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Many Classic Moments39



*まとめ*





 翌日の朝早く、銀時達攘夷の軍勢は城を出た。山を降りたところに陣を張り、敵を正面から迎え撃つ為にも。


 戦が始まる前の高揚と熱気を孕んだ空気が、重く垂れ込めた曇天の下に漂っている。こちら側に散らばる攘夷の軍は数百がいいところだ。この間の戦で受けた負傷から回復してきたばかりの侍も多く居る。
 対する敵の軍勢は千を超える。しかも敵方には天人連中も多いし、その天人の持つ桁違いのパワーを秘めた武器も無数にある。兵隊の数や武力では、圧倒的にあちらが有利と言えよう。
 そう、あくまでも数値や理屈上の建前では、圧倒的に敵に軍配が上がるには違いない。

 だけれど、戦は数値や理屈のみでは測れない。天気や地理、そして各々が秘めたる力、あとは純粋な時の運……それら全てを加味していけば、どっちに転ぶか決して分からないのが戦なのである。



 そんな戦の前の独特の高揚感の最中で、やはり最後方に陣取りながら、ガチャガチャと音を立てて己の防具の確認をしているのは銀時だった。

「てめえはいつもみたいに俺と一緒のとこな、新八」

 言いながら、傍らにいる新八を見る。
 新八は銀時のように額に鉢金をつけて、胴体の前に防具をつけた戦場での様相に身を包んでいた。緊張した面持ちで、銀時の言葉にコクリと頷く。

「うん。じゃなくて、ハイ。よろしくお願いします、銀さん」

 朝のうちに軍の皆には作戦計画が通達してあったので、新八ももちろん今回の作戦は知っている。ガキの頃から銀時達と遊びまわっていたので、自然の中で走ったり隠れたりする事にも慣れてはいる。

 それでもやはり緊張はするのか、刀を持つ手にも無性に力が入っていた。ガヤガヤと騒めく戦前の熱気の中にいるだけで気分は昂ぶるし、それだけで自然と身が引き締まるような、ひりひりと肌を刺すような感覚がある。武者震いの類いかもしれない。


「俺から離れんなよ」
「はいっ!銀さんから離れません!」

 だから上から降ってきた銀時の声に、またも新八は素直に頷いた。むしろ間髪入れずに頷いた。
 新八だとて十六歳、向かう所敵なしの十代にして若侍なのである。しかも誰よりも熱いマインドを持った少年なので、むしろ時には熱苦しいほどに熱い少年なので、自分の中のヒーロー像に程近い銀時の言葉に頷かないはずがなかった。

 そんな少年の気迫に少し引きつつ(引くなよ)、銀時はいつものようにだらくさく耳を掻っ穿る。

「誓えよな。てめえ熱くなると何すっか分かんねーし」

 銀時もそんな志村少年の熱い気概を知っているので、あくまでも淡々とではあるが、提言を止めなかった。それにコクコクと再度頷き、ひどく熱い眼差しを投げてくるのは新八だ。

「大丈夫ですよ。僕、ずっと銀さんの側に居ますからね」

 そして、にこっと笑う。鉢金の下にあるその笑顔に、不意打ちで食らったそれに、銀時が何となく目を逸らしたのは言うまでもなかった。
 『ずっと』なんて甘い約束に、ほんの少し、少しだけ胸がキュンとするのも。


「うん……できたら、その返事もっと別の場面でもちょうだい。次は別のところで誓ってくんない、教会か神社的な」

思わず本心を言ってしまうのも、致し方ない事だった(銀さん)。


「は?」
「いや何でもねーわ」

 だけれど、ここは戦場。ウェディングベルを鳴らすチャペルでもなければ、三々九度をする厳かな神社でもない。

 訳が分からぬ様子で小首を傾げる新八に見切りをつけ、銀時は静かに空を仰いだ。雨を含んで鈍色に重く垂れ込めた、曇天の空を。

「まあ、てめえもなんだかんだで出来る子だしな。雨が降らねーうちは何とかなんだろうけど……でも雨降って後ろの山の中に下がったら、そこからはマジに泥試合だろ。何あるか分かんねえから、新八は絶対ェ俺のこと見失うんじゃねーぞ。なるべく俺もてめえの近くに居るから」
「はい。僕も銀さんの背中を護るように努めます」

