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◆ビアンカ編〜登場人物紹介≪3≫




≪第3部≫
「闇の国のビアンカ」



◆シーラ・メイスン……ビアンカがラボミアに再び帰国した際に出会った水棲魔族。
ビアンカをアイドル視して慕っている。
人魚や河童の様な存在と思われる。
裸形に透き通る白い肌、青みがかった白髪、紅い瞳、肌には赤と青のストライプがある。
ビアンカの様に迫害は受けず人間の老夫婦に育てられた為か世間知らずでスレたところがなく、穏やかな優しい性格。
ただし、怒らせると相手を石化させたり溶かしたりする魔力を発揮する。



◆セバスチャン……フランケンシュタインの怪物の様な怪異な容姿と巨体を持つが、一応人間らしい。
外国で、他人から恐れられて孤独に過ごしていたところを幼少のミカエラ(旧名ジョアンナ)と遊んだ経験から、彼女に恋心を抱いているらしい。
誘拐されたミカエラを探すビアンカに付き合い旅を共にする。
自称“白馬の騎士”(笑)




◆ルカ・ダークブラッド……初登場は、ヴァージニア外伝『ルナティカ・テイルズ』より。
魔界で伯爵の地位を得ている伝説の吸血鬼。
ヴァンパイアでありながら、並の魔族の力を優に凌ぐと言われている実力者。
ヴァージニアを見初めて、彼女が惨死した後に魔力を使い復活させた張本人。
実は自らも陰惨な過去を持ち、お互いに心の拠り所として支え合い、今は良きパートナーとして幸せに暮らしている様である。





◆ガイウス(左)・ブルートゥース(右)“ラインハルト兄弟”……魔界の騎士だったが、ルカやベルフェゴールに仕えて、魔王に反意を抱く。
元来は『戦士の詩』で、ケインを戦いに導く魔界の裏切り者だった。





◆マルコシアス……ビアンカの父に仕えるベルフェゴール騎士団の一人で父の友人。
見掛けは若く見えるがロッソ達より歳上。
ベルフェゴール死後、ビアンカを守護する騎士として役目を全うする為に奔走する。
ルカと拮抗する魔力の持ち主。
劇中の戦闘力は最強。
性格は真面目だが、やや皮肉屋で口が悪い。
長いドレッドヘアと赤ら顔が特徴だが、第4部で地上に来た際には人間に合わせて肌の色を変化させた。





◆ケイン・グランマスター……本編であるはずの『戦士の詩』の主人公にして、伝説の魔王“ヤルダバオト”
ビアンカとは幼馴染みの設定は変わらず。
原典では、魔王に付いたビアンカと対立する羽目になるが、この世界線ではケインは自らの覚醒が早く、魔王を蹴散らし魔界を征していた。
人間界に居た時にジュリアーノとは知り合いだったらしい。


◆ジャック・アーシュラ……“黒い狼”と呼ばれるラボミアの傭兵。
たびたびビアンカと対立するがお互いに力は認めている。
元々は原典『戦士の詩』の黒狼軍のリーダーでケインの友人。





◆べリアル……魔王侵攻軍の総司令官。
魔王に次ぐ実力者で、先だって地上に来ていた。
ビアンカの並外れたパワーを利用しようするが、ヴァージニアの反意を見抜き対立。
更にルカと激突する事になる。
原典『戦士の詩』でも同じ役割で登場した。

『闇の国のビアンカ』Vol.19「DOOMSDAY」(第3部・完結編)





