【前回までのあらすじ】
変装して敵中突破を試みるビアンカ達だが、ちょっとしたミスで正体がばれそうになり、キレたミカエラが暴走してしまう。
「うう…ん……」
目を覚ましたヴァージニアが、周りを見渡すと、自らが血塗れで暗闇の中の棺桶に横たわっている事に気付いた。
「きゃああああああっーー!?」
書斎で古文書に目を通していたルカは、すぐに地下室から響く彼女の悲鳴を察知した。
「ちょっ…ルカーー!!何よコレーー!?」
「お目覚めですかな?眠り姫…」
棺桶の中で裸の上半身を起こし、慌てふためくヴァージニアの前に、わざとらしく跪くルカだった。
「…ルカ!?何の冗談よ…」
「我輩は冗談など言わぬ…」
「ああ、そうね。あたしを治療してくれていたのね…でも、なんで血塗れなの…?」
「…まあ、点滴の様な物か…?君を回復させる為に狼の血を使い呪文を唱え棺桶に浸していたのだが…」
「点滴?…狼の血ですって…!?」
床が汚れるのも構わず、裸のまま勢いよく棺桶から飛び出すヴァージニア。
「お…狼の血を使ったの!?あたしの為に同朋(ハラカラ)を、仲間を何匹殺したのーー!?」
「君を救う為だ…」
「ひ、ヒドイわ…!動物虐待だわ!!悪魔よ鬼畜よ吸血鬼よ!!」
「ああ、全然悪口になってないようだが…」
ルカは、そっと彼女の肩に手を掛けた。
「…ヴァージニア…」
「……ルカ?」
「すまない。君がそんなに怒るとは思わなかった。…しかし、すべては君の命を救う為なのだ。許せ…」
「……ルカ…」
ヴァージニアは、そっとルカに口づけした。
「…あたしの方こそ取り乱してごめんなさい…」
「…食事の用意が出来てる。…シャワーを浴びたら、すぐに戻れよ」
「了解よ、ルカ…」
トリニティことレベッカが向かった先は、ラボミアの特殊部隊が駐屯しているラメント・エロイコと呼ばれる地だった。
物々しい兵士の喧騒と、巨大な飛行場にはモンスターの様な爆撃機。
戦車と兵隊達の行進、作業する整備員達の交錯する中をジープで、この基地の司令官の居る幕舎に向かう。
「あそこです。あのテントにこの基地の司令官ガブリエル・ガルシア閣下がいます。そして、副官ラファエル様も…」
ジープに同伴していた初老の軍人ロベルタ・アルジェント少佐は漆黒のテントを指差した。
「…ガブリエル・ガルシア将軍…か。アルジェント少佐、一つ聞いていい?」
「何なりと」
「わたしは何の情報もなしに身一つで此の地に向かったのだが、そのガブリエル将軍とは…アンジェラ総統の身内の様だが…何者だ?」
少佐は、柔和な笑みを洩らし、レベッカを見た。
「ふふ…ご存知ないとは。この国の者なら知らぬ者はいないと言うのに…」
「…わたしはイタリア人だからな。この国の事情など知らないよ…」
「…左様で。…ガブリエル将軍とは、かのアンジェラ総統の御嫡子。まだ16歳の若者ですが、軍事にかけては天才的な能力を持っておられるお方。一つ違いの次男ラファエル様も兵器に関しての実質的なオブザーバーであります」
「…ア、アンジェラ総統の息子……!?」
「いよう♪…あんたが噂の“守護天使”トリニティか…!?」
幕舎でレベッカを迎えたのは、漆黒の軍服を纏った黒髪の若者。
笑みを浮かべているが、その面差しや鋭い切れ長の瞳、軍属にしては長すぎる黒髪が母親のアンジェラにそっくりだった。
「あ…ああ…トリニティ・ホーリーグレイル中尉であります!!」
少年ながら、その異様な威圧感に気圧されたじろぐレベッカは、握手を求めるガブリエルの手をうやうやしく握る。
「トリニティ中尉か?総統付きの親衛隊にしては随分と階級が低いな…僕が総統に言ってもっと上げてもらおうか?」
「いえ…結構であります。わたくしはまだ此処ラボミアでは新参者でありますゆえ…」
「ははっ…はっきりとモノを言うな♪気に入ったぞ。仲良くやろうぜ!!」
そこへ、もう一人、ガブリエルに似た雰囲気の若者が幕舎に入って来た。
「おう。来たな…紹介しよう!…我が弟にして我が軍の天才的メカニックマン、ラファエルだ…」
兄ガブリエルとは違い、茶系の髪の色に碧眼は彼らの祖父にあたる故・エステバン総統を思わせた。
「あ…君が例の…ラファエル中将です。よろしく…」
はにかみながら手を差し伸べるラファエルの姿を見たレベッカは、何か不思議な感情に襲われた。
