※ここからはとりの妄想が始まります。お暇な方、お付き合いいただけたら幸いです。
『逃げ込み寺』。
巷で噂のその寺は、いつの間にか知らない内に一人、また一人と住み着いている、という不思議な寺である。
そんな寺であるから、法要などを執り行うことはなく、今では約六人ほどになった居候たちの宿舎のようになっている。
「ご飯出来ましたよー」
そんな私はこの寺の、いわば家政婦みたいなことをしている十七歳の辻岡癒月という。
自他共に認める平凡な女だ。
「おはようー」
大抵一番最初に座卓につくのは、この逃げ込み寺を考案した初代、来宮大次郎の息子、つまり二代目の宗太郎である。
初代の大次郎が昨年、五十六という若さで亡くなってから、宗太郎が二代目を継いだ。
と言っても、ここに居候している人間の半数が宗太郎とそう大差ない年齢であるから、二代目とは肩書きでほとんど兄弟感覚で日々を過ごしている。
「なんだ、まだみんな来てないの?」
「部屋でぐずってるんだと思いますよ」
クスクスと笑いながら私は料理を卓へ並べてゆく。
「ったくもー、しょうがないなあ――」
眉を下げてよっこいせと立ち上がる。
「ほらほら、みんな起きるの!」
そう言いながら、バシバシと寝入っている彼らの顔を楽しそうに枕でたたき付けるあたり、宗太郎はその行為を気に入っているようだ。
こちらからしたら、埃が立つので是非ともやめていただきたいのだが。
「……っるせえな――」
ようやく一人、伊波銀牙がむくりと起き上がった。
いつも強面で口は悪いが、誰よりも、ここに来る人間に対しての彼なりの気遣いを忘れない人である。
「ぎん、みんなのこと起こしてよ」
「ふぁ〜あ……よし、まかせろ」
宗太郎の言葉に頷いて、銀牙は台所から中華鍋を取り出し、おたまでガンガンと激しく音をならす。
「おいお前ら! さっさと起きねえと鴨井に紐かけて吊すぞゴルァ!」
「うううるさい死ぬやめろっ!!!」
「ぬああああびっくりしたあぁあああああ」
いきなりガバッと起きたのは、小宮山京一郎と月森栄太である。
「お前ェらが早く起きねえからだろ、馬鹿」
「ぼ、僕が音に敏感なのは知ってるだろこの石頭!」
「んだとゴルァ」
「ぎんのせいで一瞬踏切で電車に轢かれる夢を見たんだぞ!」
「知るかボケ」ああ、いつになったらご飯が食べられるのか。
私は他の三人を優しく揺り起こして、小さく溜め息をついた。