<第2話:隣のあの子>

ホームルームが終わって、一端先生が教室を出て行くと、教室もまた騒がしくなった。
そんな中、俺は深いため息をついた。

……ったく、リボーンのせいでとんだ恥かいちゃったよ……

(人のせいにするなんて、酷い男!)

ーーまたお前かよっ!?

…危ない…また危うく叫ぶところだった。
まったく、何なんだよお前は?気持ち悪いいい方して!
てか、どうやって心ん中に話かけてきてるんだよ?!

(人の詮索をするなんて…やっぱり酷い男!)

うるさいよ!気持ち悪いんだよ、それ!
…本当にこいつは……
俺にはプライバシーってもんはないのか?
少しは尊重してくれ。
心の中でひとしきりリボーンに文句を言ってから再びため息をつく。

「どうした、ツナ?ため息なんかついて」
「や、山本」
俺の前の席から体だけこちらを向けて、ニカッと笑顔を向けて来たのは山本で。
あー山本今日も爽やかな笑顔だなぁ。
こうして見ると、山本ってカッコイイよな。
前がそんな山本で、隣が美人の獄寺君……なかなか目の保養になる席だよな〜。

………でもね、山本。
間違いなく、山本も昨日まで俺の前の席じゃなかったよね?
全然別の席にいたよね?
「なんかいつもと見る景色が違うな〜」なんていい笑顔で笑ってる場合じゃないよね?
気付けよ、山本。

これもリボーンか?リボーンなんだな?!

(お前の護衛をさせるために、わざわざ動かしてやったんだぞ?)

護衛って何だ?護衛って!
こんなところで狙ってくるやつそうそういないよ!

(甘いな。こんなところだからこそ狙われやすいんだ。例えば、お前を狙いそうな者……そうだな、俺とか?)

お前かよーーっっ?!

三度目の叫びをあげそうな口を慌てて押さえる。
つーか、お前は家庭教師に来たんだろ?
暗殺に来たわけじゃないだろ!?
九代目?九代目ーっ!!人選ミスですよー?!
何でコイツ寄越したんですかー?!

心の中で、遠い地の九代目に決して届くことのないテレパシーを送っていると、山本が獄寺君に話し掛けた。
「獄寺…だったよな?俺、山本。よろしくな!」
いつもの人のよさそうな笑顔で笑いかける山本に、視線だけ向けて睨みつけて、小さく「あ?」とガンを飛ばす獄寺君。

うわわ…やっぱり不良みたいで怖い……。
やっぱ、こういつキャラは一般的には『攻め』だよなぁ…
ああ、でも、ツンな感じの人が『受け』なのも、それはそれで萌えるよね!
おおっと、危ない。
にやけて思わず親指立てるとこだったよ。

自分の一般人にはちょっと引かれそうな妄想をこっそり心の中だけで留める。

そして山本は、獄寺君の睨みなんか関係ないように、さらに絡んでいく。
「まあまあ、そう怖い顔すんなよ!なーツナ?」
「え?!あ、うん…」
い、いきなりふられても…!
すると、獄寺君はチッと舌打ちして「関係ねえだろ」とあしらう。
「そう言うなよ。あ、獄寺教科書は?まだ貰ってないのか?ならツナに見せて貰えよ」

なんですと?!
教科書を見せる?
それはつまりあれですか?
机と机をくっつけて、心置きなく密着できるというあれですか?!

山本っ!!ナイス!!

「あ?んなもん必要ねぇよ」

えーーーっ?!

こ、断られたよ、断られたよ?山本っ!?
ああ、せっかくの美少年との密着チャンスがぁー!

即行断られて落ち込む俺に、背後から誰かに背中を叩かれて後ろを向くと
「沢田、あんた日直でしょ?ほら、日誌」
そういって日誌を手渡して来たのは黒川で。
用がすむなり、すぐに席に向かう黒川の背中を見ながらそういえば日直だったっけ…と考える。
すると、今度は真横から視線を感じてそちらを向くと、こちらを眉を寄せて眼見している獄寺君がいて。
「…『沢田』…?いや、まさか……そういやさっき先公も…」
ぶつぶつ考え事をし始めたかと思えば、またこちらに向き直って。
「…あの…つかぬ事を聞きますが、名前、何て言うんすか?」
「(け、敬語?!)え…さ、沢田…綱吉だけど?」
がたっと椅子の音を立てて、明らかに動揺する獄寺君。
「沢田さ…?じゃ、あ…ボンゴレ十代目の…」
「ああ…うん、リボーンが言うには」
「す、すみませんでした!そうとは知らず、失礼を!俺、リボーンさんに言われて来た…」
「うん…聞いてる。守護者とかなんとか」
「はい!」
先程の態度とは打って変わり、俺に真っ直ぐお辞儀してくる獄寺君。

……しかし
「よろしくお願いしますね、十代目」
何だ?この可愛い笑顔は?
俺の萌センサーがフル稼動してますよ?!

俺の思考が少しヤバイ方向へ行き始めた頃、再び山本が話かけた。
「何だ、マフィアごっこ絡みの知り合いなんか、ツナ」
「あ?うるせぇな、何なんだよテメーは、十代目に馴れ馴れしく」
…このギャップ……ひょっとして『ツンデレ』ってやつですか?(それはそれで非情に萌ます)
「馴れ馴れしいって友達だからな。で、獄寺、結局教科書どうすんだ?もう授業始まるぜ?」
は!そうだよ……ある意味これは再び密着チャンスではないのか?
「ご、獄寺君。よかったら遠慮せずに俺の一緒に見なよ。……机くっつけてさ」
「で、ですが」
「いいから、ね?」
「……はい」
すみません、とまるで犬のように垂れた耳と尻尾が見えるんじゃないかと言う勢いでシュンと申し訳なさそうに頷く獄寺君に、内心密着にガッツポーズをしながら俺は思った。


大丈夫だ。

この子は『受け気質』だ
………と。