今年の春辺りから月に二、三回ほど夢に出てくる街がある。

他の夢は余程強烈なもので無い限り覚えていないか、起きて暫くすると忘れてしまうのだが、この街が出てくる夢は忘れる事無く覚えている。
昨日もこの街が夢に現れた。
ただ、夢の内容的にもしかしたらこの街に二度と行けないのではないか…そんな気がしたので時間の経過で記憶が薄れない内に、街の様子を軽く記録しておこうと思う。



その街はありとあらゆるものがカラフルに彩られており、人間と動物が混ざったような姿の住人や奇妙な姿の生き物、猫が沢山暮らしている。
住人は始終にこやかで、街の雰囲気も基本的に明るく温かい。
西洋風の建物は壁や塀に色とりどりの砕けた硝子の欠片が散りばめてあり、光が当たるとキラキラと輝いていた。
煉瓦造りの通りは宝石の様な光を放つ街灯が幾つも並んでいる。
この街では水の中を漂っているかの様に身体が軽く、空を魚の様に泳ぐ事が出来、昼間は太陽が柔らかく穏やかな光で、夜は月が透明な光で水面の様に穏やかな空を照らしていた。


そんな夢の中の街で、私は本当の名前を捨て『虧月夜刀』と名乗り、ギターを弾きながら暮らしていた。
暮らしていると云っても、ひと月に数える程しか街に顔を出さないので暮らしていると云えるのかは分からないが。

私は夢を見る度に其処で様々な一日を過ごしていた。
ある日は一日中その街で知り合った友人と歌を歌ったりギターを弾き、またある日は街に一つだけある大きな総合施設で遊んだ。
身体が軽いので忍者の様に建物の屋根と屋根との間を飛び回りながら移動し、街を空から見下ろした時は気分が良かった。
他にも色々な事をして過ごしたが、日常生活の延長的な面が多いので敢えて書かない。
だが、街に居る間は常に満たされ楽しかった。



ただ、この夢を見ると必ず起き上がるのが辛くなるほど身体がダルくなる。
夢の中の記憶がハッキリと残っている事と合わせて考えてみると、もしかしたらこの街は夢ではなく別な世界(或いは次元)に存在する場所なのかも知れない。
そして意識や魂が実際にあの街に行く為に身体から離れ、行き来する度に消耗して疲れてしまうのかも知れない…ふと、そんな事を考える時がある。

もし、そんな世界があるのならどのような時に行き来き出来るのだろう。
出来るのならば、あの街で満たされたまま生きていたいと、そう思う。