闇を切り裂くドラゴン。


ビアンカと7人の騎士達は、それぞれ2人ずつ馬の様に龍に乗っていた。


ビアンカとシーラ、ルカとヴァージニア、ガイウスとブルートゥース、そして、ロッソとマルコシアス…といった具合に。



「うっ…!?…こ、これは…!?」


ルカが、突然、頭を抱えてうずくまる。

後ろに乗るヴァージニアが顔を覗き込んだ。

「どうしたの?ルカ…また、例の“予知”?」


「そうらしい。…これは、しかし…」


「一体、何が見えたの!?」


一路、魔王の潜む魔界に進む一行だったが、一向に攻撃らしい攻撃にも遭わずに不審に思っていたところだった。


「大丈夫ですか!?ルカさん…」

先頭に進むビアンカも、ルカを心配して振り返る。


「ああ…我輩は大丈夫だ…ビアンカ…」


「はい…?」


「ケインと言う男を覚えているか…?」


「ケイン…!?」


唐突にルカの口から、その名が出ていぶかしむビアンカ。


「ケインは、わたしの幼なじみです。何故、ルカさんが知っているんですか…?」


「若くして命を落としたな…?」


「はい…わたしが暴漢に襲われた時にナイフで刺されて…それが元で…」


「…そうか…」

それきり、ルカは黙り込んでしまう。


ビアンカも、不思議に思いながらもそれ以上は聞かなかった。

すると、その時…


「ビアンカ、危ない!?」


マルコシアスとロッソの乗るドラゴンが、ビアンカ達の横に並走しようとした時、ビアンカの目の前に巨大な壁が出現した。


いや、壁ではなく…それは巨大な掌だった。

「え…!?」


あまりに突然の事に、ビアンカ達は避ける間もなく、その“掌”に激突した。

咄嗟に、手を差し出すマルコシアス。

シーラもジャンプして、ロッソの肩に捕まった。

「大丈夫か!?」

ロッソが叫ぶ。


ビアンカは、マルコシアスに抱え上げられていた。

「怪我はないか!?ビアンカ…」


「あ…ありがとう…」

マルコのドレッドヘアが頬に触れる。
間近で見るマルコの顔は、やはり自分に似ていると、改めて思ったビアンカだった。
そして、男性にしては綺麗過ぎるとも。


「…しっかり捕まってるんだ…」


「はいっ…」


「ルカ!?あれはなんだ!?魔王の迎撃にしては様子がおかしいが…」

ロッソが自らの羽根で羽ばたきながら、ルカの竜馬に近づいた。

「違う!ロッソ、あれは…少なくとも、魔王ウインドウの襲撃ではない…」


「だったらなんだ!?」


「もう一人の魔王…」


「なんだって…?」


ルカは、ガイウスやマルコシアス達にも振り返り、宣う。


「聞いた事があるだろう。真の魔王ヤルダバオトの伝説を…」


「ウインドウと戦って敗れたと聞いたが…」

ビアンカを抱えながら、マルコシアスが応えた。


「そう。闇の勢力の派閥争いで彼らは相討ちになった…」


「相討ちだと!?」


ロッソが、尚も問いかける。


「ヤルダバオトは敗れてはいなかったのだ」


突如、闇が晴れる。

ビアンカやルカ達は、いつの間にか壮麗な宮殿の中にいた。


「こ…これは!?」


そして、そこに並ぶ数千の魔界の戦士達…

それぞれが華美な鎧兜に身を固め、悪魔的な紋様を司りながらも邪悪な印象はなく、むしろ強力無比な荘厳な軍隊に見えた。


「魔王軍か!?」


「いや…確かに魔王には違いないが、正確には違うな…」

また、ルカが謎めいた言葉を発した。


「ようこそ。魔界へ」

親衛隊の並ぶ階段の、更に上段。

そこには、豪奢な玉座があった。
そして、そこに鎮座するは魔王その人。


しかし、ルカやロッソ達が戦う為に探していた魔王ウインドウではなく、別の姿が見えた。


「うっ…あれは…やはり」


魔王は立ち上がり、おもむろに階段を降りる。

真っ白い甲冑に身を包み、黒いマントを翻すその姿は、一見普通の人間の青年に見えた。

その姿を一目見て、ビアンカは愕然とした。


「あ…ああ…」


