真春

 ある日、ハルの部屋を訪れると、一番日当たりのいい場所に今までみたことのない一つ植木鉢があった。
「ハル、あれはどうしたのだ?」
「シクラメンです。クリスマスが近いので買ってきちゃいました。」
 そこに植わる植物はまだ小さな蕾を少しつけているいる程度で、まだ花は咲いていなかった。なんでも花屋の店先で売られている中で唯一まだ花がひとつも咲いていないものだったらしい。
「最初は見てるだけだったんですけど、気になってしまって。」
「そうか。咲くのが楽しみだな。」
 はいっと答えたハルの笑顔が眩しかった。それからというもの、合ったときには花の様子はどうかという話をよく話をする。今日は蕾が少し大きくなりました!など嬉しそうにはしゃぐ姿が愛らしく、微笑ましかった。
 ハルの部屋に行ける時は、俺も水をやったりしてすっかり情が移ってしまった。いくつも蕾をつけながら、なかなか花が咲かない姿を以前の自分と重ねてしまったせいもあるかもしれない。ハルが気になってしまったというのも少なからずとも、そういうところがあるのだろう。
「クリスマスまでに咲きますかねぇ。」
「ああ、きっと。」
 なんて会話をしたのも記憶に新しい。

 その会話を最後に仕事と家のことで忙しかった俺は、休む暇もなく当然二人で会いゆっくりと話す時間もなかった。そんな忙しさの中、クリスマスの数日前に届いたメールを見て、安堵にも似た喜びを感じた。

『題名:咲きました!

 真斗くん、シクラメン咲きましたよ!』
 メールと一緒に添えられた写真には、たくさんの蕾の中の一つ、花びらを広げていた。俺はそのメールに喜びと近いうちに時間をつくって会いにいくと打って、送信ボタンを押す。
なんとしてでも、ハルに会いに行こう。それからあのシクラメンの花も直接見たい。このあとの予定を頭で組立ながら、俺は足早にスタジオへ向かった。