薄く笑う赤司は注射器を構え、雛の細い腕に添わせる。
「お前の歌声をしばらくの間聴けないとなると、少し名残惜しい気もするが」
「っ…あ……!」
…だがその時、突如赤司の懐から通信端末の電子音が響いた。
赤司は手を止め、液晶画面を見やる。
「…やれやれ、タイミングがいいな」
メールの内容を確認すると、軽く息を吐き出した。
かと思えば、部屋の隅に待機させていた人物をベッドまで呼び寄せる。
「玲央、急用だ。後はお前に引き継ごう」
「アラいいの?お楽しみだったんでしょ?」
玲央と呼ばれた…おそらく男は、注射器を受け取りながら首を傾げた。
「雛の顔を見れただけで十分だよ。お前は雛の処置をした後本部へ戻れ」
「そう?まぁ征ちゃんが言うなら従うわ。任せときなさい」
すると赤司は意味深に微笑み、医務室を出ていった。
あまりのあっけなさに拍子抜けしてしまいそうになるが、実際のところ事態は何も変わっていない。
「もう、征ちゃんたら気まぐれさんねぇ。ま、アナタの泣き顔を眺めて十分満足しちゃったみたいだから、それはそれかしら」
「………」
「悪いけど、恨まないでちょうだいね。征ちゃんには征ちゃんなりの考えがあるのよ。それこそ、私達のような下々の人間には理解できないようなね」
「…あ、かしくん…は、なにを…」
「さあ?でもそれを知る必要はないわ。知ったところで誰も、どうすることもできないもの」
「…!」
「おしゃべりはお仕舞い。かわいい歌姫のお嬢ちゃん、征ちゃんは『絶対』なの。それに逆らったことを、失った声と一緒にしっかりと反省なさいな」
「や……っ…」
……それは一瞬だった。
凄まじい音と共に窓ガラスが弾け飛び、医務室内に散った。
「うおおおおおおおおっ!」
「どっせぇえええええええい!」
「なっ!?」
あまりに突然のことで玲央も白衣の連中も何が起きているのか理解できなかった。
吠えるような雄叫びと共に飛び込んできたのは…
「…その娘はウチの歌姫や。返してもらおか」
今吉の台詞と同時に青峰、若松、諏佐、そして桜井が医務室で暴れだしたのだ。
その喧騒に紛れ、今吉は手早く雛の手足を解放してやる。
「遅なってスマンなぁ雛ちゃん」
「…いま、よしさ……」
「ん、ほな行こか」
半ば酷く安堵したように髪を撫でると、雛を抱き上げた。
今吉はぎっと表情を変え、だがあくまで口調はいつも通りに青峰達へ告げる。
「やりすぎん程度にな。そこそこでお前らも引き上げぇ」
「ウッス!とりあえずそいつ連れて早いとこ逃げちまってくださいよ!」
「途中で捕まるなよ今吉」
「後で追います!スイマセン!」
「…言われるまでもねーよ」
一足先に医務室から逃げおおせた今吉はずっと黙ったままだった。
その真意は何も言えなかった、の方が正しかったが。
(…こんなんわかっとったこととちゃうんか。指定以上の加点、勝敗通告の無視。総督局から何のおとがめもない方がおかしいわ)
抱きしめた雛は軽く、細く、そして小さかった。
出口へと続く長い廊下の真ん中で、ようやく今吉は足を止める。
「…雛ちゃん、もう大丈夫や。追ってもなさそうやし」
「……はい…」
すると雛は降りる素振りを見せたので、今吉も地に足をつけてやる。
雛はしばらく足元を見ていたかと思えば、顔を上げた。
「…今吉さん、みんなのところに行ってあげてください」
「え…?」
「…長居は、危険です。早く…離脱しないと」
「ああ……せやなぁ」
今吉とてそれが気がかりだった。
雛を連れ出すことに成功しても、メンバーの誰かが捕まっては意味がないし怪我をされても困る。
一度戻って全員を連れ帰るのが賢明かと今吉は考えた。
「…わたしは大丈夫です。ここから戻ります」
「雛ちゃ………」
今吉は気づいた。
いや、なぜ気づかなかったのかと己を責めた。
雛は背中を向けた。
出口に向かってまっすぐ歩こうとしている。
だがそれは、よくよく見なくてもわかる。
(あんなに…震えとるやんけ…!)
