きて…!?」


涙を振り絞り、警官隊の腕を振りほどく。だが、無駄な抵抗だった。

ミカエラは警官隊数人に無理矢理立たされた。


「ビアンカーー!!離して…離してよー!?」


薄れゆく意識の中で、ビアンカはミカエラの悲鳴を聞いていた。


(ミ…ミカエラ…)


背中と頭部に数発の銃弾を喰らった。
魔族の強靭な肉体と治癒能力を持つとはいえ、さすがのビアンカも一たまりもなかった。


自分はこのまま死ぬんだろうか……?


ミカエラ……


自分の存在を認めてくれた、唯一無二の親友…


いや、それ以上の存在になっていたミカエラ。


あまつさえ自分をカワイイとさえ言ってくれたミカエラ。


もう逢えないのか…?


ビアンカは、自分の出生と不運を呪った。


そして、自分はこのまま地獄に堕ちてゆくんだろうか…


ミカエラ……







やがて、意識が消えた。





《続く》

2009-09-27





♪Luca Turilli's Rhapsody- Dante's Inferno
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第9話「狼女ヴァージニア(後編)」




「うふふ……綺麗な身体ね…」

キッチンのテーブルに全裸にされたビアンカが横たえられていた。


「とっても美味しそうよビアンカ…♪」

ヴァージニアは、ビアンカの頬と胸に軽く触れた。そして、次にミカエラを見遣る。こちらはソファーの上で衣服のまま、ほったらかしだ。

「この子は何者だろ?」


ブロンドの髪を掻き分けながら顔を覗き込む。

「綺麗な顔して…まさか、ホントに恋人?」


おもむろに服を脱がして驚いた。


「うっ……なんだこれ!?」

全裸にしたミカエラの身体を見回して、その奇妙な姿に仰天する。


「こ…この子もフリークスじゃない?なんだ…やっぱり“仲間”だったんだね。前にサーカスに居たブレンダと同じ身体だわ…」

ミカエラの、性器辺りを弄びながら独り言を続けるヴァージニアだった。

そして、静かに包丁を研ぎだす…


「お楽しみは後に取っておいて……まずは、こっちを殺すか…」


「う……」


鉈の様な包丁を持ち、振り向いた途端、ミカエラが呻き声を上げた。


「あら?…薬がもう切れたのかしら?」


「うあ…き、気持ち悪いよ…」

ついに、起き出すミカエラ。


そのまま、身体を捩曲げソファーから落ちてしまう。


その事態に、少し驚きながらも冷静に近付くヴァージニア。

「まったく…少しおとなしく…」


ミカエラの肩に手を伸ばすと、いきなり振り向いて手に噛み付いた。


「ぎゃっ!!」


血が滲む右手を押さえながら、後ろに下がる。

「噛むなんて!?」


完全に眼を覚ましたミカエラが、口から血を滴らせながら睨む。

その様は、まるで堕天使かヴァンパイアだった。

「わたし達を…どうする気なの…?」


「決まってるでしょ?殺して喰うんだよ!!あたしがなんで“狼女”って言われてたか教えてやろうか?ただ見掛けが毛むくじゃらだったからだけじゃない…。人の肉を喰うからさ。小さい頃から人肉が大好きだったからさ!」


「人肉を…?」


「あたしは、確かに見掛けは“普通の人間”に戻った。…けどね。中身は何も変わらない!変えられないんだよ!?」


「哀しいね…」


ふと、ビアンカの声がした。
こっちも薬が切れたらしい。
コイツら、一体何なんだ…?


