話題:無い ない
な、な、なんと![ケチョンパ]の情熱タイプが超特価の49万8千円!ただし、限定3個のみ。お求めはお早めに。
新聞の片隅に載っていた小さな広告に私の目は飛び出した。
安い!安過ぎる!ケチョンパの情熱タイプが50万以下で手に入るなどまず有り得ない。一生に一度のチャンスと言っていいだろう。これは是が非でも手に入れたい。
と意気込んだ良いものの……。給料日前というのも手伝い、手持ちの金がまるで足りない。カードは使えないみたいだし、定期預金には手をつけたくない。借金はなおさら嫌だし……という訳で、これを機に箪笥の肥やしとなっている鞄や時計などのブランド品を質屋に持って行き現金に換える事にした。幸い、よく通る道に「どこよりも良心的に査定、納得の価格に見積ります」との看板が掲げられた質屋がある。よし、そこに行ってみよう。
私は箪笥から数点のブランド品を出すと、象が入りそうなほど大きな紙袋に無造作に突っ込み、エイトマンのような勢いで家を出た。
《なんじゃもんじゃ質店》。よし、此処だ。店に入ると奥から眼光鋭い黒眼鏡の老人男性が出て来て「いらっしゃいませ。今日はどのような?」と声を掛けてきた。どうやら彼が店主のようだ。他に客はいない。
「色々とブランド物を持って来たので見積って貰いたいんですけど」と私が言うと、「質入れですか、それとも買い取りですか?」と訊いて来たので、「買い取りでお願いします」と答えた。
私は紙袋からまず最初のブランド品を出してカウンターテーブルの上に置いた。
「ルイ=ヴィトンのバッグなんですけど……」
「拝見させて頂きます」
店主は、品物を手繰り寄せると、特別製の自前のルーペで入念に観察し始めた。
「お幾らぐらいになりますかね?」
最低でも5万、出来れば7、8万は欲しい。そう算段していた。ところが、店主の弾き出した金額は全く予想外のものだった。
「えーと、80円になりますね」
は、は、はちじゅうえん?耳を疑う数字だ。どこよりも高値で見積ってくれるのではないのか?
「8万円ですか?」私が聞き直す。言い間違いに違いない。が……
「いえ、80円ですね」
「10円玉が8枚の80円?」
「はい。1円玉が80枚の80円です」
とても承服出来る額ではない。当然の如く鼻息も荒くクレームをつける。
「釈迦に説法かも知れませんが、ルイ=ヴィトンのバッグですよ。しかも未使用の新品同様、それが80円というのは幾らなんでも」
店主が困ったような顔をする。
「大変申し上げ難いのですが、これはルイ=ヴィトンではありませんね」
「……偽物?」
「ざっくり言えばそうなりますか」
「いやいやいやいやいやいだひとみ、ちょっと待って下さい」当然、私は食い下がる。「このロゴ見て下さい。バランスも完璧でとても美しい。どう見ても本物でしょう」
「まあ確かに綺麗です。でも、それを踏まえたとしても、やはり、これはルイ=ヴィトンでは無いのです」
「でも、このバッグ、有名な老舗百貨店で買ったので、信用出来る品だと思います」
「何処の百貨店ですか?」
「新宿の伊勢丹です」
「えっ、本当に?」
「正確に言えば、伊勢丹の裏の路地を一本入ったところにあるリサイクル雑貨屋なんですけど」
「それ……伊勢丹ではないですよね」
《続きは追記からどうぞ》