それから暫く馬を走らせていくと、道沿いに一際大きな民家が見え、そこでは待っていたかのように一人の男が立っていた。
先に尊奈門が馬から降りて男と話をし、昆奈門達へと振り返る。
「文で手配しておりました。
人妖出没の詳しい場所まで案内して下さいます」
「飛蔵と申します」
尊奈門の紹介で男・飛蔵がペコリと頭を下げた。
全員が馬から降りて簡単な挨拶を交わすと、昆奈門は申し訳なさそうに口を開く。
「私の力が至らんばかりに、苦しい生活を強いらせて済まぬ」
飛蔵の姿は擦れてボロボロの着物を纏い、覗く手足は骨が皮に張り付いているかのように細く、まともな食事すら出来ていないのが一目瞭然だ。
里の畑は緑で覆い尽くされているのに、ここ一面は黄土の乾いた土ばかりが目に入る。
「そんなお侍様が頭を下げるこたねぇっ。
俺らはここで生きていこうと決めて生活しとるんだ、お侍様の所為ではねぇ!!」
突然のことに男がわたわたと慌てるが、頭を上げても昆奈門の気持ちに変わりはない。
「いや、荒れた土地のまま放置していたに等しいのだ、頭を下げただけで足りるものではあるまい。
今回の件が済み次第、此方へ部下を派遣し、すぐにでも整備を開始する故、もう暫く待っていてくれ」
昆奈門の心からの謝罪と今後の希望に、飛蔵の瞳からはポロリと涙が零れた。
「そこまで仰って頂けるだけで、俺達には十分有り難ぇもんです。
お侍様、有り難うごぜいます」
「それで、人妖の出る場所へは?」
「この先の山奥へと向かうんです。
人の手が入っとらんので馬では進めねぇんですよ」
飛蔵の示す山は、確かに不気味な程に緑が茂り、道らしい道などは見えそうにない。
「お侍様には済まねぇですが、ここから歩きで御願ぇしやす。
馬は俺の家でお預りしますんで‥」
申し訳なさそうに話す飛蔵に、昆奈門は「そんな畏まらんでくれ」と苦笑いを浮かべた。
「我々が無理に御願いしているのだから、気を遣う必要はない。
畑仕事もあるだろうに、その上馬の世話まで‥」
申し訳ないのは此方の方だ、と続ける昆奈門の言葉に、飛蔵は「とんでもない」とそれを遮る。
「作物はほとんど枯れちまうんで、畑仕事なんて呼べる作業はありやせん。
せめて稗や粟だけでも‥と思っても、種籾すら無い様で」
家族を支えねばならない自分がどうする事も出来ない、と飛蔵の表情に影を落とす。
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