それは、ビアンカやその母マリア等、女性にしか興味が無かったレベッカが初めて感じる物だった。
二人の“王子”を目の前に、初老のアルジェント少佐を交え緊張しながら会議を始めるレベッカ。
「……と、言うことは、その“ビアンカ”って奴とその仲間達はフリークスと何らかの関係があると睨んでいるワケだな…中尉?」
「そうです…」
「では、早速その“フリークス”とやらの情報を集めようか?」
その横で何やらパソコンを使い検索しているラファエル。
「兄さ…いや、ガブリエル将軍…早速見付けたよ」
「早いな!?」
ラファエルの周りに集まる一同。
レベッカの胸がラファエルの腕に当たり、彼は目を背ける。
「ごめんなさい。…もっとよく見せて…」
独眼のレベッカの顔を興味深そうに見詰めるラファエル。
それには気付かず、パソコンの画面に見入るレベッカ。
その画面には、ラボミア各地に点在するサーカス団や“フリークス”達の見世物を興行する団体のリストが何百と記されていた。
「ピエトロだ。ピエトロと言う名前の男が所属していた団体はどれなの?」
頷いて、ラファエルは更に検索を進める。
「あった。
…ゲイル・コンラッド団長率いるフリークス・サーカス団“ラ・ディアボロス・エレファンテ”
…此処にピエトロ・バンディッタの名前がある…」
更に詳しく検索すると、そこにはかつて所属していた「狼女ヴァージニア」や「鰐女ビアンカ」の名前も出てきて、前団長にしてゲイルの兄スプリガンは、事故で死亡した事などが記されていた。
「……ビアンカ…」
改めてその名前を目にして、自らの従妹の不幸な境遇に、その独眼に熱いものが込み上げるのに気付くレベッカだった。
「…どうかしたか?トリニティ中尉…」
「いえ…何でもありません…」
気取られてない様に密かに涙を拭うレベッカだが、ラファエルは何かに感づいていた。
「…すると、トリニティ…君はこのフリークス団体がテロリスト達の温床になっていると言うのだな…?」
黙って頷くレベッカだが、その心中は複雑だった。
その時、通信が入った。
「ガブリエル将軍!?」
「どうした…」
顔を見合わせるレベッカら一同。
「サンタ・ディアブロにおいて、ミカエラお嬢様が発見されたとの情報が…」
「何…!?」
ガブリエルは、レベッカの顔を見た。
「サンタ・ディアブロ…」
「ゲイルのフリークス団のある場所だ。やっぱり…!!」
「よし、出動するぞ…トリニティ中尉」
逃げるトラック。
追うパトカー。
此処、ラボミア最北端サンタ・ディアブロでは、まだカーチェイスが続いていた。
「しつこいわね…」
「当たり前だろ!?行方不明だったミカエラお嬢さんが発見されたんだ奴ら、地の果てまで追っ掛けてくるさっ!!」
怒りながら、更にスピードを上げるマルコ。
「マルコちゃん…」
「なんだっっ!?」
「その格好で怒ってもちっとも恐くないわよ♪」
「ミ・カ・エ・ラ〜〜…!?」
「あはははははっ…カッワイーマルシアたん」
(…コイツ、絶対イカれてる。頭のネジが外れてるどころかネジなんて最初から付いてないだろ……)
と、つくづく思うマルコシアスだった。
…と、そこへ荷台の方から壁を叩く音が聞こえる。
窓から覗くとアラビアンな扮装のビアンカが睨んでいる。
「マルコ!?何やってんの!?追い付かれちゃうよ!!わたし達、もう限界だよ。奴ら倒していい?」
「バ、バカ…よせ!!なるべく派手な事はするなとルカ卿が言っただろ……」
(…どいつもコイツも…じゃじゃ馬のバカ姫ばっかりだ…)
ここにヴァージニアが居ないだけまだマシだと思う事にしたマルコシアスだった…。
《続く》
初掲載2010-04-28
錯綜する思惑。
入り乱れる群像。
そして、更に増え続けるキャラクター達とネーミング(笑)
リリスとクリスのラブーフ姉妹、ゲイル・コンラッド団長率いる“ラ・ディアボロス・エレファンテ”
ガブリエルとラファエル兄弟…
ロベルタ・アルジェント少佐。
君はいくつ覚えられたかな!?(笑)
何より、あのアンジェラ様にお子様が居た事が作者もビックリですたい(笑)\(゜ロ\)(/ロ゜)/
散りばめられたフラグが交錯する緊迫の次回を待て♪
いつもジャンキチックな小説をご愛読ありがとうございます!!(^.^)(-.-)(__)
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