スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第4 話









翌日、軽やかな四つの蹄が地面を蹴る音が里に響き渡った。


雑渡家の屋敷から山一つ分離れたその村は、豊かな中心地と打って変わって細々とした土地が広がり


忘れた頃に見える民家が寂れた雰囲気を漂わせる。


馬上で揺られながら周囲を見渡す昆奈門へ、山本が並ぶように馬を近付けて口を開いた。


「ここ一帯は土地が痩せており、里からも距離がある為に未だ整備が整っておりません」

「なぜ今までそれが私の耳に入ってこなかったのだ?」


話を聞き、昆奈門の鋭い眼差しが山本に向けられる。


「‥私の独断に御座います」


自らの非を詫びるかのように、山本は目を俯せた。


「七〜八年前から立て続けに起こっている山崩れや洪水、流行病の対処に追われておりました故。
何より、此処に住まう者が少なかった事と、この土地のみまるで護られているかの様に天災の被害が全くありませんでした」


確かにずっと慌ただしかった政が済み、静かにゆったり出来るようになったのはここ最近になってからだったな、と昆奈門は山本の言葉を聞きながら思い返す。


「それで報告しなかった、と?」

「は‥、軽率である事は重々承知しております。
しかし」


続けようとした山本を、昆奈門は片手を上げて止めた。


「お前の言いたい事は分かっている。
被害はなるべく最小限に、私がお前でも同じ判断をしただろう」


その台詞に、山本は驚きで目を見開いた。


己の勝手な考えで貧しい生活を送る民を見捨てたに等しい行動を取った。


責められこそすれ、同意してもらえるなど思いもせずにずっと罰せられるものと、山本は覚悟してきたのだ。


「‥そう仰って頂けるだけでも、幸いに御座います。
ですが、今はせめて昆奈門様へ報告するべきであったと後悔しております」

「まぁ、過ぎた事をとやかく言うつもりは無いが、次からはなるべく話してくれると助かるよ」


笑ってあっさりと許す主に、山本は感謝の気持ちでいっぱいだった。


本来ならばこのような情報操作など、君主を謀ったと斬首もの。


それだけではなく山本家の取り潰しまでされてもおかしくない程の大罪だ。


なのにお咎めなしということは、それほどに山本を信頼しているからに他ならない。


何度感謝の言葉を告げても足りない、山本は静かに頭を下げる。


それだけで伝わると言わんばかりに、昆奈門も小さく微笑みを返した。




[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第3 話





「何か話があったのではないのか?」


やれやれと溜息をついて山本が尊奈門に尋ねれば、青年はハッと我に返り懐から一つの文を取り出した。


「村の外れで人妖を目撃したという噂を耳にしまして‥」


文を受け取り、はらりとそれを広げてみれば、尊奈門が調べたのであろう人妖の情報と、目撃した状況が詳細に書かれていた。


「東の村外れ‥あの山林には誰も住んでいないはずだが、村人はなぜそこへ?」

「なんでも、病に効く貴重な薬草が生えているらしく
それらを採取する際、特定の場所で人妖と呼ばれる者を目撃するようです」


頭の中でそれらの情報を全て整理してあるのか、昆奈門からの問いにもすらすらと簡潔に答える尊奈門。


「今のところ被害は無いようですが、これから何が起こるとも言い切れません。
早急に対処した方が宜しいかと思い、報告致しました」


若輩ながらも迅速な判断をした尊奈門へ、昆奈門は満足気に「ふむ」と頷く。


「‥女の人妖、か」


目撃された姿は同じ女


それも、すすり泣いているだけのもの


だが…




確かに被害は無くとも人妖と呼ばれる何者かがいる事で要らぬ不安を煽り、人々の生活に影響が出る事は目に見えている。




「これは私が直に向かおう」

「昆奈門様直々に、ですか‥?」


驚く尊奈門の目の前でしっかりと昆奈門は頷いてみせた。


「得体の知れぬ相手となれば、この目で直接確認した方が対策も立てやすいだろうからな。
陣内、陣左を同行させ、尊奈門を案内役とする」


名を挙げられ、尊奈門は嬉々とした表情で「はっ」と主へ頭を下げる。


仕える身の彼にとって、同行を命じられるなどこの上ない名誉であるのだ。


尊奈門の瞳に、浮き立つ気持ちが表れ、期待に輝く。


「出発は明日だ、支度を頼む」

「はい」


「‥は?」


昆奈門の一言に、静かに承諾の返事をする山本と対照的に、尊奈門は疑問の声を上げた。


「あ、明日で御座いますか?」


てっきり今すぐ出発するものだと意気込んでいたのか、拍子抜けしたように問い掛ける。


「当然だ。
先ずはこの書面と、屋敷での仕事を粗方片付けていかねば後々問題になりかねん」


さも当たり前のように述べられた言葉に、正論だと納得した尊奈門だったが


「それに」と続けられた言葉には呆れ顔を浮かべるしかなかった。




「これ全部片付けないと、陣内が承知しないしねぇ」



チラリと向けられた主の視線に、山本は涼しげな表情でニコリと返すのだった。




前の記事へ 次の記事へ