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[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第9 話



きすびを返して歩き出した昆奈門に従い、高坂も後を追う。


尊奈門と山本は飛蔵を女から庇う様に立ち、左手を刀に当てた。


誰もが緊張の面持ちでいるなか、昆奈門だけが飄々とした顔で桜へと歩いて行く。


あと数歩で女の傍に行ける距離に着くと、昆奈門達に気付いたのか彼女が振り返った。


腰まである長い赤髪を揺らし、顔を見せる。


真珠の様な白い肌に、どこか幼さを感じさせる大きな瞳。


その目元から大粒の涙が、動きと共にほろりと落ちる。


すると彼女の頭上から桜の花弁が一つ、はらりと風も無いのに舞い降りた。


「‥誰です?」


驚きで目を見開かせるが、彼女は直ぐ様警戒を含む鋭い眼差しを浮かべる。


「私は雑渡昆奈門。
後ろにいるのは私の部下達です」


名を告げれば、彼女の視線は男達の顔から携える刀に移された。


「私を、斬りに来たのですか?」


怯える様子もなくそう口を開き、女は悲しげに‥どこか諦めにも見える表情を浮かべる。


「人に仇なす者と判断すれば。
だが話し合いで解決するなら、それに越したことはない」


探るような鋭い眼差しから、柔らかな笑みへと昆奈門が表情を変えれば


彼女はまるで鳩が豆鉄砲を喰った様にきょとんと呆けてしまった。


「お斬りにならないの?」

「‥斬られたいのですか?」


問いに問いで返され、可笑しかったのか女は吹き出して笑う。


「貴方のような人は初めてだわ」


クスクスと漏らす彼女の微笑みは後ろで咲き乱れる薄桃色の桜と同じ様に柔らかで、見ている者を惹き付ける何かがあるようだ。


少なくとも昆奈門は彼女の微笑みに魅入ったまま、視線を逸らせずにいた。


「まだ、名乗っていませんでしたね。
私はお乱と申します」


洗練された気品を纏う一礼は、一国を担う大名の姫君と見紛う程。


そんな光景に、目前で見ていた昆奈門や高坂だけでなく、離れていた山本、尊奈門、飛蔵までもが目眩を起こしそうな程に驚いていた。


人妖というからには妖しげで不気味なものと思い込んでいたが、お乱の姿はそれとは真逆で神々しさすら感じさせる。


誰もが言葉すら発せずにいるなか、先に我に返った昆奈門がゆっくりと口を開いた。


「先程の、泣いていた理由を聞いても宜しいだろうか‥?」


控えめな、相手を伺う気遣いを思わせる言葉に、お乱の表情が曇る。


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[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第8 話



落ち葉が積もって出来ているであろう柔らかな地面は、歩き続ける昆奈門達の足をやんわりと受け止めていく。


闇に吸い込まれそうな視界で、提灯の明かりに照らし出される薬草の花々だけが道を彩っており


まるで迷わされているかの様だ。






「そろそろです。
確か、この辺りで‥」


飛蔵が昆奈門達へ話し掛けていると、風も無いのに突然提灯の灯が揺らいで消えた。


明かりが無くなり、一面が闇に染まったことで皆に緊張が走る。


更に、向かうはずだった先から僅かな気配を感じ取り、侍達は咄嗟に携えていた刀に手を掛けた。


「な、なんだぁっ!?」

「飛蔵殿は我々の後ろへっ!!」


何が起こったのか理解出来ずに狼狽する飛蔵を、尊奈門が庇い自身の背へと下がらせる。


それぞれが自らの刀の鍔に親指を付け、チャキッと金属音を鳴らして何時でも刀を抜ける臨戦態勢を取っていた。


人妖、と言われる者に襲われれば直ぐ様応戦出来る様にしていたが、相手の気配に動きは見られず


昆奈門は部下に目配せして『進む』と指示を伝える。




一行が歩みを進めると、闇でしかなかった前方にぼんやりと色が浮かび上がった。


朧月の様な柔らかな輝きを放つそれは季節外れの満開な桜。


人の仕業とは到底思えぬ光景に警戒を強めていると、その桜の根本に佇む女の姿が目に入った。


桜と同じ薄桃色の着物を纏う女。


しかしそれよりも昆奈門達の目に留まったのは、赤毛というには鮮やかな朱の髪。


此方に背を向けている為に、女の全身をほぼその朱い長髪が覆うような形になっている。


どこか虚空を見上げる女は、未だ此方に気付いていないらしい。


人間と見紛う女だが、この闇に浮かび上がるその姿はやはり人では無いのだろう。


「‥人妖っ」


咄嗟に斬り掛かりそうになった尊奈門だったが昆奈門に制され、動きを止める。


「なぜです昆奈門様っ」

「泣いている女子供を斬り殺す趣味はない。
何より妖の類いは理由があって姿を現すものだ。
斬って解決、とは思えんしな」


不可解なものほど慎重に、と暗に言われた気がして
尊奈門は渋々抜き掛けていた刀を鞘に戻した。


それでも納得していない青年はムスッと口をへの字に曲げた表情を浮かべていて、昆奈門がフッと笑みを零す。


「お前はまだ青いな」


だが、直ぐ様険しい表情に戻ると小声で指示を出した。


「陣内は尊奈門と共にここで待機、飛蔵殿をお護りせよ。
陣左は私と来い」


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