スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

『ヴァージニア外伝Y〜Under a violet moon(月下酒宴)』








「ねえ、ルカ…」


「うん……?」


紫色の月明かりの下、ルカとヴァージニアの2人は杯を交わす。


それは、毎夜の趣向だった。


夜の静寂(しじま)…


月明かりと、森の生き物達だけが2人を暗闇から見つめていた。




「あたし達に子供が出来たら、その子は人狼…?それともヴァンパイアなのかしらね…?」


血潮の如き深紅のワインをグラスに注ぎながら、彼は彼女の瞳を見た。


「子供が欲しいのか…?」


彼女は、おもむろに頷く。

心なしか、その紅い瞳は潤んで見えた。


ルカは、皮肉な笑みを洩らすとグラスを置き彼女に顔を近付けた。


「人肉食いの吸血鬼だろうな…ふふふ…」


「ルカ……あたしは真面目な話をしているのよ…」



不意に、ヴァージニアの瞳から紅い光が洩れた。


彼女は泣いていたのだ。


「…どうした…?」



「ルカ…あたし怖いの…」


「何が…?」


「あたしの子供が、あたしと同じように虐められるんじゃないかって…」


「…そんなことは我輩がさせるものか…」


不意に、ヴァージニアは、人間だった頃の記憶が鮮明に甦り、唐突に涙が止まらなくなっていた。


「あたしの子に…あんな思いはさせたくない…」


「泣き上戸だったのか…?ふふ…心配するな。君と我輩の子供ならそんな目に遭うはずがない…」


だが、ヴァージニアの慟哭は未だに止まらない。
俯いたまま、彼女は肩を震わせていた。



「ヴァージニア…泣くな…」


やおら、彼女の肩に手を伸ばす。


「…聞くんだ…」


「……ルカ?」


「…もし、我々に子供が出来たら名前はどうするかな…?」


「子供の…名前…?」


「そうだ。吸血鬼の我輩と人狼のキミの子に相応しい名前を考えるとなれば厄介だぞ…」


「名前…そうね。どんな名前がいいかしら?男の子なら、エリック、アンソニーなんて響きが素敵じゃない?…それとも、無難にルカJr.…かしらね?」




「“ドラキュラ”…なんて、どうだい?」



それを聞いたヴァージニアは刹那、呆気に取られた。


「は…?ドラ…キュラ…?」


「そうだ。“ドラキュラ”…素敵な名前だろう?」


ヴァージニアは吹き出した。


「……ぷっ…あは…あははははは…♪…ルカ、あなたにも冗談が言えたのね…!?…あははははは…ああ〜可笑しい…」



「我輩は真面目だ…」


その言葉通り、ルカは仏頂面のまま彼女を睨み返しながらワインを口に運んだ。



「あははははははは!!…ルカったら…♪」


「そんなに可笑しいか…?今度は笑い上戸か…?」


あまりに楽しそうな笑い声に、ルカもいつしか笑みが洩れていた。


「そうね。ドラキュラもいいけど、ルイやレスタト(※)もよろしくってよ♪あははははは…」


「女ならクローディアか…?ふふふ…」


「あははははははは…♪」


「ふふふ…」









月明かりの下、グロウ・イン・ザ・ダークの如き2人の姿と笑い声は絶えなかった。



それは、闇の血族のみが知る夜の静寂と安らぎの一時だった。








初掲載2010-11-21




※ルイ、レスタト、クローディア…それぞれ、小説(及び映画)『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』に登場する吸血鬼一族の名前。



【インスパイアされた楽曲】

◆Blackmore's Night - Under a Violet Moon Live
www.youtube.com
※ヴォーカルのキャンディス・ナイトはミカエラのモデルです。





いつもdjango小説をご愛読ありがとうございます!!
応援よろしくお願いします♪(≧∇≦)

