春の訪れを鳥や、緑が教えてくれる。眩しい朝日に身体がついていかない。あぁ、どうしてもこの季節になると、古傷が痛む。

古傷。

それは、愛しい彼女との記憶。今は遠く離れ、お互いの立場のもとで生きている。

愛しい彼女。

優姫…俺は今でも…―――

惜別のキスと、吸血はあまりに儚くて辛かった。
真っ白い雪を見る度に、あの日の絶望と重なる。好きな人と、嫌いになっていないのに別れる苦しみ。

「お前は今…幸せか?」
少なくとも自分は違う。世界は一瞬にして闇に落ちた。彼女の優しさは俺が生きてこれた理由だから。


今は君を狙い、虎視眈々とヴァンパイアを―――純血種を滅ぼすため、だけに生きている。

逢いたい、逢いたい。逢えない、逢いたくない。
逢ったら、俺は君に一体何をするだろうか。

この世の果てまで逃げようか。優姫…?
それとも君を殺そうか?
どちらにしても、常に何かが自分を追い詰める。

「もし…もしどちらかがヴァンパイアでなかったら、ハンターでなかったら、お前が純血種じゃなかったら…」


違う未来はあっただろうか?
君と共に歩む日々はあっただろうか?


*********

「零…」
「優…姫…」

運命のイタズラで再会した俺たち。

銃口は握ったままな俺。真っ直ぐな瞳の彼女。

これは運命のイタズラ?
「………」

沈黙はあまりに残酷で、古傷は疼く。

藍堂は優姫を守るべく、自然と前にでた。

「錐生…その銃から手、離せ」

「忌々しいヴァンパイア共め…!」

違う。こんなことを言いたいわけでない。優姫…
一番俺はお前に…

お前に…

「藍堂センパイ大丈夫。零は撃ちませんよ」

困惑した。まだあのときと変わらない。信じてくれる、わかってくれる。

「ごめん、零…今回は…血薔薇銃を諌めて…」

「……優姫…」


違う方向を向き歩きだした二人。

違う。俺はお前に言いたいんだ。

キモチを

まだ、あのときのまま…あのときのまま


優姫…お前が好きだと…
声にならない叫びは届かない。


優姫は後ろを振り向かずに泣いていた。

fin#sozai642#