スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

『ミニクイアヒルノコ』Part.2「恋心」




「きゃあ〜〜っ!!」


ビアンカが、トイレの個室に入るや否や、ホースやバケツで水をかけた奴がいた。

「うふふ…どお〜?キレイさっぱり流れたぁビアンカ〜?」

その女子達は、執拗に水をかけ続けた。

もはや、下着までびしょ濡れになったビアンカがひたすら叫ぶ。


「やめてよ〜〜っ!」

だが、出ようにも外から鍵を押さえつけられ出られない。


「あはははははっ…」


「おい!お前ら何やってんだよ!?」


突然、男の声が響いた。

「あんだよ…うっせぇなぁ!?」

女子の一人が振り向く。
脅せばビビる生活指導かと思ったが、違った様だ。

「おいっ…ビアンカ…今、助けてやるからな!」


「ケイン…?」


彼は、女子トイレだと言うのも気にせず、堂々と進入してゆく。



「ちょっ…てめ、男子が入ってくんなよ…」


「うるせえ…殺すぞ…」

静かな怒りを露にしたケインの双眸を見て怯む女子達は、そのまま逃げるように去って行った。


ビアンカは、文字通り水洗便所と化した個室から無事救出された。




「大丈夫か…?」

濡れた制服の上から、ケインは自らの上着を着せるが、彼女はただ震えるばかり。

「寒い……」


「ああ、ダメだこりゃ…着替えないと。そうだ。ウチに来いよ…」


「えっ…?」


ケインの家は、学校とビアンカの家の間の距離にあった。

「この姿で帰ったら、またお前んちの母ちゃんが心配するだろ?とりあえずウチで服を乾かせよ?乾燥機を使えばいい…」


「…でも……」


「いいからいいから…」


ビアンカは無理矢理手を引っ張られ、促されるままにケインについて行った。
だが、彼女も悪い気はしなかった。


幼なじみで、唯一の親友ケイン…

ビアンカが、彼に微かな恋心を抱いていたのも確かだ。



彼女には少し大きめの、ケインのシャツとズボンを着て佇むビアンカ。

「……ありがとう、ケイン…」


「ああ、気にすんなって。それ、似合ってるぞ」


ケインも、彼女と同じく父親を早くから亡くした為、母親と二人暮らし。
そのため、母親は昼間、仕事に出掛けている。

いみじくも、誰も居ない家で二人きりになってしまった。


だが、膝を抱えたままふさぎ込むビアンカを見て、ケインは何も言えなくなってしまった。

ただ、黙々とタバコを吸い始めるケイン。


「ケイン…」


「ん…?」


「…死にたいと思ったこと、ある…?」


「き、急に、何を言い出すんだよ…」

苦笑いしながら、灰皿で燻る火を潰してゆく。


「自分なんか、この世に必要ないんだ…って思ったことある…?」


凍り付いた瞳で見据えるビアンカ。

ケインは、その紅い瞳に吸い込まれそうになった。


「……そんなこと考えてたのか?」


「毎日…」


ケインは、軽く深呼吸すると言った。


「バカだなぁ…お前は…」

その言葉に反応して、睨みつけるビアンカ。

膝を崩し、四つん這いの様に床に手をつき、ケインに近づいてゆく。


「どうせバカですよ…」


「お前が居なくなったら、お前の母ちゃんが悲しむだろ?…それに…」


「…それに?」


「俺も…だ…」

照れた様に、目を伏せながらケインは言った。


ビアンカの瞳が微かに潤む。
だが、口許には笑みが漏れていた。
それを堪えるように唇を両手で塞ぐ。


「嬉しい…」


ケインは、照れ隠しに再びタバコに手を伸ばす。

不意に、その手を押さえつけるビアンカ。

ケインが顔を上げると、彼女が更に近づき、二人の距離は縮まった。


ケインも顔を寄せる。