「俺が魔王ヤルダバオトだ…よく来てくれた…お前達を待っていた」


茶色い髪を靡かせた青年の瞳の色も茶…

爽やかな笑顔で、彼らを出迎えるとひざまづいた。


「ケイン!?…何故、ケインがこんな所に居るの!?」

ビアンカは叫ぶ。

そう。今、彼らの目前にいる“魔王”と名乗る男は、ビアンカの幼なじみのケインにそっくりだったのだ。


「ビアンカ…また会えたな…」


「やっぱり、ケインなの!?…でも、どうして!?」


「話せば長くなる。俺は元々魔王ヤルダバオトだった。魂が地上に飛ばされた時に、人間ケインとして生誕し、人間として生きていただけだ」


「ウインドウはどうした?」

ルカが訊ねる。それは、ビアンカ以下、ここに集う騎士達すべての疑問だった。

自分達は、決死の覚悟で魔王と対する為に魔界に降りた。

しかし、その魔界には当のウインドウは居らず、別の魔王が君臨しているではないか。

これは、一体何を意味するのか…


「ウインドウなら、俺がすでに追放した。奴は別の次元に逃げ込んだよ…」


「なんだって!?」


ヤルダバオトと名乗る男は、皮肉な笑みを浮かべながらルカに近付いてきた。


「ルカだな…?ご苦労だった。もはや仕事は終わった。ゆっくりと休むがいい…」


蒼白の顔を、さらに白くさせ、愕然とするルカ。あまりのことに言葉も出ない。


「一体どういうことだ…」

ルカの代わりにロッソが尋ねた。

「人間ケインは地上で死んだが、魂は魔界に戻り、かえってヤルダバオトとして覚醒するのが早まったと言うことだ。そして、俺はウインドウの様に地上を狙う事はしない。お前達の役目は終わった…」


「そんな…では、我々は一体何の為に…!?」


「ベルフェゴールの事は、よく知っている…本来ならウインドウなどではなく、我が右腕となって戦ってもらいたかった…」


「我が兄をご存知か…」




そこへ、ひょろりとした体つきの長身で漆黒の悪魔が現れた。


「マラコーダ。彼らを奥の間に案内しろ…」


マラコーダと呼ばれた悪魔は、かしずくと騎士団の前に平伏する。

「こちらへ…」


ルカら、7人の騎士がマラコーダに従おうとするが、ビアンカだけはいつまでもヤルダバオトを見詰めていた。


「ケイン…」


「ビアンカ…」


両者の距離が縮まる。
ケインは、微笑みを浮かべ、ビアンカの肩に手を掛けた。


「どうだ?ここに住む気はないか?俺と一緒に…」


「ケイン…あんたも魔族だったなんて…しかも魔王だなんて…」


「ああ、お前と一緒だな…」


マラコーダに案内され、別の間に去り行く騎士達のうち、マルコシアスだけがケインとビアンカの姿を見詰めていた。


「新しき魔王よ…」


「ん?…お前は…」


マルコシアスは、ひざまづくと言った。


「私は、ビアンカの父ベルフェゴールの親友だったマルコシアスです…」


「ほう…」


「ビアンカは地上に帰ります。説得は無駄だと思いますが?」


「なに?」


「マルコ…!?」


ケインは、ビアンカを見詰め返した。


「ビアンカ…地上に帰りたいのか?お前を弾き出す、あの世界に…」


その言葉を聞き、かつてケインとともに過ごした学生時代やイジメ。

母やケインを失った後の迫害、フリークス・サーカスでの虐待を思い出していた。


そして、ミカエラと出逢ってからの逃亡と殺戮の繰り返し。

地上に、自分の居場所など、無いのかも知れない。
むしろ、ケインとともに此処で暮らした方が幸せなのかも知れない。

醜いアヒルの子は、ようやく自分の、本当の世界に帰れたのかも…。



しかし、何か釈然としなかった。


彼女が迷っていると、後ろからマルコシアスの毅然たる声が響いた。

「ビアンカよ。俺と一緒に地上へ帰ろう。俺は、君の父親に頼まれたのだよ。自分の居ない世界で娘を守ってくれと…それに、地上には君を待っている人間達がたくさんいるだろう…?」



その言葉を聞いて、改めて思い出した。


(そうだ。自分には待っている人がいる…)

