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セックスする場所なんて、何処でも良いじゃないか、と思う。
例えば、今日は何処のホテルじゃなきゃいけない、とか、部屋のベット以外ではしない、とか。
そこまで拘る必要はないと思うけれど、彼は、そうじゃないらしい。
そんな彼のセックスも、やっぱり彼なりのこだわりがある。
何というか、言い方を変えれば丁寧だ。
キスから始まり、愛撫され、しっかりと解される。
早急にされた事など一度も無く、それが返って、焦らされているかのようで。
日常生活での彼も、また然りで、潔癖とまでもいかなくても、整然とされていた。
だからと言って、それを強要される訳では無いけれど、目の前で、そういう行動をされれば、こちらも、きちんとしなければ、と思うし、元々がズボラな性格の故、窮屈さすら感じる。
彼といると、時たま息が詰まりそうになる。
理不尽に喚き散らしたくなるけど、彼を見ると、そんな気持ちも萎んでしまう。
きっと彼は、こちらが取り乱そうが、平然な顔をして収めてしまうだろうから。
この状況を打開しようと、毎日のように逢ってセックスしてみたり、また逆に1ヶ月程、逢わずにいてみたりを行ってはみたものの、彼の行為が変わるわけでもなく、ただ単に空回っているだけのような気がして止めてしまった。
早急に入れてみたくなる事はないのだろうか。
ガッツかれる事が、決して、想いの象徴とまでは言わないけれど、たまには、そんなふうに求められてみたいとは思う。
彼が穏やかであればある程、焦りにも似た感情が、ぐるぐると渦巻いていく。
だから。
「しない」
「しない?」
「セックスは、しない」
いっそ焦らしてみようと思った。
「何故?」
そう問われても、本当の理由など言えるはずもなく。
「ん〜・・・気分じゃない?」
「そうですか」
するり、彼の手が髪から離れて、思わず、掴んでしまいたくなる衝動を、ぐっと堪えた。
「あ〜・・・怒った?」
「どうして?」
「いや、何となく」
「こんな事で怒るような器が小さい男では無いと自負していますが?」
至極当然のように言われて、謝ってしまいたいような気持ちになる。
いや、でも、ここで負ける訳にはいかない。
元々、負けも勝ちも無いのだけれど、引く訳にもいかない。
これは、自分のプライドの問題だ。
「そうだよな。知ってる」
「君が望むなら、この先、セックスをしないで付き合っても良いですけれど」
さらりと世間話をするように告げられた言葉に、絶句した。
彼にとって、セックスって何なのか。
「さて。今日はDVDでも観ましょうか」
くすり、笑った彼は、もう、その話題に興味が無いというように、DVDをセットし、テレビの前のソファーに戻ってきて、座っている真横に静かに腰を下ろした。
肩が微かに触れる距離が、焦燥を感じさせる。
DVDは、以前、彼に、観てみたい、と、話題に出していた物で、覚えててくれたのだと、嬉しい気持ちもあるけれど、今は観る気分じゃない。
だけど、彼と何を話していいのかわからずに、ただ流れていく映像と音声に集中する振りをしていた。
DVDが始まって、1時間程、経過した頃、肩が重くなった感覚がして、ちらり、目線だけで横を見ると、規則正しい呼吸をしながら、眠ってしまった姿に気付いた。
起こさないように、身体をなるべく動かさず、DVDの音量を少し下げる。
指先で頬に触れると、睫毛が微かに揺れた。
「はぁ・・・」
自身の口から溜息が漏れる。
「セックスしない、ねぇ」
自分自身が出した声が反芻する。
セックスに対し、何か不満があったのだろうか。
いや、でも、セックスの最中の反応は悪くはなかったはずだ。
それに、セックスに誘って、拒否された事など、一度も無い。
さっきは強がりも込めて、セックスしなくても良いなんて言ったけれど、やっぱり傍に居れば、触れたくなるのは当然で。
いつだって、愛しさを込め、苦痛を感じず、気持ち良くなれるように、自分の気持ちをセックスにも示してきたつもりだったけれど。
それは単なる驕りでしか無かったのだろうか。
実はセックスが嫌いとか。
いや、その可能性は低いと思う。
いつも、歓喜の声を上げていたし、体の相性だって悪くないはずだ。
それなら、何故?