それに応えるように、ビアンカは瞳を閉じた。


唇を重ね合う二人。


ビアンカは、腕をケインの背中に回していた。


「ケイン…ありがとう。あなたのお陰で、わたし、生きていられる気がする…」


「大袈裟な奴だな…」


二人は再び、口づけした。





翌日の朝。


布団の中でビアンカは、昨日のことを思い出しては一人悦に浸っていた。


何か生まれ変わったような気分になり、心は高揚していた。


「ママ、おはよう」


「なんだか楽しそうね。ビアンカ…何かイイ事あったの?」


「別に」


普段の暗い表情とは、打って変わった、娘の姿を見て母マリアは安堵する。

「まあ…元気になったみたいで、ママも嬉しいわ」

と、頬にキスをした。

不意に、それを避けようとする娘の態度を訝しむ。


「はは〜ん…」


「なに?どうしたの?ママ…」


「ううんなんでもない…(笑)」

しかし、マリアはニヤついた笑いを隠さなかった。


「気になるなー…その笑い方…」


簡素な朝食を済ますと、勢いよく家を飛び出すビアンカ。

「行ってきま〜す」


数十メートルも進むと、人通りの少ない交差点に差し掛かる。


ビアンカがそこで信号待ちをしていると、おもむろに真っ黒いボディのキャデラックが近付いて来た。

不審に思いながら、信号機を見詰めていると、後ろから呼ばれる。

「ビアンカ!」


振り向くと、駆け寄るケインの姿が見えた。

「ケイン」


静かに手を振るビアンカ。
その刹那、背後のキャデラックから伸びた腕に捕まれた。


「え……っ?」


「ビアンカ…!?」










《続く》


初掲載2010-02-02

『ミニクイアヒルノコ』Part.1《ビアンカ学生時代編》




「誰がやったの…?」


ビアンカが、目を離した隙に、机の上の給食のスープの中に虫を入れた奴が居たらしい。


刹那、教室中が静まり返った。
スープの中の虫は、今だに触手を蠢かしている。


青いブレザーの制服に蒼い肌のビアンカは、一際目立つ。

その彼女が凛とした声を上げ、教室中の生徒達を睨み返してる。


再び、何事もなかった様に喧騒が始まる。

注目は一瞬だけ。

まるで、彼女などそこに存在しないかの様に各々がお喋りを始めた。

ビアンカも、怒った顔を見せたのはわずかで、すぐにポーカーフェイスに戻り、立ち上がる。


そして、そのまま教室を出て行った。



校舎裏の花壇。

その傍らにウサギ小屋があった。

ビアンカは、そのウサギの姿を見ながら、ただ独りで泣いていた。

涙を流しながら、彼女は、ふと気付いた。


「赤い眼…」

ビアンカも、ウサギも同じ様な真っ赤な色。


「わたしと同じだね…」


「きっとウサギも泣き虫なんだろな……」


影がさした。
その声に振り向くと、一人の男子生徒が立っている。

「ケイン…」

涙を見せまいと、必死で頬を拭う。

「よおっ…何やってんだよ。こんなとこで…」


その男子生徒は、茶髪に茶色がかった瞳、少し不良っぽい雰囲気だが、割とイケメン。

ビアンカの幼なじみ、ケインだった。


「あ…あんたこそ、何しに来たの…?」


「別に…」

おもむろにタバコを取り出すと、火を着けプカブカと吸いはじめる。

その煙を、さも欝陶しいかの様に手で扇ぐビアンカ。


二人の間に、気まずい沈黙が続いた。


「…また泣いてただろ?」
言いながら、煙を吐き出す。


「な…泣いてなんかないよ……」

ふて腐れるように、そっぽを向くビアンカ。


「…他人がお前をどう思っていようが、あんまり気にすんなよ…」

ポツリ一言呟く様に吐き捨てると、ケインはその場をそそくさと立ち去って行った。


「えっ………?」

