2017-3-21 22:05
第17話「闇のニルヴァーナ(後編)」
「罪と憎しみが敷き詰められた道を選ぶしかなかった
そして、わたしの目を見えるようにさせるには今さら遅すぎる」
(DAMN OF DESTINY『IN BETWEEN』より〜)
「ガルシア総統…?」
「久しぶりだな。ビアンカ君。……そして」
ビアンカの横に座るミカエラが碧い瞳を見開いて凝視している。
「エステバン…おじ様………!?」
口を押さえ慟哭するミカエラ。
「逢いたかったぞ…わしの可愛いミカエラよ…」
「おじ様〜〜!!」
「あっ!待て!ミカエラ…」
ビアンカが止めるのも聞かずにミカエラは車を飛び出しエステバンの許へ走り込む。
二人はきつく抱きしめ合った。
「おじ様…逢えて嬉しいわ……」
「そうか。わしもだ。元気にしていたか?」
「当たり前よ!ビアンカと一緒だもの……あっ」
ミカエラは、エステバンの表情が一瞬に変貌するのを見た。
「ミカエラよ…」
「お…おじ様…?」
「わしを殺したのは誰だ……?」
一方のビアンカも、団長とヴァージニアの二人に迫られていた。
「鰐女さん…なんで俺がお前に殺されなきゃいけなかったんだ?俺は天涯孤独のお前を養ってあげたよなぁ……」
「ビアンカ…あたしはあなたの親友だったよね…?なんで、あたしを裏切ったの……?」
「よ…寄るな……」
ビアンカはジープを動かそうとするが、車が凍ったように動かない。
よく見れば、さらに周りに死霊が集まっている。
ビアンカが殺したラボミアの兵隊達と、アークランドの警察部隊、そして刑務所の治安部隊らもゾンビの様に周りを囲んでいたのだ。
(な…なんだ…これは……!?
一体、何が起きてるの?
わたしが殺した連中が…
みんなここに集まっているの……??)
「何故…殺したビアンカ……」
今度は傍らにミカエラを連れたガルシアまでもが車に近付き、ビアンカを責める…
「ミカエラ…そいつから離れるんだ……」
「ミカエラ!こいつがわしを殺したんだぞ?」
「おじ様…ビアンカを許して!」
「何故だ?」
「わたしの為なの!わたしの為にビアンカは…」
そこへ、ヴァージニアが現れた。
「あの時のお嬢さんね?あたしを撃ったガブリエラ。いや、ミカエラって言うらしいじゃない?まさか総統の娘とはね…」
「おいっ…貴様、娘に近付くな!」
ガルシアがヴァージニアを制する様に拳銃を向ける。
「……なによ。あんただって、ビアンカに殺されたんでしょ?」
「そうだ!コイツらは人殺しだ!!」
団長が、ヴァージニアに合いの手を入れる。
「コイツらは…ビアンカは、自分が生き延びるためならなんだってするのさ…たとえ親友を裏切るのも、恩人であるアナタを殺すのも平気なのよ!?」
その言葉を聞き、愕然とするビアンカ。
確かにそうかも知れない。
わたしは、わたしのエゴだけで動いていたかも知れない。
団長を殺したのは、自分がサーカス団を抜け出すため。
総統を撃ったのは、ミカエラをこの境遇に縛り付けるのが許せなかったから。
ヴァージニアを撃ったのはミカエラだけど、その親友を救うことすら出来なかったわたしが居る。
……でも、だからと言って、わたしに他に選択肢があったの………?
わたしは、どうすれば良かったの………?
あのまま、フリークスの集団に一生埋もれてないといけなかったの?
ミカエラを、あのまま放っておけば良かったの?
ヴァージニアに、あのまま殺されれば良かったの?
そうだ。
わたしは悪くない。
わたしにも生きる権利はある。
たとえ悪魔だって、ずっと逃げ続けたり、迫害されたままなんて我慢出来ない。
わたしは…
ビアンカは、無意識のうちに後部席に設置された機関銃の所に居た。
「たとえ地獄に堕ちたって…わたしは生き延びてやる!!」
機関銃を乱射した。
死霊であるはずの彼らが、その弾丸をもろに喰らい木っ端微塵に吹っ飛んでいった。
「お…おのれ…ビアンカ……」
「悪魔め!!呪われた子め……」
断末魔の悲鳴とともに死霊達は濃霧の中を四散してゆく。
「わたしが欲しいのは我が家と呼べる場所だけ
でも、わたしは何処かの狭間で迷子になってしまった
そして、一体誰がわたしの心を石に変えてしまったの
狭間で迷子になって 希望もなく
狭間で迷子になって 恐怖もなく
狭間で迷子になって 夢もなく」
「や…やめて…ビアンカ……」
悪鬼の如き形相で機関銃を乱射するビアンカの耳に、ミカエラの悲鳴が届いた。
我に返ると、そこには血塗れで横たわるミカエラの姿があった。
「ミカエラ…!?」
《続く》
初掲載 2009-10-23
♪In Between - Dawn of Destiny♪
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