話題:おやじギャグとか言ってみたら?



◆◆◆部活さがし編◆◆◆

お悩み相談室に一枚の葉書が届いた。

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来春、高校生になる中3の男子です。名前は―そうですね、仮にジャスティン・ビーバーエアコンとでもしておきましょうか―で、本題の悩みですが、どこの高校に行くべきか迷っています。中学では部活をやっていなかったので、高校では何かしらやりたいと思っているのですが、メジャーなものではなく出来るだけマイナーな部活に入りたいのです。

宇宙の97%を理解している(という噂の)ムーチョス玉峰さんに相談です。他にはない奇妙珍妙な部活のある高校を教えて頂けないでしょうか。どうか宜しくお願い致します。ムーチョスさんなら当然ご存知ですよね。


◆◆ムーチョスさんの回答◆◆


勿論知ってます。何せ私は、中学高校の6年間で4827回も転校してますからね。中には2秒しか在籍していなかった学校もあるぐらい。「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」じゃないけれども、それだけの数をこなしていると風変わりな学校にも当たるわけです。

して、本題の部活。珍妙な部活のある高校と言えば、やっぱり、1506回目の転校で入学した《聖ダッジ・アレイ高等学院》がその筆頭でしょう。

普通、部活の花形と言えば、体育会系ならバスケ、野球、サッカー、ラグビー、陸上部、文化系なら軽音楽、吹奏楽部あたりだと思うけれども、この《聖ダッジ・アレイ高等学院》にはそういう人気のある部活は一つもありませんでした。

と言うより、普通の部活は一切なく、あるのは奇妙奇天烈な部活ばかり。生徒は仕方なくその変な部活の中から選ぶ訳です。勿論、私もその一人。まずは手探りで恐る恐る仮入部から始めるのだけれども、まず最初に覗いた部室は部屋の中から甘辛いような香ばしい匂いが漂って来る部活でした。何部かなと思って聞いたら……

【シシカバ部】でした。部屋の中で鉄串に肉や野菜をグサグサ刺してワイルドにバーベキューをやるのです。悪くない部活でしたが、とにかく煙たくて目が痛くなるし、服に匂いはつくし、毎日シシカバブーばかりで胃もたれがキツくなり、仮入部だけで辞めました。

次に入ったのは【リザー部】。これは色々な店にひたすら予約を入れまくる部活です。で、予約だけ入れて直前にキャンセル、その繰り返し。部費の殆どはキャンセル料に充てられます。何が楽しいのか全く解らない部活でした。

お次は、落下、或いは飛んでくるあらゆる物体を体を回転させながら腕で受け返す【回転レシー部】。主な活動は、例えば、秋から冬などは主に街路樹の下で待ち構えて落ちてくる枯れ葉を回転しながらレシーブで返すとか、そういう感じです。強風の日などは壊れた傘とか看板が飛んでくるので本当に大変でした。中には落雷を回転レシーブで返した猛者もいるとの話。身が持たなそうなのでこれもすぐ辞めました。

そのあと入部したのは【ペッパー警部】という昭和生まれには懐かしい名前の部です。活動内容は主に夕夜の公園でイチャつくカップルの邪魔をして回るというもの。これまた酷い部活でした。

と、ここまで見てきたように《聖ダッジ・アレイ高等学院》の部活は常軌を逸したものばかり。いきなり暗い表情で「どうせ冷やかしでしょ。仮入部だけで辞めるの判ってるんだから」と人のヤル気をなくすような事を言ってきたのは【ネガティ部】で部室の奥の壁には[お先真っ暗]という書が標語のように掲げられていました。

光と陰が一対で存在するように【ネガティ部】の真向かいには【ポジティ部】の部室があって、部員たちの表情は明るいし、これは一見良さそうに見えるのだけれども、部員の平均年齢は驚きの38才。皆ことごとく留年を重ねているそうで、とても高校生の集団とは思えないルックスでした。部長に至っては何と59才との事。それでも、「このつらい経験は必ずや大人になってから活きてくるはず」と前向きな明るさを失う事はない…のはポジティブで良いのだけれども、59才は、もう十分、大人だと思う。