ウサギを抱きしめながら、ケインの後ろ姿を追う。


再び教室に戻ると、彼女の机が定位置になく、窓際にゴミ箱とともに積んであった。

見ると、机の板には稚拙な絵柄で、スーパーマンの様なヒーローがツノを生やした悪魔みたいな女を殴りつけている漫画の絵が描かれていた。

そのヒーローの吹き出しに
「やったぞ!悪魔を倒した!」
と、あった。


伏し目がちな瞳で、それを見遣る。


「あ、悪魔じゃない…」


どこからか、クスクスと彼女を嘲笑する声が聞こえてくる。


「ふふふ……」


「あはは…魔女が何か言ってる……」


「悪魔の子のくせに、なんで人間の学校にいるんだよ?」



その声達は、直接頭に響いてくる気がした。

押し上げる感情を抑え、涙を堪えながら、必死で耳を塞ぐ。


「あんなの生きてたってしょうがないだろ…」


「ふふふ…あはは…」



午後の授業は体育。

バスケットだった。

しかし、ロッカーにビアンカの体育着が見つからない。

呆然と立ちすくんでいると、クラスメイトの女子の一人が声をかけてきた。

「どうしたの?ビアンカ…授業始まっちゃうよ?」


「わたしの体育着がないの……」


「ああ、だったら、あたしの貸したげる…今日、風邪っぽいから見学しようと思って…」

彼女は、おもむろにロッカーから自分の着替えを出して、ビアンカに渡した。


「あ…ありがとう!」


満面の笑みを浮かべ、それを受け取った。


授業の試合が始まり、何か妙な違和感を覚えた。

どうも、さっきから自分を見てみんなが笑っている気がする。

そして、シュートのボールがやたらと自分に集中する。

堪らず、抜け出しトイレで着ていた体育着を脱いで確かめてみた。


それの背中には、マジックで「わたしは悪魔よ。みんな、わたしを殺しに来て」と書かれていた。

「…酷い…」


その服をゴミ箱に投げ捨てると、ビアンカはそのまま学校から飛び出した。





「お帰りなさい」


母のマリアが笑顔で迎えるが、ビアンカは無言のまま鞄と服を投げ、そのままシャワールームに飛び込んだ。

裸になり、自らの蒼い裸体を見て、嘲笑する。

「ふふ…悪魔だ…あはは……」

自らを卑下しながら、口では笑い、嗚咽を漏らす。


「わたしが…わたしが何をしたの……??なんで……みんな、わたしを除け者にするの……」


マリアが台所で夕飯の仕度をしていると、ビアンカの居る風呂場からガラスの割れるような音が響いた。


「ビアンカ!?どうしたの……!?」


母が駆け付けて見ると、そこには粉々に砕け散った鏡と、両手を血まみれにしたビアンカが立っていた。


「ビアンカ…大丈夫!?」


「ママ…ママ!なんで、わたしを産んだの…!?」


血まみれの手で、母に掴み寄る。


母マリアは、暴れる娘を宥めるので精一杯だった。

「ママ…わたしは悪魔の子なんでしょ?だから、クラスの皆がわたしを疎外するんだ…こんな…こんな蒼い皮膚に…ツノまで生えてる…どうして、わたしだけこんな姿なの?」


「あなたは人間よ。悪魔なんかじゃない…」


「嘘だ!!?」


マリアは、泣きわめく娘を静かに抱きしめた。


「あなたはママの子よ。わたしがお腹を痛めて産んだ、大事な大事な可愛い娘ですもの…」


「ママ……」


マリアの抱擁で、ビアンカの心の闇は少しは晴れた気がした。


しかし、あの忌まわしい出来事が起きるのは、一週間後のことだった。







《続く》



ビアンカは、幼い頃より、いじめられっ子でした。そして、ミカエラやヴァージニア達も。

彼女等は、それぞれが違う人生を歩みながら、やがて一つの縁で出会うことになります。


読者の方で、いじめに遭った方は居ますか?

