だが、はっと我に返ると彼は無理にでも明るい顔を作ってみせた。
「す、すみません、辛気臭ぇ話してしまいやして…」
ぺこりと頭を下げ、馬小屋へと昆奈門達を案内する。
「もう馬小屋があるのはここだけなんですよ。
どこも馬を飼う余裕も無ぇもんで。
俺んとこも一年前まではおったんですが、満足に餌も食わしてやれねぇ、やむなく手放しやした」
話ながら通されたそこは、手入れがされているものの、馬特有の臭いが一切しない粗末な掘っ立て小屋だった。
「随分と広いのだな」
予想していたよりも広い小屋に驚き、山本が正直に言葉にした。
「昔は宿みたいなこともやってまして、寝床と馬の世話位の小さなもんでしたが」
宿というものがこの里には無かった為に、せめて寝る処だけでも‥というのが始まりだったらしい。
四頭を繋ぐには十分過ぎる広さが、以前はそれなりに賑わっていたであろう気配を漂わせる。
「それでこの様な広い馬小屋か」
皆が納得するなかで、尊奈門がそう声を上げた。
この土地の人柄故なのだろうか。
生活は決して豊かとは言えないが、困った人を放っておけず手を差し伸べ、互いに助け合うのを当たり前としてしまう。
昔はきっと、のどかで平和な土地で、そうそう争いなど起きる事も無かったのだろう。
この様な場所を、荒れ地になるまで放置してしまった自身が腹立たしくて、昆奈門は人知れず険しい表情を浮かべた。
「おーい、団蔵、お清」
家の中へ飛蔵が声を掛ければ、十余りの子供が二人飛び出して来る。
「せがれの団蔵と、娘のお清です」
「こんにちわ」
紹介され、子供達は昆奈門達へ照れたようにはにかんだ笑顔を見せる。
「父ちゃん、この方々と出掛けてくるからな。
その間、お侍様の馬の世話を頼むぞ」
頭を撫でられた子供達からは「はーい!」と頼もしい声が帰ってきた。
.