『ヴァージニア外伝X〜Witch's nightmare(魔女の夜)』











「あれは…クローディア…!?」


淡い紅い瞳を、驚愕の表情で見開いたヴァージニア。


雑踏の中、一人立ち竦む。



今宵はハロウィーンの夜。



人々は一夜の狂騒に酔いしれる。


魔女やお化け、カボチャのジャック・オゥ・ランタン等の扮装をした子供や大人達が街に繰り出しお祭り騒ぎ。



不意に、彼女はこのフェスティバルにフラリと出向いた。


特に意味はなかった。


自分の故郷である南欧アークランドの地元の祭りを急に懐かしく思ったからだ。



地元では、凶悪な殺人犯として知られているかも知れない。


しかし、彼女自身の面相があまりに変貌しているために、まず身バレする心配はない。


事実、噂では“毛むくじゃらの多毛症ヴァージニア”は死んだとか、精神病院にいると言われているらしい。


「うふふ…おかしい…♪」



オレンジと黒で着飾った街を練り歩くヴァージニアは、いつもの様に黒いロングコート。


ハロウィーンに合わせてマスカレード風の蝶の形のグラスを掛けていた。



途中、何人か見知った顔と擦れ違ったが、まさかここに“毛むくじゃらのヴァージニア”がいるとは誰も気付かない。



街はまるで魔界から飛び出した様な奇怪なデーモンや百鬼夜行が溢れ「悪戯か、お菓子」と催促する。



「まさか、本物の“狼女”が紛れ込んでるとは誰も思わないでしょうね…♪」


自分がかつて飼い猫の仇と殺した小さな兄妹の様な子供達が、赤い悪魔やワンダーウーマンの扮装で、自分にお菓子をねだる。



ヴァージニアは、その子供達の頭を撫でながら、ポケットから飴玉を渡す。


「可愛い…♪嗚呼、ルカも連れて来たかったわ…」



人間嫌いのルカは、絶対に街中で自分と行動を共にしないのは分かっていた。

しかし、一抹の寂しさを覚えたのは確かだった。


不意に、ルカとの間にあんな子供が居れば…

と、思い返し顔を赤らめるヴァージニアだった。


(そうよ。子供が出来れば…ルカだって…)



一向に後継ぎを作る気のないルカにヤキモキしながら、未だ新しい命が授かりそうにない自らの腹部を擦ってみた。



「闇の生き物は個体の生命力が強すぎて子孫を残す概念が希薄なのだわ…きっと…」



溜め息をつきながら、おもむろに露店を見ると、そこに見覚えのある車椅子が目に入った。


其処に座る主は、赤い髪を腰まで伸ばした色白の娘。


前髪は眉毛の前で真っ直ぐ切り揃え、メガネをかけた地味な顔立ち。


「あれは…クローディア…!?」


彼女は覚えていた。


ハイスクール時代まで、ずっと虐められていた自分の唯一の幼なじみで味方だった車椅子のクローディア…



彼女は、生まれた時から四肢に異常があり、特に脚は完全に関節が動かず、車椅子生活を余儀なくされていた。


毛むくじゃらで常に疎外されていたヴァージニアにとって、唯一話し相手になってくれていたクローディア…



だが、そんな彼女も途中で親の転勤で離ればなれになってしまい、そこからが再びヴァージニアの地獄だった…



彼女は、クローディアの姿を見て、懐かしく思う反面、あまりに変わってしまった自分の姿に、会っても気付いてもらえないであろう寂しさを感じた。



露店でジュースを買うフリをして、彼女に近づくヴァージニア。


クローディアの周りは彼氏らしき男性や、仮装した友達や子供達に囲まれ、楽しそうに談笑している。



「…そう。その赤いジュースをちょうだい…」


不意に、黒いロングコートの女の姿を気に止めるクローディア。


「あいよ♪ブラッディ・コーク!!」


店の親父はヴァージニアからお金を手渡されると、赤い液体の入った瓶を渡す。


「ありがとう♪」




「ヴァージニア…!?」

不意に、クローディアが彼女に向かい声を発した。


「えっ…!?」


「あなた、ヴァージニアね…!?そうでしょ…?」


「え…いいえ、あたしは…」


赤い瓶を落としそうになりながらも、クローディアに対し振り返る。


(…どうして、あたしだと分かった…?姿形は全然違うのに…)