「ビアンカ……」


ヨロヨロと、ふらつきながら起き上がるビアンカ。


「見掛けは治せても、心の中の怪物までは始末出来ないなんてね…」


「だったら何なのさ!?」


「わたしは、見掛けは化け物みたいでも…人間の心は失わないつもりだよ。それは、あんたに教わったことさ…」


「うっ…」


「…あんたは言ったよね?“わたし達は人間だ”って……」


その一言が効いた。


ヴァージニアは、包丁を落とすとそこにへたれ込み泣き出した。


「……だって…だって…止められないんだもの……ビアンカ…」


ミカエラが、不意にキッチンの隣の扉を開くと…


そこには、人間のモノと思しき骨の山が積み重なっていた。


「あらこんなにたくさん…あなた、これだけの人間を食べちゃったの?もう重症ね♪」


先程とは大違い、笑顔で骸骨を弄びながら振り返るミカエラ。


「うう……」


再び包丁を握ると、ビアンカに近付くヴァージニア。

「やっぱり死んで!ビアンカ!?」


「や…やめろ…ヴァージニア…」


まだ身体が動かないビアンカは、床をはいずるのがやっとだ。


「ビアンカ!?」


ミカエラが悲鳴を上げる。

背中に、包丁がかすめる…


「わたしのビアンカに何をするの!?」


髑髏を投げ付ける。それは見事にヴァージニアの頭部にヒットした。

「うぐぐ……」


頭を抱えてうずくまるヴァージニア。


「さあ、今のうちよ!ビアンカ!!」


ミカエラは、ビアンカの腕を引っ張ると片手に衣服を持ち走り出す。


「ミカエラ…なんでそんな……?あんた、薬が効かないのか…?」


「わたしね…この身体を治療する為に、今まで色んな薬を試してきたの…エステバンおじ様が世界中から秘薬を集めてね。……だけど、効果無かった。代わりに、普通に薬が効かない身体になってしまったのよ」


「それも哀しいね…」


「いいから、早く!!」


そこへ、再びライフルの弾丸が襲う。


「あんた達、逃がさないよ!!」


ヴァージニアが追ってきたのだ。


さらに銃撃。


一発が、ビアンカの肩を貫通した。

「うぐっっ」


青黒い血液を滴らせながら、うずくまるビアンカ。

「きゃあああっ!ビアンカ!?」


そして、猛烈な勢いで身嗜みを整えると、ミカエラはジープに猛ダッシュ!!

フロントに取り付けた機関銃を構える。


「HEY!狼女さん…ここまでおいで〜♪」


ライフルを構えたヴァージニアが小屋から駆け出して来る。


足元にはビアンカが転がっているが、ミカエラの姿に驚愕して気付かない。

「うっ……」


「地獄に逝っちゃいなさい〜♪」


機関銃を乱射するミカエラ。


「ミカエラ…」

その姿に驚愕しながら頭を抱えて弾丸を避けるビアンカ。


哀れ、ヴァージニアは、あまりにも短距離から機関銃を乱射されたため、悲鳴すら上げる暇もなくミンチの様な肉片になりながら、ビアンカの上に崩れ落ちていった…


「…もういい…やめろ…ミカエラ…」


ヴァージニアの血飛沫で、真っ赤に染まったビアンカが呻く。


「あははははは……♪♪
あ〜スッキリした♪悪い狼は死んだわよ!安心して、ビアンカ!!」


機関銃を構え、返り血の付いたドレスを着て笑うミカエラの姿を見て、ビアンカは背筋が凍り付いた。


(本物の死神かも知れない……)



興奮するミカエラの肩を押さえ、自らもジープの中に身を落とす。


「ヴァージニア…」


醜い肉片と化したヴァージニアを見据え、ビアンカは涙した。



なんでだよ、ヴァージニア…


あんた、人間なんだろ?

















