四頭の馬を子供達に預けた昆奈門達は、飛蔵の案内で山の中に入っていた。
遠目から見ていた以上に深く黒く茂った木々は空を全て覆い尽くし、一切の光を通すことのない闇の世界へと化していた。
心許ない提灯に照らされる、彼らが進んでいる道も“人の使う道”と言えるものではなく
木々の枝や茂る草の中を掻き分けて進む、まるで獣道のよう。
「‥確かに、これでは馬など不可能だな」
両手で枝や草を掻き分けながら、高坂が納得したように呟く。
それに誰も反応を示すことはなかったが、皆同意しているであろうことは表情だけで分かった。
提灯を持ち一行の先頭で獣道を案内する飛蔵は、続く昆奈門達を気遣い何度も振り返る。
「大丈夫ですか、お侍様?」
「あぁ、我々は夜目が利くのでな、大丈夫だ」
飛蔵のすぐ後ろを歩く山本が昆奈門の代わりに答える。
彼の気遣いに答える意味ではあるが、昆奈門達の夜目が利くことも事実。
本来ならば全員か、少なくとも二つは明かりが必要であろう状況に、たった一つの提灯だけなのだ。
飛蔵が心配になるのも無理はない。
「ところで、人妖が出る場所まではまだ掛かるのか?」
「へい、この山の奥になります」
足場が悪い訳ではないが、茂る草木が邪魔をしてどうにも歩みが遅くなっていく。
闇に目が慣れてきたとはいえ、それでもぼんやりとしか見えない世界は、まるで異界に迷い込んでしまったのではないかと錯覚する程だ。
方向感覚を失うような視界の中、飛蔵の提灯を頼りに前へ前へと足を進めていくと、突然目の前が開けた。
足元は剥き出しの土で全く草が生えておらず、そこだけ人の手が入っているかの様に見える。
しかし、それは飛蔵の灯で薄ぼんやりと浮かび上がる輪郭でのみ分かる範囲だ。
周囲を囲う高い木々の枝が、他の場所と同様に空を覆っている為、全貌を把握することは出来ない。
「不思議な場所だな」
昆奈門が呟けば、山本達と共に飛蔵も頷く。
「ここだけは草が生えねぇんです。
それに、薬草もこの周りでしか採れねぇんですよ」
茂みからプチンッと何かを摘むと、飛蔵は灯に小さな青い花を咲かせる薬草をかざした。
「人妖が現れるのは、ここから更に奥へ入った所になりやす」
剥き出しの土が続くその先へ灯を示す。
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