「ひ、人違いじゃなくて…?あ、あたしは…ヴァージニアじゃ…」


「雰囲気は変わったみたいだけど、声は変わってないよ!良かった♪元気そうじゃない!!」


注目が集まる。


覚悟を決めて、仮装のグラスを外すヴァージニア。


「クローディア…?」


「嗚呼、やっぱりヴァージニアだったのね♪会えて嬉しいわ…」


「あ、あたしだって…」


不意に、その紅い瞳を熱くするヴァージニアだった。








街の喧騒から離れ、誰も居ない静かな丘の上の木陰に二人きりになる。


クローディアの車椅子を押しながら、ヴァージニアは微笑みが止まらなかった。


「…そう。色々あったのね。お互いに…」


ヴァージニアは、自分がフリークス・サーカスに売り飛ばされたことや、ビアンカやルカ達との出会いを細部をボカシながらもかいつまんで話した。


クローディアも、自らの転校先での出来事や、不意に故郷を思い出し、彼氏や友達と一緒に地元のハロウィーン・パーティーに来たことを話した。


「…なんだか、導かれたみたいね…」


「不思議ね…」


刹那の沈黙。


そして、クローディアはヴァージニアの紅い瞳を覗き込む。


「不思議なのはあなたよ!一体、どうやったらこんな綺麗な姿になれるの?」


「えっ…?」


「あなたは、もともと綺麗な碧眼だったけど、紅い瞳もとっても素敵だわ…♪」


まるで、キスでもするかの様に覗き込むクローディアに戸惑うヴァージニア。


「…クローディア…」


今度は、ヴァージニアの栗色の長い髪を触りながら、更に顔を近付ける。


「…あなたは、身体中剛毛で覆われていたわね…それが、今やこんなサラサラなのね…肌だって…」


今度は頬を擦る。


戸惑うヴァージニアだが、悪い気はしない。


いつしか、クローディアは車椅子から降り、ヴァージニアの肩にもたれ掛かり頬にキスを繰り返していた。


「…あなた。彼氏がいるんでしょ…?」


「関係ないわ。今はあなたに会えた嬉しさでいっぱい…」


「あたしだって嬉しいわ…クローディア。今までありがとう…。あなたが居なかったら、あたしはとっくに…」


唇に直接、キスを返した。


「あ……」


不意の行動に、急に大人しくなるクローディア。


「…羨ましい。あなたが…どうやったら、そんなに変われるのかしら…?わたしは、一生車椅子がないと生きられない身体なんだもの…」


ヴァージニアは、自分を変えた“魔女”を思い出す。


「クローディア…あなたにも紹介してあげようか…?」


「誰を…?」


「あたしを変えた…“あの人”を…」



ヴァージニアの淡い紅い瞳が、更に紅く輝いた。


それは、怪しく月の光に揺れる。


クローディアの赤い髪が、ヴァージニアの頬に被さった。


闇夜の風が、二人の間に静かに流れていた。














数日後、ヴァージニアは風の便りでこんな噂を耳にした。







“ハロウィーン・パーティーの晩に、自ら付き合っていた男性と友人、そして、近所の子供達数人を殺害した車椅子の女が逃亡”



「嗚呼…クローディア…。あなた、とうとうやったのね…」



目撃者の証言では、その女は車椅子から立ち上がり、狂喜の笑みを浮かべながら、恐るべき健脚で走り去って行ったと言う。



魔女は、彼女の脚と家族の幸せを計りにかけたのだ。



「おめでとう…クローディア…これで、あなたも……」



ルカの城のバルコニーで満月を見上げ、不意に涙を流すヴァージニアだった。







《完》

初掲載2010-10-21





人間の幸福って何でしょうね?





いつも、鬼畜で眩惑のdjango小説(笑)をご愛読ありがとうございます♪(゜∀゜)



応援よろしくお願いいたします!!\(^o^)/

『ヴァージニア外伝W〜皆殺しのセレナーデ〜其之肆・ハウリング(完結編)』









「今夜は遅くなる…恐らく、明日の昼までは帰宅出来ないだろう…」


そう言ってルカは、宵闇の中を飛び立って行った。


なんでも“ヴァンパイア会議”なるものが遠くで開催されるらしい。

魔界でも伯爵の地位を得ているルカは、南欧の吸血鬼代表として、どうしても出席せざるをえないらしい。


「心配するな。いや、むしろ、我輩はキミの事が心配でならない…」


「大丈夫よ。ルカ♪」

軽く口付けを交わすと、ヴァージニアは微笑んだ。


「ウム。…兆しが見えている。もしかしたら、それは今晩訪れるかも知れないな…。その姿を見れないのが残念だよ…」


「兆し…?一体何のことかしら…?」


「すぐにわかるさ…。もし、例の奴らが来ても慌てないことだ。キミが負けるはずはないからな…」


その言葉を聞いて、逆に彼女は不安になってきた。


長老は、アリシア達のことを“死神”と呼んでいた。


“人外の者”とも。


一体奴らは何者なんだろうか?


人狼族に対しては、桁違いの強さを見せたヴァージニアだが、相手が得体の知れない化性ならば話は別だ。


アリシアは、あっさりと倒せた。


しかし、更に別の能力を持った敵が現れた時、彼女に太刀打ち出来るのだろうか…。



主の居ない古城の中で独り…。


そんな不安に苛まれながら、ヴァージニアは湯に浸かる。



「♪ふん、ふん…ふふん……♪」


先程の不安など、どこ吹く風と、彼女は鼻唄まじりに地下の温泉を堪能していた。


かつては毛むくじゃらだったが、生まれ変わり人も羨む美神の様になった白い肌を晒しながら、彼女は小さな窓から星空を覗く。


「…なんて綺麗なお星様…♪」



ここ数日の、血塗れの死闘の疲れがすっかり癒える心地良さだった。


不意に、自らの顔や白い裸身が湯に映り、自らの過去に思いをはせた。


(…ヴァージニア…見違えたよ!いや、顔の形は変わっていないはずだ。本当はキミは美人だったんだよ!)


