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【夜更けの約束】6話完結

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『ねぇ、昆奈門さん。
もし戦で負けた時は、貴方が殺してくれる?』


『何だ急に‥』


『お互いに組頭として城に仕えているんだもの。
負けた時は死ぬのと同じでしょ』


『……』


『それに、他国の忍組頭だった者を雇う城なんて考えられないじゃない?
口封じで殺されるのが目に見えてるし』


『だから‥私の手で死にたい、と?』






『出来るなら、タソガレドキとの戦で負けた時って思いたいんだけどねぇ‥。
今は他国から攻められる可能性が一番高いわ。
…それも、内側からの、ね』


『密偵の裏切りか。どこの手の者か調べはついているのか?』


『えぇ、でも戦慣れしていない殿や城の者じゃ勝ち目が無いのよ。
だから…』










─約束して




私が逢いに行ったその時は




どうか、止めを刺して─














泣き言を吐くように、悲しげな微笑みで話した彼女の顔が昆奈門の脳裏に過る。


いつの間にか周りは月明かりに照らされ、茂る草や木々の葉が時折、キラリと光った。


昆奈門が顔を上げれば、空には全く雲が無く


まん丸な月が黒い空にぽっかりと穴を開ける様に浮かんでいた。


その月明かりの柔らかな光りが、最後に見た乱の微笑みと重なる。




「私は生き延びるよ。
忍組頭として、いつまでも」






月を見上げた昆奈門が、右目を細めながら‥そう独り言ちた。




END






─────


サイトでやった相思相愛での死ネタとは全く別なパターンになりました

想う相手の手で死にたいっていう愛も大好きだけど、愛してる故に殺したいも大好きなんだ〜


この雑乱は狂気じみてるようでそうじゃない世界観を目指してみた


展開や設定は最初に思い付いたまんまで、大幅変更は無い感じ

大体はかなり変更を入れたり削ったりするんだけども、今回は珍しい


基本ラヴラヴだけども、こんな結末だけの話もたまには良いよね〜


最後まで読んで下さった方、ありがとうございます

これにて、夜更けの約束 完結!

【夜更けの約束】5話

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乱に覆い被さるような体勢になったことで、昆奈門の鼻孔が嗅ぎ慣れた臭いを捉える。






焦げたような火薬の臭い






鉄錆に類似する血の臭い






良く見れば彼女の忍装束はあちこちが破れ、全体的に乾いた血と煤、土で汚れていた。


そこまで見て、昆奈門は目を閉じ、小さく溜息をつく。


「…全く。難儀な女だね、お前は」

「お互い様だと思うけど」


戦いを挑んだとは到底思えない、柔らかな優しい笑みを浮かべる乱が苦笑するように応える。


そしてそれは今にも彼を抱き締め、愛の言葉を囁きそうな程に柔らかな表情へと変化した。






彼女の真っ直ぐ見つめる瞳を、昆奈門は右目で受け止めながら




柔肌に宛がっていた苦無を、躊躇することなく横へ引いた。












目の前を鮮やかな紅が彩ったが、それも直ぐ様闇に呑まれる。


苦無から滴る雫を布で拭っていると、部下の一人が駆け寄ってきた。


「報告!─城、奇襲により陥落!
城内の火薬に引火したと思われる爆発により、跡形も無く吹き飛びました」

「知っている」


部下の言葉に、昆奈門は目を向けることなく言い放つ。


上司の台詞に「は?」と呆けた声を漏らした部下は、足元に倒れている人物に気付いて驚きの声を上げた。


「こ、この者は─城の忍組頭っ!?」

「先程仕留めた。
侵入したのはこの一人のみ、─城の生き残りだろう」


狼狽える部下に、吐き捨てる様に言い放つと


昆奈門は動くことの無い乱の傍へ屈む。


首がぱっくり裂けていながら、彼女の浮かべる表情は安らかな笑みで飾られていた。


もう何も映すことの無い、見開かれたままの乱の瞼を掌で下ろす。


普段から白い肌が、血を失い更に白く冷たくなっていく彼女に一瞥すると、昆奈門は無言のままタソガレドキ城へと足を運んだ。










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【夜更けの約束】4話

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全く微動だにしない昆奈門へ彼女が押し込んでいる為に、ガチガチッと乱の苦無が鳴る。


「力では私に敵わない。分かっているだろう?」


まるで子供に言い聞かせる様な口調で話す昆奈門。


「力だけじゃ勝てない。それも分かってる?」


からかう様に言う乱が突然身を引いたかと思えば、今度は昆奈門の死角から刃を突き立てる。


予測の難しい不規則な乱の攻撃は、周囲で見守る昆奈門の部下達では全くついて行けず、昆奈門のみが難なく刃を止めていく。






幾度も苦無がぶつかり合い、弾かれてはまた合わさる。


攻防を繰り返すなか、昆奈門の右目だけは真っ直ぐに乱を見据えていた。


(‥何を焦っている?)


