***これは進撃の巨人の現パロ社会人編の小説です***
冷えた空気が肌を取り巻いている気がして、オレは目を覚ました。
隣にあるはずの温もりが無くて、ふと目線をあげると、綺麗な白を惜しみも無く晒して、上半身をベッドから起こしている姿が目に入る。
カチリ。
煙草に火を着ける音がして、次いで息が吐き出されていく。
淡いオレンジ色のライトに浮かぶ、その表情は儚気で、どこか遠くを眺めているように頼りなくて。
「リヴァイさんっ」
思わず、焦るように声をかけた。
呼びかけに驚いたようにオレを見て、微かに目を見開いた後。
「起こしたか?」
顔を少し傾けて、問い掛けてきた。
「あの・・・」
寝起きで、はっきりとしない頭の上に、オレを見るリヴァイさんと相まって。
「寒くないですか?」
口から出た言葉は、それだった。
「いや・・・まだ早ぇ、寝てろ」
上半身を軽く起こしていたオレを煙草を持っていない手でベッドに戻すと、リヴァイさんは、また顔を戻した。
ちらり、目線を上げて、枕元の時計を見ると、まだ午前3時50分で。
薄暗く早朝と呼ぶには早い時間帯に、しん、とした冷たさが一層、増した気がした。
リヴァイさんは、時々、さっきみたいな表情をする。
オレは、その表情の理由を多分、わかっている。
リヴァイさんは、きっと、ある人を想っているのだろうという事を。
リヴァイさんが想っているだろう人の名前はペトラさんだ。
リヴァイさんの大切な女性(ひと)だったらしい。
らしいというのは、リヴァイさんから、直接、聞いた事は無く、風の噂で知ったから。
ペトラさんは活気があって、気が強く、しっかり者の大人の女性なのに、どこか子供っぽさが残る人だった。
入社したてで、右も左もわからないオレに、同じ課の先輩として、優しく、時に厳しく、仕事を教えてくれて、仕事以外でも心配してくれたり、気遣かってくれた。
そんなペトラさんがリヴァイさんと話す時は、どことなく柔らかい印象があった。
リヴァイさんも、ペトラさんと話している時は、いつもより、目元が優しい気がした。
そんな2人にヤキモチを妬かなかったわけじゃない。
でも、羨ましく思いながらも、その雰囲気を見るのが好きだったオレは、2人の関係に憧れていたのかも知れない。
以前、ペトラさんが、小走りでオレの元に来た事があった。
「ちょっと聞いて、エレン!リヴァイ課長のプロジェクトの一員に選ばれたのよ!!」
「凄いじゃないですか!ペトラさん!あのリヴァイ課長に選ばれるなんて!!」
「凄いでしょう!?もう嬉しくって!!頑張らなくちゃ!!」
「はい!ペトラさん、頑張って下さいね!!」
「エレンも協力してね!」
「オレに出来る事があれば、何でも言って下さい」
「ありがとう!エレン」
舞い上がってはしゃぐペトラさんと同じフロアに、リヴァイさんも居て。
ペトラさんの、そんな姿に、リヴァイさんは特に何も言わなかったけれど、それでも、それを見守るような雰囲気を感じた。
そんなペトラさんは、最近、亡くなった。
不運な事故、だったらしい。
平社員のオレに詳しい事なんて伝えられる訳が無く、色んな噂を耳にするけど、所詮、噂は噂であって、真実ではない。
ただ、リヴァイさんは、その時、近くに居たらしく、最期の時は見れなかったらしいけど、亡くなった直後の姿に会ったという話には、真実味があった。
だって、オレがペトラさんが亡くなったのを知ったのは。
「ペトラが死んだ。後はエルヴィンにでも聞け」
というリヴァイさんからの一言だったから。
リヴァイさんとペトラさんの間に何があったのか。
2人が、どんな関係だったのかなんて、オレは知らない。
だけど、2人で話している姿は、オレに、特別な何かがあるような空気を感じさせていた。
今、リヴァイさんが、ペトラさんを想っていたとしても、傍に居るのはオレで。
リヴァイさんが選んでくれたのもオレ、だけど・・・
「リヴァイさん」
どうか、そんな切ない顔をしないで。
貴方の寂しさも辛さも、オレが貰うから−−−。
感情も想いも、総て自分の中に溜めてしまうリヴァイさんが酷くもどかしくて、オレはリヴァイさんの腰に、ぎゅっと強く腕を巻き付けた。
「・・・何だ。甘えたか」
まるで、仕方がねぇ奴だと言っているような表情で、リヴァイさんが、軽くオレの腕に触れる。
「リヴァイさん、リヴァイさん」
そんなリヴァイさんに泣きそうになって、リヴァイさんの腰に顔を埋ずめながら名前を繰り返した。
「何だ」
「リヴァイさん、好きです」
オレの告白に、リヴァイさんは、腕に触れていた手で、頭を、ぽん、と軽く叩くと。
「・・・あぁ」
小さく頷いてくれた。
リヴァイさんが、今、何を想っているのかなんて、オレには理解する事は出来ないけれど。
これ以上、リヴァイさんが淋しい人にならないように願いを込めて、リヴァイさんの傍に、いつだってオレがいられるよう、強く心に誓った。