わたしはビアンカ。



たとえ獣の様な姿でも、心までは堕ちたくない。





わたしは人間なんだ。






《続く》

初掲載2009-09-16

第8話「狼女ヴァージニア(前編)」





「見て!ビアンカ…綺麗♪♪」


ミカエラが子供みたいにはしゃいでる。

可愛い…と、思う。


そこには一面、花畑が広がっていた。

まるで、どこかで見た水彩画の様な幽玄な雰囲気すら漂う場所だった。


「国境を越えたな。ここは隣国アークランドに入る…」

地図を見ながらビアンカは言った。


振り向くとミカエラは、いつの間にか車を降りて花畑の中に埋まっていた。


「うふふ……」


「ミカエラ…ナニやってんだよ。行くよ?わたしら密入国者なんだから早く逃げなきゃ…」


「大丈夫よ…ここいらは検問が緩いから…」


「なんで分かるん…ハッ…」


考えてみれば、ミカエラは隣国ラボミアの首席の娘じゃないか…

つまり、周辺の国々の情報は詳しいはずだ。


独裁者エステバンは、周辺区域にも畏れられながらも慕われていたらしい。
つまり、周辺の国々には行き来しやすくなっているワケか…


なるほど。


これは、格好のナビゲーターだ。



「ビ・ア・ン・カ…」


声に顔を上げると、そこには満面の笑みをたたえたミカエラが立っていた。手を後ろに組み何かを隠している様だ。


「何?…何持ってるの?珍しい花でもあったの?」


「ジャジャ〜ン」


ミカエラが笑顔で取り出したのは人間の髑髏だった。


「ひ…ひぃっ…」


あまりにも驚いたビアンカは、そのままシートに尻餅をついた。


「あははははは…ビアたん臆病ね〜(笑)」


「ふ…ふざけんなミカエラ!?どっからそんなもん見つけてきた…」


「ん…そこにいっぱい落ちてた…」


ミカエラが指差す方向に、みすぼらしい小屋があった。


花畑ばかりに気を取られて気がつかなかったが、周りを見渡すと何やら異様な気配がする建物が数軒並んでいた。


「ミカエラ…行くよ」


「え〜?なんで…」


そこへ、銃声。


ジープと地面に数発、弾けた。


「きゃあ〜っ!!」


その場にしゃがみ込むミカエラ。

ビアンカは即座にマシンガンを取り出した。


どうやら小屋の方から、ライフルを撃った者が居る…?


「そこにいるのは誰!?」


甲高いが力強い、若い女の声だ。


ビアンカは、ミカエラを無理矢理ジープの中に引っ張り込むと、再びマシンガンを構えた。


「誰だと聞いてるの!?」


ビアンカは、不思議と聞き覚えのある声だと思った。


「あんたこそ何者だよ?いきなり発砲するなんて……」


「…………………」


少し間を置くと、小屋の中から若い女が出て来た。


インディアンの様なおさげ髪を結った白い肌の女だった。

ライフルを構えたまま、ビアンカとミカエラを見据える。


「まさか………」


ライフルが下がる。女が再び声を発する。


「ビアンカ……?」


…なんで自分の名を知っている?


「あんた、誰……?なんでわたしの名前を…」


「あたしよ!ヴァージニアよ…!?」


その名を聞いて、ビアンカは思い出した。



ヴァージニア…?


まさか、あのフリークスの館で共に逃げた?


あの“狼女さん”??


