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第13話「アンジェラ」

「やっほほーい風呂だ風呂だ〜」


「ほらっアイリーン!ちゃんと列に並びなっ」


女囚達がゾロゾロと列を作り、浴場へ向かっていた。


食事の後は短い休憩、そして労働の後に風呂が待っている。


「その子…大丈夫なのかい?」

看守ヴェルマが心配して覗き込む。


「大丈夫だよ。あたしが面倒見るから…」


モニカの後に寄り添う様に付き従うビアンカは、まだ朦朧とした意識のままだった。


「ふふ…手取り足取り、体中洗ってやるんだね」


その廊下に、軍靴の音が響いた。

冷ややかで、不気味な反響だけがコダマする。


「そいつがビアンカ・メタネーロかい…?」


副官を二人従えた長い黒髪の女が現れた。


「うっ…なんでアイツがここに……」


モニカはビアンカを遮る様に前に立った。


カーキ色の軍帽、軍服に黒いケープを纏い、手にはサーベルの様な鞭を持ち、こちらを睥睨する長身の女…


美麗だが、冷たさを称えたクールな顔立ち。


そして、薄紅色のサングラスから茶色がかった鋭い瞳がのぞく。


「アンジェラ…」


その言葉にサディスティックな笑みを浮かべる。

「モニカ…貴様に聞いてるんだよ…そこに隠れてる青っぽい娘はビアンカだろ?」


「だったら何だってんだよ?アンジェラお嬢さん…」


突如、アンジェラの膝蹴りがモニカのみぞおちを襲う。

「うぐあっ…」

悲鳴とともに身体を折り曲げるモニカ。


「口の聞き方に気をつけるんだね…薄汚いテロリストの雌犬がっ!!」


「アンジェラ・ガルシア大佐…何故、こんな所へ?」


ヴェルマが姿勢を正して、改めて聞いた。


「決まってるだろう…父を殺した悪魔を懲らしめに来たんだよ…」


「!?」


アンジェラは、モニカを跨ぎビアンカの髪を掴む。


「貴様か…ふふふ…やっぱり悪魔だね。悪魔そのものじゃないか…」


「わ…わたしは人間だ…」


不意に、ビアンカが口をきいた。振り向くモニカ。


「ビアンカ……?」


「こんなナリの人間が居るかっっ!!」


アンジェラは、ビアンカの首を思い切り絞めた。

「ぐふっ…」


「実の娘として、貴様は生かしちゃおけないんだよ…だけど、貴様には聞きたいことがある…来なっ…!!」


アンジェラは、そのままビアンカの髪を掴み引きずって行く。


「ああ〜っ…ビアンカ…」


追うモニカを羽交い締めで止めるヴェルマ。


「ダメだよモニカ!?あんたまで酷い目に遭うよ!!」


「ち…ちくしょう…」


涙を流しながら悔しがるモニカだがどうする事も出来ない。相手が悪過ぎた。


アンジェラ・ガルシアは“総統”エステバン・ガルシアの長女である。養子のミカエラと違い、血の繋がった実の娘だった。

美貌は母譲り、気性の激しさは父譲りで、父の仕事を手伝い、軍の幹部にまでなった剛の者である。




「……さて、どうしてくれようか……?」


拷問部屋の様な個室に監禁され、椅子に縛り付けられたビアンカ。


アンジェラは、エプロンの様な前掛けをし、おもむろに手袋を着けた。


「なあ、ビアンカ……どうしてパパを殺した?何故、ミカエラを誘拐した?…貴様は一体何者なんだ…?」


「う…う…」


自白剤を注射する。

ビアンカは、ようやく我に返って来た。


「あんた…誰だよ…」


「わたしはアンジェラ・ガルシア。ガルシア将軍の娘だよ」


「ガルシアの娘…?」


