話題:突発的文章・物語・詩

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【月】

新しい眼鏡を作りに町の眼鏡屋さんへ。調整の終わった眼鏡を受け取り掛けてみる。ぐらんと世界が歪んだ。恐ろしいほどクラクラくる。慣れのせいかと思っていたら、そうではなかった。

「ただいまサービス期間中につき、お値段そのままで度数を3倍、更に無料で乱視をお付けしております」との事。これはかなりお得だ。問題は掛けて10秒もすると気持ち悪くなる事だが、それはまあ些細な問題だろう。


【火】

某ハンバーガー屋が期間限定のスペシャルサービス中と聞いて駆けつける。看板メニューの【クレイジービーフ(狂牛)バーガー】と【インフルチキンの竜田サンド】を注文。眼鏡屋の例に倣えばパテの厚さが3倍もしくは枚数が3倍になる筈と予想するも見事にハズレ。家でゆっくり食べたいのでテイクアウトを選択すると、店員がバーガーの入った袋を持ったまま家まで着いてきた。どうやら、高級ホテルのように部屋まで荷物を運んでくれるのが[スペシャルサービス]らしい。

家までの交通費はこちら持ちで、自宅の住所や名字など個人情報も駄々もれになってしまったが、それは気にする程の問題ではないだろう。


【水】

固定資産税やら何やらで屋敷の維持が大変になってきたのでマンションにでも引っ越そうかと不動産屋を訪れる。サービス期間中につき高層タワーマンションの一室が大特価との話。善は急げとばかりにその足で内見に出向く。立地、利便性、間取り、共に悪くないが問題は価格。大特価という割に安くない。むしろ相場より若干高めだ。いったい何処が大特価なのか。

『……此処だけの話ですけど、実はこの物件“幽霊付き”なんですよ。しかも2体。どうです、お得でしょう?』

そういう事か。確かにイギリスなどは幽霊付き物件の方が人気があって価格が高くなる場合があると聞く。そう考えるとお買い得に違いない…………と一旦は購入に傾くも、床の間の柱の木目が若干気に入らないので購入を見送る事にした。

一応断っておくが、決して幽霊が怖いからではない。


【木】

取材も兼ねて裁判の傍聴に行った。食い逃げ事件の裁判だ。もちろん食い逃げは歴とした犯罪で決してやってはならないが、人命に直接関わるような事件に比べれば法廷の空気も心なしか緩めに感じる。

判決の前に傍聴席の全員に特別サービスとして被告が食い逃げしたメニューが配膳された。メンチカツ定食。「どうせなら[特上のうな重]を食い逃げして欲しかったな」思わず呟くと裁判長から睨まれてしまった。めんごめんご。

帰りに[食い逃げ無罪券](基礎猶予。一名様一回限り有効)が全員に配られる。ついに裁判所までサービスをする時代になったのか、と遠い目で思った。


【金】

夕方に帰宅。家の塀(ブロック塀)を見て驚く。ヘタウマな絵が描かれていたのだ。片隅には”墨田区のばんくしー”というふざけたサイン。まったく、とんでもないイタズラだ。と立腹しかけて、ふと思い出した。先月、美術館に行った際、プレゼントが当たるアンケートに応募していたのだ。

果たして、郵便ポストには美術館の名前が印刷された封筒があり、中に[プレゼント当選おめでとうございます]と書かれた便箋が入っていた。

景観を損ねる事この上にないので速攻で消したい所だが、何億円もの値段がつくような代物かも知れない。幼児の落書きなのかアートなのか。そんな事を考えていると奇しくも目の前をアート引っ越しセンターのトラックが走り抜けていった。アートだという暗示か。よし、これは消さずに残しておくとしよう。



【土】
 
昔たま〜に利用していた釣り船[七福丸]が今週いっぱいサービス期間との話を聞き、久し振りの海釣りへ。秘密のポイントらしき場所で糸を垂らすと僅か数秒でアタリが来た。

釣れたのは何とマグロ!これには天国の松方さんもびっくりだろう。しかも只のマグロではない。驚くなかれ、既にお刺身としてパックに入っているではないか。さばく手間が入らず楽チンだ。その後も[酢ダコ]、[高級カニかま]、[わさびの小袋]、[冷凍のシーフードミックス]、[サザエさんのDVD]など次々と大物が釣れ、大満足で帰港する。消費期限が黒塗りで潰されているのが若干気になるが気にしなければいいだけの話だ。


【日】

昼飯に海鮮炒飯(昨日釣った冷凍のシーフードミックス使用)を食べていると、会社から急遽呼び出しを食らう。システムトラブルらしい。直ぐに駆けつけ復旧を試みるも作業は難航し、完全復旧したのは深夜1時過ぎだった。会社に泊まるのは嫌だったのでタクシーを呼ぶ。

暇だったのかタクシーは直ぐに来た。運転手は人の良さそうなオジサンで喋りたそうにしていたが、こちらは完全にグロッキー状態で「申し訳ないけど少し眠りたいので着いたら起こして欲しい」と断りを入れて行き先を告げた。

どれくらい経ったのだろう。起こされたのは鬱蒼とした木々の生い茂る見知らぬ山の中だった。[青梅街道の▲▲交差点まで]と言ったハズだが、どう見てもここは交差点ではない。此処は?

「ただいま、料金はそのままで3倍の距離を走行させていただく特別サービス期間となっておりまして、▲▲交差点までの3倍の距離を走らせて頂きました」運転手さんは笑顔で答えた。

なるほど(ザ・ワールド)、それなら納得だ。だとすると、ここは高尾山か。私は料金を払って車を降りた。この料金で高尾山はかなりお得だろう。

さて、と……

タクシーでも呼んで帰るとするか。


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〜おしまひ〜。