自分は、イジメらしいイジメはなかったですが、いじめられっ子に味方して「村八分」状態になった事は何度かあります。



この物語は、綺麗事を抜きに“虐げられた者達”の「復讐」と「前進」

そして、過去の自分たちへのレクイエム…


初掲載2010-01-31

『ヴァージニア外伝〜序章〜』








「みゃおォ〜〜」

真ん丸い瞳が、あたしを見つめる。




恐らく野良猫だろう。

顎の下を撫でると、喉を鳴らして、あたしに懐いてくる。可愛い。


痩せっぽちで、薄汚れた身体。

そして、ふさふさした体毛…


まるで、あたしみたいだ……





「ヴァージニア!…こんなところにいたのか?探したぞ…」


振り返ると、お父ちゃんがあたしを睨みつけてる。


「なぁに?まだ夕食には早いでしょ…?」


「ああ、飯には早いな。ご近所に新しい家族が越してきた。その挨拶に来たからお前も来い!」


「あたし、いやよ…」

猫を抱えながら首を振る。


「いいから来るんだ…」


猫みたいに首根っこを捕まれ、無理矢理引きずられて行く。


家族以外の人に会いたくなんかないのに…





両親は貧しい農家を営んでる。
ここは、南欧アークランドのウエストヴァージニア州の片田舎。

あたしの名前は、そこから付けられた。






「ヨークから来たカーペンターさんだ…これは娘のヴァージニア…」


お父ちゃんとお母ちゃんが、あたしを紹介する。
麦わら帽を被った髭面の男がにこやかに頭を垂れる。
その横には、ブロンドの髪の綺麗な奥さんが会釈する。

二人とも、あたしの顔を見るなり一瞬だけ顔を強張らせるけど、すぐに笑顔に戻っていた。


「ダニー!ベティ!こっちへ来なさい!」


カーペンターさんが庭に向かって叫んでる。
さっきから子供のはしゃぐ声が聞こえてた。
彼らの子供達だったのか。


「あっ…お化け!」


「狼だ!パパ…狼がいるよ!」

ダンとベティが、一斉にあたしを指差す。

気まずそうに、二人の頭を叩くカーペンター。

「こ、こらっ…」


「……この子は病気でして…身体中に硬い毛が生えて…刈っても刈っても、またすぐ伸びてしまうんです…」


別に、あたしの病気の説明なんかしなくてもいい。
あたしなんか、人目につかない納屋にでも入れて、ずっと隠しておけばいいじゃない。


あたしの病気は『先天性促進硬化多毛症』とか言うらしい。

普通の多毛症と違い、どんな治療法も効果がない奇病だった。


それでも、両親はあたしを普通の子供に育てようと必死になってるみたいだ。

無駄なのに…

人は、外見で判断する。
こんな毛むくじゃらの人間がまともに扱われると、本気で思ってるおめでたい親達なんだ。



「ヴァージニア!遊ぼ」


翌日、ダンとベティが訪ねて来た。
あたしが怖くないの?
でも、あたしだって天気のいい日は外で遊びたい。
また、あの野良猫が来ていた。
あたしは、猫にマイクと名付けた。

マイクに残飯を与えて、あたしはダンとベティに会う。

「いいよ…何して遊ぶ?」


「魔女ごっこ」


「魔女ごっこ?」


「ヴァージニアが悪い魔女で、妹のベティを騙して食べようとするんだ。僕は、そこへ登場して魔女を倒す騎士」


「…なんで、あたしが魔女なの?」


二人は、顔を見合わせてクスクス笑う。

「だって、どう見たってヴァージニアが魔女だろ〜?毛むくじゃらでさー」




…だと思った。

そうだよね。あたしは狼の化身、悪い魔女さ。


「わかった。じゃあ…うおお〜」


あたしは唸り声を上げてベティに襲い掛かる。
悲鳴を上げて逃げ惑うベティ。

多分、本気で怖がってる。涙目になってた。


そこへ、あたしのスカートの間を通って野良猫マイクが飛び出した。

なんで、こんな時に。


ベティは、まだ悲鳴を上げて走ってる。

そこへ、マイクがじゃれてくる。

「あっ…魔女の使いだ!使い魔の猫が来たぞ…」

ダンが実況してる。マイクまで魔女の仲間にされてしまった。


「悪い猫たんめー」

ベティは、マイクを掴むと身体を逆さにして、近くの池に頭を沈ませた。
マイクは必死になってもがいてる。
やめて!マイクが死んじゃう……

だけど、まだベティはマイクの身体を離さない。

あたしは、必死に池まで走った。

マイクは、ぐったりしていた。息をしていない。

「あれ?猫たん、死んじゃったかな…?」




その時、あたしの中で、何かが弾けた。















気が付くと、目の前に血まみれになったベティが倒れていた。

脳をはみ出させ、目を剥いたベティの死体がマイクの横にあった。

あたしの手には、大きな石が握られていた。

その石には、ベティの血がべっとりと付着している。


ダンが腰を抜かして、あたしを見つめてる。


「ああっ……ベティが…ベティが……ひ、人殺し……」

そんなダンに向けて、石を投げ付けた。
避けるかと思ったら、もろに額に命中してダンも倒れた。



血まみれの二人の死体を、しばらく眺めていた。


(……どうしよう…とりあえず、二人の死体を隠さないと……でも、どこへ…?)