あたしを愛してくれたコーネリアスは死んだ。


(怪物め!!もう、わしらの手には負えん!!)


唯一の友達だった飼い猫を殺した近所の兄妹に復讐したあたしを、化け物でも見るかの様な目で蔑んだ両親…


あなた達は、本当に娘を愛していたのですか?


不意に目頭が熱くなり、それを湯で拭った。


そんな両親も、炎の中で死んだ。



サーカス団で出会ったビアンカは、紆余曲折の末、再び親友に戻ることができた。



そして、何よりも闇の淵から自らを救い上げてくれた吸血鬼のルカ…。


彼こそが、ヴァージニアにとってかけがえのない大恩人にして運命の人だった。



(…もしかしたら、あたしは幸せ過ぎるのかも知れないね…)



「…そう。そして、幾多の犠牲の上に貴様の幸福が成り立っていることを忘れるな…」


不意に、闇の奥から声が聞こえた。


「…誰!?」


だが、ヴァージニアはその声に聞き覚えがあった。


「わたしは、魂の天秤に均等をもたらす者…」


今度は、湯の中から声が聞こえた。


「そ…その声は…」


「罪と罰を計り、罪人を懲らしめる者…」


「悪しき者の弊害に命を奪われた魂を救う者…」


その、訓辞の様な台詞とともに、目に見えぬ圧迫感が迫る。



「さあ、自らの罪を悔い改めよ。さもなくば“死”を!!」


ヴァージニアの前に現れた無数の魂…


それは、数日前に彼女が確かに惨殺したはずのアリシアだった。


「アリシア…?何故、あなたが…」


ヴァージニアが浸かる湯槽の周りには、どうやってそこに存在出来るのだろうと思うぐらいの、無数の“アリシア”が彼女を見下ろしていた。


オカッパの様な髪型、黒いサングラス。

そして、真っ赤なコートに真っ黒なシャツ。

更に拳銃を構えたアリシア達が一寸違わぬ姿で群れをなす。


「な…なんなの?あなた達は…」


「言ったろう。わたしは貴様の殺した無数の魂のために貴様を狙う死の天使!!さあ、懺悔の時間だよ…」


その、あまりの異様な光景に、さしもの女狼ヴァージニアも腰を抜かした様に硬直していた。


そして、不意に瞳を濡らす。


「そう…確かにね。あたしは自らのコンプレックスの反動で、みんなに酷いことばかりしてきたわね…」


肩を落とし、意気消沈した様な表情で、ヴァージニアは湯から上がる。


火照った裸身が闇に浮かび上がる。

そして、その場にへたり込む様に膝を付いた。


その儚げな、あまりにも殊勝な姿にアリシアは驚嘆する。


「あんたの心にも、僅かばかりの“善性”が残っていたと言うことだね…さあ、ヴァージニア…わたしを見るんだ…」


サングラスを外し、その碧眼で優しげに見詰めるアリシア達。


「ご…ごめんなさい…あたしは今まで罪もない人々を殺めてきた。すべてはあたしのエゴのために…ああ…」


裸のまま合掌し、正座の姿勢でその場に崩れ落ちるヴァージニア。


彼女の周りには、今まで殺めた魂達が集い、取り囲む。


不意に、天井から光が射し讃美歌が聞こえた気がした。


アリシアに屈し、赦しを乞うヴァージニアの周りは不思議な光体で包まれていた。


「さあ、ヴァージニアよ…貴様の罪を自らの命をもって償うがいい…」


おもむろに、アリシアはヴァージニアに拳銃を渡す。


「そのピストルで頭を撃ち抜き、自らの手で果てるがいい…。それがお前の“償い”だ…」


アリシアから渡された拳銃を不思議そうに眺めたあと、彼女はソレを自らのコメカミに当てた。


「さあ、引き金を引け…自らケリを着けるんだよ!ヴァージニア!!」


言われるがまま、ヴァージニアは引き金を引いた。





















だが、そこに倒れたのはアリシアだった。


無数のアリシアのうちの一人がヴァージニアの発砲で額を撃ち抜かれて血塗れになって倒れた。


「うっ…貴様……!?…一体何を…」


裸のまま、平伏した様な姿勢だったヴァージニアの肩が微かに震える。


「ふっ…くっくっく…」


「ヴァージニア…?」


顔を上げたヴァージニアは、満面の笑みだった。