彼の知るなかで乱らしくないその戦い方に、疑問が浮かぶ。




乱の仕える城は、敵を様々な方法で惑わす事に長けた忍を抱えていたはず。


戦って勝つことよりも、戦そのものを起こさないように相手の戦意や士気を落とす術で生き残ってきた。


乱もまた『敵であっても傷付けたくない』という優しさのある女性で


“戦うことなく戦を終わらせる”と噂される女忍組頭として有名だ。


その惑わすことに秀でた彼女が、直接的な戦い方をしている事に昆奈門は違和感を覚えてならない。




「ふんっ!」


ギィンッッ


突き出された刃を強く弾けば、苦無は乱の手から高く飛び出した。


くるくると回転しながら落下するそれを受け止めると、昆奈門は双剣のように2つの苦無を構える。


更に飛び道具がくるだろうと思っていた昆奈門の予想に反し、乱は肉弾戦で挑んできた。


素早く拳を突き出し、幾度も昆奈門へ繰り出される攻撃。


だが、武器を手にし、尚且つ大柄な昆奈門相手にはあまりにも不利過ぎた。


苦無を使用することなく乱の鳩尾へ拳を捩じ込み


勢いを利用して、そのまま彼女の体を地面に叩きつける。


「かはっ…」


背は地面、更に鳩尾を押し付ける昆奈門の拳に挟まれ、乱の肺から空気が押し出された。


彼が手を離しても呼吸はままならず、乱は咳き込むように息をする。


そんな侵入者へ起き上がる隙すら与えず、昆奈門は彼女の首へ苦無の刃を宛がった。


僅かでも身動ぎしようものなら一瞬でそこを斬り裂くであろう男に、荒い呼吸をつきながらも乱は抵抗を止める。


「今日は随分と消耗しているな。
武器を取られるなど‥、頭ともあろうお前が、らしくない」


包帯から覗く右目は冷酷そのものだが、彼の口から紡がれる言葉の端々には彼女を案じているのが伺える。


だが、それ以上の追及はしない。


互いに踏み込んではならない領域が忍にはあるのだ、と問い質すようなことはしなかった。






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【夜更けの約束】3話

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闇に染まる木々の間を音も無く走り抜けて行く。


まだ足軽達は到着しておらず、潜伏している偵察の緊迫した気配だけが昆奈門には感じられた。


静か過ぎる森を駆け抜けていると、突然首筋にぞくりと悪寒が走り、昆奈門は咄嗟に前方へ転がる。


シュッ


直ぐ後ろから風を切る音がした。


明らかに昆奈門の首を狙って放たれたのは、回転音が無く、棒手裏剣か小型の苦無だろう。


転がる勢いを利用して身を起こし、闇の中へ目を凝らす。




姿は見えずとも、居る。




巧みに気配を消し、部下達では悟ることすら難しいであろう相手は、じっと昆奈門を見つめている。


相手の出方を見極めようと動かずにいる彼へ、一向に攻撃が続く気配は無い。


それを疑問に思うこともなく昆奈門は闇へ向けて口を開いた。


「‥どうした、これで終いか、乱?」


まるで微笑みでも浮かべていそうな昆奈門の声に、闇の中からクスリと笑みが聞こえる。


トンッ


風もなく地上へ降り立ったのは、豊かな赤髪をなびかせるくの一、乱だった。


忍装束に身を包み、頭巾で顔を覆っているが、彼女の豊かな長髪は隠しきれずに流してある。


「やっぱりバレたか」


悪戯でも見つかったような乱の言葉に、昆奈門も含み笑いで返す。


「当然だ、こんな無謀な真似をするのは君しかいないだろう?」


くっくっ、と喉を鳴らして笑う昆奈門と乱の会話は、まるで旧友が冗談を言い合う仲の様に微笑ましい。


だが2人の纏う雰囲気は、戦で繰り広げられる死闘そのもの。


一瞬でも気を抜けば死に繋がる、凄まじい緊迫感。


偵察として見守る幾人かのタソガレドキ忍者は呼吸すらまともに出来ない重い空間に、ごくりと固唾を飲んだ。


「他の組頭じゃ有り得ないってこと?」

「そこまでの技術と度胸が無いだろうねぇ。敵地にたった一人で挑むなんて‥正気の沙汰とは思えない」


互いの挑発的な視線が交差する。


「私が狂ってるように見える?」

「君なら、正気でやってのけると思うけどね」




ニヤリと妖しげに笑う乱。




珍しく口元を上げて笑みを浮かべる昆奈門。






それぞれ装束からキラリと輝く物を取り出した次の瞬間






キィィンッッ




金属特有の甲高い音が響き、乱と昆奈門は手にした苦無でせめぎ合っていた。


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【夜更けの約束】2話

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カンッカンッカンッカンッ


真夜中のタソガレドキ城に、敵襲を知らせる警鐘がけたたましく響き渡った。


慌ただしく臨戦態勢に入る足軽より先に、状況を偵察してきた忍が昆奈門の元へ駆けつける。


「忍とおぼしき女が一人、単身で侵入。
相当の手練れらしく、次々と守りを突破しております」


報告を聞き、普段感情を見せることの無い昆奈門の唯一見える右目が険しく細められた。


「お前達が束になっても敵う相手ではなかろう、無理に手は出さず城の守備に回れ」

「はっ」


昆奈門の言葉が終わると同時に、伝令役は一瞬で姿を消す。


それに一瞥することもなく昆奈門は、傍らで控え己の命を待つ部下達へ視線を向ける。


「私が直接出る、念の為殿の守りを固めておけ。
留守の間は任せたぞ、山本」


指揮を小頭の山本陣内に託し、昆奈門は音も無く姿を消した。






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