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「整備は順調に進み、住民達も喜んでくれていますよ」
土地の視察から数日が経ち、漸く作業が安定したのを見計らい、昆奈門は単身でお乱の元へと訪れていた。
「今のところ食糧は配給してるし、水路が出来上がれば畑の収穫も望めるようになります」
昆奈門から村や里の報告を聞き、お乱の目に安堵の色が浮かぶ。
「良かった‥」
呟き、伏せた目を再び昆奈門へと上げた。
「本当は不安だったんです。
昆奈門様には失礼だと分かってはいましたけど、外のことは何一つ分からないのが恐くて‥」
申し訳なさそうに眉を歪めるお乱に、昆奈門はフフッと微笑む。
「信用と信頼は全く別ですからね、不安に思うのも仕方がない」
然程気にもしていない、といった感じの昆奈門だが
お乱は「それでも」と言葉を紡いでいく。
「私は昆奈門様に里の全てを託した身です。
ならば私は心の底から貴方を信頼し、一切疑ってはなりません。
それこそ全てを託した私自身を疑うというものですから」
余りの深刻そうなお乱の表情が痛々しくて、昆奈門は小さく溜息をついた。
「相当な生真面目の様だな、お乱殿は」
己よりも小柄な彼女の頭を優しく撫でながら、更に言葉を続ける。
「先程の言葉はまるで、夫への告白の様に聞こえてしまったのは私の気の所為‥なのかな?」
僅かに頬を染めて、恥じらう素振りを見せた昆奈門の姿に
今度はお乱の顔がボンッと音がしそうな程に一気に赤く染まった。
「こ、昆奈門様っ!?
私はそんなつもりはっ‥戯れはよして下さいっ」
「はははっ、その様に堅苦しく考えてしまうから、そう聞こえてしまうのですよ」
笑い声を漏らす昆奈門へ、からかわれたと気付いた彼女は羞恥で抗議の声を上げる。
「もぅ、昆奈門様ったら」
少し怒ったような表情を浮かべるお乱に、昆奈門は微笑んだ。
「失礼。
だが、貴女は悲しげな顔よりも今のように表情豊かな方が似合いますよ」
自身より遥かに年下である昆奈門にそう言われ、お乱の鼓動が大きく脈打つ。
「そんなことを言われたのは、初めてです」
漸く、昆奈門は彼女の笑った顔を見ることが出来たのだった。
[第一章]完