「ふっふっふっふ…あはは…ははははは…ああ、可笑しい。あたしが罪を悔い改めるだって…?」


周りを取り囲むアリシア達に動揺が走る。


「なっ…貴様……!!」


「あたしに殺された連中は…そう、弱かったから死んだ。むしろ、あたしに殺される運命だったから死んだのさ!」


「何を…!?」


「あたしは罪なんか犯しちゃいない。生きるために殺したのさ!自分が生きるために…それを、あなた如きに責められる筋合いはなくてよ…!?」


徐々に、裸体の肌に獣の様な剛毛が生え揃い、その顔も“狼”化してゆくヴァージニア。


「死神だか貧乏神だか知らないけど、あたしを裁けるものなら裁いてみるがいいさ…」


変身が終わると、そのおぞましい姿で立ち上がる。


その魔性の獣人の姿を目の当たりにしたアリシア達は、徐々に身体を退かせた。


「あ…ああ…!?…何なんだ。コイツは…!?まともな精神を持つ者なら、とっくに発狂するか自死しているはずなのに…」


「グルル…」


低い唸りを上げる“人狼”ヴァージニア。



「えげつないわねぇ…♪正義の死神だかなんだか知らないけど…やることが幼稚過ぎるんじゃなくて?」



「お、おのれぃー!?」


アリシア達が一斉に拳銃を向ける。


「ぐぉああおおおお!!」


その一瞬の隙を突いて、アリシアの群れに襲い掛かるヴァージニア。


その半数が一瞬のうちに食い散らかされた。


辺りに血煙が舞い、浴場は真っ赤な霧で染まる。


「そ…そんな…バカ…なっ…!?」



今度は背中に挿した日本刀の様なサーベルを一斉に抜くアリシア軍団。


だが、ヴァージニアの方が一瞬早く、彼女らを絡めとると即座にズタズタに切り裂いてみせた。


最後に生き残ったアリシアの一人の首筋に噛み付くと、そのまま咬み千切る。


「バカな…我々の攻撃がまったく効かないなんて…貴様は一体…」


今度は、徐々に“人間化”するヴァージニア。


息も絶え絶えのアリシアに顔を近付け、言い放った。


「あたしを敵に回すのは百億那由多ぐらい早かったんじゃなくてぇ〜?」


「なっ…何故だ…貴様には良心の呵責はないのか?精神の葛藤は?迷いはないと言うのか…!?」


「良心?呵責?そんなものが、この弱肉強食の世の中で生きていくのに何の価値が、何の意味があると言うの…?安っぽいヒューマニズムが何の役に立つの?あたしに必要なのは神でも理性でも、ましてや“慈悲”でもない…。すべては“本能”が赴くままよ…」


「…誤ったか…?この女…本物の“ケモノ”だった…のか…ぐふぁっ…」


言葉の終わらぬうちに、最後のアリシアが果てた。


その姿を冷静に見詰めるヴァージニア。



「そう。すべてがあなたの過ちだったのよ♪今更、後悔したって遅すぎる。…あたしを誰だと思ってるの…?」


アリシア達から目を背け、天空に映える満月や煌めく星々に目を向ける。




「あたしの名はヴァージニア。
人外の女狼…
あたしを邪魔する奴は、たとえ神であろうとも皆殺しにしてやるわ!!
うふふふふ……

…あはははははははははははははははははははははは!!!!!!」


満天の星空の下、狂悪なる女狼のセレナーデが響き渡っていた。



こうして、ヴァージニアは、人狼として、魔族として、また格段の進化を遂げたのである。





《完》


初掲載2010-08-27



いつもご愛読ありがとうございます(^^)v
応援よろしくお願いしますm(__)m

『ヴァージニア外伝W〜皆殺しのセレナーデ〜其之参・バーサーカー』









「ひぃあぁ…い、痛い…痛いよぉ〜…」


半裸のソフィーが半べそをかいて、乳房の無くなった胸を押さえながら、自ら流した血の海の中でもがいてる。



そりゃあ、痛いでしょうね。

大事なオッパイをもぎ取られたのですもの♪


「ヴァージニア…なんで…なんで、こんなこと…」



何かあたしに言ってるみたいだけど、あたしと長老とのお話の邪魔しないで頂きたいわね。


どっちみち、あなただって“人狼”なら胸ぐらいすぐに再生するんでしょ?


