「俺はもう必要ないってこと?」
嘘を吐くのは苦手だけど、本当の事を言えば、あなたを傷つけてしまう。
あなたに罪悪感を抱かせることは最も望まない別れ方だった。
奥歯にぐっと力を入れて私は頷いた。
あなたを見たら泣いてしまいそうで顔を上げることができなかった。
「あなたにはすごく感謝しています。自暴自棄になっていた私に手を差し伸べてくれたのはあなたでした。長い間、私なんかを受け入れて可愛がってくれました。でも、今の私にあなたは必要ありません」
嘘は真実の中に混ぜると気付かれないという。
私の嘘は最後の一言だけ。
「...そっか」
勝手な言い分を受け入れる言葉が頭上から降ってくる。
「ねぇ」
「ん?」
「キスしてもいいですか」
「いいよ」
私はあなたと目を合わさないようにそろりと顔を上げた後、目を閉じて唇を重ねた。
好きです。
もう一生あなたくらい好きになれる人は現れないかもしれない。
それでも、私はこの手を離さなくちゃいけない。
どうか幸せになって下さい。
幼いあなたを傷つけた裏切りを忘れて下さい。
人を愛することを怖がらないで下さい。
言葉にできない想いを唇に乗せた。
「さようなら」
うつむいて黙ってしまったあなたからの返事はなかった。