ミカエラや、アンジェラ達の姿が目蓋に浮かんだ。


「ケイン…」


「ビアンカ…どうする?」


迷いを振り切る様な笑顔で、ビアンカはケインにハグした。


「ケイン…あんたのことは大好きだけど、地上にはわたしを待っている人がいる…」


「ビアンカ…」


「ありがとう。さようなら…」

2人は、あの日の様に、再び口づけを交わした。


そのまま、背を向けるビアンカの瞳は真っ赤に腫れて、ほとばしる涙が止めどなく溢れていた。



ケインは、無言のままその姿を見送っていた。

「幸せにな…」


マルコシアスが近付く。
「ビアンカ…」


「近寄らないで…あなたに促されたからではないわ。…これが、わたしの“選択”よ」




涙を拭い、ルカやヴァージニア、ロッソ達の居る間に赴く。
そして、彼らを促した。


「さあ、ルカ。帰りましょう…?わたし達を待つ地上の世界へ」















わたしはビアンカ。


これで、わたしと魔界を繋ぐ縁は、全てが絶たれた。



もう、わたしを縛り付ける因縁や血縁からも解き放たれる。



今、閉ざされた時が終わる…



すべてが変わる。











*エピローグ*




「…だから申し上げたのです。人間やビアンカなど忘れて、貴女は貴女の幸せだけを願っていれば、こんな事には…ヴァージニア様……」


パン=デミックは岩場に腰掛け主人を待っていた。

“狼の穴”と呼ばれる洞窟の前で、数人の仲間とともに。


「……本当にこんな場所で“再誕”は行われるのでしょうか…?」


ヤギそっくりの姿で、怯える様な瞳で周囲を見詰めるパン=デミック。


「…来るさ」


不意に、ルカが現れた。
喪服の如き、全身を漆黒で包んだ男が洞窟の前で佇む。


おもむろにデミックの横の岩場に座り、顔の前で手を組むと、ひたすら“闇”を見詰めた。


「…彼女は“2度目の死”によって、魔族として更に強力になって甦る…」


次第に、森の生き物達が彼らを取り囲む様にに集う。


月明かりの下、梟や狼、爬虫類や小さな蟲達が、彼女を悼む様に集まってきた。




「ル……」


闇の奥から声が聞こえた気がした。


「……ん?」


「……ルカ…」


静かに立ち上がるルカとパン=デミック。


「……おお…」



見れば、盛り上がって丘の様になり、月光がスポットライトの様に照らす岩場に次第に“人形”が固まりつつあった。


真っ白い裸形の女体が月明かりに照らされた。


それは、月の女神アルテミスを彷彿させた。

「……ヴァージニア…また、会えたな…」



歓喜の涙を流すルカとパン=デミック。


「ヴァージニア様…」


眩いばかりの白い肌を晒した彼女は、ルビーの如き紅い瞳を開いた。


「ただいま…ルカ……」











《第3部/闇の国のビアンカ》ー完結ー


初掲載2010-02-21






第4部に続く!!

『闇の国のビアンカ』Vol.18「BLACK KNIGHT」



赤い甲冑の騎士が、近付き冑を脱いだ。

ビアンカに似た蒼い肌に、角を生やした魔形であったが、その瞳に見覚えがあった。


「ロッソ…!?」


「フフ…俺だと気づいてくれて嬉しいぜ」

地上で、兄であるビアンカの父ベルフェゴールと共に誅殺された彼だが、兄の様に魂まで滅殺されず、魂は魔界に戻りビアンカの到着を待っていたのだった。


「よく来た。ともに兄の…いや、お前の父の仇を討とうぜ…」


感窮まり、ロッソに抱きつき涙を流すビアンカ。

「わたしも…迷ったけど、あんたに会えてようやく目が覚めた気がする…」


「あらあら…感動的だこと…♪叔父と姪なのに、まるで恋人同士ね…まったく!」


投げ捨てる様な台詞を吐き、近付いて来たのは白い騎士。
ビアンカは、その声にも聞き覚えがあった。

「あたしだって、あなたに会いたかったんですけどぉ…?」

冑を脱ぐと、茶色い長い髪が風に靡いた。

「あ、あんたは…!?」





「では、我等はこれにて…」

赤いマントを翻し、踵を返すルカ。
ヴァージニアの遺体を抱え、そのまま、振り返らず去って行った。
それに、付き従うガイウス&ブルートゥースのラインハルト兄弟。2人も、アンジェラに軽く礼をすると後を追う。