「貴様の拉致したミカエラは、わたしの可愛い妹なんだよ…わたしがどれくらい心配したか…貴様に分かるか?」


その言葉が終わらないうちにアンジェラはビアンカの右手の薬指の第一関節から先をニッパーの様な道具で切断した。


「う…ぐああっ…」

落ちる指。


夥しい流血。


「痛いかい…?当たり前さ…だけど貴様に殺されたパパや、誘拐されたミカエラ、そして、わたしの心の痛みはこんなものではないよ…」


苦痛に顔を歪めるビアンカ。


「う…うっ…そうか…ミカエラの姉ちゃんか……」


「馴れ馴れしくその名を呼ぶんじゃないよ蛆虫野郎!!」


アンジェラは、椅子を後ろから蹴飛ばした。

椅子ごと、つんのめるビアンカ。


「うぐっ…」


そして、再びその髪を掴み無理矢理起こした。


「貴様は…ここ最近、頻繁に現れる悪魔の仲間だろ?ええっ?貴様はこの国を滅ぼす為に地獄から来たんだろ?」


メスの様な刃物を口の中に突っ込み、そのまま頬を切り裂いた。


「や…やめろ……」


「やめるかよ…真相を聞くまではな…」


「…残念だけど、わたしは何も知らない…あんたの望む答えなんか体中探しても出て来ないよ…わたしは魔族の仲間じゃないからね…おばさん(笑)」


その言葉にキレたアンジェラは、ビアンカの服を引きちぎる。


「…なら、身体に聞いてやるよ」


剥き出しになった乳房を握り潰す。


「ぐ…この変態女…」


「口の減らない女だね!」


今度は、ズボンを剥ぎ取った。


「………やっぱり変態か…」


「あ〜ら、可愛い尻尾だこと……」


いきなりそれをむしり取るアンジェラ。


「ぎゃあああっ…!」


さすがのビアンカも凄まじい悲鳴を上げた。

青黒い血液が、臀部から流れる。


「くっ……ババア…」

涙目になりながらも悪態をつくビアンカ。


「言いたい事はそれだけかい?腐った豚がっ!」


小型の電動ドリルを鳴らすと、ビアンカの両脚を無理矢理開かせた。

「な…何を…」


「生意気にも、ココは人間と同じ形してるんだねぇ…?」


「や…やめろー!!」


だが、お構いなしにアンジェラはドリルを突っ込んだ。


ビアンカの、声にならない悲鳴が部屋中響く。


「さあ、答えな!貴様は悪魔の仲間で、わたしのパパを殺しに来た。あまつさえ可愛いミカエラまで誘拐して……」


唐突に涙を流すアンジェラ。


「うっ…う……」


激痛に身を悶えながらビアンカは上体を起こした。

「あ…悪魔はお前だ…アンジェラ…!!」


その時、ビアンカの瞳が更に紅く輝いた。


二対の角が伸びる。


背には、徐々に翼が盛り上がる。


手枷、足枷が弾け飛んだ。

失くした指と尻尾が再生し、身体中の傷が塞がってゆく…


「な…なんだ……!?」









《続く》

初出2009-10-06






第12話「ミカエラの予感」

「ほら、しっかりするんだよビアンカ…」

おもむろにモニカはビアンカの体勢を整える。


ビアンカは、まだ怯えたまま膝を抱えて泣いている。


「ほら、あんた達!見てないでこの子の服を返しておやりよ!!」

アイリーンやマキ達に向かい叫ぶモニカ。


「う…ヴィクトリア……あんた力あんだろ。行きなよ…」


ヴィクトリアと呼ばれた巨体の少女がビアンカの身体を抱えて服を着せる。だが、糸の切れた操り人形の様にヘナヘナと崩れるビアンカの肢体。


(……!?一体、どーしたってのさ、この娘は?さっきまでの威勢はどこに行っちまったんだよ…?)