 手を空に翳して語る銀時の傍らに、そっと新八は寄り添う。腕と腕が触れ合うようなパーソナルスペースガン無視の距離であったが、二人して特に気にしなかった。
 側から見れば限りなく近い距離ではあったが、何かのやましい想像を掻き立てられるような睦まじい後ろ姿ではあったが、あいにく銀時と新八には自然な距離感でもあるので、二人はそのままである。


 そんな姿に周りのモブ志士達がやましい想像を掻き立てていようとは、肘で小突きあいながら背後でヒソヒソやっていようとは、今の二人には知る由もなかった。



「う、うわあ〜……近えなあ。銀時さんとあのメガネ。なっ、見てみろよアレ。ほぼ引っ付いてんぞアレ」
「げっ。マジだ。戦の前なのによくやるよ。隠すことなくなってきてるよな、最近なー」
「あーな。銀時さんの態度だろ?すげーよな。本気で惚れてんのかな」
「あー……だな。銀時さんがマジかもなー」
「ええっ、銀時さんの方かよォォォ!?メガネじゃなくて!?」
「ばっか。あの目見てみろって、どう見ても銀時さんが惚れてるよ。マジ惚れ、てか岡惚れ。抱いてんだろ」
「えええ、やっぱ抱いてんのかよォ?!だからずりィってそれ!」
「あっ、バカ声がでけえよ!聞こえんだろ!しーっ!」
「ゴメンゴメン」
「ほんとお前バカなー。……でもさ、メガネの方はいまいち分かんねえっつか。やっぱ……高杉さんの事もあんじゃねーかなァ」
「はあぁ?!何だあのメガネ!ふざけんなし!銀時さんのが絶対ェいいじゃんな。強えし」
「なあ。完全に銀時さんだろ、戦場じゃなくても無人島行っても、完全に俺は銀時さんに付いてくわ。銀時さんに付いた方が生き残れるよ」
「だなあ。無人島では銀時さん一択だわ。高杉さんだと火のおこし方とか知んねーよ?たぶん」
「それな」


……などと、最後は無人島に漂着した場合のシュミレーションにまで話を及ばせながら、モブ志士4とモブ志士5が懇々と熱心に語り合っていることなど、

今の銀時と新八は知る由もなかった(いや知らない方がいいだろ)。






 「あー……あのよ、ここくる前に高杉も居たろ?高杉はてめえに何つってた?」

 後ろ頭を掻きながら、何となくの体を装ってポツリと銀時は尋ねる。聞かれた新八はと言うと、何も臆す事なく話しだした。

「はい?……ああ、『銀時と離れんじゃねえぞ』って。高杉さんはそれだけっスよ」
「……ふーん。てか、その高杉は?」
「いや、鬼兵隊はいつもみたいに前方でしょ?高杉さんは先陣ですよ、何言ってんの銀さん」
「……あっそ」

 この間の殴り合いの喧嘩を見ていた新八ではあったが、その原因の発端がまさか自分にあるとは毛頭思っていない。だから素直に質問に答えたのだが、銀時は何となくつまらなそうにまた空を仰ぐだけだ。

 そんな銀時の横顔を見上げ、その背景にある曇天の空を仰いでから、新八はぎゅっと両手をきつく握った。



(高杉さん……どうか無事で居てくださいね。いや、僕の方が無事に居なきゃダメだけど。でも僕、今回の戦が終わったら絶対に言うから。高杉さんに……好きって)

鉢金の下の双眸に熱い決意を漲らせて、誓った。そう、新八は完全に完璧に、ある種の“フラグ”を立ててしまっていたのだ。
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