もっとも、ガストンみたいに頭が潰されたら、もうお仕舞いだけど♪


「ヴァージニア…俺はお前は嫌いではない。むしろ、お前に惚れていた…」


あら?こんな時に、あたしにコクる猛者は誰?


見れば、村中の人狼達がこの場に集まって来ていた。総勢70人ぐらいか…


あたしに告白したのは、ルー・ガルー(人狼)の村の中でも、かなりのイケメンの部類に入る金髪で長髪の青年ミッシェルだった。


彼は、あたしに近づきおもむろに肩に手をかける。


「悪いことは言わない。ヴァージニア…君は我々とともに此処で暮らすべきだ。もうあの吸血鬼や悪魔の娘達とは手を切るべきだ…」


「それって、ルカやビアンカのことを言ってるのかしら?」


黙って頷くミッシェル。


急に何を言い出すのかと思えば…。

あたしに、フィアンセのルカや親友のビアンカ達と別れてこんな辺鄙なところで暮らせと言うの?


「冗談じゃないわ。こんな退屈な所に1日でも居たらすぐにお婆さんになっちゃう…!」


…もっとも、人狼も普通の人間並みに老いればの話だけど。



「ミッシェル。あたしもあなたの事は嫌いではないけど、それは無理な相談だわ…」


「ヴァージニア…俺はお前のためを思って…お前が今のような生活を続けていたら、いずれ…」



いずれ…?


いずれ、なんなのさ?