でも、目の前にいる女は、あのフサフサした犬みたいな毛むくじゃらのヴァージニアには似ても似つかない。


「あんたがヴァージニアなはずないよ!あの子は多毛症で、全身が犬みたいに毛むくじゃらだったからね…」


その女は、首を振る。


「ビアンカ…治ったのよ。病気が……パパが特効薬を見つけてきたのよ!不治の病ではなかったの…」


「治った…?」


ビアンカは、目の前に居るヴァージニアが、あの“狼女さん”とは別人にしか見えなかったが、声や雰囲気は確かにあのヴァージニアだ。


近付いて来る女。


「そう…治ったんだね?おめでとうヴァージニア…」


ビアンカは、無理に笑顔を取り繕っていたが心境は複雑だった。


何か、分かりあえる友人を一人失ってしまった気がした。


体毛が無くなったヴァージニアの素顔は、確かに綺麗だった。

ミカエラとはまた違う、精悍で野生的な美しさがあった。


「それで…こんな所で何を…?」


ビアンカが尋ねると、ヴァージニアは不意に手を握ってきた。


「まあ、こんなところで立ち話もなんだから中へどうぞ?」


「え…でも…」


ミカエラの方を向くと、何か嫉妬した様な目付きでヴァージニアを睨んでいた。


「あの子は?恋人かしら?」


「な…なに言ってんだよ。今そこで知り合ったばっかりのミカ…ガブリエラさ」


「新しいお友達ね?ガブリエラさん、よろしくね?あたしはヴァージニア…ビアンカとは古い仲なの」


何か、二人の間に火花が散った気がした。


「とりあえず、中でお茶でもどうぞ」


結局、ビアンカとミカエラの二人は無理矢理、小屋に入れられた。



小屋の中は意外と整然として、思ったより小綺麗だった。


何か、肉が腐った様な臭いがする以外は…。


「たいしたおもてなしは出来ないけど…」


飲み物と、何かシチューのような食べ物を運んで食卓に並べた。


ビアンカとミカエラは、居心地悪そうに椅子に座っていた。


「ヴァージニア…なんで、こんな辺境で暮らしてるの?せっかく“普通の人間”になれたのにさ…」


「普通の人間?あたしが…?」


「だって、あんた。病気は治ってそんな綺麗な顔になったじゃないか…」


「ふふ…まあね。外見はね」


ミカエラは、遠慮もせず料理にがっついていた。


「美味しい」


「ありがとう、ガブリエラさん…」


「ミ……ガブリエラ。少しは女らしくしろよ…」


「女じゃないもん」


笑顔でスープを飲み込んだ途端、ミカエラはそのままテーブルに突っ伏して眠り込んでしまった。


「うっ…ミカ…ガブリエラ?」


「あんまりがっつくから効き過ぎたみたいね」


「な、何言って…んだ…ヴァージ…??」


ビアンカも、強烈な怠さと眠気に襲われた。


身体の自由が利かない…


痺れが肉体を蝕む…


「…り、料理に…何か混ぜたな……?」


目の前が真っ暗になる。



やがて、ブラックアウト。



ビアンカと、ミカエラはそのままテーブルの上で眠りだしてしまった。



「…忘れたの?ビアンカ。あたしは“狼女”ヴァージニアだってこと…」









《続く》

初掲載2009-09-16

第7話「戦場のガーゴイル」




「ビアたん…わたし、オシッコしたい〜」


「はぁ…!?」


ジープを急停車させるビアンカ。


「……もう少し我慢しなよ!もうすぐダイナーがあるはずだから…」


「ダメ!漏れちゃう〜」


ミカエラはそのまま車から降りて草むらに猛ダッシュ!


そして、おもむろにスカートを捲り上げるとそのまま用を足していた。

無崘、立ち小便だ。


その豪快な姿を横目に見ながらビアンカは呆れていた。


(見ちゃいらんないよ…………)



「あ〜スッキリした……ビアたんはしないの?」


「あいにく、あなたとは身体の構造が違いますのよ……」


「残念ね(笑)」


「ああ、残念だよ!早く乗って…」


その時、ビアンカは見た。

ミカエラの背後に伸びる異様な影を………


蛇の様な蔦が、ミカエラの脚に絡み付いてきた。

「き、きゃぁあ〜〜!!な、ナニこれ!?ビアンカ〜!?」


ビアンカは、直ぐさまマシンガンを構えて車から身を乗り出す。


ミカエラの背後に、海坊主の様な黒い、植物の塊が…

…“居た”……


身体を横倒しにしながら、マシンガンを乱射するビアンカ。


ギエエエ…………


不気味な咆哮と、青黒い血液か樹液を撒き散らしながら崩れ落ちる黒い化け物。


「ビ…ビアンカ…」


抱き着くミカエラ。


「こ、これ何……?」


「魔族だ!!」


「まぞく……??ビアたんの仲間…?」


「ふざけんなっ!こんなのの仲間でたまるかっ!」


そのグロテスクな死体を見ながらビアンカは思った。

(…こんな所にも、魔族が現れた……?


人間の多い都市にはもっとこんな奴らが…?)