そこへ看守がやって来た。
通称“ママ”と呼ばれる太った女看守ヴェルマだ。


「59房…何事もないか?」


「ママかい?」


「モニカ、食事の時間だ…」


「やっほほーい!メシだ〜メシだ〜」

アイリーンらが喜び勇んで牢屋を飛び出して行く。マキやヴィッキーらもそれに続く。


「ああっアイリーン!ちゃんと列になって…」



「ママ…」


「ああ、モニカ…仲良くしてるかい?早く並びなよ」


「悪いけど、あたしとこの子の食事…ここに持って来てくれないかな?」


「あんだって?」


ビアンカはまだ膝を抱えたまま、ぶつぶつ呟いてる。
モニカの髪を掴んでは何か怯えた目つきで見上げていた。

「ミカエラ…ミカエラ…」

また涙を流す。


「…こんな有様でさ…食堂まで行けそうにないのさ」


ヴェルマは黙って頷いた。






「…ほら、ビアンカ……口をあ〜んして」


だが、ビアンカはスプーンを珍しそうに見詰めるだけで何もしない。


「…ダメだね、その娘。完全に壊れちまってるね。何があったんだい?」


「あたしが知りたいぐらいだね!まあ、あんたに世話を頼まれたからこっちも仕方ないけどさ…」


今度は口の中でかみ砕いた食事を口移しでビアンカに食べさせているモニカ。


まるでキスでもしてる風な姿勢で抱き着いてきたビアンカは、ようやくそれを受け入れた。


「良かった…食べてくれたよ…」


「あんたの献身ぶりは、ちょっと度が過ぎてないかい…?」


「あたしがこの子に何か特別な感情を?よしてくれよ。そんな趣味はないよ。この子見てると妹を思い出すのさ…」


「ああ、病気で死んだっていうクラウディア…だっけ?」


「そう。クラウディアはもっと小さかったけど、あの子もいつも何かに怯えてた……病魔が精神まで蝕んでたんだよ。可哀相に……」


ビアンカの頬を撫でながら、モニカは目に涙を浮かべていた。


「ところで、ロッソとはまだ連絡は取れないのかい…?」


「ああ…最近行方をくらましてるみたいでね。先週、ほら総統の娘がアークランドで見つかったろ?今度はそっちに興味が行ってるみたいでね。政府軍がまだ強固だから違う作戦を考えてるらしいけど…なんて言ったっけ?総統の娘…」


「ミカエラ…ミカエラ…」


タイミング良くビアンカが呟いた。


「そう、ミカエラお嬢さんだよ…」


「なんでさっきからビアンカは、その名前を?」


「まさか総統を暗殺してミカエラを拉致した犯人って…?」


「ビアンカ!あんたなのかい?」


モニカは、ビアンカの腕を掴んで軽く揺さぶるが何の反応もなく、ただモニカの碧眼を凝視するのみ。

「ミカ…エラ…」








此処は、ラボミア共和国の南西部に位置する海岸。

その崖のそばに反政府組織“赤いコヨーテ”のアジトがあった。

地図を見遣りながら、頭の禿げた幹部が叫ぶ。


「ロッソ、本気かい?」


「当たり前だ…政府軍がまだ健在で、アルメイダ将軍が強硬な抵抗を続ける以上は俺達も手が出せない。こないだみたいに魔族が来ればどさくさで色々出来るんだがな…そう上手くも行かないね」