一人で考えてみても、真意など解る訳も無く、ただ、セックスを拒否されたという事実だけが疑問として残る。
こうして欲しい、とか、こういうのは嫌だとか、欲求されたのなら、まだしも、これでは手も足も出せない。
「どうしろって言うんだ」
聞こえるはずもない歎きだけが口から漏れた。
ふと気が付くと、自分の頭が彼の肩にあって、眠ってしまっていた事を知った。
「目が覚めましたか?」
穏やかな声が頭上から聞こえて、もう一度、眠ってしまいたくなる名残惜しさを押し止めて、頭を起こした。
「あ〜・・・ごめん・・・せっかく用意してくれたのに、寝ちゃって・・・」
まだ、ぼんやりとする頭は覚醒せず、気を抜くと、また眠ってしまいそうになる。
「それは構いませんが・・・」
どこか遠慮がちに発しられた言葉に、聞かなくては、と思う気持ちと裏腹に、また瞼が重くなっていく。
彼の声は心地好くて、まるで子守唄のようだ。
「話し合いをしましょうか」
「話し合い?」
抑揚を感じない彼の声から聞こえた言葉に、おうむ返しをしながら、じわじわと自分の中で不穏な空気が広がっていって、その不安感から頭が冴えてくる。
別れ話でもするのだろうかと、青ざめて力の入らない体のまま、彼を見るものの、穏やかさを纏ったままの彼の表情からは、真意を読み取る事など出来ない。
「君は・・・」
そこで、一旦、区切られた言葉と共に、伏せられた瞼が、もう一度、開かれた後、真剣な表情の彼が、再度、口を開いた。
「君は、セックスをするのが嫌ですか?」
「は、え?何?」
寝起きの頭に、突如、発しられた疑問を上手く処理できず、戸惑いが口をつく。
「それとも触れられたくない、という意味ですか?」
「え?は?」
「先程は勢いもあって、ああ言いましたが、流す内容でも無いですよね。嫌いになったとか、そういう意味を含めていますか?」
「ちょ、ちょっと待って!」
いつもとは違い、矢継ぎ早に話す彼らしくも無い状態と、自分が眠ってしまう前に言った言葉も同時に思い出し、まさか、こんな風になるだなんて、と、思いも寄らない状況に、頭が上手く回らなくて、取り敢えず遮る事しか出来なかった。
「・・・すみません。早急過ぎましたね」
「あれは、そのっ、そういう意味じゃなくて」
「では、何故、したくない、と?」
「それはっ・・・」
彼からの問いに思わず口ごもってしまう。
何て言えば良いのか戸惑うし、聞こえようによっては飢えているようにも取られてしまう。
「それは?」
「だから、つまり・・・」
先を促す彼に答えたいと思っても、言葉が出てこない事と、率直に言う事への恥ずかしさで、中々、次が出てこない。
「・・・もしかして、不満があるとか、ですか?」
「へっ?」
「君に何か嫌な行為を、させているとか」
「や、別に不満とか嫌とかじゃ・・・」
どうしても、その先が言えなくて、彼を見れず、目線が定まらずにいると、彼の手が膝に置かれて、ふと彼を見上げた。
そこには、先程と同じ、真剣な表情の彼が、目線を合わせていて。
「・・・言ってもらわないと、わかりません」
困惑した声色で、言葉を漏らした。
「あ・・・」
「君が何を思っているのか、察しられる能力があったなら良かったのですが、そうでは無いから聞くしか無いんです。だから、教えてもらえませんか?」
彼の申し訳なさそうな声が、自分を責めているかのようで。
「・・・ごめん」
口に出来たのは謝罪の言葉だけだった。
「ごめん、とは?」
慎重に伺うように聞き返す彼に、言葉を選びながら、自分の思いを告げる。
「嫌とかじゃない・・・ただ、いつも、落ち着いてるから・・・何て言うか、こう、もっと・・・求めて欲しいっていうか・・・」
口にすれば、恥ずかしさも増長して、声も小さくなって口ごもってしまう。
それでも、聞き取れたらしい彼は、クスリ、一つ笑いを零すと。
「成る程」
たった一言、そう告げた。