今吉に抱かれていた時は必死でこらえていたのだろう。
先ほど総督局の連中に何をされたかなど、尋ねようとは思わなかった。
雛が話さないなら、それでいいと思っていた。
……雛は強い。
だがそれ以上に弱いことを、忘れてはいけなかったのだ。
「雛ちゃん……!」
急ぎ戻り抱きしめた小さな身体は酷く震えていた。
手に零れ落ちた涙は熱かった。
(当たり前や…!怖かったに決まっとる。なんでワシは一瞬でも、この娘置いて戻ろうと思った…!?)
「スマン…!ごめんな雛ちゃん…!」
(なんて、言葉にしたらええんやこんなん…。謝ってこの娘の恐怖が和らぐんか)
ひたすら抱きしめた。
そしてふつふつと湧くのは、底知れぬ怒りだ。
理不尽な総督局の制裁に、何もできない己に。
…そして
(こんな目に合っとんのに、何をのうのうと知らんフリしてんねん黄瀬涼太…!)
最大の怒りの矛先は黄瀬だった。
なぜかは知らない。
だが、今吉は柄にもなく怒りを治めきれずにいた。
(先に通達無視したんはそっちやろ。なら水橋にも制裁がいったんとちゃうんか)
チーム同士が連絡を取れないことは今吉とてよくわかっている。
この怒りが、半ば八つ当たりに近いことも。
(それでもどうにかして雛ちゃんに制裁がいくことを止めるべきなんと違うんか!…何のために、誰のために、雛ちゃんがあんなにも声を上げて歌いきったと思ってんねや!)
戻ってくる青峰達を視認し、今吉は再び雛を抱き上げた。
不思議と、心はすでに凪いでいた。
酷く冷静に、そう思ってしまう己が少し怖くもあった。
(…そう簡単に、返すわけにはいかへんな。もう遅いで。…なあ、黄瀬クン)
暴君桐皇は試合を終え、ようやくホームへと帰還した。
それぞれの胸に、深い爪痕を残して。
続
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…とまあこんな感じで制裁は辛くもまぬがれたのでした。
やっぱ赤司様のとこに突進させるわけにもいかず、レオ姉に代わったところを狙って(笑)
でも赤司様のことだから気づいてたのかもね。
みんなが助けに来るの。
だからレオ姉にたくす時意味深に笑ったとかさ。
タイトルの二律背反は簡単に言うと矛盾かなぁ。
今回の心情は後半がちがちの今吉さんメインなので。
「海常に返さなければいけない彼女を放したくない」
これが私なりの今吉的二律背反。
頭悪いのでこれが精一杯でした(笑)
しかしついに今吉さん感情を爆破\(^o^)/
怒りの矛先はなぜか黄瀬へ。
でもまあ…ごもっとも。
やべ、思いのほか黄雛←今がハッキリしてきたな…
こういう恋愛模様は書くの好きです。
もうちょっと人数増やしたいのが本音だけども。
だってせっかくの夢だし。
次回は青りん推したい。
お粗末さまでした!(土下座)
ヒイイイイイ助かった雛ちゃんんー!!よかたああー!(´;ω;`)←うるさい
や、や、どうなるかと…レオ姉ー!なんか安心するのは赤司のあとやからか(笑)
救出成功してよかたです…………が、
そら怖かったよね雛ちゃんっ!そらそうよ!
うわあああ今雛ー!!急接近ー!胸あつよっ
これぞトライアングラー!まさしくっっ\(^o^)/パパパーン
矛先黄瀬に……うん、はい助けに来ないのは
あんな感じな黄瀬に成り立たせたオラのせいですすみません←
けど黄雛←今ヤバイわああ!アツいよー!
なんかなってきたよいろいろ方向で楽しい……!
え、えどないなるのうわあああワクワク状態ですっ!\(^o^)/←
そして次青りんですってー!?
言わんでも全裸待機ー!!!楽しみすぎるー!(*´ω`*nyny
毎回楽しみで歌バス熱ヤバイですッ!
更新お待ちしてまーす!\(^o^)/ではっ
うへええええええもうめったくそにしてすんませんんん!
とりあえず赤司様のゲスさを出すことによってラスボス感を高めたかった(笑)
雛は強いけど弱いですなぁ…思っきし矛盾だが。
やっぱり桐皇はホームじゃないからあんまり弱いとこ見せちゃ駄目だって思ってるのかも。
りんちゃんが強いからなおさら弱さ見せたら嫌がられるかもって。
そしてそして今雛色濃いです。それはもう。
どうしてこうなったし\(^o^)/
めっちゃやつあたりですやん今吉さん。
無茶言うわwww
いくら言ったって無理なもんは無理ですよ。
とにかくとにかく!
次回は私の独断と偏見で青りんにできたらなぁと思います!
いつもいつもコメントありがとう!!!
もっと歌バスくれ!ださい!