「行こう、ミカエラ…」










街に着いた。


しかし、そこは戦場だった。


政府軍と、ゲリラ兵が市街戦をしている。


響く銃声と爆音。


時折、歓声と悲鳴が混じった声が聞こえる。


兵隊達と市民の死体が無造作に転がってる。


老若男女の別もなく、この国の全てを巻き込み、革命と反逆、攻撃と防御。

総てが混然一体となり、国中を支配するカオス。


総統が倒れた事で、何かが崩れた。


だが、その引き金を引いたのは他ならぬビアンカ自身なのだ。


阿鼻叫喚の地獄を眼前に、ビアンカは戦慄する。


(わ、わたしは一体……何をしたんだろう…


人が、死んでいく…


大勢の人間が……


何の意味も、理由もなく…


ただ、戦火に巻き込まれて…

唐突に死んでいく。


わたしのせいなの…?)





「ビアンカに責任はないわ…」

まるで自分の心を見透かした様にミカエラが言った。


「ミカエラ……?」


「人間なんて、こんなものよ。綺麗な言葉と表情で上辺だけは着飾ってるけど、一皮剥けばケダモノと変わらない。いいえ、心があるだけ獣よりタチが悪いわ……」


確かにミカエラの言う通りだ。

滅べばいい。人間なんて…。


それは、常に一般社会より疎外されてきた二人の共通した認識だった。



一歩隔てた場所で、人間達の争いを睥睨する二人の姿は、まるで邪悪な悪魔と呪われし堕天使が並ぶ様に見えただろう。



「よおっ……やっぱりまた逢ったな……!!」


聞き覚えのある声。


振り返れば、ジープに乗り右肩にバズーカを構えたロッソ・モンターニャだった。


「あんた…確かロッソ…?」


「名前を覚えてくれて嬉しいぜ!ビアンカ…こんなとこで何をやってる?街は危険だぞ?…特に、あんた。ミカエラお嬢さんはな…なにしろ総統の…」


「ミカエラは、わたしが守る!!」


「ふふ…勇ましいこった……あんた、兄貴にそっくりだよ」


「!?……では、やはり……」


「ああ、俺はお前の親父の弟だよ。おじさんってワケだ」


「…では、魔族なのか?」


「正確には、人間に取り憑いた魔族だがな…このゲリラの身体を借りてる…」


ああ、やはり…。


パパの弟だって?


そんな悪魔が、何故こんな反体制グループに身をやつしている?


「…ロッソ。目的は何だ…?」


「ビアンカ。…俺は、兄貴と違って魔族が嫌いでなぁ…」


そこへ、上空からガーゴイルそっくりの魔物の大群が現れ、天空を黒く焦がしていた。


「あ…あれは……!?」


「おいでなすった…魔族の侵略部隊だ…奴らは、人間の混乱に乗じて現れる!!」


「ビ…ビアンカ…逃げよう…」

ミカエラが、ビアンカの腕にしがみつく。


ミカエラ……

そんなに怯えるなよ。


わたしがついてるだろ?




「俺の兄貴…つまりお前の親父は魔王に忠誠を誓い、これから人間達を攻撃する為にやって来るだろう…」


パパが現れるって…?


「だがな…俺は違う。俺は人間が好きだ。だから魔王に忠誠なんか誓わん!!俺は…この武力を人間の為に使う!!」


バズーカを黒い魔物達にぶっ放した。


悲鳴を上げて木っ端みじんに吹っ飛ぶガーゴイル達。


その様を、呆然と見守るビアンカ達。


「ビアンカ…お前はどっちなんだ!?」



冷や汗を流しながら、ビアンカはいつしか魔物達とゲリラと政府軍を交えた戦闘に発展した戦場を見据える。


右を向いても地獄。


左を向いても地獄だった。


「ビアンカ…行こう…」


ミカエラの、その言葉で我に返った。


そうだ。


わたしには、どちらでもいいことだ。


人間と魔族が相争う?



好きにすればいいさ。



わたしには人間も魔族も関係ない。




ミカエラ…行こう。



わたし達だけの世界へ。




ビアンカ達を乗せたジープは戦場と化した街を後にした。







わたしはビアンカ。



白でもなければ、黒でもない。




望むのは、争いのない世界。




ただ、それだけ…









《続く》

初掲載2009-09-09
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