「それでは、お乱殿の件はこれで良いな。
次に、土地の整備についてだ。
水の供給を第一とし、水路の整備に着手せよ」


すらすらと、何をどの様にしていくのか昆奈門の口から言葉が紡がれていく。


きっと、土地を歩きながら脳裏で組み立てていたのであろう内容を、彼は部下達へ区切る事無く伝えた。


「水路の指揮は陣内に任せよう。陣左を補佐に付ける、好きに使え」

「はっ」


紙に書き記さずとも主の指示を脳裏に刻んだ山本と高坂が、頷いてその意を示す。


しかし、自分だけ何も任されなかった尊奈門だけが、ムスッと不貞腐れたような表情を浮かべる。


(‥また私は除け者扱いか)


山本や高坂のように様々な仕事を任せてもらう事が少ない尊奈門にとっては、この状況はどうしても憤りを感じてしまう。


悔しさで下を向き、膝に置く手に力を込めていると、昆奈門から声が掛かった。


「そう怒るな尊奈門、お前には一番重要な仕事を任せようと思っていた所だ」


聞こえた言葉に、尊奈門は信じられずガバッと顔を上げて驚きの表情を主へと向ける。


「ほ、本当ですか昆奈門様っ!?」

「ここで嘘を申してどうなる、それともお前は私が信用出来んか‥?」


態と悲しげな表情を浮かべて、大袈裟にしてみせる昆奈門へ、尊奈門は慌てて弁解を口にする。


「めめめっ滅相もありません!!どのような仕事もお申し付け下さいっ」


焦る尊奈門を見てクックッと笑い声を漏らすと、そのまま昆奈門は言葉を続けた。


「お前には、この土地に住まう者達の生活面、当分の食糧確保を任せる」

「は、はい!」


バッと頭を下げる尊奈門だつたが、直ぐ様続けられる昆奈門の言葉に、懐から紙と筆を取り出して写し始める。


「一日に一度、各民家の人数を元に米と味噌を支給。
更に農業面では、荒れ地でも収穫可能な粟(あわ)・黍(きび)・稗(ひえ)の種籾を配り、先の収入源となるようにせよ」


簡潔な内容のそれは、書き写すと同時に尊奈門の脳裏で何をどの様に行うべきかと構築ささっていく。


若い部下の考えを巡らす真剣な表情に、昆奈門は期待を寄せる眼差しを向けたまま、満足げに微笑む。


「支給する米や味噌、粟(あわ)・黍(きび)・稗(ひえ)の量。
それに掛かる費用がまとまり次第書類を提出するように。
人命に関わる事だ、慎重にな」

「はいっ!!」


一つの仕事を丸々任された事に嬉々とした表情で返事をする尊奈門。


.