シーラは、アンジェラやジャック、そしてセバスチャンにそれぞれ軽く別れのキスをすると、敬礼してみせた。

「シーラ・メイスン、旅立ちます♪」


「ああ、気をつけてな…ビアンカによろしくな…」

そして、シーラもまたガイウス達とともに闇に消えて行った。


「さてと…」

ジャック、セバスチャン、セルゲイ、ラボミアの精鋭達。

そして、ミカエラに向かい振り返るアンジェラ。

「我々もやるべき事をやらなくちゃな…」


セルゲイは、改めて緊張し、唾を呑み込んだ。


「総統閣下!ご命令を」


「おう…!我等はこれよりラボミアに戻り、反逆者どもを叩きのめす。我等を罠に嵌めたアルメイダに制裁を下すのだ!!」


その場の全員から歓声が上がった。


それを聞かぬのは、ビアンカの遺体に寄り添うミカエラのみ…











「やっぱり、ヴァージニア…」


相変わらずの、鋭い瞳で見据え、舌なめずりしながら彼女は近付いて来た。
そして、ビアンカに軽くハグする。

「皮肉なもんね…敵同士だったあたし達が、死んでから和解するなんてね…」


「ヴァージニア…わたしは、あなたを嫌いになれないから…」


「言うわ。この子は…♪うふふ…ルカに会ったのでしょ…?」


「ああ、素敵な人だね♪」

ビアンカの、その言葉に一瞬、眉をひそめるヴァージニア。

「当たり前じゃない!?」


「さすが、あんたを選んだだけある…」


「…!?…ビアンカ…あたし…」


「あんた、わたしを助ける為に犠牲になったって聞いたよ…」


「…余計な事を…べ、別に、あなたの事より、あたしはあのベリアルって奴が気に食わなかっただけだからね!?」


「ふふふ…ありがとうヴァージニア…」


「ふんっ…」

照れ隠しに、再び冑を被り馬に跨がるヴァージニア。


そして、最後に黒い騎士がやって来た。

他の2人と明らかに違う常人離れした異様なオーラを放っているのに気付いた。

「キミがビアンカか…」


黒い騎士も冑を脱いだ。その顔を見てビアンカは驚愕した。


まず、現れたのが真っ黒で長いドレッドヘア。

そして、一番驚いたのが、その容姿だった。


赤い。

真っ赤な肌。

まるで、ビアンカ達の一族の肌を反転させた様な赤い皮膚。


少女とも、少年とも掴めぬ美貌。
意思の強そうな力強い瞳も赤。

そして、妖艶な唇にはうっすらと笑みを浮かべていた。

初めて見る顔だが、ビアンカは何処かで一度会っている様な気がした。

「我が名はマルコシアス…君の父親、ベルフェゴールの友人だよ…」


「パパの知り合い!?」

そこへ、ロッソが割り込んだ。

「こう見えても、マルコは俺より歳上で、歴戦の猛者だ……!戦いに関しては俺やお前より格段に上だろうな…」


「歴戦?…あんた、女の子だよね…?」

それを聞いて、ロッソが吹き出した。
ムッとするビアンカ。

「はっはっはっ…確かに可愛い顔をしてるが、マルコはれっきとした男だよ…」


「ふふ…」

騎馬のまま、顔を近付けるマルコ。

「そういえば、俺とビアンカ…顔も似てるね…?」

言われて見れば、そうだった。
ポジとネガの様な赤と蒼の肌や角の有無を除けば、2人は瓜二つの顔立ちだった。

ビアンカが、何処かで会った気がしたのはその為だったのか。

しかし、彼女はそれとは違う因縁の様なものを感じていた。




地上では、ルカの城が崩れ、何も知らずに中にいたベリアルの部下達は潰された。

ルカ達は次元の狭間を超え、ビアンカ達に合流する。


一方のアンジェラ達もようやくラボミア本国にたどり着いた。

やるべき事は一つ。

アルメイダ達の粛清だ。
総統府に着くや否や、アンジェラ以下ラボミア兵達は、アルメイダ将軍の居る作戦会議室を襲撃し、全員を銃殺したと言う。



「アンジェラ…!?総統…生きていたのか…?」

血塗れで、息も絶え絶えのアルメイダが、最後の力を振り絞り拳銃に手を伸ばした瞬間、ジャックのショットガンが炸裂した。
