宵闇が迫る。
ヴァンパイアたちは
紅く鋭い瞳で獲物を探す。
貪欲に愛するものを貪る。

口元には飲みきれなかった紅き液体が一筋二筋流れ、見るもの全ての意識を奪う。

なんて美しいのだろう。
そしてなんておぞましいのだろう。


ヴァンパイアに狙われた獲物は決して逃げることはできない。次は

もしかしたらアナタが獲物になるかも知れない…?




殺してくれよこの俺を




『拒まないの?』
「……」

白くか細い首筋とは対照的ながっちりした骨格をもった獲物に優姫は静かに聞いた。

「お前の好きにすればいい…。お前に何をされても構わないと前言っただろ」

『何を…されてもね…』

溜め息と脱力混じりに瞳を細めた彼は真っ直ぐなアメジストのような輝きを放つ瞳を持っていた。アメジストという宝石より薄い色合いなのに。

あたしを捕らえてやまない。


『じゃあ…あたしが零の首を絞めて殺してもいいんだ…っ?』

茶目っ気混じりな語尾だが、何故か本音に聞こえる優しい声に零は小さな微笑をした。


「殺してくれよ、この僕を……?」


優姫の細い手首を掴む。いつしかアメジストの光に変わる、ルビーのような情熱的な紅い瞳があたしを捕らえた。


『じゃあ…零もあたしを殺してよ?』

優姫は手に力を込めて零を絞めた。苦しそうに歪めた顔が、何故かとても美しくて力をまた入れる。微かに笑う零の顔があたしを獣に変えた。


(アナタをアタシのモノだけにさせて…?)
****


『ごめんなさい…!だ…大丈夫、零??』

「なにが大丈夫か、だ。あんだけ絞めておいてよく言うな」

首筋に絞めた痕跡が残り。余韻は醒めない。闇は少しずつ光を宿しはじめた。


『ごめんね…だって零、殺してって言ったじゃない!?』


「そういうお前も殺してって言ったよな…?」


『あ…』

いつの間にか覆い被さる零。アタシを捕らえて離さない男(ヒト)。ひやりと冷たい笑いとともに唇を優姫の耳に寄せた。


「お望み通り殺してやるよ。俺の中で啼けばいい」


fin