アキラとヒカルの二人が塔矢家の養子様を預かって早半年。
息子同様に可愛がっているその子がいつものように学校から帰ってきたと思えば、頭にはたんこぶ、肌はスリ傷だらけ、顔には青痣。口の中を切ったのか、ほっぺたはぽんぽんに腫れ上がっているではないか。
ヒカルとアキラは、息子の悲惨な姿に思わず絶句した。
問えば、「ケンカした。それで負けた。」
…のだそうだ。
「なっさけねぇ!!」
「ケンカ!?そんな野蛮な事をしたのか!!??君は!!」
二人がまるで正反対なことを喚き立てるので、旭は言葉に詰まってしまう。
「誰にやられたんだ?」
「きゅ、救急箱…。」
ヒカルは興味深げに旭のその傷だらけの顔をのぞき込み、アキラに至っては傷の手当てをしなければ…と慌てて、普段は開けないような戸棚をガサゴソとし始める。
「ナオ君が悪いんだよ。」
居間のソファに座らされた旭がボソリと口を開く。
「そうかそうかナオ君か。今度そいつ連れてこいよ。ぼっこぼこにしてやっからさ〜。」
「ヒカル!何ばかな事言ってるんだ!」
そんな事言ってる暇があったらこれで傷口を拭いてやれ!!
片手に赤い十字の書かれた大きな箱を抱え、もう一方の手には濡れたタオルを持ってやってきたアキラは、まるで子供のような口を叩く恋人にタオルを投げ付けた。
★★★★★
「で、何があったんだ??」
言われた通りにヒカルが擦り傷の手当てを、アキラが湿布や包帯を持ち、二人がかりで手当てをしながら、ヒカルはまた興味深々に旭に問い掛ける。
「ナオ君が悪いんだよ。」
「それさっきも聞いたから。」
「それでどうしたの。」
旭は手にぎゅっと力を入れて、悔しいのか恥ずかしいのかよくわからない表情で二人を見上げる。
しかし、ヒカルのなぜかキラキラした目と、アキラのまるで真剣そのものな目にじぃっと見られ、覚悟を決めて口を開く。
「放課後遊んでたんだ。ナオ君と僕とひなちゃんとで。」
旭の話によると、三人は校庭の端に並んでいるクスの木で木登りをすることになったらしい。
しかし、旭はどうやら高所恐怖症の気があるらしく、どうしても登ろうとせずに頑固に身構えていた。それに機嫌をそこねたナオ君とやらが旭を馬鹿にしたことで始まったケンカだという。二人ともムキになり、最後には殴り合いにまで発展し、挙句の果てには体型からして勝ち目のない旭が負けて、とぼとぼと帰ってきたということだった。
「………やっぱ情けない話だよな。今度はぜってぇ勝ってこいよな。」
「可哀相に。でも手を上げたならおあいこだね。今度からはその子と遊ぶのは控えなさい。」
左からはアキラのちょっと酷い忠告(?)が。右からは、やはりどこか楽しげなヒカルの忠告が聞こえ、旭はまたどちらに頷けばいいのか戸惑う。
「おまっ、何真剣にひでぇこと言ってんだよ!!たかが子供のケンカじゃん!!!」
「君こそ!!そんな野蛮な事を言って聞かすな!!」
そして一方がもう一方の意見を耳に挟んだとたんに反論大会の始まりだ。
「あーなるほど。塔矢アキラ君はずぅっと囲碁だけがお友達でいらっしゃったわけだから?友達との付きあい方なんてわかるはずございませんか。あーなるほどね。納得。」
嫌味たっぷり慇懃無礼なヒカルの言い方に、またアキラがカチンとして、普段は出さないような大声をあげるハメになる。
「なんだと!!!手を上げてケンカをするなんて危なくて危険だと言ったんだ!!旭をそんな頭の弱い子とつき合わせるなんて僕は心配で仕方ない!君は違うのか!!?」
「『頭が弱い』???旭の友達だぞ!!言葉わきまえろよ!!!」
ヒカルが信じられないというふうに頭を抱える。
「あのなぁ、俺だって殴り合いのケンカなんて日常茶飯事だったよ。普通のガキはそんなもんなんだよ。ただの囲碁馬鹿とちがってな。」
「…なっ…!…囲碁馬鹿で悪かったな!でも君がそんなに乱暴な人だとは知らなかったよ!!」
「だから子供の時の話だっつってんだろが!!!!」
…………
……
…
旭はソファの上でおとなしく正座していた。青ざめた顔で、教育方針の違いのせいなのか、ただの罵り合いなのかはわからないが、まだまだこの言い合いは終わらないだろうと悟った。そしてそんな自分の親代わり(一応)であるこの二人を、ただじっと黙って見ているしかなかった。
そして、もう二度と友達とは殴り合いなどしないと、心の中で堅く、堅く誓ったのだった。
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録にオベンキョもせずに書きましたよ(^ω^)
小学生の時、夏原も男の子の友達と殴り合いしたことあります(^ω^)