「だけど、総統の屋敷の警護も半端じゃねえぞ?」


「俺には確信があるんだ。ミカエラお嬢さんさえ連れ出せれば後はなんとかなる…」


「お嬢さんが俺達に味方するって保証があるのか?」


「あるさ…そして、ミカエラを連れて今度は南ラボミア刑務所を襲う」


「モニカ達を助けるのか?いや、むしろそっちが先じゃないのか…?」


「まあな。だが政治犯数人より、ミカエラは“錦の御旗”になる。どっちが反乱軍になるかの瀬戸際さ…」


「そいつは痛快だ。一気にひっくり返すか?」


「ああ…もう国内で争ってる時間も、あまり無くなって来たからな…兄貴が…」


「兄貴?」


「ああ、なんでもない……エディ、23時には出掛けるぞ。支度急げよ…」


「了解」





一方、戦車や装甲車でバリケードされた総統の屋敷では、ミカエラも動きを見せていた。


「お嬢様……?」


「お早う…アンナ」


アンナと呼ばれた年老いたメイドに向かい笑顔で接するミカエラ。


「まあまあ…ミカエラ様。お体の具合はもう…?」


「どこも悪くないわ!それに、おじ様亡きあとはわたしがしっかりしないとねさっ…早く食事の用意をして」


何かを予感するかの様に、ミカエラは窓の外に目をやった。

空はまだ明けたばかりだ。






《続く》

初掲載2009-10-04

第11話「女囚ビアンカ」

ビアンカの怪我は重傷だったが、持ち前の治癒能力で一週間程で快復し、普通に生活が出来た。


だが、彼女を待っていたのは更なる地獄だった。




此処は、ラボミア共和国南部にある女子刑務所。


広場で受刑囚達が騒いでいた。


「そこだ!やっちまえ!!」


「負けんなマキ!!」


取り囲む囚人は数十人。

1番大声を出してるのは赤い髪をした若い女アイリーンだ。


ビアンカは、マキと言う黒髪の娘と取っ組み合いの喧嘩をしていた。


そこへ、警備隊が現れる。

「またお前かーっビアンカ!!」


取り押さえられるビアンカ。

グレーの囚人服を着たビアンカは、すっかり快復し喧嘩するぐらい元気になっていた。


「なんだよ…離せよ!あんたら関係ないだろ…」


「やかましい!!」


ビアンカは警備員にめった打ちにされて、その場に沈む。

「へん…いい気味だよ…悪魔野郎…」


その騒ぎを冷ややかに見守る女が居た。

ブロンドの髪を持つモデルの様な容姿の女囚達のボス的存在のモニカだった。


「あの子はあんたに任せたよ…」


「ママ…」


ママと呼ばれた巨体を持つ看守ヴェルマは、モニカに視線を向ける。


「ああ、あたしに任せて……あんな小娘…」


ビアンカは、痣だらけになりながら独房に運ばれて来た。


「待ちなよ…」


「モニカか…?何か…」


「その子は、あたしの房で預かるよ…」


「しかし、あんたの所にはアイリーンやマキが…」


「大丈夫だよ…あたしがいるんだから…仲良くさせてみせるさ」


モニカが警備員にニヤリと笑ってみせる。
ビアンカが顔を上げ、その紅い瞳でモニカを見遣る。

「…誰だか知らないけど、余計なお世話だよ…わたしは…」


「黙ってろ!!」


またボコ殴りにされて倒れるビアンカ。






気が付くと、ビアンカは周りを女囚達に囲まれていた。


「お目覚めかい?小悪魔ちゃん…」


「うう…」

悪意に満ちた視線がビアンカの体中に纏わり付く。

「またやる気かい…」


「ふっふ…あんたホントに蒼いねえ…」


モニカが上座らしい場所から近付いてくる。

おもむろに頬に触る。


「………………?」


「瞳も真っ赤っか…角まで生えてる…」


「それがどうした…」


「あんた、何者なんだい…?まさか本物の悪魔だなんて言わないよね?」


「あんたにゃ関係ないだろ…」


モニカの顔に怒気がみなぎる。
アイリーンの方をチラリと見遣ると背を向けた。

「好きにしていいよ…」


ジリジリと近寄る女囚達。

「…なんだよ……」


「おいっ…尻尾があるか確かめてみようぜ!!」


「おもしれー!素っ裸に剥いちまえー!」


「やめろーー!?」


牢屋はたちまち修羅場と化し、ビアンカは瞬く間に裸にされていた。


「うっ……」

囚人達は息を呑む。


全身に鰐皮の様な鱗を持ち、蒼い皮膚は微妙な光沢を放つ。

そして、尻の上を蛇の様にのたうつ尻尾…


ビアンカは胸を押さえながら膝を抱え後退する。


「コ、コイツ…本物だ…」


「悪魔だ!!」


裸にされ際立つ、いかにも“魔女然”としたその姿に囚人達は恐れだす。


「あ…あ…」

だが、過去の迫害を思い出し恐怖を抱いていたのはビアンカの方だった。


「悪魔の子め!」


「なんて気味の悪い姿なんだ……」


「紅い眼を見るなよ。呪われるぞ……」


「地獄へ帰れ!化け物!!」


いつしか、涙が溢れて来ていた。


(ああ……ママ…助けて…

ママ……


何処に居るの……??


うう…ああ………)



「あれ?コイツ、泣いてるよ……悪魔のくせに意外と…」


「よしな…」


見兼ねて止めたのは他ならぬモニカだった。


「モニカ姐さん…」


「ビアンカ…何があったか知らないけど、相当酷い目に遭ってるみたいだね。あんた、一体どんな事やらかして“此処”に来たんだい?」


だが、ビアンカはモニカの姿が目に入らない。まだ身体を震わせて膝を抱えていた。

モニカが近付き、ビアンカの腕を掴む。
ブロンドの髪が頬に触れた。

「ミ…ミカエラ…」


無意識に、その髪を掴み呻いていた。


「ミカエラ…?」







一方、ミカエラはアークランド警察に身柄を拘束され、厳重に警護されたラボミアの屋敷に戻されていた。


「どうだ?お嬢さんの様子は…」


将軍が、執事とメイドに尋ねるが首を振るばかり。


「いけません。食事もとらず部屋に閉じこもり泣いてばかりです…」


「ふむ。父親が目の前で殺され自身は犯人に連れ廻されていたのだ。まだショック状態なのだろうが……医者は?」


「身体は病気も怪我も何も見つからないと。ですが、やはり精神的に…」


「…そうか…」


困った顔をしながら二人を見る将軍。



暗い部屋の中…


やつれた顔に金髪がかかる。

虚ろな碧い瞳は何も見ていない。

ただ、大好きな髑髏を抱え一人呟くミカエラ。


「ビアンカ…ビアンカ……今、逢いに行くわ。待ってて…可哀相なビアンカ………うふふ♪」


頬に涙が伝う。


口元に笑みが走った。









《続く》

初掲載2009-10-01
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