「ひーが、ちょっと来い」
「…ふえ?」
いつもの如く千早が部室の床で眠りこけていると、虹村が軽い調子で顔を出した。
部活後の気だるい身体に鞭打って、手招きされるまま素直に近づいていく。
「なんすかー?」
「おう。コーチと話し込んでたら遅くなっちまってな。みんなもう帰っただろ。ちょっとストレッチ付き合え」
「…えーと」
考えるものの相手は先輩であって要するに拒否権などない。
とはいえ普段からぶっきらぼうな虹村はとっつきにくいイメージを持たれがちだが、千早は比較的懐いている方である。
(まー敦との約束までまだ時間あるし…いっか)
「じゃーオレもよろしくお願いしまーす」
「よしよし、調子がいいのは大目に見てやる」
虹村は千早の頭をポンとはたくと、連れ立って体育館へと戻っていった。
広い体育館に二人きりというのはどうも違和感であるが、虹村と千早の性格上気にすることもない。
「あー…もう少しきつくていいぞ」
「うーす」
少し力を込めて背を押すと、不意に振り向いた虹村と目が合った。
「…?なんすか?」
「ああ」
交代、と虹村は千早を座らせた。
「お前、紫原と付き合ってんのか?」
「…はぃいい?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
意味がわからず、千早はがばっと身体を起こした。
「ちょっ、なんすかそれ!なんでオレが敦と!?」
「だってお前ら仲いいだろ」
「仲いいからってなんでそーなるんすか!」
「なんだよ、違うのか?」
「違いますって!何その勘違い!」
「ふーん」
「つかなんで男…?確かにオレ今彼女いないけど、オレ普通に女の子がいいっすよー」
「ああ?んだよいっちょ前に」
「そりゃーやっぱ足キレーな子とかいいっしょ!」
「足ぃ?」
雑談を続けながらも互いのストレッチは順調に進んでいく。
虹村の力は強めだが、柔軟性に自信のある千早にとってはさして苦でもない。
「じゃー先輩は?」
「あ?好みの話か?」
「うん。だって先輩彼女いないでしょ?」
「なんでお前が決めつけんだよ」
「いててててて」
カチンときたのか、全体重をかけてくる虹村にはさすがの千早も悲鳴を上げた。
「ま、確かにいねーけどな。部活ばっかでそれどころじゃねーし」
「っは〜…!じゃあ好きなタイプは?」
「タイプなあ…」
千早の背を押しながら虹村は黙った。
シャワー後の少し湿った柔らかそうな髪が薫る。
Tシャツからちらつくうなじが妙になまめかしく感じた。
「………」
「?せんぱい?」
「…そーだな」
「うん?」
「背は…別に高くても低くてもいい」
「んー、うん」
「体型はこんな感じで」
「へ…?うあッ!?」
「細めで筋肉あんまねーのがいいな」
虹村の大きな手が千早の腰を掴んだ。
あまりに突然で千早は思わず声を上げるが、虹村はどこ吹く風。
「髪型もあんまこだわりとかねーけど…」
「っ…!」
「こーゆー柔らかいのは嫌いじゃねえよ」
「ん、ッせんぱ…?」
後ろからのしかかられるようにして動きが封じられる。
耳元ですんと息を吸い込む虹村の吐息が近い。
「甘ぇ匂いだな。シャンプーか?」
「え…これ、は…敦がくれて…」
「紫原、なぁ」
「ッ!ひ、あっ!」
かぷ、と首筋に噛みつけばびくりと身体が跳ね上がる。
(っへ、変な声出たッ…!つか、この状況なに…)
「…逃げんなよ」
「あ、ッ…!せ、せんぱ、い…!?」
(何これ、なにこれなにこれなにこれ…!)