俯いてしまった頭に、彼の掌が置かれ、びくり、肩を震わせると、その手は頭からゆっくりと下がり、頬で、ぴたりと止まる。
「実践してみましょうか?」
彼の言葉に、顔を上げた。
「・・・え?」
「君が望んでいるであろうセックスを、してみましょうか」
そのまま、とすん、とソファーに体が沈んで、彼が真上から見下ろしている体勢になった。
「ちょ、ちょっと、待って!い、今!?」
手首を掴んでいる彼の手を外そうと、捻ってみても、抜こうと動かしてみても、力強く感じられないはずの彼の手は、ぴくりともしない。
「『鉄は熱い内に打て』と言いますし」
「や、でもっ」
「シー」
口だけで黙るように伝えた彼は。
「、っ」
いきなり荒いキスをして反論を閉じ込めると。
「さて、頑張って鳴いて下さいね」
にっこりと笑って、首筋に噛み付くように歯を立てた。
「っ!」
彼の手が手首を離れ、服の中に入り、直接、素肌に触れ、乳首を捻る。
「や!いっ!」
痛みで、涙目になりながら、彼の腕を弱々しくも力を込め掴むと。
「この程度で音を上げないで下さい」
彼は、そう言い放ち、荒々しく、纏っていた衣服を破るかのように脱がしていく。
「あっ!んぅ!ゃあ!」
その間も与えられる刺激に、抵抗する事も出来ず、喘ぎ声を上げるしかなくて。
「っ!」
あっという間に全て脱がされたかと思うと、彼の指が、中に、いきなり入ってきた。
「これなら、君が無駄に暴れなければ、切れないので安心してなさい」
「っぅ、」
すぐに抜かれた指に、息を吐いた直後。
「足を広げて」
彼の容赦の無い指示が襲う。
「や、無理っ・・・」
恥ずかしさと力の入らない体で足を動かす事が出来ずにいると、彼の溜息が聞こえて。
「しょうがないな」
無理矢理に開かれた足を閉じないよう押さえつけたまま、蕾の中心に彼のモノが宛がわれたのを感じたかと思うと。
「っ、!」
「息を詰めるなよ?」
「あぁ!」
そのまま、彼のモノが狭い中に入って、奥まで突き進んでいく。
「っ、流石に狭いな」
「や!きつぃ!」
「キツい?気持ち良いの間違いだろ?」
彼の動きは止まらず、内部を擦り上げるように刺激され、もう、何も考えられず、上擦った声と乱れた呼吸のまま、彼の動きについていくのが精一杯で。
このまま、気を失ってしまうんじゃないかと思った頃。
「くっ、」
「んあぁ!」
彼のモノが一際、奥まで入り、同時に、温かい感触が広がっていく。
彼の体が覆いかぶさってきて、湿った肌の感触を、整えられない呼吸のまま、全身で感じていた。
後始末が終わった後、ソファーで膝を抱えながら、クッションに顔を埋めている隣に、足を組んで座っている彼が、飲んでいたコーヒーのカップを静かに机に置いた。
「どうでしたか?」
「・・・激しかった」
先程の行為に、敢えて感想を述べるのは照れ臭くて、拗ねているような声を出してしまう。
「激しくしましたからね。気持ち良くなれましたか?」
「・・・気持ち良かったよ。気持ち良かった、けど・・・」
確かに、彼の普段、見る事の出来ない姿に、興奮を覚えなかったと言ったら嘘になるけれど。
「けど?君の満足にいく結果では、ありませんでしたか?」
「そうじゃなくて・・・やっぱり、いつもみたいなのが良い」
彼が、いつも、ちゃんと愛してくれているのが伝わったから、無い物ねだりはしなくても良い、と感じた。
「そうですね。ベッドの上で、ゆっくり時間をかけてセックスした方が、もっと気持ち良くなれますしね」
「っ、やらしいっ!」
「やらしい事をしてますから」
それでも、偶には、あんな彼の姿を見たいと思ってしまうのは、心の奥に仕舞っておいて、今は、彼との、この穏やかな時間に意識を委ねる事にした。
彼は、額に軽いキスを落とすと。
「さて。君は達していないですし、今度はベッドの上でセックスしましょうか」
「・・・うん」
いつものように甘美さを携えて、セックスに誘うのだった。