「失礼しまーす!」と勢いよく部室のドアを開けた途端、室内にいる全員が一斉に「シーーーッ」と口に手をあて「ちょっと静かにして下さい!」と怒ってきた部もありました。

【ドントディスタ部】です。

シーーンと静まりかえる室内では誰も一言も口をきかず、物音一つしませんでした。2分で息が苦しくなり、そーっと退室しました。

似たような感じで更にキツかったのが【ドントムー部】です。一歩も動いてはいけないので、部室から出るのにも電話で誰かを呼び出して抱き抱えて運び出して貰わなければならないという、部外者にもはた迷惑な部活でした。

逆にひたすら身体を動かし続けなければならないのが【アクティ部】です。一瞬でも動きが止まれば即退部なので、それはそれで酷しい部活でした。同類のイケイケ系部活として【アグレッシ部】【イニシアチ部】などもありました。

あと、上手く説明出来そうにないのが【
デジャ部】です。どういう活動をしていたかと言うと……あれ、そう言えばこの話前にも何処かでしたような……。

それから、1ヶ月の部費が500万円というとんでもない部活もありました。名前はそのものズバリの【エクスペンシ部】。

その【エクスペンシ部】には姉妹部活があって、兼部している生徒も多いのだけれども、その部だけは建物が別棟、55階建てのヒルズ風マンションになっていました。駐車場にはポルシェにランボルギーニといった高級車がずらり。そこの部員たちはいつ見ても美容院に行きたてのような艶やかな髪で、服装もラフなのに妙に小ざっぱりしていて、何もつけていないのに体からムスクやフローラル、マリーンの香りが漂ってくるような、そんな独特の空気を持っていました。彼らこそは【ヤングエグゼクティ部】なのでした。

【ヤングエグゼクティ部】の駐車場にはスーパーカーたちに混じって、くたびれた古めかしいバイクが十数台ほど並んでいますが、これは【スーパーカ部】の部員たちの物です。

他にも、ひたすら何かを信じ続ける【ビリー部】や、何でも呪文で解決しようとする【ビビデバビデヴ部】、どんなに疲れている時でもシャワーだけで済ますのではなくちゃんと湯船に浸かる事を掟とする【バスタ部】、部室の日めくりカレンダーが常に12月24日を表示している【クリスマスイ部】、思い付きのみで行動する【アドリ部】、ひたすは立方体パズルをガチャガチャ回し続ける【ルービックキュー部】、丸い物に変な回転をかけて喜ぶ【王子サー部】、永遠の愛を追い求める【エンドレスラ部】など、変てこな部活は幾らでもありました。

中でも気味悪かったのは、部室のドアから人の頭が幾つかキノコみたいににょきにょき生え出している部で、「ここ何部ですか」と尋ねたら「見ての通り【ドアノ部】です。入りたい時は誰かの頭をひねって下さい」と。勿論、入りませんでした。

最終的に私が入ったのは、校内でも街角でも、良い仕事や良い働き(道端のゴミを拾ったり、困っている人に手を差しのべたり)をしている人を見かけたら、親指をぐっと突き立てて「よくやった!」と賞賛を贈る【グッ(ド)ジョ部】です。

私が《聖ダッジ・アレイ高等学院》に居たのは僅か2ヶ月足らずでしたが、それでもこれだけの変わった部活を経験する事が出来ました。ジャスティン・ビーバーエアコンさんのご希望に十分添える学校だと思うので願書を取り寄せてみては如何でしょうか。

なお、学院の名前であるダッジ・アレイはダッジアレイ……ダッジァレイ……ダジァレ……ダジャレ!の事で、それで部活が全部駄洒落になっているという事に気が付いたのは、転校して学院を去った後でした。


〜おしまひ〜。