突然ですが

────だから、諦めて?

そう言って、私を抱き締める。

駄目だ。もう、怒る気も失せる。

「ごめんね・・でも、もう無理なんだ。離してあげられない。」

彼が切なく言った。

ずるい人。

初めて会った時も、寂しそうな顔が放っておけなかったのだ。

「・・もう、いいです。それに、あなたが私を大切にしてくれるなら、充分です。」

ここに来て理不尽だと思うことは多々あったが、もう、諦めて彼を受け入れるよう努力するしかない。

「・・っ・・ごめん。愛してるんだ・・。こんな気持ち初めてで、どうすることもできない。」
彼は私を強く抱き締める。

きっと、彼はどこかが壊れているんだと思う。
彼みたいに、格好良くてお金も地位もある人が私みたいな人間に強く執着するのは、端からみたら狂っているように見えるかもしれない。

『私がずっと一緒にいます』

言った通りになっちゃったな。

私は彼の背中をトントンと優しく叩きながら、彼に言う。

「約束しましたからね・・私は、どうにもあなたを放っておけないみたいです。」

なりたいA

室内はがらんとしていた。

寒々しいほどにからっぽで。
広くて寒いひとりの部屋。

身体が冷えて、とても疲れて、私はずるずるとその場に座り込んだ。


・・・・・もう、立ち上がれる気がしない。

なりたい

「・・・・・なんでよ」
低く渇いた声が出た。
貴方はどこか茫洋と立ち尽くし、押し黙ったままでいる。
「・・・・こんなのでいいの」
私はたぶん、何か言葉が欲しかった。
この有耶無耶な気持ちを納得させる、答えがあるなら伝えてほしい。

貴方はわずかに顔を上げると、やがて決心したかのように歩き始めた。
私の方へではなく、真っ直ぐにドアへと向かおうとする。

「ふざけないでよっ」
私はその腕を強く掴まえ、強引にこちらに向き直らせた。
「なんで?なんでそんな簡単に納得なんかできるのよ!?」

貴方は脚を止め、静かに私に視線を向けた。
私の目を真っ直ぐに捉える。
「・・・・これが、一番いい方法だ」

薄茶色の美しい瞳。
それが今は昏く苦しげに揺らめいて。

「ウソよ・・・・。・・・・何で・・・?」

良い方法って何なの。
他に方法はないのだろうか。こんな風に諦めてしまえるのは何故なの。
貴方にとって、私はその程度の相手だったということ?
貴方だからと思って。必死に受け入れて。少しだけ感動なんかもしていたのに。
だけど貴方にとっては違ったの。

もう飽きて、或いは失望して、私のこと、もういらなくなったとか。


・・・・・。

私は腕から手を離し、そっと一歩後ずさった。
強くて、優しくて、あたたかい腕。
いつの間にかこの腕に安心するようになっていた。
だけどもう。私の場所じゃない。
ずっと続いてゆくものだなんて、どうして思っていたんだろう。  

私が離れると、貴方ははっと顔を上げ、わずかに口を開きかけた。
だけど私は、そのままその場を走って逃げた。
ドアから廊下へ出てそれから外まで、ただ一心に走って逃げた。
急に怖くなっていた。 
ことばは怖い。
決定的な科白など、聞きたくない。

discommunication

なにが、とは聞けなかった。

全てに対して、なのだ。

後悔なんてしていないし、する気もない。だからこの事だって、後悔しないように行動するしかないと思っている。

ただ、この人のことだけは、気掛かりだった。
時々疲れたように、暗い顔をしていたのを知っているから。

私が触れて良い領分なのかもわからない。だから身動きも取れないのだが、それでも、この優しい人に、幸せになって欲しいのだ。

Discommunication

決して放さないとでも言う様に、強い瞳で射貫く貴方の、その眼差しを疑いたくなんてない。

なのに、何も言ってくれないから。

明確な言葉をくれないから。

私はどこまで期待していいのか、わからない。

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