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第16話「闇のニルヴァーナ(前編)」

ー不思議な森のビアンカ・贖罪編ー




「ビアたん…これからどうするの?」


わたしはビアンカ。


ミカエラが助手席で尋ねてきた。

どうするって?

そんなこと、わたしにも分からない。


とりあえず食糧は、ロッソに貰った一ヶ月分がある。

ラボミアの内戦を逃れ、反政府ゲリラのロッソやモニカ達と別れ、わたし達は再びアークランドを抜けて隣国のジュエルスタンと言う山岳地帯の国境付近までやって来た。


ここは、ラボミアやアークランドとは国境を接しているが、国同士は仲が悪い。

そして、密かにゲリラを支援している国でもある。
ロッソ達の話では、まだ内戦は続きそうだ。


ほとぼりが冷めるまで、わたしとミカエラはジュエルスタンに身を隠す事にした。



「しばらく山篭もりだね……」


「ええっ?なにそれ…」


「ロッソの知り合いが小屋を貸してくれるらしいから…」


「ビアたんと一つ屋根の下ね」


「ま…まあ、そうなるね…」


「な、なんか興奮してきちゃう早く早く!急いでビアたん!!」


「観光旅行じゃないんだからね?ミカエラお嬢様……」


「分かってるわよ」







ラボミア政府。

総統府に、ガルシアの跡目を継いだホアキン・ド・アルメイダ将軍が部下を集めゲリラ対策案の討議をしていた。


「将軍…」


「なんだ?忙しいんだが…」


禿頭に、太った身体。
チョビ髭を生やしたアルメイダはあまり威厳はなかったが、精一杯威嚇して見せた。


「アンジェラ様がお見えです」


「なに?お身体の具合はもう良いのか?」


あの刑務所の暴動から、早くも一ヶ月が経過していた。

救出された時のアンジェラは虫の息だったが、ようやく退院出来るほどに回復した様だ。


アルメイダが廊下に出ると、長身の軍服の女が歩いて来た。


将軍を見ると立ち止まり敬礼する。


「アンジェラ・ガルシア大佐…到着致しました!」

失った手首には黒い手袋をしていた。


「おお…アンジェラ。もう具合は良いのかね…?」


「はっ…両腕を失いましたが、むしろ休養となり健康そのものであります」

握手を求め、右手を差し出した。

当然、義手であろう。

むしろ、哀しい表情すらしないのがアルメイダには痛々しく感じた。


ぎこちなく両者は握手を交わした。


「……で、早速ですが」


「うむ?」


二人は廊下を歩きながら会話した。


「ミカエラと…ビアンカの消息は掴めたのでありますか?」


「それがなぁ…一向に見付からんのだよ…」


「そうですか…」


「そこでな。ゲリラ対策と、ビアンカとミカエラお嬢様を捜索する為にエキスパートを呼んだ」


「殺し屋ですか?」


「まあ、暗殺者には違いないが……あの部屋に待機しているはずだ…」


アルメイダが指し示す先のドアを見る。

すると、畏まりながら軍人と思われる若い男が二人中から現れ、直立不動で立ち塞がる。


「お待ちしておりましたアルメイダ閣下、アンジェラ様!」


「うむ?話が早いな…では、紹介しよう。右がエリック・シュバルツシュタイン、左がセルゲイ・イワノフ。二人とも対ゲリラ戦のエキスパートだ…」

エリックは、金髪碧眼の真面目そうな風貌、一方のセルゲイは赤毛に柔和な笑みを浮かべた好漢。対照的な二人だったが、共通しているのは、女にしては長身のアンジェラを遥かに超える巨漢だと言うことだ。
ただでさえ背の低いアルメイダがまるで子供に見えた。

二人を見上げて、ふと顔を赤らめるアンジェラ。


「あ…ああ…二人とも外国人では……?」


「そうだが、別に問題はあるまい?」


(内乱の収束に外国人を使うなど……パパでは有り得なかった事だ。自らの無能を他国に知らせてどうする気だ…?やはり、このアルメイダと言う男は使えぬ…)

アンジェラは軽く溜息をついた。




一方、山の中を走るビアンカとミカエラのジープは、霧のかかる山道に入り込んでいた。


「ビアたん…寒いよ〜」


「ああ、じゃあこれ着なよ」


ビアンカは、運転しながらおもむろに自分が着ていたパーカーをミカエラに手渡した。


「うふふあったかい…ビアたんの温もりね」


楽天的なミカエラとは対照的に、ビアンカは深刻な顔をしていた。

周りは鬱蒼とした森に差し掛かる。

道は舗装されているものの、何かがオカシイ。

何か嫌な気配すら感じる。


「ミカエラ…地図、読めるか?」


「なぁに?」


「どうもおかしい…地図にはない場所に居るみたいな…?」


「ミステリーツアーね」


「マジでミステリーだよ!?」


その時、靄の中に人影が見えた。


「あっあそこに誰か居るみたい!」


ミカエラが指差す先に、帽子を被った男のシルエットが見えた。


「よし…此処が何処だか聞いてみよう」


ジープをゆっくりと近付ける。


「あのう…」


「どうしました?道に迷いましたか?」


一瞬、妙な違和感がした。ビアンカは男の声に、どこか聞き覚えがあったからだ。


「此処が何と言う場所だか聞きたいんで……す…け……ど?」


ビアンカは、男の顔を見るなり血の気が引いた。
シルクハットを被り、燕尾服を着た…その男は首筋から血を流し、体中も血塗れだった。


そして、その顔は……


「団長……?」



「うへへ…ひさしぶりだな鰐女さん……此処が何処だか知りたいのかぁ〜?」

ビアンカは退こうとしたが、後ろから来た女に手首を捕まれた。

全身が血塗れの、毛むくじゃらの女が微笑んだ。


「ヴァ…ヴァージニア……?」


「ビアンカさんが、此処が何処だか知りたがってるみたいよ……?」


団長とヴァージニアが顔を見合わせると、更に後ろから声がした。



「……此処は地獄だよ。ビアンカ君……」


更に目を疑った。



「ガルシア総統……!?」








《続く》

初掲載2009-10-21
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