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【想い想われ、恋し焦がれ】5 雑乱小説

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人里離れた山中では買い物も出来ないし、何より学園内に居るのと大差無くなってしまう。


どんなに考えを巡らせても解決策が見当たらない乱子は、仕方なく昆奈門へそれを問い掛けることにした。


「2人っきりになれる場所、ねぇ」

「はい、この忍術学園の外で‥どこかありませんか?」


彼女の問い掛けに、昆奈門はうーん、と唸りながら虚空を見つめる。


「周囲の目を気にせずとなれば、出会い茶屋が妥当だと思うけど」


“出会い茶屋”


その単語を聞き、乱子の顔がボンッと赤くなった。




※出会い茶屋とは、江戸時代などに実在した男女密会の宿。


現代のHホテル、ラブホテルのこと。


派生によっては男娼が男客の相手をする陰間茶屋。


客の食事の世話と夜の相手もする飯盛り女がいた宿場女郎など、風俗営業を行う様々な店を引っくるめて出会い茶屋と称されていた。






以前、くのいちはそういう場所で女の色を利用して情報を得る事もある、と授業で習った。


その為、出会い茶屋がどういう目的で、何をする場所なのか知識では分かっているつもりでいた。


それでも異性の、それも昆奈門の口から聞けば嫌でも“その事”を意識してしまい、乱子の心臓は早鐘を打つ。


「なななに急に言い出すんですかっ!?」

「私の包帯だらけの顔じゃ、町を散策なんて出来ないだろうからね。
部屋の中なら人に見られることもないし、時間を気にする必要もないだろ?」


まるで天気の話でもするかのようにサラリと言ってのける昆奈門とは対照的に、乱子はパニックで口元を震わせる。


「た、確かにそうかもしれませんけど‥で、出会い茶屋なんてっ。
私達まだ付き合いだして1ヶ月くらいですし、‥キ、キスも…まだですし」


段々と声が小さくなり、恥ずかしさから俯いてしまう乱子。


それを見兼ねた昆奈門は、優しく言い聞かせるように言葉を向けた。


「何もその目的だけで言っている訳ではないよ。
他の人の目が気になるなら‥という意味で、部屋の中なら本当に心配はないんだし」


彼女の頭を撫で、落ち着いたのを見計らうと再び昆奈門は口を開く。


「‥勿論、私は乱子ちゃんが良いと言うまではそういう事はしない。
その代わり、デートでも口吸いでも、乱子ちゃんが望むことは出来うる限り応えるつもりでいるよ」


どこまでも深い深い彼の瞳が乱子を見つめる。




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【想い想われ、恋し焦がれ】4 雑乱小説

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昆奈門と乱子がくっつくように話をしているのを鋭い視線が2つ、睨み付けていた。


1人は目の下に酷い隈を浮かべている、随分と老け顔な青年


1人は三白眼の為に目付きが悪く見えるが、優しさも伺える青年。


同じ緑色の忍装束を纏う2人が憎らしげに恨めしそうに昆奈門へと視線を注いでいた。


「文次郎、留三郎‥もう止めなよ、こういう事」


ガサリッと音がして2人の後ろから現れたのは、優しそうな、見方を変えれば頼りげのなさそうな同年代の青年だった。


ふわりと柔らかな茶髪を揺らし、伊作は困ったような表情で口を開く。


「学園中が公認してて、互いに好き同士の2人にあんな事して‥。
昆奈門さんは良い人だし、乱子ちゃんを大切にしてくれると思うんだけど」


明らかに昆奈門を敵視している2人へ、説得するように伊作は言葉を発した。


仲睦まじい昆奈門と乱子の邪魔を、これ以上して欲しくないのが彼の本音。


しかし、文次郎と留三郎の2人は伊作の言葉を聞いた途端


「「曲者に可愛い後輩を取られて堪るかっ!!」」


と声を合わせてそう言い放った。


いつもは犬猿と言われる2人が、こういう時ばかり息が合う。


そんな友人達に今回も駄目か、と伊作は諦めたように溜息をついた。






先輩達の刺さるような視線を感じながら、乱子は1人考えに耽っていた。


この学園内では文次郎や留三郎だけではなく、他の生徒や先生方からも色々な意味で注目の的にされている昆奈門と乱子。


本当の意味で2人っきりになったことはなく、誰彼からの視線が必ず向けられているのが現状だ。


思春期を迎え始めた乱子からすれば、短くても構わないから2人っきりの時間を過ごしたい。


しかし、着物で体の包帯は隠せても顔の殆どを覆う包帯までは隠すことが出来ない。


町や里で友人達と同じ様に他愛のない雑談をしながら歩いたり、一緒に買い物をしたり、茶屋で団子や饅頭を食べたり‥


そういったデートをしたいと思っても、昆奈門が顔を隠すのは不自然で一目を集めてしまうだろう。


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【想い想われ、恋し焦がれ】3 雑乱小説

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甘い雰囲気で、乱子がそういうおねだりをする時は決まって邪魔が入る。