アルメイダは頭部を吹き飛ばされ絶命。

「ああ、俺もな…」

そのジャックの肩を軽く叩くと、アンジェラは部屋を後にした。


医務室では、ビアンカの遺体を抱いたミカエラが放心状態で佇んでいた。

「ミカ…」


「うふふ…ビアンカ…今はゆっくり眠って…♪らららん…♪」


「ミカエラ…ビアンカの遺体は、冷凍保存する。いつでも蘇生出来る状態でな…」


「嫌よ!?わたし…ビアンカと離れたくない!!」


頬を叩くアンジェラ。


睨み付けるミカエラ。

「聞き分けのない…いいか!?わたしだって辛いんだ…」


「お姉様…」


アンジェラは、優しくミカエラを抱き締めると顔を近付けた。

「ミカエラ…。ビアンカは、わたし達の世界を救う為に旅立ったんだ…」

涙が伝う頬を指で撫でる。

「あの娘が、いつでも帰ってこれるように準備をしておく事が、待っているわたしらの、せめてもの務めだろ?」


「……わかったわ。お姉様…わたし、いつまでも待ってる…」


「偉いぞ…」

軽く頭を撫で、自らの頬の涙を拭うアンジェラだった。






「役者は揃ったようだな…」


エメラルドグリーンの魔界の森に反逆の勇者達が集う。


ルカを筆頭に、ガイウス、ブルートゥース、シーラ、ヴァージニア、ロッソ、そして、マルコ。


ビアンカと7人の騎士達は、更なる闇の世界を目指す。

恐るべき敵と対峙する為に…








《第3部完結編に続く》


初掲載2010-02-13

『闇の国のビアンカ』Vol.17「LULLABY」





ミカエラの放った弾丸は、ビアンカの心臓を撃ち抜いた。


いかに強靭な肉体と、驚異的な治癒能力を持つビアンカと言えども、心臓を撃たれてはひとたまりもなかった。

「ありがとう…これで、あんたもわたしも…」


最期に何が言いたかったのか。笑みを浮かべながら吐血し、崩れ落ちるビアンカ。


「ビアンカ…!?」


手にした拳銃を投げ捨て、その身体を支える。

だが、その肉体は力なくミカエラの懐で崩れ落ちた。


「ごめんなさい…ビアンカ…ごめんなさい…ああ〜…わたしが殺した。ビアンカを殺した…」


その亡骸を抱き抱え号泣するミカエラ。


そこへ、慰める様に肩に手をやるアンジェラ。


「ミカエラ…」


その3人を冷ややかに見詰めるルカ。


「ルカ…これでいいんだな…」


「ああ…」


「ビアンカが再び生き返る保証はあるんだな…」


「保証?…保証などない」


「なんだと!?」


ルカに掴みかかるアンジェラ。


「貴様!!」


「ビアンカの魂は、我々に先んじて魔界の入り口に降りたはずだ。あとは我々とビアンカの闘い方次第…勝負に勝たねば我等とて命はない…」


「勝てよ…」


真剣な眼差しでルカを睨み付けるアンジェラ。両手を肩に掛けると叫んだ。


「絶対に勝て!いいなっ!?」


「わかった…武運を祈っててくれ…」


「ルカさん。わたしも連れて行ってください!!」


今まで黙って事の経緯を見守っていたシーラが言葉を発した。


「わたしは純粋な魔族です。それに、様々な能力があります。きっと役に立ってみせます。お願いです。わたし、ビアンカと共に戦いたいんです」


「いいだろう。君なら何も問題はない。我等と一緒に来るがいい…」


「ありがとうございます!!」


おもむろに、ルカはアンジェラ達の方に向き直った。


「アンジェラよ…この城は、ベリアルの配下の魔族と共に崩落する。お前達、人間は此処を去るんだ…」


頷くアンジェラ。


「わかった。わたし達も戦いが待っているからな…」


セルゲイやジャック達に向かい、顎で合図する。


「世話になったな。ルカ…」


やおらヴァ―ジニアの遺体を抱えると、ルカは言った。


「こちらこそ…」


そこへ、不思議な子守唄の様な鼻唄が聞こえてきた。


一堂が振り返ると、血塗れのビアンカの遺体を抱いたミカエラが、何やら呟きながら、ビアンカの頬を撫でている。



