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互いに接点となる友人がいなくなり、完全に2人の会話は途切れてしまった。
だが、その沈黙は長くはならなかった。
「さっき乱太郎の後ろにいたのアンタだろ?」
冷たく、鋭い言葉を発して沈黙を破ったのはきり丸。
乱太郎と一緒にいた時の子供らしさはなく、そこには一人の忍が居た。
「後ろから来たのだから当然だろう。
それが、‥どうかしたのかな?」
全く変化の感じられない昆奈門の声が、きり丸へ質問で返す。
とぼけているというよりは、その動じない様子を見る限り、探っているに近い。
ニコリと微笑み、考えの読めない昆奈門に対し
「それ」ときり丸は彼の懐を指差しながら口を開いた。
「カメラ隠してとぼけたって、バレバレっスよ」
きり丸が視線を向けている昆奈門の懐は、布が極僅かに膨らみが見える。
少年の指摘に、仮面の様な笑みを浮かべていた昆奈門の表情が忍組頭のそれへ変わった。
「いつもいつも、君は私の邪魔ばかりしてくれる。
そんなに私があの子に近付くのが嫌かな?」
口調は優しげだが、彼の漂わせる雰囲気は否と言わせまいと迫る。
「当たり前だ、乱太郎は俺の大切な友達だからな。
アンタみたいな危険な奴が側に来るだけで、乱太郎にまで余計な火の粉が降り懸かる」
キッと鋭い眼で睨み返しながら話される内容は、子供とは到底思えぬ大人びた考えだった。
「流石、土井先生の教え子なだけある」
くっくっ、と喉で笑う昆奈門に少年は茶化されたと感じたのか、ムと眉間にシワを寄せる。
「…それとも、親を亡くしているからか?」
一瞬、2人の空間が凍りついた。
きり丸の表情が、昆奈門を得体の知れぬモノでも見るかの様に歪められる。
だが、すぐに相手は情報収集のプロ・その頭であることを思いだし
いつもの少年・きり丸の顔へと戻った。
「おや、もう少し驚くかと思ったのに‥、君はなかなかの曲者のようだ」
「アンタの足元にも及ばねぇよ、俺なんか」
互いに軽口を叩き合えば、先程までの重い空気は消し飛んだ。
「きり丸にとって乱太郎君が大切なように、私にとってもあの子は大切な人だ。
悲しませたり危険が及ばない様、細心の注意は払わせてもらうよ」
仲直りだ、とでも言うかのように微笑む昆奈門の表情は、あの仮面の様な笑みとは違い、優しさを伴っている。
彼の様子を見て、きり丸もニヤリと笑った。
「じゃあ、俺は全力でアンタから乱太郎を守らせてもらうぜ」
まるで悪戯でも成功したようにニィッと口角を上げたきり丸の言葉に、昆奈門はキョトン、と反応出来ずにいる。
「俺にとっても乱太郎は大切な人だからな」
その台詞がきり丸の口から発せられ、昆奈門は今度こそ込み上げた笑いを漏らした。
「これは1本取られた」
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