すっかり毎度のことになってしまっているが、こうも邪魔され続けてしまうと彼女の怒りも我慢ならないものだろう。


「昆奈門さんに当たって怪我でもしたらどうするんですかっ!!」


明らかに狙ったであろうそれらは、命中すれば怪我だけでは済まされない。


愛しい人へ攻撃すること自体も、彼女が怒る原因だ。


「私は乱子ちゃんが怪我する方が心配なんだけど」

「それでも私は昆奈門に怪我して欲しくはありません!」


彼の呟きにも乱子は必死に訴える。


忍組頭である昆奈門が、上級生とはいえ忍たま相手に傷を負うなど有り得ないことだ。


それでも愛しい人が怪我をすると思うと堪えられない。


怒りの矛先を茂みに向けるが、既に相手もとい先輩方は去った後なのか、気配を感じられず


余計に乱子の怒りは留まる一方だった。


そんな、己の事で真剣に怒ってくれる愛しい人の姿が可愛らしく感じてしまった昆奈門は、つい乱子の頭を撫でてしまう。


「もぅ、昆奈門さんたらっ!
今はこんな事してる場合じゃないでしょっ、先輩達に狙われたんですよ!」

「分かっているよ。でも、あれ位じゃ私を討ち取るなんて難しいんじゃないかな」

「それでも万が一という事もあります!
何かあってからじゃ遅いんですからねっ!!」


のんびりとした口調の昆奈門に、乱子は怒っているのか心配しているのか分からない声で怒鳴った。


必死の形相でそこまで言われてしまうと、昆奈門にとって最早狙われたことなどどうでも良くなってくる。


愛してやまない彼女にそこまで心配され、想われていると分かっただけでそれ以上のことは考えられなくなってしまう。


「ちゃんと聞いてますか!?」

「はいはい、ちゃんと聞いてるよ」






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【想い想われ、恋し焦がれ】2 雑乱小説

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(‥そりゃあ、ユキちゃんみたく胸も大きくないし。
若い山本シナ先生みたいに大人の女性とはいかないけど)


チラリ、と乱子は昆奈門へ視線を向ける。


その視線を受けて彼がニコリと笑った。


(私達、付き合ってるのにキスもしてない‥これじゃ本当に付き合ってるなんて言えない気がする)


今まで頭を撫でてもらったり、抱っこをしてもらったり、手を繋いだりはした。


だがそれ以上の行動が無い為に、不安で仕方がない。


(今度こそっ!!)


そう気合いを入れた乱子は、ぐっと昆奈門へ顔を近付ける。


突然のことに少し驚く昆奈門だったが、彼女の真剣な眼差しに黙って見守ることにした。


「ん」


訴える様に見つめていた目を閉じ、乱子はくいっと顎を持ち上げる。


縋るように彼の忍装束を掴み、見上げる状態の少女は待ち詫びるように自身の唇を差し出した。


頬を赤らめ、必死な様子の乱子に、昆奈門は愛しさで胸が満たされていく。


彼女のおねだりに応えようと、その赤く染まる頬に片手を添え、自らの口元を覆う頭巾に手を掛けた。




その瞬間に何かの気配を感じ、昆奈門は乱子を抱き抱えて木の枝へと飛び上がった。




ドスッと鈍い音が響き、2人が下を覗き込めば


全て金属で作られた重たそうな算盤と、白い漆喰の塊が先程まで2人がいた地面にめり込んでいた。


「おやおや、今回はまた過激だねぇ〜」


特に驚く風でもなく他人事のように呟く昆奈門とは対照的に、乱子は怒りの形相でそれらが飛んで来たであろう茂みをキッと睨み付ける。


「もぅーーーっ!!
潮江先輩っ、食満先輩何するんですかぁーーーっっ」




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【想い想われ、恋し焦がれ】1 雑乱小説

ブログリさんで載せてた小説だけど、こっちに拠点を移したので連載してた小説を頭から載せたいと思います


文章はそのまんま(読み返して訂正などは加えてますが)

にょた化・捏造が根本にありますので、『それでもオッケー♪』という方だけ読んでください


なお読んでから『こんな話無理だから』等の苦情は受け付けません






ツイッターでリク頂いた雑乱設定から出来上がりました小説です

谷原雑渡と黒髪くのたま乱太郎って事で、完っ全にパロです!!

オリジナル設定な上に捏造な世界観ですので、どうか広い心で読んでください(~_~;)






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強い日差しがさんさんと降り注ぐなか。




漆喰の白い塀に囲まれ、多くの木造建てが並べられている敷地。


大きな門の横には木の板に『忍術学園』と掲げられていた。


中庭、茂った林のようになっているなか


その木陰のひとつに、寄り添う2人の姿があった。




1人は黒い忍装束で全身を覆った大柄な男。


忍装束から覗く手首や胸元は一般的な鎖帷子ではなく、白い包帯が巻かれ


顔のほとんどをも包帯に覆い尽くされている為、男の表情は読み取れない。


唯一見える右目だけが、彼の感情を映し出していた。


男の熱い視線を一身に浴びるは、傍らに座る1人の少女。


艶やかな漆黒の長髪を靡かせ、大きな眼鏡からはぱっちりとした愛らしい瞳が男を見つめて微笑む。


まるで親子と見紛う程の年齢差を思わせる2人だが、纏う雰囲気は甘く彼らだけの世界を創り上げていた。




「それでね、ユキちゃんたら昆奈門さんのこと根掘り葉掘り聞くのよ。
話さないと『友達に隠し事は無し!』って言うし、話したら話したで皆に言い触らしちゃうんだもん。
酷いと思いませんか?」

「そうだねぇ、女の子は噂好きだとはいうが、無理矢理聞き出すのはちょっとねぇ」


不満を訴えるように少女が眉を歪めて話し掛ければ、男・昆奈門は優しくそれに答える。


「きっとユキちゃんは私と乱子ちゃんが羨ましいんじゃないかな?」

「そんなのじゃないですよ、絶対私達のこと面白がってるだけですって」


むうっと怒る少女・乱子の仕草ひとつひとつが愛らしくて、昆奈門はついつい彼女の滑らかな感触のする髪を撫でた。


頭を撫でられ、一瞬嬉しそうな顔をした乱子だったが、直ぐ様不機嫌そうな表情へと変わる。


そのように撫でられることは好きだが、どうしても子供扱いされているようで、彼女は素直にそれを喜ぶことが出来ずにいた。






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