ダンとベティ、二人を引きずって木陰に並べていると、強烈な目眩と空腹感に襲われた。


(………そうだ。二人とも、あたしが食べてしまえばいいんだ。胃袋に入れてしまえばいいんだ……)


お父ちゃんの鉈を失敬すると、あたしは二人の死体をバラバラにして食べた。







翌日、二人が行方不明になった事で村は大騒ぎになっていた。

カーペンター夫妻も、あたしや両親に色々聞いてきたが、わかるはずもない。そりゃそうよ。

全部は食べ切れなかったけど、二人はあたしの胃袋の中なんだから。


それにしても、ベティの親達が騒ぎ過ぎて煩いったらありゃしない。



その夜、今度はお父ちゃんのライフルを失敬すると、カーペンター夫妻の家を訪ねた。


「…こんな夜遅くに、一体誰かね………?」


カーペンターさんは、あたしの顔を見ると仰天していた。

「ヴァージニアか?どうしたんだい?何かわかったのかい?」


「あたし、ベティ達が何処に居るか知ってるわ」


「ほ、本当か…!?ど、何処に居るんだ…」


「天国よ」


おもむろにライフルを構えると数発撃った。

勢いで後ろに倒れたけど、ベティのパパに命中したみたい。


「きゃああ〜〜!あなた〜〜!?」

喚き立てるママの頭にも、お見舞いした。




次の朝、あたしのお父ちゃんとお母ちゃんが血相を変えて、あたしの部屋にやって来た。

手には、血まみれの服を持って。

ダンとベティを殺した時に着ていた服だ。木の下に埋めてたんだけど、見つかっちゃったか。


「ヴァージニア…これは何だ…?」


そこへ、騒がしい物音がする。

隣のフォスターおじさんが来たらしい。

「た…大変だ…カーペンターさんが……」


両親と揃って、カーペンター家の惨状を見た。


「まさか…ヴァージニア……お前が……?」


「イイ気味だわ…だって、ベティはあたしのマイクを殺したのよ?」


両親は顔を見合わせて、なにやら話している。


「か…怪物め…もう俺達の手には負えん…チャールストン叔父さんに相談しよう……」








あたしは、精神科医にかかり、心神喪失状態と言う事で「殺人罪」にはならなかった。


けど、両親には捨てられた。


商人だったチャールストン叔父さんの手配で、フリークス・サーカス団に売り飛ばされた。



そこには、あたしみたいな毛むくじゃらのや、手足がない女、魚みたいな顔をした男とか…

妖怪みたいな連中がたくさん集まって芸を仕込まれていた。



数ヶ月もすると、あたしも「狼女」としてデビューしていた。


今日は、隣国のラボミアから新入りが来るらしい。


一通りの訓練を終えると、あたしは新入りが居る檻の方へやって来た。


中には、何か蒼い皮膚に真っ赤な眼をした女の子が佇んでる。


ここに居るフリークスの中でも、特別目立つ変わった姿。

なんだか、とても強い瞳をしてる。


途端に親近感を感じたあたしは彼女に話し掛けた。


「あたしはヴァージニア。あなたの名前は?」


「…ビアンカ」














🔚「悪魔の子・ビアンカ」に続く!
mblg.tv






初掲載2010-01-23

B&M外伝〜X'mas記念小説『Silent night』





身を切る様な寒さの中、
自分を御するのは懐の拳銃と、背中のショットガンのみ。

それが、わたし…


わたしはビアンカ。


今日はクリスマスらしい。


悪魔の子のわたしには、もっとも不釣り合いで、お呼びでない日。


手足の凍えを癒すように縮こまり、橋の下で丸まっていると、川に赤や緑のネオンが差し込む。


青白いイルミネーションが反射し、家族や恋人達の語らう声が聞こえてくる。

見上げると、橋の欄干から小さな男の子が自分の方を見詰めてる。

フードを被るわたしの顔は見えないはずだけど、わたしが怖くないのだろうか。


「お姉ちゃん、そんなところで何をしてるの?」


どう応えたらいいんだろうか?
でも、相手は小さな子供だから適当にあしらっておこう。


「サンタさんを待ってるのよ…」

男の子の、クスクスと笑う声がした。


「…そんな所で待ってたってサンタさんは来ないよ〜」


「じゃあ、どこに来るの?」


「待ってて…今、行くから…」


あっ…、と思った刹那、男の子は橋の欄干から飛び降りた。


川によろけそうになりながらも、ビアンカの前に無事に着地する男の子。


「あ…あんた、危ないよ!?」


「へへんっ…平気だよ!」

鼻の下を擦りながら近付いてきた男の子を見て、ビアンカはある人を思い出した。


「ジュリアーノ…?」


男の子は、金髪碧眼で悪戯っ子ぽいところまでがジュリアーノにそっくりだったのだ。
でも、ジュリアーノが生きてるはずがない。
ましてや、こんな小さな子供なはずがない。

だが、不意に目頭が熱くなるビアンカだった。


「どうしたの…お姉ちゃん、泣いてるの?」


「ううん…泣いてなんか……」

ふと、見上げると男の子の姿は消えていた。


川に落ちた…?