「♪らんらら、らんらん…ビアンカ…。これで楽になれたでしょう…?今は安らかに眠って…うふふ…」


瞳に狂気を宿したミカエラの姿を見て、アンジェラは背筋に冷たいものが流れた。


「ミカエラ…?」


「さぁ、安らかに瞳を閉じて♪…眠ってビアンカ…あなたには辛い世の中だったでしょう♪…もう傷つかないでいいのよ…うふふ♪」


「ミカエラ…ビアンカは死んだわけじゃない。魂はこれからも戦い続けるんだ」


「ふふ…お姉様、何を言ってるの…?ビアンカは死んだわ。わたしがこの手で殺したんですもの…♪」


そう言って、ビアンカの青黒い血液がべっとりと付着した掌を見せた。


「ふふ…♪これでもう離ればなれにはならないわ♪ビアンカは、わたしのものよ…」


血染めの口付けをするミカエラ。


「ミカエラ…」


そこへ、巨大な影。


「ジョアンナ…」


「その懐かしい名前でわたしを呼ぶのはだあれ?」


「おでだ。セバスチャンだ。ジョアンナ…さぁ、帰ろう…」


「ああ、セバスチャン…わたしはミカエラよ。もうジョアンナなんて名前の子はこの世にいないの…」


「どうでもいい。おでにとって、お前はジョアンナだ…」


ビアンカの遺体にまとわりつきながら、その狂気の瞳をセバスチャンに向けた。


「セバスチャン…」


頭を抱えるミカエラ。


「わたし…どうしたらいいの!?」


セバスチャンの太い脚に絡み付くと、途端に号泣した。


「ああ〜〜…ビアンカ…!?許してービアンカ!!」


闇の中、ミカエラの叫喚だけがこだましていた。









エメラルドグリーンに輝く光明に、瞳を突かれたビアンカは、目を覚ました。


「ここは…!?」


衣服はそのままだったが、ミカエラに撃たれた傷は完全に消えていた。


苔の様な植物の生い茂る岩場に寝転んでいたビアンカは上体を起こした。


「そうか。わたしは…」


いまわの際に感じた、刹那の痛みも忘れていた。


ビアンカは、立ち上がると周囲を見渡した。


まるで、ジャングルのど真ん中に突如投げ出された感覚。


そこへ、馬の嘶く声が聞こえた。


武器はなかったが、咄嗟に身構え岩場に身体を寄せる。


見れば、それぞれ赤、白、黒の甲冑を着た3人の騎士がこちらに近付いて来る。


「あれは…魔族か?」


騎士達は、ビアンカの姿を発見すると、立ち止まり馬から降りた。


「待っていたぞ。ビアンカ…」


騎士の1人が声を発する。


その声は、懐かしい響きに満ちていた。


「あ、あんたは…!?」







《続く》



初掲載2010-02-10

『闇の国のビアンカ』Vol.16「I DIED FOR YOU」





ミカエラの撃った弾丸が、わたしを貫く。

わたしの胸は血飛沫を上げながら砕けた。


驚愕するアンジェラや、ジャック達を前に、わたしはミカエラに殺された。




……これでいいんだ。

苦痛よりも、もしかしたら、もうミカエラ達とも会えなくなるかも知れないと言う絶望の方が苦しかった。



だけど、今はこれしかない。


わたしはビアンカ。


たった今殺された。


最愛の友達に……







ヴァージニアの恋人、吸血鬼のルカに案内され、わたしやアンジェラは、ミカエラ達が投獄されている牢獄までやって来た。


「ビアンカたん♪」


「ミカエラ!!」


ようやく会えた。


長い道程だった。

ミカエラが、わたしに抱き着いてくる。


感窮まり泣きそうになった。


でも、今は泣いている時ではない事はわかってる。


ルカは、わたしを魔族の姫君だと言う。


パパが魔界の公爵だとか、魔王に次ぐ実力者だったと。


そして、その娘であるわたしを旗頭に「反魔王軍」を組織して反旗を翻すらしい。


……でも、そんなことは、わたしにとってはどうでもいい事だ。


どうして、そうっとしておいてくれないの?