「何か勘違いしているみたいだけど、あたしが襲う人間は犯罪者や脛に傷の1つや2つある人間ばかりだからね。ルカとの約束で、もう一般人には手を出してないのよ…」


「おぬしがそう主張したところで、人間達がおぬしの昔の悪行を忘れるとでも言うのか?」


今度は長老だ。


ああ、もう段々めんどくさくなってきた…



あたしは、無言のまま踵を返した。


アリシアの件もどうでもいいわ。

長老が何か知ってるみたいだけど、あとは自分一人で解決することに決めたわ…。


その時、あたしの前に影が見えた。


見上げると、血塗れのソフィーが胸を押さえながら立ちはだかっている。


「あら…ソフィーちゃん♪…あたし、何か忘れ物でもしたかしら…?」


「あんたを生かして帰すワケにはいかないね…」


痛々しい胸には布を巻き付けて、ようやく立ち上がる元気が出たようで、右手には鉈みたいな武器を持ってる。


「…どういう意味かしら?」


「こういう意味だよ!!」


ソフィーは一気に“変身”し、狼体でヴァージニアに襲い掛かった。


「よせ!ソフィー!!」


ミッシェル達が止めるのも聞かず、ソフィーはヴァージニアの懐に飛び込む。


手に持った鉈はヴァージニアの首筋をかすめ、長い髪が数本宙に舞った。


「やるじゃない♪ガストンより手応えありそう…」


だが、あっさりと手首を掴まれ、ソフィーは鉈を落とした。


「あっ…」


ヴァージニアは“それ”をすぐさま拾うと体勢を整え、ソフィーの顔面目掛けて振り下ろした。


「はぐぁっっ…」


頭部を真っ二つに叩き割られたソフィーは、その断末魔の悲鳴ととも崩れ落ちた。


「ソフィー…!?ヴァージニア…貴様っ!!」


その悲鳴を合図に、周りに居た数名の村人達が“人狼”へと変態し、ヴァージニアに襲い掛かる。


「やっと目が覚めた…!?負け犬さん達…」


周囲に10数名の“敵”に囲まれても、怖じ気づくワケでもなく、彼女は微笑みすら浮かべていた。


「あははははははっ…!!そう来なくっちゃ…♪♪♪」


だが、彼女自身は“狼体”に変身するまでもなく、時に素手で、時にその鋭い牙で、そして、ソフィーーの鉈で…襲い来る人狼達を血祭りに上げていた。


その姿、闘神カーリーの如し…。









「ふぅ…はあ…はあっ…」


ミッシェルや長老達が唖然として見守る中、さしもの女狼も肩を落とし、激しく息を切らせていた。


しかし、彼女自身はかすり傷を少々負った程度で、群がる人狼すべてを蹴散らし、血の海に沈めていた。


ヴァージニアの周りには、四肢をズタズタにされた人狼達の無惨な死体が転がっていた。


「な…なんと言う強さだ…」


ミッシェルが思わず感嘆する。


その彼の姿を血塗れの顔で見返すヴァージニア。


「どう致しまして♪…でも、ルカやビアンカやマルコ達の強さはこんなものではなくてよ…」


「死神がやって来るぞ…」


不意に、謎めいた言葉を発する長老。


「死神…?それは、アリシア達のことかしら?」


「そうじゃ…奴らも我らと同じ“人外”だ。簡単には倒せぬ相手だぞ…」


「アリシアは弱かったわよ…」


長老は笑みを浮かべる。


「ふふん。まあ、おぬしなら、もしかしたらやれるかも知れないが…気をつけることだ…」


「ありがとう。長老…あたしを応援してくれるだけでも嬉しいわ…」


笑顔に、不意に瞳を濡らし、ミッシェルを一瞥すると、彼女は再び踵を返した。




「これで…良かったのですか?長老…」


心配するミッシェルをよそに、長老は何も答えず彼女の後ろ姿をいつまでも見送っていた。


「アリシアが弱いだと…?ヴァージニアは強くなりすぎた。だが、彼女なら、あの“死神”どもを滅ぼせるかも知れん…」






《続く》


初掲載2010-08-25



いつもご愛読ありがとうございます(^^)v
応援よろしくお願いしますm(__)m

『ヴァージニア外伝W〜皆殺しのセレナーデ〜其之弐・ルー・ガルー』








あたしの名はヴァージニア。


人外の女狼。



一般には「人狼」と呼ばれている化け物だ。


元は普通の人間だったけど、ワケあって狼人間として生まれ変わった。



普通の人間…


と言うのは少し語弊があるわね。


あたしはもともと身体中が毛深い病気で狼女と蔑まれてきた。


そして、極度の人間嫌いで人間不信。


いいえ、むしろ普通の人間を憎悪してきたわ。


だけど、今は“本物の”狼女になれて満足している。


何故なら、人間を頂点にしていると思われた食物連鎖の、更に上の種族になれたから。


あたしを今まで蔑んだ連中を、今度は見下ろす立場になれたから…



あたしは人狼ヴァージニア。


文句があるならいつでもおいで。


あなたも今宵のディナーに加えてあげるから…♪








アリシアの一件のあと、あたしは真相を探ろうと人狼たちの棲む里“ルー・ガルーの村”へやって来た。


そこには、あたしと同じ人狼たちのコミューンがある。


棲む者はすべてが人狼。


すなわち、あたしの同類ってワケ。








「何をしに来た。ヴァージニア…」


まず迎えてくれたのは、コミューンの中でも特に目立つ大柄の男ガストン。


ネイティブアメリカンの様な浅黒い肌に精悍な顔立ちの若者だ。


村人全員が着ている様な質素で原始人みたいな格好で、あたしの前で遮る様に腕を組む。


「あら♪ご挨拶ね。ガストン…長老は息災かしら?」


「なに?」


「長老なら会議中よ。ヴァージニア。何か用なの?」


続いて迎えたのはソフィー。


あたしより少し若い娘で、赤毛でそばかすだらけのコケティッシュな顔立ちの可愛い子だけど、この子も多分にもれず人狼だ。


とりあえず、この2人に、こないだの事を話してみた。


2人は黙って聞いていたが、すぐにあたしを非難する様な目で見返した。


「厄介事を我々の村に持ち込む気か…?」


「なんですって…?」


「ヴァージニア。あなたはどうして人間を敵にまわす様な事ばかりするの?」


…………?


彼らの言う事があたしには理解出来ない。


こいつらは何を言ってるの?


「あなた達…人間は敵ではなくて?」


「下手に刺激するなと言っているのだよ。ヴァージニア…」


「刺激?…最初に仕掛けたのは奴らなのよ!?」


「…そもそも、あなたが人間達を襲ってるから、あなたが狙われたのでしょ?」


「なっ…あたしが食糧にしてるのは…」


「人間から見たらお前はただの人殺しだ!!」


人を犯罪者みたいに扱うワケ?


まあ、確かに人殺しかも知れないけど(笑)



「あたしは、自分が生きるためにやってるだけさ。それがそんなに悪い事なの!?」


「我々の様に動物の肉を食らい暮らす事だって出来るはずだろう…?」


動物の肉だって?


ウサギや鹿の肉を食って暮らせと言うの?


そんなの、まっぴらゴメンだね。



「ジニィー…お前だって元は人間だろう?何も人間を襲う事はなかろう…」


人間…?


あたしが人間扱いされた事なんてあったっけ…?


「ああ、そう。あなた達は仲間だから、あたしの気持ちを少しはわかってくれると思ってたよ…」


気持ちが沈む。


この孤独感は一体なんだろう…?