「お前、別にサボってるわけじゃねーのに筋肉全然つかねーよな。ふにふにしてっし、女みてえ」
「わっ…あ、あッ…!」
(せ、先輩の手がっ……なんか、ぞくぞくして…オレへん、だ…ッ)
混乱する千早の小さな抵抗などものともせず、虹村は好き放題にまさぐり続けた。
うなじをなぞり、腰のラインに手を添わせてゆっくりと撫でる。
当然、逃げられないように後ろから体重をかけたまま。
「…ッ、あ、のっ…?」
「そんなビビんなよ。別に今すぐとって食おうとか思ってねーって」
だが耳元で囁かれる台詞が逐一千早を翻弄する。
身動きが取れない。
変に熱くなる身体に、千早はわけがわからず混乱が収まらない。
(な、何オレ…どうなって……)
「おーおー固まってんなー」
「う、わっ!?」
にやりと笑った虹村は半ば全体重でのしかかっていた千早から突如身体を離した。
すると反動と勢いで千早は仰向けに倒れ、間髪入れずに腕を押さえつける。
「…え……、にじむら…せんぱい…?」
「ん?何する気だ…って顔だな」
「……」
声が出なかった。
おそるおそるこくりとうなずいた。
すると虹村は再び口角を上げて笑う。
…と、その時。
「緋賀ちーん、ここー?」
「!」
体育館の扉が開かれ、声の主である紫原が顔を出した。
「…ッあ、つし…!?」
「よー、紫原か」
「…………」
広い体育館には千早と虹村の二人きり。
しかも千早はどう見ても押し倒され、腕は虹村によって拘束されている。
当然のことながら、紫原の眉間のしわが深くなった。
「……何してんの」
「え、敦…?」
「何してたの」
明らかに怒気が含まれている声色に、虹村はやれやれと息をつく。
千早から手を離し、余裕の表情を崩すことなく紫原に笑いかけた。
「何してたように見えるよ。ん?」
「……!」
「言ってやれ、緋賀」
「え?えーと……ストレッチ…?」
「そーゆーこった。じゃーな緋賀。助かったわ。また頼むぜ」
紫原の反応を楽しむように含み笑いをして、虹村はひらひらと手を振りながら体育館を後にした。
残された二人は…特に千早はぽかんとして未だ状況が飲み込めていないらしい。
「…え、っと…わり、敦。もー時間?虹村先輩にストレッチ付き合ってくれって頼まれてさー」
「緋賀ちん」
「へ?なに…」
「行くよ」
「え、うわぁっ!」
どうも腑に落ちない様子の紫原は強引に千早を抱え上げ、部室へと足を速める。
先程の、勝ち誇ったような征服感に満ちた虹村の笑みが忘れられない。
「……絶対あげねーし」
「は?」
意味のわからない紫原の台詞に首を傾げながらも、千早は千早で別に思うところがあるらしく。
(…さっき、虹村先輩に触られたとこ…なんか、へんだ。熱い、し…敦に抱えられてるから余計……なんだか)
ぼんやりとあの混乱の要因を思い起こそうとするが、顔やら身体やらが火照るばかりでうまく考えがまとまらない。
「………緋賀ちん」
「ん?」
「何考えてたの」
「え…別に何も…」
「嘘。じゃーなんでそんなやらしー顔してんの」
「はああ!?なんだよそれっ…」
反論すればするほど紫原の顔が不機嫌に染まっていく。
眉間のしわはさらに深くなり、駄々漏れの怒気が痛いほどに伝わってくる。
「あ、敦……?」
「…今日ゲーセン行くのやめる」
「え、やめんの?じゃーどこに…」
「シャワー室」
「……はい?」
わけがわからず千早はただ落ちないよう紫原にしがみついている。
紫原はするりとその細い腰を撫で、耳元で低く囁いた。
「緋賀ちんはオレのだから。誰にもあげねーし。緋賀ちんもオレじゃなきゃダメだから。ちゃんとそれ、証明してあげる」
「え?え、え、ちょっ…!?敦何言って…!」
そこでシャワー室の扉がぴしゃりと閉ざされ、千早の悲痛な叫びも何もかも、響く水音に全てかき消された。
終
**********
続かない\(^o^)/
だってこれ続けてもどうせいつものパターンでえろになるだけだもの(身も蓋もねえ)
今回はにじむーを出したかっただけなんで。
…でもあのままじゃどっちにしろ千早ヤられそうだってんでむっくん登場。
そしていつものパターン(笑)
なんかにじむーは室ちんとまた違った余裕があっておもしろい。
なかなか楽しんで書けましたが、キャラ崩壊酷い。
あと千早の敬語が違和感すぎてやばいww
室ちん先輩なのにいつもタメ語だもんな…
あーにじむーの声とか身長とかもっと詳しいこと知りたいわー。
しかし二期には確実に出てこないんだろうな…泣ける。
虹千ちょっとハマったけど結局は紫千に落ち着きます。
久々で楽しかったです。
お粗末さまでした(土下座)
どきどきしちゃうわなあ!!
や、いっそヤられちゃいなよとか思ってしまって
ごめんねー!ちーくんー!!ヒイイイ←
にじむー先輩がカッコイイ……!なるほど良い!←
単純に虹千は相性良さそうで微笑ましいのに
にじむーがそういうわけにもいかない感じ!\(^o^)/
やー可愛いちーくん……やはり可愛い←
そして安定に紫千ー!\(^o^)/
お仕置きタイムー!しかし是非みたい←
久々の男主はやはり良いー!
オラもなんか書かなきゃ……!((((;゜Д゜)))
ありがとううう!!たのしかたー!私がー←
コメントいつもだらだらすみません!!ではではー!
にじむー\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/便乗
いやぁ楽しかったですー!
仲いい先輩後輩で終わらせないところが茜クオリティだよね!←
そんなんもったいない!せっかくの逸材!笑
千早はいつも被害者だがもはやそれはデフォだと思うのだよ(`・ω・´)キリ
ただ純粋に懐いている千早をいいことに涼しい顔でセクハラし放題のにじむーとか個人的にうまくてよだれが止まらんです俺得ですねわかります。
しかしこれ結局紫千に落ち着くっていうね\(^o^)/
お、お仕置きタイムだと…!?(゜ω゜三゜ω゜)メラァ←
いやーまた虹千からの紫千書いちゃったらすんません!!!
めちゃくちゃ楽しかった!
こんなんにまでコメントありがとうございますー!!!