「ルカ…それで?」


「ん…?」


「わたしは、どうすればいいの?」


「…君の覚悟は?」


真面目ぶった顔で、わたしを見詰めるルカ。

切れ長の紅い瞳が眩しかった。


わたしと同じ、紅い瞳…

悪魔達の象徴である“真っ赤な目”……


何故か、その瞳を見ていると、碧眼のジュリアーノや、幼なじみのケインの茶色い瞳を思い出す。


嗚呼、ルカ…


あんたは、その瞳でヴァージニアの心を掴んだんだね。


「……わたしの本心を言わせてもらえば、正直戸惑ってる。…いや、むしろ迷惑だね」


その言葉を聞くと、彼は冷静な微笑みを浮かべた。


「そうか。それは、何故だ?」


「何故?…わたしに何の義理があると言うの?あなた達には、あなた達の正義があるのかも知れないけど、わたしをそんなことに巻き込まないで欲しいね…」


「つまり、自分には関係のない話だと?」


「そうさ。わたしは、こんな世界。むしろ滅んだって構わない。魔王が攻めてきて、人間達が死んだって、どうでもいい。わたしは人間なんか大嫌いだからね」


わたしは、そう言いながらアンジェラやミカエラ達の方を見詰めた。


これは本心なんだろうか。


自分でもわからない。

ただ一つ分かってる事は、この人間達の世界は、わたしにとっては住みにくい世界だと言う事だ。


わたしは半分、悪魔だから…



「ビアンカ…」


悲しげな顔で、わたしを見るミカエラ。


ごめんね。


わたしは、多分これ以上は耐えられない。


もうこんな世界、どうでもいいんだ。



「…ビアンカ。我輩は君の心がすべて分かるとは言わぬが…」


うやうやしくルカの手が、わたしの肩に掛かる。


「君の選択次第で、このミカエラも死ぬと言う事を忘れるなよ…」


「なっ…!?」


「なるほど、君は人間なぞ知らぬとそっぽを向き、ただ独り闇の道を歩めばいいかも知れんが、君を愛する者までもが魔王軍に蹂躙される事に耐えられるのかな?」


わたしを愛する者……!?


ケインも、ジュリアーノもわたしの為に死んだ…


そして、ヴァージニアも…


また、わたしの為に誰かが死ぬ…?



そうだ。


また、同じ事を繰り返してる。


ミカエラ、そして、アンジェラ達まで失う事は…


刹那の沈黙の後、わたしはルカの瞳を見た。

彼は優しく微笑みかけている。


「…わたしは、どうしたら…」


「まずは、君の肉体を脱ぎ捨ててもらわねばならぬ」


「!?」


「いいか。ビアンカ、君は半分は人間なのだ。我輩やガイウス達とは違う…このままでは魔王達の居る魔界まで行けぬのだ…」



「それは、つまり…」


「そうだ。ビアンカ…君は、ここで一度死んでもらう…」


「なんだって!?」


今まで話を黙って聞いていたアンジェラが口を挟む。

ルカに掴みかかろうかと言う勢いで迫っていた。


「ルカとか言ったな?それしか方法はないのか?なんでビアンカが死なないといけないんだ…!?」


「他に方法はない…ビアンカはここで一度肉体的に死んでもらわねばならない」

ルカは言い切った。

「…そんな…そんな!?」


ミカエラが近付いてきた。


「ビアンカたん…」


「ミカエラ…」


「帰ろう…ねえ」


彼女の瞳は、怯えているようだが強かった。

「ビアンカ。もうわたしもどうなっても構わないから、一緒に帰って楽しく暮らそうよ…」


哀願するかの様に見詰めるミカエラの姿を、わたしは凝視出来なくなった。


「…君の選択次第だ」

ルカは、ただ静かに言うだけだった。




「わかった…」


わたしは、手にした拳銃を自らのコメカミにあてた。


「ビアンカ!?」


「…おっと、それはダメだ」


何故か、ルカがわたしを止める。


何故、今になって…


「自殺ではいかん。あくまでも自然死か他殺でないとな」


「なっ…!?」


暫しの沈黙のあと、わたしはその拳銃をミカエラに手渡した。


愕然とした表情で、わたしを見詰め返す。

「ミカエラ…わたしを撃って…わたしをその手で殺して…あんたになら殺されてもいいよ…」


「ビアンカ!?」


「早く撃って…」


「そんなこと…できるわけ…」


ミカエラは、ただ涙声になりながら躊躇している。


当たり前だよね。


逆の立場だったら、わたしだって出来ない。

「ミカエラ…わたしを憎むんだよ」


「ビアンカを憎めるわけ…」


「ミカエラ…わたしは、あんたを捨ててジュリアーノの許に行った裏切り者だよ…憎いでしょ!?」


「そんなこと言わないで…」



「わかった!!わたしがビアンカを撃つ」


アンジェラが割り込んでくる。

「ミカエラ!!どけ!」


一瞬、よろけながらミカエラはアンジェラを見た。


「邪魔しないで!?」


「う…」


ミカエラは、涙を流しながら微笑んだ。


そして、おもむろに拳銃を両手で構えた。


「わかった。ビアンカ…わたし、撃つ…」


微笑み返すと、躊躇なく弾丸を放った。


そうだ。ミカエラ…


それでいい……









《続く》


初掲載2010-02-0
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