不意に、瞳が濡れてきた気がする。


気がつくと、あたしは涙を浮かべていたみたいだ。


「ヴァージニア…泣いてるの…?」


「な、泣いてなんか…ゴミが目に入っただけだよ!…まあ、いいわ。あたしは人間からも人狼からも仲間扱いされてないって分かったから…」






踵を返すヴァージニア。


その時、一瞬、ガストンの瞳が光った様に見えた。


「帰るのか…?ヴァージニア…」


「もう用はないわ。長老によろしく言って…」


異様な圧迫を感じ、咄嗟に振り返ると、彼女の背後に今まさに“狼体”に変身しようとするガストンが居た。


「…!?…何の真似かしら…?ガストン…」


「このまま、お前を此処から出すワケにはゆかぬ…!」


次第にガストンの身体が毛むくじゃらのモンスターに変化してゆく。


「あたしを…どうする気かしら?」


「悪いが死んでもらう…」


「あら、そう…。力ずくで抹殺したくなるほど、あたしの存在が邪魔になったのね…?」


また、涙が込み上げる。


どうしたんだろう…


人狼のあたしが泣くなんて…


知らずに声を上げていた。


「うっ…うう…どうして……あたしは…いつも…」



あたしは、いつも独りぼっちだ…


今も、昔も…
誰も彼も、親さえも、あたしを疎外する。


どうして、あたしにはいつも……



……………。



いいえ。


今は違うわ。


彼女は、無意識に濡れた瞳を拭う。





「ヴァージニア…?大丈夫…?」


演技か本心からか、ソフィーがあたしの顔を覗き込む。


やがて、その哀しみが頂点に達した時、すべてが怒りに変わった。


「やれるものなら…やってみなよ…」


「何を!?」


ガストンの狼面が怒りで更につり上がる。


「あなた達みたいな“負け犬”に、真の魔性を殺せるのか…」


「キサマーッ!!」


ガストンの巨体が迫り来る。

だが、ヴァージニアは冷静に真っ正面から受け止めた。


やおら、両腕でガストンの巨大な牙が覗く顎を受け止めると、それを思い切り縦に引き裂いた。


「ぐぁああっがっッ…!?」


避けた口から血を迸らせたガストンが呻く。


「あっははははは…やっぱり“負け犬”ね。てんで勝負にならないわ…!!」


「ぎ…ぎざま…」


顎を押さえながら、更に襲い来るガストンだが、その鋭い爪の攻撃を軽くかわすと、ヴァージニアはその鼻面を掴み、更に持ち上げ、そのまま引き裂きガストンの頭ごと引きちぎった。

「はぁぐぅあぁ!!」


そこには、下顎だけを乗せたガストンの巨大な身体が突っ立っているだけだった。


「ガストン…!?」


その鬼神の如きヴァージニアの姿を目の当たりにして、恐怖におののくソフィー。


今度はその前に立ちはだかるヴァージニア。


「ああ…ごめんなさい…許して…わたしは…」


腰を抜かした様な格好で、命乞いするソフィー。


ヴァージニアは、ニヤリと笑みを洩らすと言った。


「ああ…あなたは許してあげる。だけど、ケジメはつけてもらうよ…♪」


ヴァージニアは、水着の様なソフィーの服の胸当てを引き裂き形のいい乳房を露にした。


「な…なにを…?」


「うふふ…美味しそう♪」


そのまま、両乳房を掴むとパンを千切る様にもぎ取った。


迸る鮮血。


「ぎゃああああっっ!!わ、わたしの胸が…ああっ…」


溢れ出る真っ赤な血潮で濡れる胸を押さえながら悲鳴を上げるソフィー。


いつの間にか、周りには村人や長老達がこの騒ぎを見物していた。




「ムゴいのぅ…」


「長老…やっと会えたわね♪あなたは何かご存知なのでしょ…?」


「まあな。しかし、お主…すべてを敵にまわすつもりか……?」



「ひっ…ひぃいいああ……」


ソフィーは未だに悲鳴を上げて血の海でのたうち回っている。


その姿を一瞥すると、彼女は叫んだ。


「あたしは、あなた達みたいな臆病者の平和主義者ではないわ!世界中の人間があたしを殺そうとしたって逃げる気はなくてよ♪」


長老は、皺だらけの顔を更にしかめた。


「修羅の道ぞ…」


「望むところよ♪あたしは女狼ヴァージニア。世界中を血の海にしたって絶対に退くものですか…うふふ…あははははははははははははははははは!!」


その狂気の笑みを、村人はただ呆然と見守るしかなかった。






《続く》


初掲載2010-08-24




いつもご愛読ありがとうございます(^^)v
応援よろしくお願いいたしますm(__)m
前の記事へ 次の記事へ