しかし、そんな音もしなかったし、気配もない。


何だったんだろう……?

寒さの余り、幻覚でも見た?


足元を見ると、帽子が落ちていた。


ビアンカには、それが見覚えがあった。


そして、すぐに思い出した。
(ジュリアーノの…)


裏返すと、その鍔に

「Merry X'mas Bianca」

の文字が見えた。


そして、最後には


「G」

と、記してあった。




星空を見上げながら、帽子を抱きしめる。


ビアンカは、凍えそうだった心も身体も暖まった気がした。


「ありがとう、サンタさん。メリークリスマス、ジュリアーノ……」








《END》


すべての愛しき者に、愛の光を。







初掲載2009-12-25

『B&M外伝・レベッカ・ザ・クエスト』《後編》




「ビアンカ…わたしの所に戻っておいでよ」


レベッカは、水に浸かりながら、ビアンカの臍辺りを撫で回しつつ言った。


「ベッキー、わたしの話を聞いてなかったの?わたしは、あんたや自分の祖父を殺した…今更どの面下げて戻れると思う?」


「聞いてるわ。だって、あれは御祖父様が悪いんじゃない!アニーの恋人を殺したのは御祖父様なんでしょ?」


ビアンカは、そのまま膝を抱えてうずくまる。


「わたしは…取り返しのつかないことを…」


「何を今更!あなたはガルシア総統だって撃ったのでしょ?…それでもミカエラやアンジェラは最後には許してくれたんでしょう!?ましてや、あなたは恋人を…」


「復讐したって、ジュリアーノは帰って来ないよ……」


「復讐ではないわ!あなたが生きるため、前に進むためにやったことよ!四人の刺客だって、あなたが倒したんでしょ?」


「刺客…?」


余計なことを口走ったと、口を押さえるレベッカ。


「……なんで、レベッカがそれを知ってるの…?わたし、まだそこまで話してない……」


立ち上がると服を着て、振り返りレベッカに拳銃を向ける。


「まさか…あんたが…?」


「そ、そうよ。あいつらが邪魔だったから…それに、あなたの居場所を捜すのにちょうど良かっ…」
拳銃を頬に突き付ける。


「……また、わたしに無意味な人殺しをさせた……?」


「ま、待って!ビアンカ…わたしまで殺すの?わたし達幼なじみでしょ?従姉妹でしょ!?」


「わたしを利用した…」


「ち、違っ…わたしがあいつらを利用したのよ!?」


「あんたまで…」


引き金の指が微かに動く。覚悟して目をつぶるレベッカ。

だが、何も起こらない。
再び目を開けると、ビアンカは無表情のまま身支度を始めている。


岩場を背に、下半身を水に浸けたまま、身動きとれないレベッカ。


「……わたしはラボミアに行く。ミカエラやアンジェラに会って来る…」


「ゆ、許してくれるのね……?」


首根っこを捕まれるレベッカ。

「あぐっ……」


「あんたは許さない…だけど、殺しはしない…」

おもむろに用意したロープで、レベッカを後ろ手に縛り上げる。

「な、何を……?」


「此処はまだ暖かいけど、砂漠の夜は寒いよ…昼間は灼熱地獄だけど……」


ロープを引っ張り、そのままレベッカを木に縛り付ける。


裸のまま、宙吊りにされるレベッカ。


「ほ、放置プレイって奴…?い、いや…降ろして!」


「殺されないだけ、ありがたいと思いなっ!!」


そう叫ぶと、踵を返し去ろうとするビアンカ。


「ちょっ…ちょっと待ってよ、アニー!?こんな所で吊されたら死んじゃう!!ほ、ほら、なんかケモノの声がするよ、食べられちゃうよ!?」


脚を止めると振り返るビアンカ。
不気味な笑顔を見せながら呟いた。

「安心しな…ここは狼とかの類は出ないから…代わりに、虫がいっぱいいるけど……大きいのやら小さいの……ははは♪」


「いやだーーーっ!?」


「ラクダさんに助けてもらうのね…」


泣き喚くレベッカを尻目に、ビアンカはそのまま闇に消えていった。









『B&M外伝・レベッカ・ザ・クエスト』〜完〜



初掲載2009-12-27